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大学数学基礎解説
文献あり

ブラウワーの不動点定理とその応用例

2035
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レトラクト

Dn={xRn | x1}の部分集合EDnDnのレトラクトであるとは, 連続写像r:DnEEへの制限写像が恒等写像となる, すなわち任意のxEr(x)=xなるものが存在することである。このときrをレトラクションという。

Sn1={xRn | x=1}Dnのレトラクトではない。

レトラクトr:DnSn1Hn1(X)X(n1)-次元ホモロジー群として準同型r:Hn1(Dn)Hn1(Sn1)を誘導する。自然な全射j:Sn1Dnjを誘導しrjSn1上の恒等写像なので(rj)=rjHn1(Sn1)上の恒等写像となる。ここでHn1(Dn)=0よりkerj=0である。すなわちker(rj)=0であるが, 一方でホモロジー群を観察すると
Hn1(Sn1)=Z (n1), H0(S0)=ZZ (o.w.)なので矛盾する。

下記の補題はBrouwerによって発見された。

f:DnDnを連続写像とすると, fは不動点xDnをもつ。

もし不動点をもたないならr(x)=t(x)f(x)+(1t(x))x, (ただし
t(x)=x2<x,f(x)>(x2<x,f(x)>)2+(1x2)xf(x)2xf(x)2)で定まるr:DnSn1はレトラクションであるがこれは前補題に矛盾する。

ブラウワーの不動点定理

KRnのコンパクト凸部分集合とする。このとき任意の連続写像f:KKは固定点xKをもつ。

KDnとしても一般性を失わない。任意のxDnに対してp(x)Kix=dist(K,x)を満たすiで定めると, 任意のxKに対しp(x)=xである。さらにpDn上連続となる。なぜなら, xDnとそれに収束する(xn)Dnについて
xp(x)xp(xn)xxn+infkKxnkxp(x) (n)が成り立つので, p(xn)p(x)に収束する。次にg:DnKg(x):=f(p(x))で定めると連続な全射である。よってxKであってg(x)=x=f(x)を満たすものがあることが前定理より推察される。

次は線形代数学におけるペロン・フロべニウスの定理と呼ばれるものの一部を主張するものである。

Aを正数を成分にもつn×n行列とすると, Aは正の固有値をもつか。

Aは線形変換fA:RnRnと思い,コンパクト凸集合K={xRn | j=1nxj=1,xj0 (j{1,...,n})}を定義する。
f:KxfAxfAx1
を定める。もしxKならxの各成分は非負で少なくとも一つは正であるので, fAxの各成分は線形性より正である。よってfKからKへの連続写像であるxKであってfAx=fAx1xを満たすものが存在する。

代数学の基本定理

p(z)=a0+a1z++anznを次数n1の複素係数多項式とするとき, z0Cp(z0)=0を満たすものが存在する事を示そう。

C=R2と思い, an=1としてp(z)をモニック多項式としても良い。r:=2+|a0|++|an1|とおきg:CCz=ρeiθ (θ[0,2π)に対して
g(z)={zp(z)rei(1n)θ|z|1zp(z)rz(1n)|z|>1で定めるとこれは連続関数である。コンパクト凸集合C={z : |z|r}を定義し, ブラウワーの不動点定理を用いるためg(C)Cを示す。もし|z|1なら
|g(z)||z|+p(z)r1+|a0|++|an1|+1r2rであり, もし1<|z|rなら
|g(z)||zp(z)rzn1|=|zzra0+a1z++an1zn1rzn1|r1+|a0|++|an1|rr1+r2rrよりgは固定点z0Cをもちp(z0)=0となる。

1の分割

V1,...,Vnを局所コンパクトハウスドルフ空間Xの開集合とし, KXをコンパクトでKV1Vnを満たすとする。すると, 任意のj{1,2,...,n}に対しあるφjC(X)であって, Vj上で0φj1かつ
xK φ1(x)++φn(x)=1を満たすものが存在する。

