1. はじめに
閉区間, を上のルベーグ測度とする. 以後, 関数に対し, とはであることを表し, はルベーグ可積分であるという. またが上リーマン可積分であることを単にリーマン可積分であるという.
よく知られているように, リーマン可積分であることがルベーグ可積分であることも意味するという重要な事実がある:
とする. このとき, がリーマン可積分ならば, であり, 両者は一致する:
一方で, 定理1の逆;
はどうかというと, この主張は成り立たないことが知られている. 実際, とすると, だがはいたるところ不連続であり, したがってリーマン可積分ではない(§3 定理3参照). ここでに対し,
である.
この例によって上の主張は成り立たないが, とおくとでありはリーマン可積分である. そこでこの例を踏まえて, 次のように条件を緩めたものを考えてみよう:
任意のに対して, 適当なリーマン可積分関数を取ってきて, とできるか.
ここでもし問題1が正しいならば, ルベーグ可積分関数とリーマン可積分関数はの意味で区別できないということである. すなわち, ルベーグ可積分関数の数は実質的にリーマン可積分関数からは増えていないということになる. ルベーグ積分がリーマン積分を拡張した概念であることを考えると, 可積分関数がの意味で増えないというのはこの拡張の意味の多くが失われてしまうだろう.
本記事では, ルベーグ可積分関数の方がリーマン可積分関数よりも多く存在することを見る.
2. 準備
をの可算稠密部分集合とし, とする. 例えば, とするとよい. また, を中心とするの-開球をとする.
を取り,
とおく.
はのコンパクト集合で, 次を満たす.
(1) 任意のと任意のに対して, の空でない開球で, を満たすものが存在する. したがって, は内点を持たない.
(2) である.
定め方よりがコンパクトであることは明らか.
(1) , とする. がで稠密であることより, 十分大きなを取ってかつとできる. よってとおけば, , である.
(2) なるとして,
である.
3. 問題1の解
問題1の解に関する定理を述べる前に, リーマン積分論の重要な定理を参照しておく.
とする. このとき, がリーマン可積分であることとの不連続点全体が-零集合であることとは同値である.
さて, 問題1は次の定理によって否定される:
で, いかなるリーマン可積分関数に対してもとはならないが存在する.
を§2で与えた集合とする. とおくと, であり上で不連続である. もしで一致するリーマン可積分関数が存在するとすると, の不連続点からなる部分集合はを含む.
であるので, これは定理3と矛盾である.
証明で与えたは補題2の性質を満たす集合であるような内点を持たないコンパクト集合であればよい.