$\mathbb{D}^n=\{x\in\mathbb{R}^n\ |\ \|x\|\le 1\}$の部分集合$E\subset\mathbb{D}^n$が$\mathbb{D}^n$のレトラクトであるとは, 連続写像$r:\mathbb{D}^n\to E$で$E$への制限写像が恒等写像となる, すなわち任意の$x\in E$で$r(x)=x$なるものが存在することである。このとき$r$をレトラクションという。
$\mathbb{S}^{n-1}=\{x\in\mathbb{R}^n\ |\ \|x\|=1\}$は$\mathbb{D}^n$のレトラクトではない。
レトラクト$r:\mathbb{D}^n\to\mathbb{S}^{n-1}$は$H_{n-1}(X)$を$X$の$(n-1)$-次元ホモロジー群として準同型$r_{*}:H_{n-1}(\mathbb{D}^n)\to H_{n-1}(\mathbb{S}^{n-1})$を誘導する。自然な全射$j:\mathbb{S}^{n-1}\to\mathbb{D}^n$も$j_*$を誘導し$r\circ j$は$\mathbb{S}^{n-1}$上の恒等写像なので$(r\circ j)_*=r_*j_*$は$H_{n-1}(\mathbb{S}^{n-1})$上の恒等写像となる。ここで$H_{n-1}(\mathbb{D}^n)=0$より$\ker j_*=0$である。すなわち$\ker(r\circ j)_*=0$であるが, 一方でホモロジー群を観察すると
$$H_{n-1}(\mathbb{S}^{n-1})=\mathbb{Z}\ (n\neq 1),\ H_0(\mathbb{S}^0)=\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}\ (o.w.)$$なので矛盾する。
下記の補題はBrouwerによって発見された。
$f:\mathbb{D}^n\to\mathbb{D}^n$を連続写像とすると, $f$は不動点$\overline{x}\in\mathbb{D}^n$をもつ。
もし不動点をもたないなら$r(x)=t(x)f(x)+(1-t(x))x$, (ただし
$$t(x)=\frac{\|x\|^2-< x,f(x)>-\sqrt{(\|x\|^2-< x,f(x)>)^2+(1-\|x\|^2)\|x-f(x)\|^2}}{\|x-f(x)\|^2})$$で定まる$r:\mathbb{D}^n\to\mathbb{S}^{n-1}$はレトラクションであるがこれは前補題に矛盾する。
$K$を$\mathbb{R}^n$のコンパクト凸部分集合とする。このとき任意の連続写像$f:K\to K$は固定点$\overline{x}\in K$をもつ。
$K\subset\mathbb{D}^n$としても一般性を失わない。任意の$x\in\mathbb{D}^n$に対して$p(x)\in K$を$\|i-x\|=\mathrm{dist}(K,x)$を満たす$i$で定めると, 任意の$x\in K$に対し$p(x)=x$である。さらに$p$は$\mathbb{D}^n$上連続となる。なぜなら, $x\in\mathbb{D}^n$とそれに収束する$(x_n)\subset\mathbb{D}^n$について
$$\|x-p(x)\|\le\|x-p(x_n)\|\le\|x-x_n\|+\inf_{k\in K}\|x_n-k\|\to \|x-p(x)\|\ (n\to\infty)$$が成り立つので, $p(x_n)$は$p(x)$に収束する。次に$g:\mathbb{D}^n\to K$を$g(x):=f(p(x))$で定めると連続な全射である。よって$\overline{x}\in K$であって$g(\overline{x})=\overline{x}=f(\overline{x})$を満たすものがあることが前定理より推察される。
次は線形代数学におけるペロン・フロべニウスの定理と呼ばれるものの一部を主張するものである。
$A$を正数を成分にもつ$n\times n$行列とすると, $A$は正の固有値をもつか。
$A$は線形変換$f_A:\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^n$と思い,コンパクト凸集合$K=\{x\in\mathbb{R}^n\ |\ \sum^n_{j=1}x_j=1,x_j\ge 0\ (\forall j\in\{1,...,n\})\}$を定義する。
$$f:K\ni x\mapsto \frac{f_Ax}{\|f_Ax\|_1}$$
を定める。もし$x\in K$なら$x$の各成分は非負で少なくとも一つは正であるので, $f_Ax$の各成分は線形性より正である。よって$f$は$K$から$K$への連続写像である$\overline{x}\in K$であって$f_A\overline{x}=\|f_A\overline{x}\|_1\overline{x}$を満たすものが存在する。
$p(z)=a_0+a_1z+\cdots+a_nz^n$を次数$n\ge 1$の複素係数多項式とするとき, $z_0\in\mathbb{C}$で$p(z_0)=0$を満たすものが存在する事を示そう。
$\mathbb{C}=\mathbb{R}^2$と思い, $a_n=1$として$p(z)$をモニック多項式としても良い。$r:=2+|a_0|+\cdots+|a_{n-1}|$とおき$g:\mathbb{C}\to\mathbb{C}$を$z=\rho e^{i\theta}\ (\theta\in [0,2\pi)$に対して
