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大学数学基礎解説
文献あり

ウリゾーンの補題

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 今回は、最近おもしろいなと思った ウリゾーンの補題 の証明を(詳しめに)書こうと思います。ウリゾーンの補題の主張は次のようなものです:

ウリゾーンの補題

$X$ を正規空間、$A, B \subset X$ を互いに交わらない閉集合とする。このとき、連続関数 $f : X \to [0,1]$$f(A) = \{0\},\ f(B) = \{1\}$ なるものが存在する。

ここで、位相空間 $X$正規 であるとは、次の 2 つの条件をみたすことをいいます。

  1. $X$$\mathrm{T_1}$ 空間。すなわち、任意の相異なる 2 点 $p,q \in X$ に対し、ある開集合 $U \subset X$$p \in U,\ q \notin V$ なるものが存在する。
  2. $X$ の任意の交わらない閉集合 $F_1, F_2 \subset X$ に対し、ある開集合 $U, V \subset X$$F_1 \subset U,\ F_2 \subset V, \ U \cap V = \emptyset$ なるものが存在する。

 この定義だけを見ると、条件に実数と直接関係のあるものは含まれていないため、ウリゾーンの補題の主張は(個人的に)かなり非自明なものだと思います。実は、ウリゾーンの補題はある意味で正規空間の特徴づけになっています:

正規空間の特徴づけ

$X$$\mathrm{T_1}$ 空間とする。このとき、次の 2 条件は同値である。

  1. $X$ は正規空間。
  2. 任意の交わらない閉集合 $F_1, F_2 \subset X$ に対し、連続写像 $f : X \to [0,1]$$F_1 \subset f^{-1}(0),\ F_2 \subset f^{-1}(1)$ なるものが存在する。

$\mathrm{(i)} \Rightarrow \mathrm{(ii)}:$ ウリゾーンの補題から明らか。
$\mathrm{(ii)} \Rightarrow \mathrm{(i)}:$ $F_1, F_2 \subset X$$X$ の交わらない閉集合とする。

  1. 仮定より、連続写像 $f : X \to [0,1]$$F_1 \subset f^{-1}(0),\ F_2 \subset f^{-1}(1)$ なるものが存在する。
  2. $U := f^{-1}\left(\,\left[0,\frac12\right)\,\right),\ V := f^{-1}\left(\,\left(\frac12,1\right]\,\right)$ とおくと、$\left[0,\frac12\right),\ \left(\frac12, 1\right]$$[0,1]$ の開集合であるから、$U, V$$X$ の開集合である。
  3. $U, V$ の定め方から $U \cap V = \emptyset$ であり、
    \begin{align*} &F_1 \subset f^{-1}(0) \subset f^{-1}\left(\,\left[0,\frac12\right)\,\right) = U \\ &F_2 \subset f^{-1}(1) \subset f^{-1}\left(\,\left(\frac12,1\right]\,\right) = V \end{align*}
    が成り立つ。

よって $X$ は正規である。

 それでは、ウリゾーンの補題を証明していきます。補題 4 が重要な補題で、補題 3 はその準備になります。補題 5 において(ウリゾーンの補題とほとんど同じ条件をみたす)連続写像 $f : X \to [0,1]$ を構成します。

$X$ を正規空間、$F \subset X$ を閉集合、$U \subset X$$F \subset U$ なる開集合とする。このとき、開集合 $V\subset X$$F \subset V,\ \overline{V}\subset U$ なるものが存在する。

  1. $F_1 := F,\ F_2 := X - U$ とおくと、$F_1, F_2$$X$ の閉集合で $F_1 \cap F_2 = \emptyset$ をみたす。
  2. $X$ は正規空間だから、ある開集合 $V, W \subset X$$F_1 \subset V,\ F_2 \subset W, \ V \cap W = \emptyset$ なるものが存在する。
  3. $F \subset V$ はわかったから $\overline{V} \subset U$ をいえばよい。
  4. $V \cap W = \emptyset$ より $V \subset X-W$ である。$X - W$$X$ の閉集合であるから、閉包の性質より $\overline{V} \subset X-W$ となる。結局、
    \begin{align*} \overline{V} \subset X-W \subset X - F_2 = X - (X - U) = U. \end{align*}

