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ヒルベルト空間のテンソル積の存在について

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H,Kをヒルベルト空間とする。(L,ϕ)HKのテンソル積であるとは
(1) Lはヒルベルト空間であってϕ:H×KLが双線形である
(2) span ϕ(H×K)=L
(3) x,xH y,yK <ϕ(x,y),ϕ(x,y)>=<x,x><y,y>を満たすことと定める。HとKのテンソル積(L,ϕ), 特にLHKと記述する。

以下, まずHKが一意に存在することを示す。Ba(K,H)KからHへの反線形作用素全体とする。:
TBa(K,H):⇔y,yK λC T(y+y)=T(y)+T(y),T(λy)=λT(y),sup{Ty | y1}<

任意のTBa(K,H)に対し一意に
TBa(H,K) s.t. xH,yK <Ty,x>=<Tx,y>が存在する。以下作用素ノルムを略記して単に区別なくとかく。

xHを任意にとる。K上の有界線形汎関数fxfx(y)=<x,Ty>で定めると, fxxTよりfxは有界である。よってリースの表現定理からあるyxKが存在し
yK fx(y)=<y,yx>fx=yxである。T:HKT(x):=yxで定めればTx=fxxTからTTである。反線形性は内積の公理とリースの表現定理より簡単に
<λx,Ty>=λ<x,Ty>=λ<y,Tx>=<y,λTx> yKT(λx)=λT(x)<x+x,Ty>=<x,Ty>+<x,Ty>=<y,Tx>+<y,Tx>=<y,T(x)+T(x)>⇒T(x+x)=T(x)+T(x)>と分かる。

Iを集合としf:I[0,)を非負関数とする。iIf(i):=supIIiIf(i)で定める。

a:I×J[0,)を関数とする。aij:=a(i,j)とかきjJaij=:bi,iIaij=:cjならiIbi=jJcjである。すなわち
iIjJaij=jJiIaij

J,IをそれぞれJIの任意の有限部分集合とすると
():jJiIaij=iIjJaijiIbiiIbiである。次に
supIIjJiIaij=jJ(supIIiIaij)jJcjを示す。J:={j1,j2,jm}を固定すると, 「sup(xi+yi)supxi+supyi」とjJiIaij=iIai,j1++iIai,jmであることから
supIIjJiIaijcj1++cjmが成り立つ。逆側の不等式を確かめる。

もしあるjkJに対しcjk=ならば, 明らかな不等式iIaijkjJiIaijIIから
=cjk=supIIiIaijksupIIjJiIaijゆえに終える。もしjkNcjk<ならば, あるIの有限部分集合の族I1,...,Imが存在して
ϵ>0 k{1,...,m} iIkaijk>cjkϵmとなる。I~=k=1mIkとおくとこれはまたIの有限部分集合なので
k=1mcjkϵk=1miIkaijkk=1miI~aijk=jJiI~aijsupIfinIjJiIaijよってJの任意の有限部分集合Jに対し,supIIjJiIaij=jJcjで, ()より
jJcjiIbijJcjiIbi対称的な議論よりjJcj=iIbiである。

{fk}kK,{ej}jJK,Hの正規直交基底とする。Tfk=jJ<Tfk,ej>ejよりTfk2=jJ|<Tfk,ej>|2で前命題と前々命題より
kTfk2=kj|<Tfk,ej>|2=jk|<Tej,fk>|2=jTej2のため, kKTfk2Kの正規直交基底の取り方には依存せず定まる。

{fk}kKをヒルベルト空間Kの正規直交基底とし, 
B(K,H):={TBa(K,H) | kKTfk2<}とおくと, これは線形空間をなすことは明らか。次にS,TB(K,H)に対してk<Sfk,Tfk>は絶対収束し, Kの正規直交基底の選び方に依存しないことを示す。まず極化等式を用いて(本稿は第一変数が線形, 第二変数が反線形の内積。絶対収束性も極化等式から自明)
k<Sfk,Tfk>=14(kS+Tfk2kSTfk2+kiS+iTfk2kiSiTfk2)=14(k(S+T)ej2k(ST)ej2+ki(S+iT)ej2ki(SiT)ej2)=14(kS+Tej2kSTej2+kiS+iTej2kiSiTej2)=j<Sej,Tej>これよりB(K,H)上に任意のS,TB(K,H)について次で
<S,T>:=k<Sfk,Tfk>という内積を定義することができる。なぜなら<T,T>=0kTfk2=0fk Tfk=0T=0でその他も明らかである。

B(K,H)はこの内積によってヒルベルト空間をなすことを示す。全ての(可分)ヒルベルト空間は2と同型であったことを思い出す。TB(K,H)に対し, g:B(K,H)2(K×J)
g(T)(k,j):=<Tfk,ej>で定める。j,k|g(T)(k,j)|2=kTfk2<より上の写像は各定義域の元に対し終域の元へと対応させていると言う意味で良定義である。gは線形同型であることも線形性はT1,T2B(K,H) g(T1+T2)(k,j)=g(T1)(k,j)+g(T2)(k,j)より成り立ち同型性も逆写像を
μ=(μkj)2(K×J) yK ; g1(μ)(y)=j(k<y,fk>μkj)ejとして自明である。よってB(K,H)はヒルベルト空間をなす。