$$g(z)=\begin{cases}
z-\frac{p(z)}{r}e^{i(1-n)\theta}&|z|\le 1\\
z-\frac{p(z)}{r}z^{(1-n)}&|z|>1\end{cases}$$で定めるとこれは連続関数である。コンパクト凸集合$C=\{z\ :\ |z|\le r\}$を定義し, ブラウワーの不動点定理を用いるため$g(C)\subset C$を示す。もし$|z|\le 1$なら
$$|g(z)|\le |z|+\frac{p(z)}{r}\le 1+\frac{|a_0|+\cdots+|a_{n-1}|+1}{r}\le 2\le r$$であり, もし$1<|z|\le r$なら
$$|g(z)|\le\left|z-\frac{p(z)}{rz^{n-1}}\right|=\left|z-\frac{z}{r}-\frac{a_0+a_1z+\cdots+a_{n-1}z^{n-1}}{rz^{n-1}}\right|\le r-1+\frac{|a_0|+\cdots+|a_{n-1}|}{r}\le r-1+\frac{r-2}{r}\le r$$より$g$は固定点$z_0\in C$をもち$p(z_0)=0$となる。
$V_1,...,V_n$を局所コンパクトハウスドルフ空間Xの開集合とし, $K\subset X$をコンパクトで$K\subset V_1\cup\cdots\cup V_n$を満たすとする。すると, 任意の$j\in\{1,2,...,n\}$に対しある$\varphi_j\in C(X)$であって, $V_j$上で$0\le\varphi_j\le 1$かつ
$$\forall x\in K\ \varphi_1(x)+\cdots+\varphi_n(x)=1$$を満たすものが存在する。
開被覆$\{V_1,...,V_n\}$の下での$K$上の1の分割と呼ぶことにする。
$\varphi_1,...,\varphi_n$の存在性はウリゾーンの補題から導出される(Mathpedia参照)。
以後, 局所凸位相線形空間のことを局所凸であると略記する。
$X$を局所凸空間, $K\subset X$を非空の凸集合とし$K_0\subset K$をコンパクトとする。$f:K\to K_0$が連続写像ならば, $\overline{x}\in K_0$で$f(\overline{x})=\overline{x}$なるものが存在する。
$\mathfrak{B}$を, $X$上のセミノルムの分離族$\mathcal{P}$により生成される$X$の位相の基本近傍系として記述する。与えられた$U\in\mathfrak{B}$に対して, $K_0$のコンパクト性からある自然数$n$があって
$$K_0\subset\cup^n_{j=1}(x_j+U)$$$\varphi_1,...,\varphi_n\in C(K_0)$を開被覆$\{x_j+U\}_j$の下での$K_0$上の1の分割として
$$f_U(x):=\sum^n_{j=1}\varphi_j(f(x))x_j\ (\forall x\in K)$$を定めると, $\mathrm{co}(\{\upsilon_1,...,\upsilon_n\})$で$\upsilon_1,...,\upsilon_n$の凸結合で表示されるベクトル全体を表すとし
$$f_U(K)\subset K_U:=\mathrm{co}(\{x_1,...,x_n\})\subset K$$であり, ブラウワーの不動点定理から$f_U(x_U)=x_U$を満たす$x_U\in K_U$が存在するので
$$-(x_U-f(x_U))=-(f_U(x_U)-f(x_U))=-\sum^n_{j=1}\varphi_j(f(x_U))(x_j-f(x_U))\in U\ :\ (i)$$(ただし$x_j-f(x_U)\notin U$ならば$\varphi_j(f(x_U))=0$)が成り立つ。$K_0$のコンパクト性から
$$\exists \overline{x}\in\cap_{W\in\mathfrak{B}}\overline{\{f(x_U)\ |\ U\in\mathfrak{B},U\subset W\}}\subset K_0\ :\ (ii)$$である。これにはコンパクトな空間$X$において「有限交叉性をもつ閉部分集合族の共通部分は空でない」という命題を用いてある。次に, 任意の$p\in\mathcal{P},\epsilon>0$に対して
$$V=\{x\in X\ |\ p(x)<\epsilon\}\in\mathfrak{B}$$とおけば$f$は$K$上連続なため$W\subset V$なる$W\in\mathfrak{B}\ s.t.\ x-\overline{x}\in 2W\ \land\ x\in K\Rightarrow f(x)-f(\overline{x})\in V$が存在する。
さらに, (ii)からこのWに対し
$$\exists U\in\mathfrak{B}\ U\subset W\ \land\ \overline{x}-f(x_U)\in W\subset V\ :\ (iii)$$を満たす。(i)と(iii)から
$$x_U-\overline{x}=x_U-f(x_U)+f(x_U)-\overline{x}\in U+W\subset W+W=2W$$であるため, $f(x_U)-f(\overline{x})\in V$が成り立つ。このこと及び(iii)から