開被覆{V1,...,Vn}の下でのK上の1の分割と呼ぶことにする。

φ1,...,φnの存在性はウリゾーンの補題から導出される(Mathpedia参照)。

以後, 局所凸位相線形空間のことを局所凸であると略記する。

シャウダーの不動点定理

Xを局所凸空間, KXを非空の凸集合としK0Kをコンパクトとする。f:KK0が連続写像ならば, xK0f(x)=xなるものが存在する。

Bを, X上のセミノルムの分離族Pにより生成されるXの位相の基本近傍系として記述する。与えられたUBに対して, K0のコンパクト性からある自然数nがあって
K0j=1n(xj+U)φ1,...,φnC(K0)を開被覆{xj+U}jの下でのK0上の1の分割として
fU(x):=j=1nφj(f(x))xj (xK)を定めると, co({υ1,...,υn})υ1,...,υnの凸結合で表示されるベクトル全体を表すとし
fU(K)KU:=co({x1,...,xn})Kであり, ブラウワーの不動点定理からfU(xU)=xUを満たすxUKUが存在するので
(xUf(xU))=(fU(xU)f(xU))=j=1nφj(f(xU))(xjf(xU))U : (i)(ただしxjf(xU)Uならばφj(f(xU))=0)が成り立つ。K0のコンパクト性から
xWB{f(xU) | UB,UW}K0 : (ii)である。これにはコンパクトな空間Xにおいて「有限交叉性をもつ閉部分集合族の共通部分は空でない」という命題を用いてある。次に, 任意のpP,ϵ>0に対して
V={xX | p(x)<ϵ}BとおけばfK上連続なためWVなるWB s.t. xx2W  xKf(x)f(x)Vが存在する。
さらに, (ii)からこのWに対し
UB UW  xf(xU)WV : (iii)を満たす。(i)と(iii)から
xUx=xUf(xU)+f(xU)xU+WW+W=2Wであるため, f(xU)f(x)Vが成り立つ。このこと及び(iii)から
p(xf(x))p(xf(xU))+p(f(xU)f(x))<2ϵである。よって任意のpPに対しp(xf(x))=0からf(x)=xである。

Xをバナッハ空間, rR>0とする。Br:=BX(0,r)とかいて連続写像g:BrXg(Br)が相対コンパクトとなるものとする。

xBrに対してg(x){λx | λ>0}とする。このときx0Brg(x0)=0を満たすものが存在する。

もしそうでないと仮定すればf:BrBrf(x):=rg(x)/g(x)で定めたものは連続写像でf(Br)は相対コンパクトである。シャウダーの不動点定理よりfはあるxBrを不動点にもつ。
x=rg(x)=g(x)x/rこれは仮定に反する。

任意のxBrに対してあるΓxX s.t. Γxx=1Γxg(x)0が存在する。よってx0Brg(x0)=0を満たすものが存在する。

f(x)=rg(x)/g(x)を定める。もしgが非零なら上と同様にfは不動点xBrをもち, x=rなるxに対しg(x)=g(x)x/rが成り立つ。Γx=1を満たすΓXをとれば
Γg(x)=g(x)/r<0であるが背理法のもとで矛盾する。後半の主張は前系とΓxの線形性から前系の仮定をgは満たすため成り立つ。

f:RnRnを連続関数であって
limx<f(x),x>x=を満たすものとするとき, f(Rn)=Rnとなることも導かれる。

y0Rnを固定し, g:BrRng(x):=f(x)y0で定める。すると十分大きなr>0に対して
xBr <g(x),xx>≥0である。Γx:RnR
Γx(z):=<z,xx>で定義するとこれは前系の条件を満足するので, あるx0Brg(x0)=0を満たすものが存在しfは全射となる為である。

コンパクト作用素

X,Yをバナッハ空間とする。線形作用素f:XYがコンパクトであるとはXの任意の有界集合のfによる像が相対コンパクトであることであり, これは閉単位球のfによる像が相対コンパクトであること, 任意の有界列(xn)に対して(f(xn))が収束部分列を含むことと同値である。

