この記事では, ε-δ論法についてのお話をしようと思います. 極限の議論をする時に, この考え方が頭にあるかどうかで, 考えやすさが変わってくると思います.
ただし, 高校範囲の延長としてのお話をしますので, あまり厳密なところには踏み込まないことにします.
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極限 $\displaystyle\lim_{x\to a}f(x)=b$ を, 以下で定義します.
$$ \displaystyle\lim_{x\to a}f(x)=b\ \overset{\text{def}}{\Leftrightarrow}\ \forall\epsilon>0,\,\exists\delta,\, |x-a|<\delta\Rightarrow\big|f(x)-b\big|<\epsilon$$
この式の解釈の仕方は, 「どんなに小さな$\epsilon$に対しても, ある十分小さな$\delta$をとってくることができて, $x$が$a$に十分($\delta$)近ければ, $f(x)$と$b$の差を$\epsilon$未満にできる. 」というような感じです.
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次に, 数列の極限$\displaystyle\lim_{n\to\infty}a_n=\alpha$ を次式で定義します.
$$ \displaystyle\lim_{n\to\infty}a_n=\alpha\ \overset{\text{def}}{\Leftrightarrow}\ \forall\epsilon>0,\,\exists N,\, n>N\Rightarrow\big|a_n-\alpha\big|<\epsilon$$
捉え方は, 同様です. これはε-N論法と呼ばれることもあるみたいです.
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最後に, 発散の場合を次式で定義します.
$$ \displaystyle\lim_{n\to\infty}a_n=\infty\ \overset{\text{def}}{\Leftrightarrow}\ \forall M>0,\,\exists N,\, n>N\Rightarrow a_n>M$$
負の無限大の場合も同様です.
また, 収束も発散もしない場合, 振動すると言います.
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これらの定義法は, 少し恣意的だと思われるかもしれません. 確かに感覚的には極限の概念を的確に数式で表しているように思えますが, この方法しかあり得ないかと言われると, どうなんだろうと思ってしまいますね.
まあ, こう定義されているんだから仕方ないかなと思っています.
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教科書にも載っている, 数列の極限に関する以下の命題を, ε-δ論法を用いて証明していきます.
$\displaystyle\lim_{n\to\infty}a_n=\alpha, \ \lim_{n\to\infty}b_n=\beta$ であるとき,
$1.$ $\displaystyle\lim_{n\to\infty}(a_n+b_n)=\alpha+\beta$
$2.$ $\displaystyle\lim_{n\to\infty}a_nb_n=\alpha\beta$
$3.$ $\alpha\neq0$のとき, $\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac{1}{a_n}=\frac1{\alpha}$
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$1.$ $\displaystyle\lim_{n\to\infty}(a_n+b_n)=\alpha+\beta$
如何なる$\epsilon>0$に対しても, $N(\epsilon)$が存在して, ($N$は$\epsilon$に応じて選んで良いので, $\epsilon$の関数として構成すれば良いです. ) $n>N(\epsilon)$ならば$\big|a_n+b_n-(\alpha+\beta)\big|<\epsilon$ とできることを示せば良いです.
いま, $a_n,b_n$が収束するという仮定より, $n>N_1(\epsilon_1)\Rightarrow|a_n-\alpha|<\epsilon_1$, $n>N_2(\epsilon_2)\Rightarrow|b_n-\beta|<\epsilon_2$ なる$N_1,N_2$が存在します.
従って, $N=\max(N_1,N_2)$ としてみると, (maxは最大値を表します)
$n>N$のとき$\big|a_n+b_n-(\alpha+\beta)\big|<|a_n-\alpha|+|b_n-\beta|<\epsilon_1+\epsilon_2$ となります. ただし一つめの不等号は三角不等式$(|x+y|<|x|+|y|)$によります.
これが全ての$\epsilon_1,\epsilon_2$に対して成り立つので, $\epsilon_1+\epsilon_2<\epsilon$ のときにも当然成り立ちます.
即ち, 任意の$\epsilon>0$に対して, $\epsilon_1+\epsilon_2<\epsilon$なる$\epsilon_1,\epsilon_2$をとり, $N(\epsilon)=\max(N_1(\epsilon_1),N_2(\epsilon_2))$ とすれば, $n>N$のとき$\big|a_n+b_n-(\alpha+\beta)\big|<\epsilon$ とすることができます. 以上より示されました.
