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二重級数 事始め

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非負の二重数列を元に作る無限級数m=0(n=0am,n)n=0(m=0am,n)を考えるため, 便宜的に次の部分和を定義する。本稿は基本的な事実の復習といった側面が強いことをここで断る。無下限呪術の習得の一助となれば幸いである。

二重級数の部分和

RM:=m=0M(n=0am,n)=n=0Mrm,  rm:=n=0am,nを左部分和といい
CN:=n=0N(m=0am,n)=n=0Ncn,  cn:=m=0am,nを右部分和という。

ここで次の問いを立てる。それは常にlimMRM=limNCNが成り立つかということである。これは次の例により偽であると分かる。

二重数列(am,n)ak,k=1, ak,k+1=1 (kN{0}(=:N0), am,n=0 (o.w.)で定める。するとこの定義によって
mNrm=0, c0=1, nNcn=0より
0=m=0rm=m=0(n=0am,n), n=0(m=0am,n)=n=0cn=1である為である。

(二重数列版で)交換しても成り立つ必要条件を記述したというのが次の定理である。

pm,n0(m,n)N02なら, n=0(m=0pm,n)=m=0(n=0pm,n)が成り立つ。これは二重数列の級数が有限かそうでないかに関わらず成り立つことも注記しておく。

共に+に発散するときは成り立つので, 定理の右左辺の級数の少なくとも一方は有限であると仮定する。今特に
n=0(m=0pm,n)<+とする。今から
m=0(n=0pm,n)<+も自動的に成り立つことを言う。pM,nm=0pm,n=cn (MN0,nN0)が明らかに成り立つ。M=mとおき, 今n=0cnが有限値に収束することから比較判定法よりrm=n=0pm,n<+(mN0)で左部分和は有限である。次に, m=0rm<を示す。項rmは非負なため, 其のためには部分和RM=m=0Mrmが上に有界であることを示せば良いが
C:=n=0cn=n=0(m=0pm,n)<+は仮定より成り立っている。

ここで示さなければいけないのは
ϵ>0MN0 RM=m=0Mrm<C+ϵである。何故ならこれが成り立つならm=0rmC<+.Mを任意の自然数とし, ϵ>0を正数とする。mN0 [rm<+]よりあるNmNが存在して
m{0,...,M} rm=n=0pm,n<(n=0Nmpm,n)+ϵM+1が成立する(mが限りなく大きいとrm<+からは逸脱するということ)。Nϵ:=max{N0,N1,...,NM}とおけば, pm,nの非負性より
RM=m=0Mrm<m=0M(n=0Nmpm,n+ϵM+1)=m=0Mn=0Nϵpm,n+ϵ=n=0Nϵm=0Mpm,n+ϵn=0Nϵm=0pm,n+ϵ=CNϵ+ϵC+ϵよってR:=m=0(n=0pm,n)=limMRMC+ϵであり, RCとなる。R<+が分かっていることより同様にCRも成り立ち定理を得る。

以下では, 非負の二重数列の級数の収束の言い換えを求め出すことを目的とする。(an)nCを数列としたときに級数anが収束するとは, sn:=k=1nakに対し(sn)nが収束することで定義された。この類似を次の通り二重数列においても実現したい。

(am,n)Rを二重数列とし
sm,n:=i=1mj=1nai,jam,nのmn部分和という。二重級数am,nが収束するとは(sm,n)が収束することで定義する。

ここで, 次の問いが自然に提起される。というのもam,nが存在するなら
(am,n=)m=1n=1am,n=n=1m=1am,nが常に成り立つだろうか。ただしsm,nを用いて
m=1n=1am,n:=limmlimnsm,n, n=1m=1am,n:=limnlimmsm,nと定めている。

上の問いという疑問は次で解消を終える。

am,n0とし, もし各m,nNに対してm,nNam,nが収束するならば
am,n=m=1n=1am,n=n=1m=1am,n<+である。さらに任意の正数ϵに対し
NN s.t. k>Ni=1j=kai,j<ϵi=kj=1ai,j<ϵ

s:=am,nは収束(定義は上述)するとし任意にϵ>0をとる。sm,n:=i=1mj=1nai,jとおくとあるNNがあって
m,n>N|ssm,n|<ϵ2任意のiNに対しm(i) s.t m>Nを選びn>NなるnNを勝手にとると,j=1nai,ji=1mj=1nai,j=sm,n<s+ϵ2よりj=1ai,jは各iNに対して存在する。従って特に
(limnsm,n=limni=1mj=1nai,j)=i=1mj=1ai,jよって
mN [m>N|si=1mj=1ai,j|ϵ2<ϵ]これより, am,n=i=1j=1ai,j=j=1i=1ai,j。次に任意のkNに対し
s=i=1j=1kai,j+i=1j=k+1ai,jは当然であり
i=1j=k+1ai,j=si=1j=1kai,j=slimmsm,kとなる。既にs=limklimmsm,kを示しており, 上式でkとすれば
ϵ>0N1N s.t. k>N1i=1j=kai,j<ϵ同様に
ϵ>0N2N s.t. k>N2i=kj=1ai,j<ϵが成り立ちN:=max{N1,N2}とおけば良い。

