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Weierstrass変換exp(a∇^2)とそのイメージ

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今日は指数の肩にラプラシアンを乗せた演算子について考える。これはWeierstrass変換と呼ばれていて、次のような積分変換の表示ができる:
ea2f(x)=14πaf(t)exp((xt)24a)dt 

準備としてΓ関数を定義して性質を見る。
Γ(z)=0tz1etdt

部分積分によって帰納的に次が示される:(nN)
Γ(z+1)=zΓ(z)
Γ(1)=1
Γ(n+1)=n!
Γ(n+12)=(2n1)!!2nΓ(12)=(2n)!4nn!Γ(12)
Γ(12)については変換ux2,r2s,曲座標変換(x,y)(r,θ),dxdyrdrdθによって以下のように証明されるのは有名である:
Γ(12)2=(0u12eudu)2=(ex2dx)2=ex2y2dxdy=02π0rer2drdθ=2π0rer2dr=π0esds=π
演算子としての等式は多項式に対する作用が一致するという条件で定めたので、基底となる関数f(x)=xNに対する作用を考察する。上で計算した結果を用いると

(LHS)=n=0ann!2nxN=n=0N/2ann!N!(N2n)!xN2n
(RHS)=14πatNexp((xt)24a)dt=14πa(x+t)Nexp(t24a)dt=14πan=0N/2(N2n)xN2nt2nexp(t24a)dt=1πan=0N/2(N2n)xN2n0t2nexp(t24a)dt=1πn=0N/2(N2n)xN2n(4a)n0tn12etdt=n=0N/2(N2n)xN2n(4a)nΓ(n+12)Γ(12)=n=0N/2ann!N!(N2n)!xN2n

結果が一致したので上記の恒等式は証明された。
一般に性質が良い作用素は
Gf(x)=βαK(x;t)f(t)dt
という形の積分変換で書き表すことができて、Kは核関数,積分核とよばれる。今回のWeierstrass変換は 熱核(heat kernel) とよばれる積分核である。

ここでaというパラメータは本質的ではない。なぜならxax,tat,1a,f(az)f(z)という変数変換を行うことでe2f(x)=14πf(t)exp((xt)24)dtというように消去できるからである。厳密では無いが以下のように導出することも可能である(作用素としての有界性を示せば正当化できるかもしれない)

Γ(12)の途中式より
eat2dt=πa
なので
aπ(+++++)ea(t)2dt=1
となるが、
ea(t)2dtf(x)=++ea(t)2dtf(x)=0
と見做せるから、
ea2f(x)=aπ+eat2+2atdtf(x)=aπ+eat2f(x+2at)dt=14πa+f(xt)exp(t24a)dt=14πaf(t)exp((xt)24a)dt

となる。多変数化してみる。N次元空間x=(x1,,xN)とナブラ=(x1,,xN)について単純に掛け合わせると次を得る:
exp(a2)f(x)=(4πa)N/2RNf(x)exp((xx)24a)dNx

物理の応用例について話す。T(x;t),κ,x,tとして、熱伝導を規定する熱伝導方程式がある:
Tt=κ2T
時間並進を考えるとt=t0+Δtとして解T(x;t)
T(x;t)=exp(Δtt)T(x;t)|t=t0=exp(κΔt2)T(x;t0) なので
T(x;t)=(4πκΔt)N/2RNT(x;t0)exp((xx)24κΔt)dNxという結論が出る。Graph Laplacianのイメージを使えば、熱伝導方程式が熱伝導の基本的なイメージをそのまま定式化したものと自明に思うことができる (くわしくはこちら)

また、得られた積分についても Gaussian filter のイメージを使えば自明と思えるのである。Gaussian filterはGaussianぼかしとも呼ばれて、画像をぼかす処理をおこなう際に用いられており、画像の標準偏差σのGaussianぼかしは2次元データの入力,出力A(x1,x2),B(x1,x2)にたいしてB(x1,x2)=12πσ2R2A(y)exp((xt)22σ2)d2y
と定義される。まさにこれはWeierstrass変換でa=σ2/2,N=2とした結果に他ならない。
Fourier変換は後続の記事にて詳しく解説するのでお気持ち程度の言及にするが、exp(a2)は純粋に微分演算子だけを含み、乗算演算子xを含んでいない。なのでこれはFourier変換Fを用いてexp(a2)=Fexp(ax2)F1
と書ける。日本語で解釈すると逆フーリエ変換で(テキトーに区切りを入れて周期的境界を入れた)系を周波数成分になおして、Gauss分布を掛けて高周波数成分ほど急激に小さくなるようにしてFourier変換をしてもとに戻すといった操作をWeierstrass変換は行う。このことで高周波数成分(画像解析の例で言えば画像のくっきりさ)が消されてぼやけたイメージが残るのである。物理のイメージを援用するなら、画像の色相が熱伝播のように周囲に拡散して画像がぼやけるといった感じである。このようにWeierstrass変換はとても奥が深い。多変数化の途中で
exp(a2)=i=1Nexp(a2xi2)
を使ったがこれはGaussianぼかしの直積性をしめしており、N次元のGaussianぼかしをおこなうことは正規直交な各軸の1次元Gaussianぼかしを計N回したものと一致するということがわかり、機械で実際に計算する場合は計算のオーダーがcutoff幅のN乗から1乗にまで落ちて有用である。

投稿日:2021126
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赤げふ
赤げふ
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東工大情報M1 数学,理論物理,Minecraft計算機/微分演算子の記事を書きます/主に表現論,量子群,物理の数理に興味があります

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