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$2.$ $\displaystyle\lim_{n\to\infty}a_nb_n=\alpha\beta$
$a_nb_n-\alpha\beta=(a_n-\alpha)b_n+\alpha(b_n-\beta)$
$=(a_n-\alpha)(b_n-\beta)+\beta(a_n-\alpha)+\alpha(b_n-\beta)$ なので,
$|a_nb_n-\alpha\beta|<|a_n-\alpha||b_n-\beta|+|\beta||a_n-\alpha|+|\alpha||b_n-\beta|$
$\epsilon_1\epsilon_2+|\beta|\epsilon_1+|\alpha|\epsilon_2$ です. $\epsilon_1,\epsilon_2$は任意だったので,
任意の$\epsilon>0$に対して, $\epsilon_1\epsilon_2+|\beta|\epsilon_1+|\alpha|\epsilon_2<\epsilon$なる$\epsilon_1,\epsilon_2$をとり, $N(\epsilon)=\max(N_1(\epsilon_1),N_2(\epsilon_2))$ とすれば, $n>N$のとき$\big|a_nb_n-\alpha\beta\big|<\epsilon$ とすることができます. 以上より示されました.
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$3.$ $\alpha\neq0$のとき, $\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac{1}{a_n}=\frac1{\alpha}$
$\alpha>0$の場合を考えれば十分です. ($2.$で$b_n=-1$とすれば良いので. ) また, 十分大きい$n$を考えているので, $a_n>0$として良いです. $\alpha-\epsilon_1 < a_n<\alpha+\epsilon_1 $ なので,
$\displaystyle\bigg|\frac1{a_n}-\frac1\alpha\bigg|=\frac{|a_n-\alpha|}{|\alpha||a_n|}<\frac{\epsilon_1}{\alpha(\alpha-\epsilon_1)}$
$\epsilon_1$は任意だったので, 如何なる$\epsilon>0$に対しても, $0<\epsilon_1<\epsilon$なる$\epsilon_1$がとれます. (具体的には$\displaystyle\epsilon_1<\frac{\alpha^2\epsilon}{1+\alpha\epsilon}$とすればよいです.)
従って, 任意の$\epsilon>0$に対して, $n>N$ならば$\displaystyle\bigg|\frac1{a_n}-\frac1\alpha\bigg|<\epsilon$ なる$N$がとれるので, 示されました.
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最後に, はさみうちの原理を証明しようと思います.
(命題) 全ての$n$で$a_n\leqq c_n\leqq b_n$が成り立っていて, $\displaystyle\lim_{n\to\infty}a_n=\lim_{n\to\infty}b_n=\alpha$ のとき, $\displaystyle\lim_{n\to\infty}c_n=\alpha$ である.
(証明)
$|a_n-\alpha|<\epsilon_1,\ |b_n-\alpha|<\epsilon_2$ のとき, $|a_n-b_n|<\epsilon_1+\epsilon_2$ です.
$|c_n-\alpha|<|c_n-a_n|+|a_n-\alpha|<|b_n-a_n|+|a_n-\alpha|<2\epsilon_1+\epsilon_2$
ここで$\epsilon_1,\epsilon_2$は任意だったので, $|c_n-\alpha|<\epsilon$ とすることができます. 以上より示されました.
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$(1)$ $\displaystyle\lim_{n\to\infty}a_n=\alpha$ かつ $\displaystyle\lim_{n\to\infty}a_n=\beta$ ならば $\alpha=\beta$ であることを示してください. (極限の一意性)
(解答)
仮に$\alpha<\beta$であるとします. すると, $\displaystyle\epsilon<\frac{\beta-\alpha}{2}$ なる$\epsilon$をとったとき, $|a_n-\alpha|<\epsilon$かつ$|a_n-\beta|<\epsilon$ とは成り得ないので, 矛盾です.
従って, $\alpha=\beta$ です.
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$(2)$ $\displaystyle\lim_{n\to\infty}a_n=\alpha$ のとき, $\displaystyle\lim_{n\to\infty}(a_{n+1}-a_n)=0$ を示してください.
(解答)
$\displaystyle\lim_{n\to\infty}a_{n+1}=\alpha$ なので, 前節の命題$(1)$より,
$\displaystyle\lim_{n\to\infty}(a_{n+1}-a_n)=\alpha-\alpha=0$ です.
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$(3)$ $\displaystyle\lim_{n\to\infty}a_n=\alpha, \ \lim_{n\to\infty}b_n=\beta$, また $\alpha>0$ のとき, $\displaystyle\lim_{n\to\infty}a_n^{b_n}=\alpha^\beta$ を示してください.
これは, 読者の方への演習問題とします.
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ここまで読んでくださった方, 本当にありがとうございます.
この極限のお話も続きがあって, まずそもそも極限が存在する集合とはなにか, とかの難しい抽象的なお話になってくるみたいです.
そこのところはまだまだ私もお勉強中なのですが, 今回は, ε-δ論法の考え方, 定式化することの嬉しさ, が伝えられていたら幸いです.
では, 改めてありがとうございました.
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