二重数列版の総和公式及び絶対収束なら収束の拡張について

Sk:={(m,n) | 1mk,1nk}とおき, 二重数列(am,n)Rに対してam,nを絶対収束する級数とする。次に述べることとはam,n=limk(m,n)Skam,n (=limkm=1kn=1kam,n)が成り立つことの証明である。

絶対収束級数am,nは収束する。さらに, S1S2N×Nという有限集合が
():m,nN kN s.t. {1,2,...,m}×{1,2,...,n}SkSk+1という性質を満たすとする。このときsk:=(m,n)Skam,nに対する数列(sk)は収束し, さらに
am,n=limkskが成り立つ。

(sk)が収束することを, この数列がコーシー列であることを明示することで示す。任意にϵ>0をとる。|am,n|は収束するので前定理より
1) NN s.t. kN [k>Ni=1j=k|ai,j|<ϵi=kj=1|ai,j|<ϵ]である。(*)から
NN s.t. {1,2,...,N}×{1,2,...,N}SNSN+1k,>Nなるk,Nを取ればSSkより
|sks|=|(i,j)Skai,j(i,j)Sai,j|=|(i,j)SkSai,j(i,j)SkS|ai,j|{1,2,...,N}2Sより
SkSN×{N+1,...}SkS{N+1,...}×Nが成り立つ。このことの証明については, 背理法からもしある(a,b)SkS s.t. (a,b)N×{N+1,...}(a,b){N+1,...}×N. つまりa,b{1,2,...,N}(a,b)Sで矛盾。
1)においてi=1j=k|ai,j|<ϵが成り立つことに注目する。上式より
|sks|(i,j)SkS|ai,j|i=1j=N+1|ai,j|<ϵであり, (sk)はコーシー列である。

以下, am,nの収束先はlimksk=:sと一致することを言う。

任意の正数ϵNNを1)におけるNとして取る。すなわち
NN s.t. kN [k>Ni=1j=k|ai,j|<ϵ/2i=kj=1|ai,j|<ϵ/2自然数m,n>Nを固定する。(*)より
k>N s.t. {1,2,...,m}×{1,2,...,n}Sk, |sks|<ϵ2であるため1)を用いて
ϵ>0 |sksm,n|(i,j)Sk({1,...,m}×{1,...,n})<i=1j=n+1|ai,j|<ϵ2よって|sm,ns||sm,nsk|+|sks|<ϵである。定義を振り返ればam,n=sとなる。

このように総和公式を得たが, より普遍的であって有用な総和公式となりうるものが次である。これも単一の数列をもとに作られる級数に対して成り立つ命題の類似といえる。

二重級数の絶対収束

am,nm=1n=1|am,n|<n=1m=1|am,n|<このときam,n=m=1n=1am,n=n=1m=1am,nである。

を示す。定理2より
m,n|am,n|=m=1n=1|am,n|=n=1m=1|am,n|である。前半は仮定より成り立つのでm=1n=1am,nn=1m=1am,nが収束し, かつ共にs:=am,nと等しいことを示す。sの存在性は命題1より保証できる。任意の正数ϵに対しNNが存在して
2) m,n>N|ssm,n|<ϵ2とできる。m=1n=1|am,n|<より任意のmNに対しn=1|am,n|は収束する。「二重数列ではない数列の微積分学」から, 各mNに対しn=1am,n=limnsm,nは収束先をもつ。よって2)でnとして
mN [m>N|slimnsm,n|ϵ2<ϵこれはs=limmlimnsm,n, つまりs=m=1n=1am,nを意味し片方も同様である。

逆を示すためあるtRがあって
m=1n=1|am,n|=t<とする。am,nが絶対収束することを示すため, 任意の正数ϵをとる。 「二重数列ではない数列の微積分学」から
NN s.t. mN [m,n>Ni=m+1(j=1n|ai,j|)<ϵ2である。任意のk>m(>N)に対して
|i=1kj=1n|ai,j|i=1mj=1n|ai,j||i=m+1kj=1n|ai,j|<ϵ2kとすることで
|ti=1mj=1n|ai,j||ϵ2<ϵよって|am,n|は定義通りに言えば, tに収束する。すなわちを示せた。

|z|<1上でm,nzm+nという二重級数をとりあげる。これは
m=0n=0|z|m+n=m=0|z|m11|z|=1(1|z|)2<+なので命題2より絶対収束することが分かる。

次のように考えれば命題1を用いた応用が効くことを述べる。
Sk=T0T1Tk T:={(m,n) | m+n=,m,n0}とおく。命題1より
m,nzm+n=limk(m,n)Skzm+n=limk=0k(m,n)Tzm+nである。T={(0,),(1,1),...,(,0)}より
(m,n)Tzm+n=z0++z+0=(+1)zしたがってzm+n==0(+1)zとなるが,1(1z)2=n=1nzn1を得る。

投稿日:202234
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societah
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現在は量子誤り訂正、位相線形構造とバナッハ環論に関心を持つ。 趣味 : SPY×FAMILY、ハンガリー史、Official髭男dism

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