6

Dirichlet eta,beta関数の漸化式と特殊値(複素解析)

636
0

はじめに

この記事は、留数定理を知っていれば理解できる内容で書いてみたつもりです。知らなくてもDirichlet eta関数についての話は分かるかもしれないと思います。
まず、Dirichlet eta関数とDirichlet beta関数を以下で定義します。

η(s):=n=0(1)n(n+1)sβ(s):=n=0(1)n(2n+1)sRe(s)>0

あとポッホハマー記号も定義します。

ポッホハマー記号

(n)k:=n!(nk)!

今回は、この二つの関数の特殊値の漸化式を導出します。
以下が成り立ちます。

漸化式

(1)n(2n+1)!η(2n)π2n=12k=1n1(1)k(2n+1)2kη(2k)π2k(1)n(2n)!β(2n+1)π2n+1=122n+212k=0n1(1)k(2n)2kβ(2k+1)π2k+1

このようにDirichlet eta関数とDirichlet beta関数は非常に似た漸化式を満たすことが分かります。ここでは二つの漸化式の類似性が分かりやすい書き方をしましたが,Dirichlet eta関数の方は移項することで
k=1n(1)k(2n+1)2kη(2k)π2k=12
と纏められ、さらには解析接続
η(0)=lims0η(s)=12
を使えば
k=0n(1)k(2n+1)2kη(2k)π2k=0
と非常に簡潔な漸化式を満たすことが分かります。
ではこれらを複素積分を使って証明します。以下対数は主値をとるものとします。

Dirichlet beta関数の漸化式

まずDirichlet beta関数を積分表示してから、留数定理を使って示します。

Dirichlet beta関数の積分表示

非負整数kについて
β(2k+1)=12(2k)!0ln2kx1+x2dx

0ln2kx1+x2dx=01ln2kx1+x2dx+1ln2kx1+x2dx=201ln2kx1+x2dx=201n=0(x2)nln2kxdx=2n=0(1)n01x2nln2kxdx=2n=0(1)n(2k)!(2n+1)2k01x2ndx()=2(2k)!n=0(1)n(2n+1)2k+1=2(2k)!β(2k+1)

これの両辺を2(2k)!で割って従う。

次に、f(x):=log2nz1+z20<r<1<R
として、以下の積分経路を考えます。
L1:z=x(x:Rr)C1:z=reiθ(θ:π0)L2:z=x(x:rR)C2:z=Reiθ(θ:0π)

留数定理より、

L1+C1+L2+C2f(z)dz=2πiResz=if(z)=πlog2ni=π(πi2)2n=(1)nπ2n+122n
です。ここで、r0,RとすればC1,C2は0に収束するので、
(1)nπ2n+122n=Re[(0+0)log2nx1+x2dx]=0ln2nx1+x2dx+Re0(lnx+πi)2n1+x2dx=2(2n)!β(2n+1)+0Rek=02n(2nk)(πi)2nklnkx1+x2dx=2(2n)!β(2n+1)+k=0n(2n2k)(πi)2n2k0ln2kx1+x2dx=2(2n)!β(2n+1)+k=0n(1)nkπ2n2k(2n2k)(2k)!2β(2k+1)=4(2n)!β(2n+1)+2(1)nπ2n+1k=0n1(1)k(2n)2kβ(2k+1)π2k+1
となり、両辺を4(1)nπ2n+1で割って移項すると所望の漸化式
(1)n(2n)!β(2n+1)π2n+1=122n+212k=0n1(1)k(2n)2kβ(2k+1)π2k+1
を得ます。
実際にn=0を代入すればβ(1)π=14,すなわち
β(1)=π4
とDirichlet beta関数の特殊値が求まります。

Dirichlet eta関数の漸化式

Dirichlet eta関数の漸化式は、Dirichlet beta関数の時よりも少しトリッキーなことをして得られます。
以下で定義される多重対数関数を使います。

Lis(z):=n=1znns|z|<1=0zLis1(t)tdt

s=1のときは、
Li1(z)=n=1znn=log(1z)
となります。これにより、以下の不定積分を表すことができます。

lognxaxdx=k=0n(1)k(n)kLik+1(xa)lognkx+Const.

部分積分により、
lognxaxdx=log(1xa)lognxnlog(1xa)logn1xxdx=Li1(xa)lognxnLi2(xa)logn1x+n(n1)Li2(xa)logn2xxdx=k=0n(1)k(n)kLik+1(xa)lognkx+Const.

では漸化式を求めてみましょう。唐突ですが、以下の変形を考えます。
0=Im0πx2ncotx2dx=Im11(logzi)2ni(z+1)z1dziz(z=eix)=(1)n+1Im11log2nz(1z2z1)dz
両辺を(1)n+1で割ると
0=Im([log2n+1z2n+1]11+211log2nz1zdz)=Im((πi)2n+12n+1+2[k=02n(1)k(2n)kLik+1(z)log2nk(z)]11)=(1)nπ2n+12n+1+2Imk=02n(1)k(2n)kLik+1(1)(πi)2nk=(1)nπ2n+12n+1+2k=1n(2n)2k1η(2k)π2n2k+1(1)nk(1)nπ2n+12n+1=2(1)nπ2n+1k=1n(2n)2k1η(2k)π2k(1)k
となります。両辺を2(1)nπ2n+12n+1で割って整理すると、所望の漸化式
k=1n(2n+1)2k(1)kη(2k)π2k=12
が得られます。実際にn=1とすれば
6η(2)π2=12,すなわち
η(2)=π212
が得られます。また、Riemann zeta関数
ζ(s)=n=11nsRe(s)>1
との関係式
η(s)=(121s)ζ(s)
から、ζ(2n)の値を求めることもできます。

おわりに

それぞれ別の方法で求めたDirichlet beta関数とDirichlet eta関数の漸化式が、よく似た形になっていて面白いですね。最後まで読んでくださりありがとうございました。

投稿日:2022110
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

便利
便利
272
56458
引き算が苦手です

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. はじめに
  2. Dirichlet beta関数の漸化式
  3. Dirichlet eta関数の漸化式
  4. おわりに