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高校数学解説
文献あり

ちょっと困る区分求積法 その2

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はじめに

こんにちは.今回は次の極限を求めていきます.
$$\lim_{n \to \infty}\sum_{k=1}^n\cfrac{k}{k^2-2nk-n}\tag{1}$$
基本的には前回の記事と同様の手続きを踏みます.

前回の記事はコチラ
https://mathlog.info/articles/2973

準備(再掲)

今回も二重数列を扱うので,関連する話題をここに載せておきます.準備の内容は前回の記事と全く同じです.これらは高木貞治先生の解析概論から引用させて頂いてます.

二重数列の極限

二重数列$\{a_{m,n}\}$を考える.ある実数$\alpha$が存在して
$$\alpha=\lim_{m\to\infty, \, n\to\infty}a_{m,n}$$
が成り立つということは,任意の正の実数$\varepsilon$に対してある正の整数$N$が存在して,任意の$m,n >N$に対して$|a_{m,n}-\alpha|<\varepsilon$が成り立つことである.

二重数列$\{a_{m,n}\}$を考える.ある実数$\alpha$が存在して
$$\alpha=\lim_{m\to\infty, \, n\to\infty}a_{m,n}$$
が成り立つと仮定する.また,任意の$n$に対してある実数$b_n$が存在して
$$b_n=\lim_{m \to \infty}a_{m,n}$$
が成り立つとする.このとき,
$$\alpha = \lim_{n \to \infty}b_n$$
が成り立つ.即ち,$\displaystyle \lim_{m\to\infty, \, n\to\infty}a_{m,n}=\lim_{n \to \infty}\left(\lim_{m \to \infty}a_{m,n} \right)$が成り立つ.

二重数列$\{a_{m,n}\}$を考える.任意の$n$に対してある実数$b_n$が存在して
$$b_n=\lim_{m \to \infty}a_{m,n}$$
が成り立つとする.更に,この収束は$n$に関して一様であるとする.即ち,任意の正の実数$\varepsilon$に対して$n$に依らないある正の整数$M$が存在して,全ての$n$と任意の$m>M$に対して$|a_{m,n}-b_n|<\varepsilon$が成り立つとする.また,$\displaystyle \alpha = \lim_{n \to \infty}b_n$が成り立つとする.このとき,次が成り立つ.
$$\alpha=\lim_{m\to\infty, \, n\to\infty}a_{m,n}$$

極限(1)の値を求める

さて,極限(1)の値を計算しましょう.ここで極限(1)を再掲しておきます.
$$\lim_{n \to \infty}\sum_{k=1}^n\cfrac{k}{k^2-2nk-n}\tag{1}$$
極限とシグマが見えるので区分求積を思いつきます.そこで極限の中身を次のように変形します.
$$\sum_{k=1}^n\cfrac{k}{k^2-2nk-n}=\cfrac{1}{n}\sum_{k=1}^n\cfrac{\frac{k}{n}}{\left(\frac{k}{n}\right)^2-2\frac{k}{n}-\frac{1}{n}}$$
前回同様,普通の区分求積だったら,ここで$n \to \infty$とすることで直ぐに積分に移行できるのですが,今回も$-\frac{1}{n}$という項がお邪魔なのでそうはいきません.しかし,$n \to \infty$のとき$\frac{1}{n} \to 0$なので,直感的には
$$\lim_{n \to \infty}\cfrac{1}{n}\sum_{k=1}^n\cfrac{\frac{k}{n}}{\left(\frac{k}{n}\right)^2-2\frac{k}{n}-\frac{1}{n}}=\int_0^1\cfrac{x}{x^2-2x}\, dx=\int_0^1\cfrac{1}{x-2}\, dx=-\log{2}$$
が成り立つと予想されます.これからこの直感を正当化していきましょう.

まず,前回と同様に新しく添字$m$を導入して,
$$\lim_{m \to \infty, n \to \infty}\cfrac{1}{n}\sum_{k=1}^n\cfrac{\frac{k}{n}}{\left(\frac{k}{n}\right)^2-2\frac{k}{n}-\frac{1}{m}}$$
という値を考えることにします.もしこの極限値が存在すれば,それが求めるべき値に等しくなります.$m$を任意に固定した上で$n$について極限を取ると,区分求積法から
$$\lim_{n \to \infty}\cfrac{1}{n}\sum_{k=1}^n\cfrac{\frac{k}{n}}{\left(\frac{k}{n}\right)^2-2\frac{k}{n}-\frac{1}{m}} = \int_0^1\cfrac{x}{x^2-2x-\frac{1}{m}}\, dx$$
が成り立ちます.$f_m(x)=\frac{x}{x^2-2x-\frac{1}{m}}$と置くと,この等式は
$$\lim_{n \to \infty}\cfrac{1}{n}\sum_{k=1}^nf_m\left(\frac{k}{n} \right) = \int_0^1f_m(x)\, dx$$
と書けます.さて,$f_m(x)$は閉区間$[0,1]$において単調減少です.従って,前回と同様の議論により,この収束が$m$に関して一様収束であることが分かります.

