0
大学数学基礎解説
文献あり

exp(共変微分演算子)

511
0

スカラー値関数の有限距離の平行移動は演算子expaで実現できるのであった( Mathlog )注意しておきたいのは関数はaだけシフトされるが、関数のグラフは軸に沿ってa動かされる。ではベクトル値関数の有限距離並進移動に関してはどうだろうか。一般の微分可能多様体上では基底の方向が一定では無いから並進移動に伴って基底が変化して成分もその影響を受けるため、修正量Γ(Christoffel記号)を加えた共変微分が導入された。
このズレが生じることは EMAN物理学 にも書いてあるし、 Scientific Doggie第五章 にも書いてある。しかしコレを計算によって理解することができるだろうか、というのがこの記事の発端となった。
球面における異なる経路とベクトルの平行移動 球面における異なる経路とベクトルの平行移動
微小並進移動が演算子1+hで実現できることを踏まえて、ベクトルの平行移動を成分表示で行ってみる。xν方向の微小並進移動は物理流の表記で言えばvα=vα+h(νvα+Γ  βναvβ)となる。ここまでは共変微分の基本的な話である。では有限距離のベクトルの平行移動はどういう演算子だろう。v,Γ  ν部分を適切にそれぞれ1次元,2次元配列として並べれば行列の線形変換として共変微分の演算を書ける。
( v )=((1+hν      1+hν)+h(    Γ  ν    ))( v )
さて、スカラー値関数の時同様、区間を等分割して並進移動を繰り返すことで有限距離の並進移動演算子は次のようになる。

(反変)ベクトルの並進移動演算子

(v)=eaν(v)=expa[Iν+(Γ  ν)]  (v)

指数関数の肩に微分演算子と行列が乗った形の複雑な演算子である。具体例を出して実際に計算してみる。
球面座標系r=(θ,ϕ)=(x,y,z)=(Rsinθcosϕ,Rsinθsinϕ,Rcosθ)においてChristoffel記号は
(Γ  θ)=(Γ  θθθΓ  ϕθθΓ  θθϕΓ  ϕθϕ)=(000cotθ)
(Γ  ϕ)=(Γ  θϕθΓ  ϕϕθΓ  θϕϕΓ  ϕϕϕ)=(0sinθcosθcotθ0)
となる。ベクトルの基底はeθ=rθ=(Rcosθcosϕ,Rcosθsinϕ,Rsinθ)eϕ=rϕ=(Rsinθsinϕ,Rsinθcosϕ,0)

計算に必要な知識

AB=BAならばexp(A+B)=expAexpB
xf(x)=[x,f(x)]=f(x)
heisenberg代数参照
コレを用いて
x+xlogf(x)=xf(x)1[f(x),x]=f(x)1xf(x)
随伴作用(共役変換)の準同型性
C1f(AB)C=f((C1AC)(C1BC))
回転行列のexp
exp(0θθ0)=(cosθsinθsinθcosθ)

(v)=(vθ,vϕ)Tθ方向の並進移動は
(v)=expa[I(θ)+(Γ  θ)]  (v)=expa[(θ00θ)+θlog(100sinθ)]  (vθvϕ)=expa[(100sinθ)1(θ00θ)(100sinθ)]  (vθvϕ)=(100sinθ)1exp(aθ00aθ)(100sinθ)  (vθvϕ)=(100sinθ)1exp(aθ00aθ)  (vθ(θ,ϕ)vϕ(θ,ϕ)sinθ)=(100sinθ)1(vθ(θ+a,ϕ)vϕ(θ+a,ϕ)sin(θ+a))=(vθ(θ+a,ϕ)vϕ(θ+a,ϕ)sin(θ+a)/sinθ)
となる。計算結果は考える以前に当たり前である。θ方向の移動は測地線に沿うので向きが変化せず基底の長さだけが変化し、基底eϕの長さはその緯度の緯線の長さ(余緯度の正弦)に比例してsinθ/sin(θ+a)倍されϕ成分は反比例する、つまり移動後はその逆比倍されるのである。
ϕ方向の移動は
(v)=expa[diag(ϕ)(Γ  ϕ)]  (v)=expa[(ϕ00ϕ)+(100sinθ)1(0cosθcosθ0)(100sinθ)]  (vθvϕ)=(100sinθ)1exp(aϕ00aϕ)exp(0acosθacosθ0)(100sinθ)  (vθvϕ)=(cos(acosθ)sinθsin(acosθ)sin(acosθ)/sinθcos(acosθ))(vθ(θ,ϕ+a)vϕ(θ,ϕ+a))

