赤雪江(雪江明彦著 代数学1群論入門)は有名な群論の入門書ですが、(素朴)集合論を終えたばかりの初学者にとっては行間と感じられるポイントがいくつか存在します。
この記事では赤雪江の命題たちをピックアップし、自分なりの詳しい説明を載せてみます。
もちろん集合論の知識は仮定しています。
1.2節には以下のように書かれています。
以下の二つが示せたとき、定義がwell-definedであるという。
(1) 定義で使われる方法が実際にうまくいく。
(2) 定義がもともとの対象から複数定まる対象を経由して行われる場合、結果がもともとの対象にのみ依存する。
ふわっとしていて、初学ではうまく呑み込めないかもしれません。こういうときは、逆説的にwell-definedではない例を見るとわかりやすいです。
まず安直に,写像$f:ℤ/3ℤ → ℤ/5ℤ$を$f(a + 3ℤ) = a + 5ℤ$で定義する.
$ℤ/3ℤ$においては$1 + 3ℤ = 4 + 3ℤ$であるが,写像$f$で送ってみると$f(1 + 3ℤ) = 1 + 5ℤ$,$f(4 + 3ℤ) = 4 + 5ℤ$であり,両者は異なる.
定義域の元おのおのに対してただ一つの値域の元を対応させるのが写像であるから,この$f$は写像としてうまく定義されていない.
例にあるように、$f$は$ℤ/3ℤ$を定義域として作られています。
$ℤ/3ℤ$は剰余類であり、元の表し方が一意的ではないため、安直に写像を定義するとこのようにうまくいかない場合があります。
とくに、写像を定義域に剰余類を用いて構成する場合は、逐一well-definedを確認しましょう。
この場合、「定義域の元の表し方が違っても、元として同じであれば、写像で送った先も等しい」
すなわち、「$a = a'$ならば$f(a) = f(a')$」を示せばよいです。
次の命題2.6.18(1)がうまくいく例です。
写像$\alpha : G/H → H\G$を$\alpha (gH) = Hg^{-1}$で定義し、また写像$\beta : H/G → G\H$を$\alpha (Hg) = g^{-1}H$で定義します。
$\alpha$の逆写像が$\beta$であること、すなわち$\alpha \circ \beta = id$、$\beta \circ \alpha = id$を示せば$\alpha$は全単射となり、所望の$|G/H| = | H\G |$が得られるという流れです。
ここで$\alpha$と$\beta$は定義域が剰余類であるため、先ほどのようにwell-definedを示さねばなりません。この部分を実際にやっていきます。
$\alpha$のwell-definedを示す. まず,$gH = g'H$とする.
このとき,ある$h \in H$が存在して$g = g'h$と書ける.
$g^{-1} = (g'h)^{-1} = h^{-1}g'^{-1}$なので,$Hg^{-1} = Hh^{-1}g'^{-1} = Hg'^{-1}$となる.
以上で「$gH = g'H$ならば$Hg^{-1} = Hg'^{-1}$」が示された.
よって,$\alpha$はwell-definedである. $\beta$の場合も同様にできる.
まず定理2.10.2の主張は以下です。
$N$を群$G$の正規部分群、$\pi : G \rightarrow G/N$を自然な準同型とする.
また、$G/N$の部分群の集合を$\mathbb{X}$、$G$の$N$を含む部分群の集合を$\mathbb{Y}$とする.
このとき、写像$\phi : \mathbb{X} \rightarrow \mathbb{Y}$を$\phi(H) = \pi^{-1}(H)$,写像$\psi : \mathbb{Y} \rightarrow \mathbb{X}$を$\psi(K) = \pi(K)$
として定義すると,一方は他方の逆写像となっている.
したがって、$\mathbb{X}$と$\mathbb{Y}$は一対一に対応する.
証明はなんとか追えたが、どこで使えるかわからない類のものに見える人もいると思います。
この定理で重要なのは、「$G/N$の部分群↔$G$の$N$を含む部分群」の形の明示的な一対一対応があるということです。
これにより正規部分群で割った後の群を、割る前の群の性質から調べることができます。
具体例を見ると理解が深まるということはよくあるので、いくつかやってみましょう。
$ℤ/8ℤ$の部分群をすべて求めよ.
まず,$ℤ$の$8ℤ$を含む部分群について考える.
$ℤ$の部分群はすべて$dℤ$の形をしているので,$8ℤ$を含むものは$ℤ,2ℤ,4ℤ,8ℤ$がすべてである.
ここで,部分群の対応定理により,$ℤ/8ℤ$の部分群の集合と,$ℤ$の$8ℤ$を含む部分群の集合には(上の$\phi,\psi$による)一対一の対応があることを思い出すと,
$\pi : ℤ \rightarrow ℤ/8ℤ$を自然な準同型としたとき,$ℤ/8ℤ$の部分群は$\pi(ℤ),\pi(2ℤ),\pi(4ℤ),\pi(8ℤ)$ですべてである.
元の形を考えると$\pi(nℤ) = n(ℤ/8ℤ)$なので,求める部分群は$ℤ/8ℤ,2(ℤ/8ℤ),4(ℤ/8ℤ),8(ℤ/8ℤ) = 0$である.
一般によくわかっている群であっても、部分群で割って得られた群の性質を直接調べるのはやりにくいことが多いです。
したがって、割った後の群を、割る前の群の性質から調べることができるのはかなり強力です。
$N$は群$G$の極大部分群で,さらに正規とする. このとき,$G/N$は素数位数の巡回群になることを示せ.
(ヒント:部分群が自身と$\{e\}$しかない群は素数位数の巡回群になることが知られている.)