シェファーの不動点定理

Xをバナッハ空間とし, f:XXを連続なコンパクト作用素とする。さらに
F:={xX | λ[0,1] s.t. x=λf(x)}を有界集合とする。このときfは不動点をもつ。

r>supxFxをおき写像g:BX(0,2r)BX(0,2r)
g(x):={f(x)f(x)2r2rf(x)f(x)f(x)>2rで定めると, これは連続なコンパクト作用素である。するとシャウダーの不動点定理からあるx0BX(0,2r)g(x0)=x0なるものが存在する。f(x0)2rならばf(x0)=x0で題意は示される。また
f(x0)>2rx0=λ0f(x0), λ0:=2rf(x0)<1よりx0=2rが成立し, これはx0Fに属することから最初の仮定に反する。よってf(x0)>2rとなる場合は有り得ることはない。

ここで, 教養年次で必ず習うことになる次の定理を述べその応用事例を紹介する。

Banachの不動点定理

fを完備距離空間X上の縮小写像としたとき, fは一意な不動点xXをもつ。

Xを完備距離空間とし, Yを位相空間とする。f:X×YXを連続写像とし, fを次の意味で一様な縮小写像とする。
λ<1 s.t. x1,x2X yY d(f(x1,y),f(x2,y))λd(x1,x2)このとき, 任意のyYに対して写像Xxf(x,y)Yは一意な不動点φ(y)をもつ。また, Yyφ(y)Xは連続写像である。

なおf:X×YXが第二引数yYを固定したとき連続であってf:X×{y}Xが一様な縮小写像とすると, fX×Y上連続である。

バナッハの不動点定理よりYyφ(y)Xの連続性を示すだけで事足りる。任意のy,y0Yに対して
d(φ(y),φ(y0))=d(f(φ(y),y),f(φ(y0),y0))d(f(φ(y),y),f(φ(y0),y))+d(f(φ(y0),y),f(φ(y0),y0))λd(φ(y),φ(y0))+d(f(φ(y0),y),f(φ(y0),y0))より
d(φ(y),φ(y0))11λd(f(φ(y0),y),f(φ(y0),y0))である。yy0とすることでφの連続性が従う。

Krasnoselskii

Xをバナッハ空間とし, CXを非空の閉凸集合とする。f,g:CX
(a) x1,x2C f(x1)+g(x2)C
(b) fは連続なコンパクト作用素である
(c) gCからXへの縮小写像である
とする。このときfgは不動点を持つ。

Igは連続写像で三角不等式から縮小写像gのリプシッツ定数λ<1に対して
(Ig)(x1)(Ig)(x2)x1x2g(x1)g(x2)(1λ)x1x2が成り立つ。これは(Ig)1は連続写像であることを意味する。任意のyCに対して
Cxf(y)+g(x)C上の縮小写像である。バナッハの不動点定理よりzCであってz=f(y)+g(z)となるものが存在してz=(Ig)1(f(y))Cである。連続写像およびコンパクト作用素の合成はまたそうであるから(Ig)1f:CCは連続なコンパクト作用素である(コンパクト作用素全体K(X)B(X)の作用素イデアルをなすことも認めた)。Cは閉集合という仮定とコンパクト作用素の定義からブラウワーの不動点定理で
xC s.t. (Ig)1(f(x))=xすなわちf(x)+g(x)=xである。

定理5におけるK0のコンパクト性は崩すことはできない事を可分ヒルベルト空間2における例で述べる。

ϵ(0,1]を固定し, fϵ:B2(0,1)B2(0,1)
x=(x0,x1,)2 fϵ(x):=(ϵ(1x),x0,x1,...)で定めるとこれは定義域内に不動点をもたないが, 
x,yB2(0,1) fϵ(x)fϵ(y)1+ϵ2xyを満たし, リプシッツ連続である。リプシッツ連続なら明らかに連続である。