ここで,定理2を用いるために極限
$$\lim_{m \to \infty}\int_0^1f_m(x)\,dx$$
の存在を言いましょう.$m \to \infty$とすると$f_m(x) \to \frac{1}{x-2}$となるので,
$$\lim_{m \to \infty}\int_0^1f_m(x)\,dx=\int_0^1\lim_{m \to \infty}f_m(x)\, dx$$
と計算できれば一番良いのですが,閉区間$[0,1]$において,$m \to \infty$のとき$f_m(x)$$\frac{1}{x-2}$に一様収束しないので($x=0$のところを考えれば分かります),この計算はできません.そこで,次のような方法を取ります.

まず,
$$I_m=\int_0^1f_m(x)\, dx$$
と置きます.任意の$m$に対して$f_m(x) \leq 0 \, (x \in [0,1])$です.更に,$m< m'$のとき,
$$f_m(x)-f_m'(x)=\cfrac{x(\frac{1}{m}-\frac{1}{m'})}{(x^2-2x-\frac{1}{m})(x^2-2x-\frac{1}{m'})} \geq 0 \hspace{0.2in} ({}^{\forall}x \in [0,1])$$
が成り立つので,$I_{m'} \leq I_m \leq 0$が成り立ちます.即ち,$\{I_m\}$は単調減少列です.加えて,任意の$m$に対して
$$f_m(x)-\cfrac{1}{x-2}=\cfrac{\frac{1}{m}}{(x^2-2x-\frac{1}{m})(x-2)}>0 \hspace{0.2in} ({}^{\forall}x \in [0,1])$$
が成り立つので,任意の$m$に対して
$$I_m > \int_0^1\cfrac{1}{x-2}\, dx=-\log2$$
となります.従って$\{I_m\}$は下に有界な単調減少列なので,その極限$\displaystyle\lim_{m \to \infty}I_m$が存在します.その値を$\alpha$と置きます.

ここで定理2を用いることで,
$$\alpha = \lim_{m \to \infty, n \to \infty}\cfrac{1}{n}\sum_{k=1}^n\cfrac{\frac{k}{n}}{\left(\frac{k}{n}\right)^2-2\frac{k}{n}-\frac{1}{m}}$$
が成り立つことが分かります.ところで,
$$\lim_{m \to \infty}\cfrac{1}{n}\sum_{k=1}^n\cfrac{\frac{k}{n}}{\left(\frac{k}{n}\right)^2-2\frac{k}{n}-\frac{1}{m}}=\cfrac{1}{n}\sum_{k=1}^n\cfrac{\frac{k}{n}}{\left(\frac{k}{n}\right)^2-2\frac{k}{n}}$$
が成り立つので,ここで定理1を用いることで
$$\alpha = \lim_{n \to \infty}\cfrac{1}{n}\sum_{k=1}^n\cfrac{\frac{k}{n}}{\left(\frac{k}{n}\right)^2-2\frac{k}{n}}$$
が成り立つことが分かります.右辺の極限は区分求積法から
$$\lim_{n \to \infty}\cfrac{1}{n}\sum_{k=1}^n\cfrac{\frac{k}{n}}{\left(\frac{k}{n}\right)^2-2\frac{k}{n}}=\int_0^1\cfrac{x}{x^2-2x}\, dx=\int_0^1\cfrac{1}{x-2}\, dx=-\log2$$
と求まるので,$\alpha=-\log2$です.以上より,最終的な解答は次の通りです.
$$\underline{\lim_{n \to \infty}\sum_{k=1}^n\cfrac{k}{k^2-2nk-n}=-\log 2}$$

今回は,前回と違って,$f_m(x)$の収束が区間$[0,1]$において一様収束でない例を扱ってみました.ひとまず,極限$\displaystyle\lim_{m \to \infty}f_m(x)$の具体的な値ではなくその存在を言うところがポイントですね.

今回の記事は以上です.
お読み頂きありがとうございました.

参考文献

[1]
高木貞治, 定本 解析概論, 岩波書店, 2010, p184
投稿日:202224
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certain
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素朴な問題が特に好きです.

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