ここではKhler多様体のHodge分解について解説します。
この記事ではKahler多様体のHodge分解についてのステートメントを理解するのに必要な諸概念を紹介していきましょう。前提知識として簡単な代数・多様体の基本事項・層の理論・導来関手についての基本事項を仮定します。(加筆していく過程で前提知識を徐々に減らしていく予定です)
$X$を実$2n$次元可微分多様体とします。
$X$が複素構造をもつとは、$X$の開被覆$\{U_i\}_{i\in I}$及び開埋め込み$\phi_{i}:U_i\rightarrow\mathbb{C}^n$で
$$\phi_i\circ\phi_j^{-1}は正則$$
を満たすものが存在することである。このとき、$X$を複素多様体と呼ぶ。
複素多様体$X$上の写像$f:X\rightarrow\mathbb{C}$が正則であるとは、
$$f\circ\phi_j^{-1}は正則$$
を満たすことである
複素多様体$X$上の可微分$\mathbb{C}$係数ベクトル束$\pi_{E}:E\rightarrow X$が正則構造をもつとは、局所自明化$\{\tau_i:\pi^{-1}(U_i)\simeq U_i\times \mathbb{C}^n\}$で、
$$\tau_{ij}=\tau_j\circ\tau_i^{-1}が正則$$
を満たすものが存在することである。このとき、$\pi_E$を正則ベクトル束という。
ここまでは通常の多様体論とさして違いはありません。次に概複素構造と可積分性の話をしましょう。そのためにまず、複素多様体には「$i$倍」が定まる話をします。とはいっても、多様体上に定めるのは厳しそうなので、接ベクトルにそういうものが定められないか考えてみます。
複素多様体$U_i$での接束$T_{U_i,\mathbb{R}}$を考えます。このとき、$\phi_{i*}:T_{U_i,\mathbb{R}}\simeq U_i\times\mathbb{C}^n$を取ることができます。そこで
$$I_i=\phi_{i*}^{-1}\circ i\circ\phi_{i*}$$
と定めます。このとき$I_i$たちを貼り合わせることができますが、張り合わせたものが$\mathbb{C}$-同型$I:T_{X,\mathbb{R}}\simeq T_{X,\mathbb{R}}$を定め、2回合成すれば$-1$倍を定めることは容易に確認できます。ここで概複素構造の定義を見てみましょう。
可微分多様体$X$が概複素構造を持つとは、$\mathbb{R}$-同型$I:T_{X}\simeq T_{X}$で
$$I^2=-1$$
を満たすものが存在することである。
ここで複素構造が自然に概複素構造を定めることは上で見た通りです。逆は常には成り立ちませんが、これが成り立つ状況が可積分性です。
可微分多様体$X$上の概複素構造$I$が可積分であるとは、$X$が上記の手順で概複素構造$I$を誘導するような複素構造を持つことである。
次に$X$が複素多様体の場合の、複素ベクトル束としてみた$T_{X,\mathbb{R}}$と$X$の正則接束$T_X$の関係について考えてみましょう。ただし後者は未定義なので、まずこれを定義するところから始めます。まず$T_{U_i}$を、$U_i$に於ける局所座標$(z_1,...,z_n)=(x_1,y_1,...,x_n,y_n)$としたとき、
$$\frac{\partial}{\partial z_i}=\frac{1}{2}(\frac{\partial}{\partial x_i}-i\frac{\partial}{\partial y_i})$$
たちで生成される$T_{U_i,\mathbb{C}}:=T_{U_i,\mathbb{R}}\otimes_\mathbb{R}\mathbb{C}$の部分空間とします。各$T_{U_i}$を貼り合わせることで$T_X(\subset T_{X,\mathbb{C}}:= T_{X,\mathbb{R}}\otimes_\mathbb{R}\mathbb{C})$が定まります。これが正則接束です。
次に$X$が概複素構造であるとき、$I$の固有値$i$の固有ベクトルで生成される空間を$T_X^{1,0}(\subset T_{X,\mathbb{C}})$と表記します。ここで$T_{X,\mathbb{R}}$と$T_X^{1,0}$の間には
$$u\mapsto u-iIu$$
で$\mathbb{R}$-同型が定まっていることに注意しておきましょう。ここで$T_{X,\mathbb{R}}$と$T_X$の関係について述べることができます。
複素多様体$X$に対して、$T_X$と$T_X^{1,0}$は$T_{X,\mathbb{C}}$の複素部分束として同型
時間のある時に追記します。
時間のある時に追記します
時間のある時に追記します
作成中...
概複素多様体$(M,I)$のHermite形式$h$がKahlerであるとは、
1.$I$が可積分
2.実$2$-形式$\omega:=-\Im(h)$が閉形式
を満たすことである。このとき$M$をKahler多様体という。
作成中...
時間のある時に追記します
時間のある時に追記します
位相空間$X$とその上のアーベル群の層$\mathcal{F}$を考え、$\Gamma(X,\mathcal{F})$を大域切断とします。ここでアーベル群の層の圏は充分単射的対象をもつので、関手$\mathcal{F}\mapsto\Gamma(X,\mathcal{F})$には右導来関手$\mathcal{F}\mapsto R^i\Gamma(X,\mathcal{F})$が定まるので、
$$H^i(X,\mathcal{F}):=R^i\Gamma(X,\mathcal{F})$$
と定めます。特に$\mathcal{F}$が群$G$を係数に持つ定数層のとき、これを$H^i(X,G)$と表記します。ここで以下の事実があります。
コンパクト可微分多様体$X$及び標数$0$の体$K$について、定数層の包含$\mathbb{Z}\rightarrow K$から同型
$$H^i(X,\mathbb{Z})\otimes_{\mathbb{Z}}K\simeq H^i(X,K)$$
が誘導される。
時間がある時に追記します。
ランク有限自由$\mathbb{Z}$-加群$V_\mathbb{Z}$が重さ$k$の整Hodge構造を持つとは、$V_\mathbb{C}:=V_\mathbb{Z}\otimes_\mathbb{Z}\mathbb{C}$が分解
$$V_\mathbb{C}=\oplus_{p+q=k}V^{p,q}$$
で$V^{q,p}=\overline{V^{p,q}}$を満たすものが存在することである。
コンパクトKahler多様体$X$の層係数コホモロジー群$H^i(X,\mathbb{Z})$は重さ$i$の整Hodge構造を持つ
まず$H^i(X,\mathbb{Z})\otimes_{\mathbb{Z}}K\simeq H^i(X,K)$なので、$H^i(X,\mathbb{C})$が上記のような分解を持つことを示すことに帰着されます。(以下作成中...)