部分群の対応定理の応用です。まず問題を解く前に補題をひとつ、つぎに対応定理の対応で保存される性質について見ていきます。
$G$, $H$を群とし,写像$f:G→H$は準同型とする. また,$N$,$N'$はそれぞれ$G$, $H$の正規部分群とする.
このとき,次が成り立つ.
・$ f^{-1}(N')$は$G$の正規部分群である.
・さらに$f$が全射ならば,$f(N)$は$H$の正規部分群である.
記号は命題1の通りとする.このとき次が成り立つ.
1, $G$が有限群なら,$G$の$N$を含む指数$n$の部分群は,$G/N$の指数$n$の部分群と$\phi,\psi$によって一対一に対応する.
2, $G$の$N$を含む正規部分群は,$G/N$の正規部分群と$\phi,\psi$によって一対一に対応する.
まず1,の証明をする.
$K$は$G$の指数$n$の部分群で、$N$を含むとする. 対応する$G/N$の部分群は
$\psi(K) = \pi(K) = K/N$であり,$G/N$に対する指数は
$$ [G/N:K/N] = \dfrac{|G/N|}{|K/N|} = \dfrac{\dfrac{|G|}{|N|}}{\dfrac{|K|}{|N|}} = \dfrac{|G|}{|K|} = [G:K] = n$$
となる. 一方,
$K'$を$G/N$の指数$n$の部分群とする. 命題1によって対応する$G$の$N$を含む部分群を$L$とすると,
$K' = \psi(L) = \pi (L) = L/N$であり,$L$の$G$に対する指数は
$$ [G:L] = \dfrac{|G|}{|L|} = \dfrac{\dfrac{|G|}{|N|}}{\dfrac{|L|}{|N|}} = \dfrac{|G/N|}{|L/N|} = \dfrac{|G/N|}{|K'|} = [G/N:K'] = n$$
となる. 1,が示された.
(実は,この結果は$G$が有限群でなくても成り立つ. ここでは証明を簡単にするために有限性を課している.)
次に2,を示す.
$K$は$G$の正規部分群で,$N$を含むとする.
これに対応する$G/N$の部分群は$\pi(K)$であり,補題2よりこれは正規部分群である.
一方,$K'$を$G/N$の正規部分群とする.
これに対応する$G$の部分群は$\pi^{-1}(K')$であり,補題2よりこれは正規部分群である.
それではいよいよ例題2.10.12を解いていきます。
$G = ℤ/8ℤ \times ℤ/24ℤ$の指数$2$の部分群の数を求めよ.
まず中国式剰余定理より,$G = ℤ/8ℤ \times ℤ/8ℤ \times ℤ/3ℤ$である.
前提として,$G$は可換群なので,すべての部分群は正規である.
いま$H$を$G$の指数$2$の部分群とする. $G/H$の位数は$2$なのでこれは$ℤ/2ℤ$と同型である.
$g \in G$とすると$G/H ( \cong ℤ/2ℤ)$の中で$2g + H = H$となり,$2g \in H$.
ゆえに,$H$は$2G$を含む.
いま指数$2$の部分群が必ず含むような部分群として,$2G$を見つけることができた.
部分群の対応定理とこの記事の命題3によって,「$G$の$2G$を含む指数$2$の部分群↔$G/2G$の指数$2$の部分群」の一対一対応がある.
$G/2G$のほうが位数が小さく調べやすそうなので,これを計算しよう.
$$ \begin{align}
G/2G &= (ℤ/8ℤ \times ℤ/8ℤ \times ℤ/3ℤ)/2(ℤ/8ℤ \times ℤ/8ℤ \times ℤ/3ℤ)\\\\
&= (ℤ/8ℤ \times ℤ/8ℤ \times ℤ/3ℤ)/(2(ℤ/8ℤ) \times 2(ℤ/8ℤ) \times 2(ℤ/3ℤ))\\\\
&\cong (ℤ/8ℤ)/2(ℤ/8ℤ) \times (ℤ/8ℤ)/2(ℤ/8ℤ) \times (ℤ/3ℤ)/2(ℤ/3ℤ)\\\\
&\cong ℤ/2ℤ \times ℤ/2ℤ
\end{align}$$
ただし二つ目の等号では$2$を分配し,一つ目の同型では剰余を分配,最後の同型では$ (ℤ/8ℤ)/2(ℤ/8ℤ) \cong ℤ/2ℤ$,$2(ℤ/3ℤ) = ℤ/3ℤ$(2倍写像が全単射なこと)より$(ℤ/3ℤ)/2(ℤ/3ℤ) = 0$が成り立つことを用いた. 各自確かめてほしい.
結局,$G/2G$は位数が$4$であることがわかる!
したがって,$G/2G$の指数$2$の部分群は,位数$2$の部分群に他ならない.
$G/2G$の位数$2$の部分群の$0$でない元は$G/2G$の位数$2$の元であり,逆に$G/2G$の位数$2$の元は位数$2$の部分群を生成する.ゆえに$G/2G$の位数$2$の部分群の数は位数$2$の元の数に等しく,それは$3$つある.
再び対応定理によって,$G$の指数$2$の部分群は$3$つある. 答えが得られた.
「指数2の部分群が必ず含むような部分群」を見つけ、(対応定理の対応で)割った後の位数が小さい群を考察する、という流れです. かなりきれいに解ける問題だと思います。
これとそっくりの問題が院試で出題されていたので、類題として挙げておきます。
例題と全く同じやり方で解けます。
群$G = ℤ/4ℤ \times ℤ/6ℤ \times ℤ/9ℤ$の指数$3$の部分群の個数を求めよ.
↓の見出しについても書こうと思ったのですが、記事がかなり長くなってしまいモチベが下がるため次回書きます。
読んでくれてありがとう。