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東大数理院試過去問解答例(2025B08)

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ここでは東大数理の修士課程の院試の2025B08の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。

2025B08

$S(r)$$\mathbb{R}^n$の球面
$$ S(r):=\{(x_1,\cdots,x_n)\in\mathbb{R}^n|x_1^2+\cdots+x_n^2=r^2\} $$
とおく。また$\Omega^{k}(\mathbb{R}^n)$$\mathbb{R}^n$上の$C^\infty$$k$形式全体とする。以下の問いに解答しなさい。

  1. 任意の$\omega\in\Omega^{n-1}(\mathbb{R}^n)$に対して積分
    $$ \frac{1}{r^n}\left|\int_{S(r)}\omega\right| $$
    $r\to+0$で有限の値に収束することを示しなさい。
  2. $k$を正定数とする。任意の$\omega\in\Omega^{n-1}(\mathbb{R}^n)$に対して積分
    $$ \frac{1}{r^a}\left|\int_{S(r)}x_1^k\omega\right| $$
    $r\to+0$で収束するような実数$a$の範囲を求めなさい。
  1. まず極座標表示
    $$ x_1=s\cos\theta_1 $$
    $$ x_2=s\sin\theta_1\cos\theta_2 $$
    $$ x_3=s\sin\theta_1\sin\theta_2\cos\theta_3 $$
    $$ \cdots $$
    $$ x_n=s\cos\theta_1\cdots\sin\theta_{n-1} $$
    を取り、
    $$ d\omega=f(x_1,\cdots,x_n)dx_1\wedge\cdots\wedge dx_n $$
    $$ g(s,\theta_1,\cdots,\theta_{n-1})=f(x_1,\cdots,x_n) $$
    $$ B(r)=\{(x_1,\cdots,x_n)\in\mathbb{R}^n|x_1^2+\cdots+x_n^2\leq r^2\} $$
    とおくと、問題の積分は
    $$ \frac{1}{r^n}\int_{B(r)}gs^{n-1}\sin^{n-2}\theta_1\sin^{n-3}\theta_2\cdots\sin\theta_{n-2}dsd\theta_1\cdots d\theta_n $$
    と表される。この積分はある$C^\infty$級関数$G:\mathbb{R}\to\mathbb{R}$を用いて
    $$ \begin{split} \frac{1}{r^n}\int_{0}^rG(s)s^{n-1}ds&=\frac{G(r)}{n}-\frac{1}{nr^n}\int_0^rH(s)s^{n}ds \end{split} $$
    と書ける。ここで第二項は$r\to+0$$0$に収束するから、問題の積分は$r\to+0$$\frac{G(0)}{n}$に収束する。よって結果が示せた。
  2. 問題の積分はストークスの定理から
    $$ k\int_{B(r)}x_1^{k-1}dx_1\wedge\omega+\int_{B(r)}x_1^kd\omega $$
    と表される。
     ここで積分
    $$ I(2m-1,f):=\int_{B(r)}x_1^{2m-1}f(x)dx $$
    を考える。まず補題を$f$及び$M=2$に適用して
    $$ f(x)=c+\sum_{i=1}^nc_ix_i+\sum_{ij}c_{ij}x_ix_j+\sum_{ij}h_{ij}(x)x_ix_j $$
    と表す。このとき
    $$ I(2m-1,f)=c_1\int_{B(r)}x_1^{2m}dx+\sum_{i,j}\int_{B(r)}h_{ij}(x)x_1^{2m-1}x_ix_jdx $$
    と表される。ここで(1)で用いた極座標表示により、任意の$a\leq n+2m+1$に対して
    $$ \lim_{r\to+0}\frac{I(2m-1,f)}{r^a}=\lim_{r\to+0}\frac{c_1}{r^a}\int_{B(r)}x_1^{2m}dx $$
    は収束する。
     次に上記と同様に積分$I(2m,f)$を定義したとき、上の議論と同様に補題を用いて$f$を分解すると、$I(2m,f)$
    $$ c\int_{B(r)}x_1^{2m}dx+\sum_{i=1}^mc_{i,i}\int_{B(r)}x_1^{2m}x_i^2dx+\int_{B(r)}x_1^{2m}h_{ij}(x)dx $$
    とできる。このとき任意の$a\leq n+2m+1$に対して極限
    $$ \lim_{r\to+0}\frac{I(2m,f)}{r^a}=\lim_{r\to+0}\frac{c}{r^a}\int_{B(r)}x_1^{2m}dx $$
    は有限値に収束することが分かる。
     以上から極限
    $$ \lim_{r\to+0}\frac{\int_{S(r)}x_1^k\omega}{r^a} $$
    は、$\omega$の取り方に関わらず、$k$が偶数の時は任意の$M\leq n+k+1$に対して、$k$が奇数のときは任意の$M\leq n+k$に対して収束することが分かる。
     $k$が奇数とする。このとき
    $$ \omega=dx_2\wedge\cdots\wedge dx_n $$
    と置くと、考える極限は
    $$ \lim_{r\to+0}\frac{\int_{B(r)}x_1^{k-1}dx}{r^a} $$
    であり、これは$a>n+k$に於いて発散する。
     一方$k$が偶数の時
    $$ \omega=x_2dx_1\wedge dx_3\wedge\cdots\wedge dx_n $$
    と置くと、これも$a>n+k+1$に於いて発散する。
     以上をまとめると極限が収束するような$a$の範囲は
    $$ {\color{red}\begin{cases} a\leq n+k+1&(k\in2\mathbb{Z} )\\ a\leq n+k&(k\notin2\mathbb{Z}) \end{cases}} $$
    である。
多変数版テイラーの定理

$f:\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}$$C^\infty$級関数とする。このとき任意の自然数$M$について
$$ f(x)=\sum_{|\alpha|\leq M}\frac{1}{\alpha!}\frac{\partial^{|\alpha|}f}{\partial x^\alpha}(0)x^\alpha+\sum_{|\alpha|=M}h_\alpha(x)x^\alpha $$
$$ \lim_{x\to0}h_\alpha(x)=0 $$
を満たす関数の族$(h_\alpha:\mathbb{R}^n\to\mathbb{R})_\alpha$が存在する。

投稿日:515
更新日:523
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藍色日和
藍色日和
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藍色の日々。趣味の数学と院試の過去問の(間違ってるかもしれない雑な)解答例を上げていきます。リンクはX(旧Twitter)アカウント 

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