という結果になる。回転角acosθθ=π/2のとき0になるが、これは赤道上の移動は測地線(大円)を通ることからも理解できる。
計算の観点的には、ただexp()を計算したにもかかわらず二重指数cos(acosθ)が現れるのは面白い。
赤道直下の一点で,地面に北向きのベクトルv0を描き、v0を赤道に沿って角度A動かしたものをv1として、v0,v1両方を北極へ向けて平行移動したものをそれぞれv2,v3とする。

v0=(10)=(vθ(π/2,0)vϕ(π/2,0))
sinϵϵとして計算する。
v1(π/2,A)=eAϕv0(π/2,A)=(10)
v2(ϵ,0)=exp((π2ϵ)θ)v0(ϵ,0)=(10)
v3(ϵ,A)=exp((π2ϵ)θ)v1(ϵ,A)=(10)
v3(ϵ,0)=eAϕv3(θ,ϕ)|(θ,ϕ)=(ϵ,0)=(cosAϵsinAsin(A)/ϵcosA)(10)=(cosAsin(A)/ϵ)
となって確かに長さは変わらず角度がAずれる。

今度はR2上の極座標表示でベクトルを並進移動することを考える。
r=(xy)=(rcosθrsinθ)
er=(cosθsinθ),  eθ=(rsinθrcosθ)
(Γ  r)=(0001/r),  (Γ  θ)=(0r1/r0)
ベクトル(v)(ur,uθ)方向の移動は
(v)=exp(urr+uθθ)(v)=exp((urr+uθθ)+(0uθruθ/rur/r))(vrvθ)=(100r)1exp((urr+uθθ)+(0uθuθ0))(100r)(vrvθ)=(100r)1eurreuθθ(cosuθsinuθsinuθcosuθ)(100r)(vrvθ)=(vr(r+ur,θ+uθ)cosuθrvθ(r+ur,θ+uθ)sinuθ1rvr(r+ur,θ+uθ)sinuθ+r+urrvθ(r+ur,θ+uθ)cosuθ)

となる。
演算子的にRicciの公式を理解することも可能である。

Ricciの公式

Riemann曲率テンソル
R jkli=Γ ljiukΓ kjiul+Γ kniΓ ljnΓ lniΓ kjnに対して
klvilkvi=R jklivj
が成立する。

これは偏微分演算子同士は可換なので
[k,l](v)=([k,l]+[k,(Γ  l)][l,(Γ  k)]+[(Γ  k),(Γ  l)])(v)=((Γ  l)uk(Γ  k)ul+[(Γ  k),(Γ  l)])(v)=(R  kl)(v)
という風に証明できる。ただし(R  kl)はRiemann曲率テンソルの成分をうまく2次元配列(行列)でならべたものである。微小並進でuμ,uν方向の微小四角形の上をベクトルがシフトする状況を考えたとき指数関数を2次の項まで展開することで
exp(duμμ)exp(duνν)exp(duμμ)exp(duνν)(v)=(v)+duμduν[μ,ν](v)=(v)+duμduν(R  μν)(v)
となって自然にRiemann曲率テンソルが現れる。空間の局所的な歪みの大きさを、面積に対する周回によるズレの大きさで計ることができることを意味している。

参考文献

[1]
石井俊全, 一般相対性理論を一歩一歩数式で理解する, ベレ出版
投稿日:202218
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

赤げふ
赤げふ
92
15485
東工大情報B4 数学,理論物理,Minecraft計算機/微分演算子の記事を書きます/主に表現論,量子群,物理の数理に興味があります

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中