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二重数列 事始め

2022
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種々の例示で始める数列の初歩

二重数列

写像x:N×NCを二重数列といい, 主にx((n,m))または(xn,m)とかく。

limn(limmxn,m)はどのような条件の下に極限の順序を入れ替えたlimm(limnxn,m)と一致するのかは重要な問いである。以下先ずはこのことについて述べていく予定であるが, まずは二重数列が収束することとは何かを定め, その収束概念と上記のような極限との関わりを探ることとする。

収束概念

二重数列(xn,m)aCに収束するとは, 次の命題が満たされることである。
ϵ>0N=N(ϵ)N s.t. n,mN [|xn,ma|<ϵ]このとき, limn,mxn,m=aと表記することと定義する。もし上のようなaが存在しないとき(xn,m)は発散するという。

(xn,m):⇔MR>0 s.t. n,mN |xn,m|M

ただし, 二重数列が実数列のときは次のように±Rに収束することの意味も追加する。すなわち

limn,mxn,m=:⇔αR K=K(α)N s.t. n,mN [n,mKxn,m>α]limn,mxn,m=:⇔αR K=K(α)N s.t. n,mN [n,mKxn,m<α]また, 特に(xn,m)が真に発散するとはlimn,mxn,m=±であることであり, (xn,m)があるaRに収束せず真に発散することもないときに, (xn,m)が有界ならoscillates finitelyといって非有界ならoscillates infinitelyという。例えば((1)n+m(n+m))はoscillates infinitelyである。

xn,m=1n+mに対しlimn,mxn,m=0が成り立つ。なぜなら任意の正数ϵ>0に対してN>2ϵなるNNを選ぶと, 任意のn,mNについて
|xn,m0|=|1n+m|<1n+1m<2N<ϵxn,m=nn+mは発散する二重数列である。n=mである十分大きいn,mNに対しxn,m=12であり, n=2mを満たす十分大きいn,mNに対しxn,m=23より(xn,m)は任意のaRに収束しないためである。xn,m=1nmに真に発散する。なぜなら任意のβRに対しあるKNがあってK>β2+12を満たし, n,mN [n,mK1nm<β]である。

二重数列(xn,m)Cが極限をもつならば一意である。

a,aがともに(xn,m)の極限とする。その定義より, 任意のϵ>0に対しN1,N2Nが存在し
n,mN1|xn,ma|<ϵ2n,mN2|xn,ma|<ϵ2をみたす。N:=max{N1,N2}とおくと任意のn,mNに対して
0|aa|=|axn,m+xn,ma||xn,ma|+|xn,ma|<ϵより極限は存在するなら一意である。

収束する二重数列(xn,m)Cは有界である。

あるaRがあってxn,ma,ϵ=1とおく。すると
NN s.t. n,mN|xn,ma|<1つまりn,mN [n,mN|xn,m|<1+|a|]であり, M:=max{|x1,1|,|x1,2|,|x2,1|,...,|xN1,N1|,|a|+1}と定めてればn,mNに対し|xn,m|M.

極限概念

次の極限
limn(limmxn,m)limm(limnxn,m)をiterated limitという。例えばxn,m=nn+mを挙げればこれらは等しい値をとるとは限らないことは明白である。では, 収束する二重数列は常にiterated limitが存在することは正しいのだろうか。次の通りこれも誤りである。

xn,m=(1)n+m(1n+1m)は0に収束する二重数列である。実際, 任意のϵ>01N<ϵ2を満たすあるNNをとると, 任意のn,mNに対し
n,mN|(1)n+m(1n+1m)|1n+1m2N<ϵより, 0に収束するがiterated limitsは存在しない。なぜならlimmxn,mが存在しないためlimnlimmxn,mも存在せず, もう一方のiterated limitもない。

xn,m=(1)m(1n+1m)という二重数列は収束値0をもつ。そしてiterated limitについてはlimm(limnxn,m)=0であるが, limn(limmxn,m)は存在しない。

これらの例から次の命題が成り立つことが予想されるが, 簡単に従う。

limn,mxn,m=aとする。
limm(limnxn,m)=amN [limnxn,m]

は明らか。実際, limnxn,mが存在しないと仮定すれば直ちに矛盾する。次に, 各mNに対してlimnxn,m=cmとし記述を少し雑にかくとすればcma (m)を示す。条件より
ϵ>0N1N s.t. n,mN1|xn,ma|<ϵ2また各mNについてxn,mcm (n)より
nN2|xn,mcm|<ϵ2である。nmax{N1,N2}を選べば
mN [mn|cma|=|cmxn,m+xn,ma|ϵ2+ϵ2=ϵ]である。同様にlimn(limmxn,m)=anN limmxn,mが存在するが, 以下の例の通り命題の逆は成り立たない。

xn,m=nmn2+m2とおくとlimm(limnxn,m)=0である。しかしながらn=mの時xn,m=12n=2mの時xn,m=25よりlimn,mxn,mが存在しない。

実数値関数の一様収束

SRnを部分集合とし, 各nNに対しfn:SRを関数とする。fnが一様にSfに一様収束するとは, 任意の正数ϵに対しN=N(ϵ)があって
n>NxS |fn(x)f(x)|<ϵが成り立つことである。FS:={f:SR | f}と定めf,gFSに対し
fg:=supxS|f(x)g(x)|で定義するとこれは距離となる。この概念を使って直ちに上記の一様収束の定義を書き換えることができる。