$X$ を正規空間、$F \subset X$ を閉集合、 $U \subset X$$F \subset U$ なる開集合とする。このとき、$0 < q < 1$ なる任意の $2$ 進小数 $q$ に対して、次の 2 つの条件をみたす開集合 $V_q \subset X$ が存在する。

  1. $F \subset V_q,\ \overline{V_q} \subset U$.
  2. $q < q'$ なら $ \overline{V_q} \subset V_{q'}$.

 この補題は(正確さをある程度無視すれば)、 $F \subset U$ の間を、開集合 $V_q$ たちによって "十分に細かく" かつ、 "$F$ から $U$ へ順に積み重なるように" 分割できる 、ということを意味しているといえます。

 $q$ を既約分数として $ q = \frac{d}{2^n}$$d,\ n$ は正の整数)と表す。この $q$ の表示の 分母の $2$ の指数 $n$ に関する帰納法 によって $V_q$ を定める。

($n=1$ のとき)

 $V_{\frac12} \subset X$ を、補題 3 から得られる $F \subset V_{\frac12},\ \overline{V_{\frac12}} \subset U$ なる開集合として定める。

($k< n$ なる自然数 $k$ について定まっているとき)
  1. $k$ を任意の $k< n$ なる正の整数としたとき、任意の既約な $2$ 進分数 $q' = \frac{d'}{2^k}$ について $V_{q'}$ が定まっていると仮定する。
  2. $q = \frac{d}{2^n},\ d \neq 1$ に対して、$d-1,\ d+1$ はともに偶数である。したがって、 $\frac{d-1}{2^n},\ \frac{d+1}{2^n}$ はともに、既約分数で表したとき分母の $2$ の指数が $n$ 未満となる。 よって開集合 $V_{\frac{d-1}{2^n}},\ V_{\frac{d+1}{2^n}}$ はすでに定まっていて、$\overline{V_{\frac{d-1}{2^n}}} \subset V_{\frac{d+1}{2^n}}$ が成り立つ。
  3. 閉集合 $\overline{V_{\frac{d-1}{2^n}}}$ と開集合 $V_{\frac{d+1}{2^n}}$ に対し補題 3 を適用すれば、開集合 $V' \subset X$$\overline{V_{\frac{d-1}{2^n}}} \subset V',\ \overline{V'} \subset V_{\frac{d+1}{2^n}}$ なるものが選べる。この $V'$$V_q$ とおく。
  4. 3 で選んだ $V_q$ に対して主張の (i) が成り立つことは明らか。よって (ii) が成り立つことを示せばよい。$q< q'$ とする。
    a. $q' = \frac{d+1}{2^n}$ なら、 $V_q$ の選び方から $\overline{V_q} \subset V_{q'}$ が成り立つ。
    b. $\frac{d+1}{2^n} < q'$ なら、 $V_{\frac{d+1}{2^n}}$ が条件 (ii) をみたすことから $\overline{V_q} \subset V_{\frac{d+1}{2^n}} \subset \overline{V_{\frac{d+1}{2^n}}} \subset V_{q'}$ が成り立つ。
  5. もし $d=1$ なら、閉集合 $F$ と開集合 $V_{\frac{d+1}{2^n}} = V_{\frac{1}{2^{n-1}}}$ に対して補題 3 を適用して $F \subset V_{\frac{1}{2^n}},\ \overline{V_{\frac{1}{2^n}}} \subset V_{\frac{1}{2^{n-1}}}$ なる開集合 $V_q = V_{\frac{1}{2^n}}$ を選ぶ。これが主張の条件をみたすことは 4 の b と同じようにして確かめられる。