HKの今の流儀におけるテンソル積の存在について示せ。

HK:=B(K,H), ϕ(x,y)():=<y,>x (xH,yK)と定義する。以後ϕ(x,y)xyと記述されたい。kϕ(x,y)(fk)2=k<y,fk>x2=x2k|<y,fk>|2=x2y2<より, ϕ(x,y)HKである。
xHyK <xy(y),x>=<<y,y>x,x>=<y,y><x,x>=<<x,x>y,y>なので
(xH (xy)(x)=<x,x>y)(xy)=<x,>y : (i)が成り立つ。また任意のTH×Kに対し,<xy,T>B(K,H)=k<xy(fk),Tfk>=k<<y,fk>x,Tfk>=k<y,fk><x,Tfk>=k<y,fk><fk,Tx>=<y,Tx>K :(ii)なので
<xy,xy>=(ii)<y,(xy)(x)>=(i)<y,<x,x>y>=<x,x><y,y>である。これで冒頭の定義の(3)を示せた。最後に(2), すなわち{fkej}HKの正規直交基底であることを示す。まず
<fkej,fkej>=<fk,fk><ej,ej>=δkkδjjより正規直交系であることは良い。下の命題を適用すればよく, もしk,jN <fkej,T>=0とすると
k,jN <ej,Tfk>H=0Tfk=0, T=0よりϕ(H×K)HKにおいて稠密である。

ヒルベルト空間の完全正規直交系

(xn)がヒルベルト空間Hの正規直交系であるとは,<xn,xm>={1(n=m)0(nm)を満たすことを言う。Hの正規直交系(xn)に対して{i=1ncixi | nN,ciC}の閉包 (i.e. (xn)の線形結合の閉包)がHに等しいことと次は同値である。
xH x=i=1<x,xi>xi
・ x,yH <x,y>=i=1<x,xi><y,xi>
xH x2=i=1|<x,xi>|2
・ xH [iN <xi,x>=0x=0]これらの条件のうちのどれかを満たす(xn)Hの正規直交基底と呼んだ。

一意的であることを次から示すが線形空間の一般論的なことから始める。

k=1nxkyk=0, {yk}k=1nが線形独立なベクトルの集合とするとき, k{1,2,...,n} xk=0である。

{z1,...,zm}{x1,...,xn}で張られる空間の正規直交基底とし, k{1,2,...,n}に対しあるλrkCを用いてxk=r=1mλrkzrとかくと(1)の双線形性から
krλrkzr)yk=kr(λrkzryk)=rk(zr(λrkyk))=rzr(kλrkyk)=0ここで, yr:=kλrkykとおけばrzryr=0である。rzr×yr2=ryr2=0r{1,...,m} yr=0{yk}が線形独立なベクトルだったのでλrk=0となる。

ψ:H×KEを双線形写像とする。
k=1nxkyk=0k=1nψ(xk,yk)=0

{y1,...,yn}で張られる空間において独立なベクトルを{y1,...,ym}として勝手にとる(正規である必要はない)。あるλrkCyk=r=1mλrkyrとかけるので
r((kλrkxk)yr)=k=1nxkyk=0であり前補題からkλrkxk=0 (r)である。ψは双線形であることより
0=rψ(0,yr)=rψ(kλrkxk,yr)=rkψ(xk,λrkyr)=kψ(xk,rλrkyr)=kψ(xk,yk)

HK=span{xy | xH,yK}と定義するとこれはHKの稠密部分空間である。(E,ψ)HKのテンソル積とする。U:HKEを線形性を持ち重要な対応は指定するとU(k=1nxkyk)=k=1nψ(xk,yk)となるよう定める。すると補題5よりUは無限次元もありうるヒルベルト空間への写像として良定義である。
<U(k=1nxkyk),U(k=1nxkyk)>=<k=1nψ(xk,yk),k=1nψ(xk,yk)>=i=1nj=1n<ψ(xi,yi),ψ(xj,yj)>=i=1nj=1n<xi,xj><yi,yj>=i=1nj=1n<xiyi,xjyj>=ixiyi2よりUHK上の等距離同型作用素で, ran(U)=span{ψ(x,y) | xH,yK}である。位相線型空間の一般論の話でUは一意にV:HKEに拡張でき, ran(V)Eで閉となる。S:=span{ψ(x,y) | xH,yK}ran(V), ただし冒頭の定義(2)よりS=E。よってran(V)=Eが成り立つ。Uの等距離性からψ=Vψであり, この意味でテンソル積の存在は一意である。

投稿日:202236
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societah
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現在は量子誤り訂正、位相線形構造とバナッハ環論に関心を持つ。 趣味 : SPY×FAMILY、ハンガリー史、Official髭男dism

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