不動点定理が成り立たない例について述べていく。つまり, Cをバナッハ空間Xにおいて有界閉かつ凸部分集合としたとき, いつ連続写像f:CCは不動点を持ち, またいつ持たないのか。このことに焦点を当てたような以下の定理はKleeにより発見された。まずは手短に非コンパクトな有界閉集合に対しどのような性質を見出すことが出来るのかについて聡明な視点で解析した次の補題を述べる。

Xをバナッハ空間, CXを有界閉で非コンパクト集合とする。このとき,ϵ>0  (xn)C s.t. dist(xn+1,span{x0,...,xn})ϵ : (1)が成り立つ。

まず, XCの条件から無限次元バナッハ空間であることは必須である。まずϵ>0であって任意の有界集合FXに対し
C[span(F)+BX(0,ϵ)]を満たすものが存在する事を背理法で示す。任意のϵ>0に対しある有界集合FXCspan(F)+BX(0,ϵ)を満たすとする。Cは有界なのであるr>0に対してCBX(0,r)を満たすため,C[span(F)+BX(0,ϵ)]BX(0,r)[span(F)BX(0,r+ϵ)]+BX(0,ϵ)が成り立つ。ここでspan(F)BX(0,r+ϵ)は全有界なので, 有限個の半径ϵの開球による被覆が存在し, Cは半径2ϵの開球による有限被覆を持つ。すなわちCは全有界ゆえコンパクト (というのもMathpedia様の「全有界性と完備化がコンパクトなことは同値」と「完備距離空間の閉部分集合は完備」)となるが, これは仮定に反する。

次に, 求める点列(xn)を帰納的に構成する。まず任意にx0Cを選び, もし(1)を満たすx0,...,xn+1Cが与えられたなら
xn+2C[span{x0,...,xn+1}+BX(0,ϵ)]を非空なので選択すれば良い。

Klee

Xを無限次元バナッハ空間とし, CXを有界閉で凸集合かつ非コンパクトとする。このとき連続写像f:CCであって不動点を持たないものが存在する。

(xn)Cを(1)を満たす点列とし, 0Cかつxϵとしても一般性を失わない。区分線形曲線γ:[0,)Γ(C)
Γ=n=0[xn,xn+1] :closed, [xn,xn+1]:=co{xn,xn+1}, γ(t):=(1s)xn+sxn+1で定める。ただし, n=[t], s:=tn ([]はガウス記号)である。(1)によりγは全単射である。よって開写像原理の応用である有界逆写像定理からγ1:Γ[0,)は連続となり, ティーチェの拡張補題をやや修正したものを用いてγ1は連続関数g:C[0,,) s.t. g|Γ=γ1へと拡張される。従ってf:CC
f(x):=γ(g(x)+1)で定めるとfは不動点を持たない。実際もしあるxCf(x)=xなるものが存在したなら, xΓゆえγ(γ1(x+1)=γ(γ1(x))であるがγの単射性より矛盾する。

上定理は次の無限次元バナッハ空間論における興味深い現象を帰結させてくれることを述べる。

Xを無限次元バナッハ空間とするとき, BX(0,1)は閉単位球のレトラクトである。

f:BX(0,1)BX(0,1)を連続写像とする。fは不動点を持たないことがKleeの定理とノルム位相に関してノルム空間の閉単位球のコンパクト性の特徴付けより分かる(弱*位相ではコンパクトであることを主張したのがBanach-Alaoglu)。このfを拡張したf1:BX(0,2)BX(0,1)
f1(x):={f(x)x1(2x)f(xx)1<x2を定める。次にf2:BX(0,1)BX(0,1)
f2(x):=12f1(2x)で定めると, f2は不動点を持たない。任意のxBX(0,1)に対しf2(x)=0が成り立つ。よって連続写像r:BX(0,1)BX(0,1)
r(x):=xf2(x)xf2(x)で定めるとこれはレトラクションである。

参考文献

[1]
Vittorino Pata, Fixed Point Theorems and Applications, Springer, 2019
投稿日:2022313
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societah
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現在は量子誤り訂正、位相線形構造とバナッハ環論に関心を持つ。 趣味 : SPY×FAMILY、ハンガリー史、Official髭男dism

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