以上より、すべての $q$ に対して補題の条件をみたす $V_q$ が定められた。

補題 4 の状況で、写像 $ f : X \to \mathbb{R}$
$$ \begin{eqnarray} f(p) = \left\{ \begin{array}{l} \inf\ \{q \mid p \in V_q\} &&({}^{\exists}q\ \ \mathrm{s.t.}\ \ p \in V_q) \\ 1 &&\ \ ({}^{\forall}q\ ,\ p \notin V_q) \end{array} \right. \end{eqnarray} $$
と定める。このとき、$f$ は連続写像 $f : X \to [0,1]$ で、$f(F) = \{0\},\ f(X-U) = \{1\}$ をみたす。

 補題 4 の直感によれば、この補題の $f$ は、 $F$$U$ の間の点 $p$ (厳密には定義のように $p \in V_q$ なる $q$ が存在する点 $p$ )に対して、「層のように積み重なっている $V_q$ たちの中で $p$ はどの階層から含まれるのか」、その "番号" $q$ を与える関数である、といえます(厳密には "$\inf\,$" なので $f$ の値が実際の "番号" であるとは限りません)。

 $p \in X$ に対し $S_p := \{ q \mid p \in V_q\}$ とおく。 $q$ の範囲は $0 < q< 1$ であるから、$f$ の定義より任意の $p \in X$ に対し $0 \leq f(p)\leq 1$ 。すなわち、$f$ は写像 $f : X \to [0,1]$ である。
 まず、

  • $p \in V_q$ なら $f(p) \leq q\ \ \ \cdots\ \ \mathrm{(A)}$
  • $f(p) < q$ なら $p \in V_q\ \ \ \cdots\ \ \mathrm{(B)}$

が成り立つ。


$\because)$ $p \in V_q$ なら、条件「${}^{\exists}q\ \ \mathrm{s.t.}\ \ p \in V_q$」がみたされるから、 $\inf$ の性質より $f(p) = \inf\ S_p \leq q$ が成り立つ。
$f(p) < q$ なら、$q<1$ より $f(p) = \inf\ S_p < q$ 。このとき $\inf$ の性質から、ある $q' \in S_p$ が存在して $q' < q$ となる。よって、補題 4 の条件 (ii) から $p \in V_{q'} \subset \overline{V_{q'}} \subset V_q$ が成り立つ。


したがって、 $q < q'$ に対し、
\begin{align*} p \in V_{q'} - V_{q}\ \ \Rightarrow\ \ q \leq f(p) \leq q'\ \ \ \cdots\ \ \mathrm{(C)} \end{align*}
が成り立つ。

(Step1: $f(F) = \{0\},\ f(X-U)=\{1\}$ であること)
  1. もし $p \in F$ なら、任意の $q$ に対して $p \in V_q$ だから、$0 < q < 1$ より $f(p) = \inf\ S_p = 0$ である。よって $f(F) = \{0\}$ が成り立つ。
  2. もし $p\in X-U$ なら、任意の $q$ に対して $q \in X - U \subset X - V_q$、すなわち $p \notin V_q$ が成り立つ。よって $f(X-U) = \{1\}$ である。
(Step2: $f$ が連続であること)

(i) $f(p)=0$ なる $p$ での連続性:

  1. 任意の $0<\varepsilon <1$ に対して、ある $X$ の開集合 $V \subset X$$p \in V$ なるものが存在して $f(V) \subset [0, \varepsilon)$ が成り立つことを示す。
  2. $f(p)=0$ より、$\mathrm{(A)}$ から任意の $q$ に対して $p \in V_q$ である。よって、$0 < q' < \varepsilon$ なる $2$ 進分数 $q'$ を 1 つ選んだとき $p \in V_{q'}$ となる。
  3. $V := V_{q'}$ とおくと、$\mathrm{(A)}$ より任意の $p' \in V$ に対し $f(p') \leq q' < \varepsilon$ である。すなわち、$f(V) \subset [0,\varepsilon)$ が成り立つ。
  4. ゆえに、1. の主張が示された。

(ii) $f(p) = 1$ なる $p$ での連続性:

  1. 任意の $0<\varepsilon < 1$ に対して、ある開集合 $V \subset X$$p \in V$ なるものが存在して $f(V) \subset (1-\varepsilon, 1]$ が成り立つことを示す。
  2. $0 < q < q' < 1$ なる $2$ 進分数 $q,\ q'$ に対し、$\mathrm{(A)}$ の対偶から $p \notin V_{q'}$ となる。補題 4 の条件 (ii) より $\overline{V_q} \subset V_{q'}$ だから $p \notin \overline{V_q}$ が成り立つ。
  3. 上の 2. における $q,\ q'$$1-\varepsilon < q < q' < 1$ なるように選び、この $q$ に対して $V := X - \overline{V_q}$ とおけば、$V$$X$ の開集合で 2. より $p \in V$
  4. 任意の $p' \in V$ に対し $p' \notin V_q$ だから、 $\mathrm{(B)}$ の対偶より $1-\varepsilon < q \leq f(p')$ 。すなわち $f(V) \subset (1-\varepsilon,1]$ が成り立つ。
  5. ゆえに、1. の主張が示された。

(iii) $0 < f(p) < 1$ なる $p$ での連続性:

  1. 任意の $\varepsilon > 0$$(f(p)-\varepsilon, f(p)+\varepsilon) \subset [0,1]$ なるものに対して、ある開集合 $V \subset X$$p \in V$ なるものが存在して $f(V) \subset (f(p)-\varepsilon, f(p)+\varepsilon)$ が成り立つことを示す。
  2. $0 < q < q'' < f(p) < q' <1$ なる $2$ 進分数 $q,\ q',\ q''$ に対し、
    a. $q<q''$ から $\overline{V_q} \subset V_{q''}$、すなわち $X - V_{q''} \subset X - \overline{V_q}$
    b. $f(p) > q''$ と $\mathrm{(A)}$ の対偶から $p \notin V_{q''}$
    c. $f(p) < q'$ と $\mathrm{(B)}$ から $p \in V_{q'}$
    d. a. と b. から $p \notin \overline{V_q}$
    e. c. と d. から $p \in V_{q'} - \overline{V_q}$
    となる。
  3. 上の 2. における $q,\ q',\ q''$$f(p)-\varepsilon < q < q'' < f(p) < q' < f(p)+\varepsilon$ なるように選び、$V := V_{q'} - \overline{V_q}$ とおくと 2. より $p \in V$ で、$V$$X$ の開集合($\because\ V = V_{q'}\cap (X-\overline{V_q})$ であり $X-\overline{V_q}$$X$ の開集合である )。
  4. 任意の $p' \in V$ に対して、$V \subset V_{q'} - V_q$ だから $\mathrm{(C)}$ より
    \begin{align*} f(p) - \varepsilon < q \leq f(p') \leq q' < f(p) + \varepsilon \end{align*}
    が成り立つ。すなわち、$f(V) \subset (f(p)-\varepsilon, f(p)+\varepsilon)$ である。
  5. ゆえに、1. の主張が示された。

 正規空間 $X$ の交わらない閉集合 $A, B$ が与えられたとき、$F := A,\ U := X - B$ とおいて補題 5 を適用することにより、直ちにウリゾーンの補題が得られます。

ウリゾーンの補題(再掲)

$X$ を正規空間、$A, B \subset X$ を互いに交わらない閉集合とする。このとき、連続関数 $f : X \to [0,1]$$f(A) = \{0\},\ f(B) = \{1\}$ なるものが存在する。

 今回は省きましたが、ウリゾーンの補題からは ティーツェの拡張定理 を示すことができ、この定理もある意味で正規空間の特徴づけになっています。また、「第二可算かつ正規な位相区間は距離付け可能である(すなわち、その位相と同じ位相を与える距離が存在する)」という ウリゾーンの距離付け可能定理 もウリゾーンの補題から導かれます。

参考文献

[1]
川﨑 徹郎, 位相空間 例と演習, 共立出版, 2020
[2]
小山 晃, 位相空間論 ー現代数学への基礎一, 森北出版, 2021
投稿日:2022213

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投稿者

Re_menal
Re_menal
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