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2019ISL-A5

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2019ISLのA5

の面白い解法を見つけたので紹介しようと思います.
ISL というのは IMO shortlist problems の略で,その年の IMO の問題の候補が集められており,この中から IMO の問題や代表選考合宿の問題が選ばれます.
ISL は分野ごとで難易度の昇順に並んでおり,A5 はIMO2番級程度なので普通はこんなに簡単に解けるはずはないのですがたまたま簡単な解法を見つけたので紹介します.

$x_1, x_2, \dots, x_n$ は相異なる実数である.
$\displaystyle\sum_{1 \leqslant i \leqslant n} \prod_{j \neq i} \frac{1-x_{i} x_{j}}{x_{i}-x_{j}}=\left\{\begin{array}{ll} 0, & \text { if } n \text { is even; } \\ 1, & \text { if } n \text { is odd. } \end{array}\right.$
であることを証明せよ.

明らかに留数定理の香りがします.留数定理が使えるように適当な関数を構成します.

$\displaystyle f(z)=\prod_{i=1}^n\frac{1-x_iz}{z-x_i}$
$\displaystyle F(z)=\frac{1}{1-z^2}f(z)$

以下,$x_1, x_2, \dots, x_n$ はどれも $\pm1$ でないとします.(連続関数なので$x_i$のどれかが$\pm1$のときも極限を取ることで解決します)

仮定より, $F(z)$ の極は $1,-1,x_1, x_2, \dots, x_n$ であり,それらは全て一位の極です.

$f(z)$ を極を有限個しかもたない有理型関数とする.
ある正の定数 $R_0,C,\varepsilon$ が存在して任意の $|z|>R_0$ に対し $|f(z)|<\dfrac{C}{|z|^{1+\varepsilon}}$ が成り立つとき, $f(z)$ の留数全ての和は $0$ になる.

$C_R$ を原点を中心とする半径$R$ の円周とする.
積分路は反時計回りで考える.
十分大きい $R$ に対し,$C_R$ 上で $f(z)$ を積分したものは $f(z)$ の留数の和の$2\pi i$倍になる.
一方で,
$\displaystyle\left|\oint_{C_R}f(z)dz\right|\leq\oint_{C_R}|f(z)||dz|\leq\oint_{C_R}\frac{C}{R^{1+\varepsilon}}|dz|=\frac{2\pi C}{R^{\varepsilon}}$
より $\displaystyle\lim_{R \to\infty}\oint_{C_R}f(z)dz=0$ である.

$|z|$ が十分大きいとき $f(z)$ は定数で押さえられるので $F(z)$ には補題が適用できます.

$F(z)$ の留数を見ていきましょう.

$\displaystyle\mathrm{Res}_{z=x_i}F(z)=\lim_{z\to x_i}(z-x_i)F(z) =\displaystyle\prod_{i\neq j}\frac{1-x_ix_j}{x_i-x_j}$
$\displaystyle\mathrm{Res}_{z=1}F(z)=\lim_{z\to1}(z-1)F(z) \displaystyle=-\frac{1}{2}f(1)=-\frac{1}{2}$
$\displaystyle\mathrm{Res}_{z=-1}F(z)=\lim_{z\to -1}(z+1)F(z) \displaystyle=\frac{1}{2}f(-1)=\frac{(-1)^n}{2}$

これより,補題を使うと
$\displaystyle \sum_{i=1}^n\prod_{i\neq j}\frac{1-x_ix_j}{x_i-x_j} \\=-(\mathrm{Res}_{z=1}F(z)+\mathrm{Res}_{z=-1}F(z))\\ =\displaystyle\frac{1-(-1)^n}{2}$
となり,証明が完了しました.

感想
留数定理って偉大ですね.

投稿日:202238

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tria_math
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