0
大学数学基礎解説
文献あり

成分による行列式のn階偏微分

255
0

この記事では縮約記法を使います。

成分による行列式の1階微分

aという行列に微小な量を成分に持つ行列δaを足してa+δaという行列に変えるとき、lndetaという値がどう変わるかを考えます。
δ(lndeta)=lndet(a+δa)lndeta=lndet(1+a1δa)
と変形できます。ここで、δaij2次以上の項を無視することにすると、行列式で残るのは対角成分の積を取った項だけ、その中でも1+tr(a1δa)までがδaij1次の項として残ります。
δ(lndeta)ln1+tr (a1δa)(δaij の2次以上は無視)tr a1δa(δaij の2次以上は無視)=(a1)jiδaij
lndetaという値がどう変わるかは分かりました。ところでlnの微分を考えると
δ(lndeta)=δdetadeta
となることから
δdeta=(deta)(a1)jiδaijdetaaij=(deta)(a1)ji
こうして成分による行列式の1階偏微分が求まります。

2次正方行列で確かめてみましょう。
A=[abcd],A1=1adbc[dbca]d=detAa=(adbc)dadbc=d
正しそうです。

成分による逆行列の成分の微分

一般化の準備として逆行列の成分の変分も計算しておきます。
(a1)ijajk=δki(変分のδとKroneckerのδがややこしい)δ(a1)ijajk=(a1)ilδalkδ(a1)ij=(a1)ilδalk(a1)kj(jmに書き換え、両辺に(a1)kj)
逆行列の成分の、元の行列の成分による変分が求まりました。

成分による行列式のn階微分

数学的帰納法を使います。成分による行列式のn1階微分が
n1detaai1j1ain1jn1=detaσSn1sgnσ(a1)j1iσ(1)(a1)jn1iσ(n1)=detaσSn1sgnσμ=1n1(a1)jμiσ(μ)
と書かれているとします。これはn1=1とすれば上で求めた、成分による行列式の1階偏微分に一致しますね。このときn1階微分の変分は
δ[n1detaai1j1ain1jn1]=(deta)(a1)jninδainjnσSn1sgnσμ=1n1(a1)jμiσ(μ)+ν=1n1detaσSn1sgnσμν(a1)jμiσ(μ)(1)(a1)jνinδainjn(a1)jniσ(ν)
ここで、
(1n1nσ(1)σ(n1)n)
という置換の符号はsgnσに等しく、
(1νn1nσ(1)nσ(n1)σ(ν))
という置換の符号はsgnσに等しいので、結局
δ[n1detaai1j1ain1jn1]=detaσSnsgnσμ=1n(a1)jμiσ(μ)δainjnndetaai1j1ainjn=detaσSnsgnσμ=1n(a1)jμiσ(μ)=detaσSnsgnσ(a1)j1iσ(1)(a1)jniσ(n)
となり、数学的帰納法から成分による行列式のn階微分が求まりました。

2階微分の場合を3次正方行列で確かめてみましょう。
A=[abcdefghi],detA=aei+bfg+cdhafhbdiceg,A1=1detA[eifhchbibfcefgdiaicgcdafdhegbgahaebd]
h=detAaf=detAA11A23=detA((A1)11(A1)32(A1)12(A1)31)=(eifh)(bgah)(chbi)(dheg)detA=(aeifbg+ceg+bid)h+(afcd)h2aei+bfg+cdhafhbdiceg=h
となって成り立ちます。begiの項が打ち消されてhの係数がちょうどdetAになるとはよくできていますね。

参考文献

[1]
中嶋 慧・松尾 衛, 一般ゲージ理論と共変解析力学, 現代数学社, 2020, p.288
投稿日:20211216
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

Lomega
Lomega
1
664
代数を勉強中です.

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. 成分による行列式の1階微分
  2. 成分による逆行列の成分の微分
  3. 成分による行列式のn階微分
  4. 参考文献