(fn)Sfに一様収束するϵ>0N s.t. n>Nfg<ϵ

(fn)fS上一様収束することはϵ>0に対しあるNが存在しn>Nなる任意のnNに対してxSならば|fn(x)f(x)|<ϵ2であることと同値。これは
ϵ>0N s.t. n>NsupxS|fn(x)f(x)|ϵ2<ϵと同値。

(xn,m)が二重数列で以下の二つの条件
(i) limm(limnxn,m)=a(ii) limnfn(m):=limnxn,mが各mNに対し一様に定まる
を満たすなら, limn,mxn,m=aが成り立つ(xn,mのdouble limitはaである)。

nNに対しfn:NRfn(m):=xn,mで定める。すると(ii)よりf(m):=limnxn,mに対してN上の一様収束fnfが成立。従って
ϵ>0 N1N s.t. nN1mN |xn,mf(m)|<ϵ2ここで(i)より, limmf(m)=aより上記のϵを用いて
N2N s.t. mN2|f(m)a|<ϵ2N=max{N1,N2}とおくと任意のn,mNに対し
|xn,ma|xn,mf(m)|+|f(m)a|<ϵである。

上の(ii)がmNについてlimnxn,mが単に存在すると仮定を弱めることはできない。これについてはxn,m=nmn2+m2が良い例である。

まず|xn,m|1n,mNより(xn,m)は有界であり, 各mNに対しlimnxn,m=0である。しかしこの0へのnでの極限操作は一様ではないことを示そう。fn:NR
fn(m):=xn,mで定めると,fn0:=supm{|fn(m)0| | mN}=supm{nmn2+m2 | mN}=12(nN)より確かに一様ではない。さらに, 前述の例からlimn,mxn,mが存在せず定理が不成立。

単調二重数列

N×N上に次のように辞書式順序となるような関係を定める。
(a,b)(c,d):⇔a<c(a=cbd)

(xn,m)Rを二重数列とする。
(1) (n,m)(j,k)N×Nxn,mxj,kのとき増加列
(2) (n,m)(j,k)N×Nxn,mxj,kのとき減少列
(3) (xn,m)が増加列または減少列のとき単調列であると言う。

単調列(xn,m)Rをとる。この時(xn,m)が収束するxn,mは有界列:
(a) (xn,m)が増加列かつ上に有界ならば,limm(limnxn,m)=limn(limmxn,m)=limn,mxn,m=sup{xn,m | n,mN}(b) (xn,m)が減少列かつ下に有界ならば,limm(limnxn,m)=limn(limmxn,m)=limn,mxn,m=inf{xn,m | n,mN}

収束するならば有界であることは以前示してある。逆に有界な単調数列は収束することは微積分学の基礎をなし実数の公理(e.g.上に有界な実数体の部分集合が一意な上限をもつ)より成り立つのである。
(a) a:=sup{xn,m | n,mN}が存在する。(xn,m)のdouble limitとitearted limitが存在してaと等しいことを示す。任意の正数ϵに対しaϵ<xK,JとなるK(ϵ),J(ϵ)Nが存在する。すると, (xn,m)は増加列より
(n,m)(K,J) aϵ<xK,Jxn,ma<a+ϵより|xn,ma|<ϵである。ϵの任意性より(xn,m)aに収束する。

次にlimm(limnxn,m)=(limn,mxn,m=a)を示す。各mNを固定したときに(xn,m)は上に有界な単調列なので, 実数の性質によって
m:=supnN{xn,m}=limnxn,m mNであるため, 命題3から
limm(limnxn,m)=limn,mxn,m=a(b) もし(xn,m)が下に有界な減少列なら(xn,m)は上に有界な増加列である。これと(a)より
limm(limnxn,m)=limn(limmxn,m)=limn,mxn,m=sup{xn,m | n,mN}=inf{xn,m | n,mN}これより(b)も得る。

ひとまずは本稿の目標である二重数列のiteral limitがいつ互いに等しくなるのかについての疑問の解消を終えられた。

補遺:二重数列におけるコーシー列

二重数列(xn,m)Cがコーシー列であるとは, 任意のϵ>0に対しあるNNが存在し
p,q,n,mN [pnNqmN|xp,qan,m|<ϵ]

二重数列(xn,m)Cが収束する(xn,m)はコーシー列である

を示すため, あるaCがあってxn,ma (n,m)とする。任意の正数ϵについてNNが存在しn,mNに対し|xn,ma|<ϵ2を満たす。よって
pnN,qmN |xp,qxn,m|=|xp,qa+axn,m||xp,qa|+|xn,ma|<ϵより示せた。逆にを示すため(xn,m)をコーシー列とし任意にϵ>0をとる。m=nなるm,nNを考えxn,n=:bnと書くと,KN s.t. pnK |bpbn|<ϵゆえに, 「完備距離空間においてコーシー列ならばそれは収束する」ので(bn)nCはあるaCに収束する。よって
N1N s.t. nN [nN1|bna|<ϵ2である。また, 再び(xn,m)がコーシー列である仮定を用い
N2N s.t. p,qnN2 |xp,qbn|<ϵ2である。N=max{N1,N2}とおきnNなる任意のnNに対して
p,qN |xp,qa||xp,qbn|+|bna|<ϵ
より良い。

投稿日:202234
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societah
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現在は量子誤り訂正、位相線形構造とバナッハ環論に関心を持つ。 趣味 : SPY×FAMILY、ハンガリー史、Official髭男dism

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