種々の例示で始める数列の初歩
はどのような条件の下に極限の順序を入れ替えたと一致するのかは重要な問いである。以下先ずはこのことについて述べていく予定であるが, まずは二重数列が収束することとは何かを定め, その収束概念と上記のような極限との関わりを探ることとする。
収束概念
二重数列がに収束するとは, 次の命題が満たされることである。
このとき, と表記することと定義する。もし上のようなaが存在しないときは発散するという。
ただし, 二重数列が実数列のときは次のようにに収束することの意味も追加する。すなわち
また, 特にが真に発散するとはであることであり, があるに収束せず真に発散することもないときに, が有界ならoscillates finitelyといって非有界ならoscillates infinitelyという。例えばはoscillates infinitelyである。
に対しが成り立つ。なぜなら任意の正数に対してなるを選ぶと, 任意のについて
は発散する二重数列である。である十分大きいに対しであり, を満たす十分大きいに対しよりは任意のに収束しないためである。に真に発散する。なぜなら任意のに対しあるがあってを満たし, である。
がともにの極限とする。その定義より, 任意のに対しが存在し
をみたす。とおくと任意のに対して
より極限は存在するなら一意である。
あるがあってとおく。すると
つまりであり, と定めてればに対し.
極限概念
次の極限
をiterated limitという。例えばを挙げればこれらは等しい値をとるとは限らないことは明白である。では, 収束する二重数列は常にiterated limitが存在することは正しいのだろうか。次の通りこれも誤りである。
は0に収束する二重数列である。実際, 任意のを満たすあるをとると, 任意のに対し
より, 0に収束するがiterated limitsは存在しない。なぜならが存在しないためも存在せず, もう一方のiterated limitもない。
という二重数列は収束値をもつ。そしてiterated limitについてはであるが, は存在しない。
これらの例から次の命題が成り立つことが予想されるが, 簡単に従う。
は明らか。実際, が存在しないと仮定すれば直ちに矛盾する。次に, 各に対してとし記述を少し雑にかくとすればを示す。条件より
また各についてより
である。を選べば
である。同様にが存在するが, 以下の例の通り命題の逆は成り立たない。
とおくとである。しかしながらの時での時よりが存在しない。
実数値関数の一様収束
を部分集合とし, 各に対しを関数とする。が一様に上に一様収束するとは, 任意の正数に対しがあって
が成り立つことである。と定めに対しを
で定義するとこれは距離となる。この概念を使って直ちに上記の一様収束の定義を書き換えることができる。
がに上一様収束することはに対しあるが存在しなる任意のに対してならばであることと同値。これは
と同値。
が二重数列で以下の二つの条件
(i) (ii) が各に対し一様に定まる
を満たすなら, が成り立つ(のdouble limitはである)。
各に対しをで定める。すると(ii)よりに対して上の一様収束が成立。従って
ここで(i)より, より上記のを用いて
とおくと任意のに対し
である。
上の(ii)がについてが単に存在すると仮定を弱めることはできない。これについてはが良い例である。
まずよりは有界であり, 各に対しである。しかしこの0へのでの極限操作は一様ではないことを示そう。を
で定めると,より確かに一様ではない。さらに, 前述の例からが存在せず定理が不成立。
単調二重数列
上に次のように辞書式順序となるような関係を定める。
を二重数列とする。
(1) のとき増加列
(2) のとき減少列
(3) が増加列または減少列のとき単調列であると言う。
単調列をとる。この時が収束するは有界列:
(a) が増加列かつ上に有界ならば,(b) が減少列かつ下に有界ならば,
収束するならば有界であることは以前示してある。逆に有界な単調数列は収束することは微積分学の基礎をなし実数の公理(e.g.上に有界な実数体の部分集合が一意な上限をもつ)より成り立つのである。
(a) が存在する。のdouble limitとitearted limitが存在してと等しいことを示す。任意の正数に対しとなるが存在する。すると, は増加列より
よりである。の任意性よりはに収束する。
次にを示す。各を固定したときには上に有界な単調列なので, 実数の性質によって
であるため, 命題3から
(b) もしが下に有界な減少列ならは上に有界な増加列である。これと(a)より
これより(b)も得る。
ひとまずは本稿の目標である二重数列のiteral limitがいつ互いに等しくなるのかについての疑問の解消を終えられた。
補遺:二重数列におけるコーシー列
二重数列がコーシー列であるとは, 任意のに対しあるが存在し
を示すため, あるがあってとする。任意の正数についてが存在しに対しを満たす。よって
より示せた。逆にを示すためをコーシー列とし任意にをとる。なるを考えと書くと,ゆえに, 「完備距離空間においてコーシー列ならばそれは収束する」のではあるに収束する。よって
である。また, 再びがコーシー列である仮定を用い
である。とおきなる任意のに対して
より良い。