$$p(\overline{x}-f(\overline{x}))\le p(\overline{x}-f(x_U))+p(f(x_U)-f(\overline{x}))<2\epsilon$$である。よって任意の$p\in\mathcal{P}$に対し$p(\overline{x}-f(\overline{x}))=0$から$f(\overline{x})=\overline{x}$である。
$X$をバナッハ空間, $r\in\mathbb{R}_{>0}$とする。$B_r:=\overline{B_X(0,r)}$とかいて連続写像$g:B_r\to X$を$g(B_r)$が相対コンパクトとなるものとする。
各$x\in\partial B_r$に対して$g(x)\notin\{\lambda x\ |\ \lambda>0\}$とする。このとき$x_0\in B_r$で$g(x_0)=0$を満たすものが存在する。
もしそうでないと仮定すれば$f:B_r\to B_r$を$f(x):=rg(x)/\|g(x)\|$で定めたものは連続写像で$f(B_r)$は相対コンパクトである。シャウダーの不動点定理より$f$はある$\overline{x}\in B_r$を不動点にもつ。
$$\|\overline{x}\|=r\Rightarrow g(\overline{x})=\|g(\overline{x})\|\overline{x}/r$$これは仮定に反する。
任意の$x\in\partial B_r$に対してある$\Gamma_x\in X^*\ s.t.\ \Gamma_xx=1\Rightarrow\Gamma_xg(x)\ge 0$が存在する。よって$x_0\in B_r$で$g(x_0)=0$を満たすものが存在する。
$f(x)=-rg(x)/\|g(x)\|$を定める。もし$g$が非零なら上と同様に$f$は不動点$\overline{x}\in B_r$をもち, $\|\overline{x}\|=r$なる$\overline{x}$に対し$-g(\overline{x})=\|g(\overline{x})\|\overline{x}/r$が成り立つ。$\Gamma\overline{x}=1$を満たす$\Gamma\in X^*$をとれば
$$\Gamma g(\overline{x})=-\|g(\overline{x})\|/r<0$$であるが背理法のもとで矛盾する。後半の主張は前系と$\Gamma_x$の線形性から前系の仮定を$g$は満たすため成り立つ。
$f:\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^n$を連続関数であって
$$\lim_{\|x\|\to\infty}\frac{< f(x),x>}{\|x\|}=\infty$$を満たすものとするとき, $f(\mathbb{R}^n)=\mathbb{R}^n$となることも導かれる。
$y_0\in\mathbb{R}^n$を固定し, $g:B_r\to\mathbb{R}^n$を$g(x):=f(x)-y_0$で定める。すると十分大きな$r>0$に対して
$$\forall x\in\partial B_r\ < g(x),\frac{x}{\|x\|}>\ge 0$$である。$\Gamma_x:\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}$を
$$\Gamma_x(z):=< z,\frac{x}{\|x\|}>$$で定義するとこれは前系の条件を満足するので, ある$x_0\in B_r$で$g(x_0)=0$を満たすものが存在し$f$は全射となる為である。
$X,Y$をバナッハ空間とする。線形作用素$f:X\to Y$がコンパクトであるとは$X$の任意の有界集合の$f$による像が相対コンパクトであることであり, これは閉単位球の$f$による像が相対コンパクトであること, 任意の有界列$(x_n)$に対して$(f(x_n))$が収束部分列を含むことと同値である。
$X$をバナッハ空間とし, $f:X\to X$を連続なコンパクト作用素とする。さらに
$$F:=\{x\in X\ |\ \exists \lambda\in [0,1]\ s.t.\ x=\lambda f(x)\}$$を有界集合とする。このとき$f$は不動点をもつ。
$r>\sup_{x\in F}\|x\|$をおき写像$g:\overline{B}_X(0,2r)\to\overline{B}_X(0,2r)$を
$$g(x):=\begin{cases}
f(x)&\|f(x)\|\le 2r\\
\frac{2rf(x)}{\|f(x)\|}&\|f(x)\|>2r\end{cases}$$で定めると, これは連続なコンパクト作用素である。するとシャウダーの不動点定理からある$x_0\in\overline{B}_X(0,2r)$で$g(x_0)=x_0$なるものが存在する。$\|f(x_0)\|\le 2r$ならば$f(x_0)=x_0$で題意は示される。また
$$\|f(x_0)\|>2r\Rightarrow x_0=\lambda_0f(x_0),\ \lambda_0:=\frac{2r}{\|f(x_0)\|}<1$$より$\|x_0\|=2r$が成立し, これは$x_0$が$F$に属することから最初の仮定に反する。よって$\|f(x_0)\|>2r$となる場合は有り得ることはない。
ここで, 教養年次で必ず習うことになる次の定理を述べその応用事例を紹介する。
$f$を完備距離空間$X$上の縮小写像としたとき, $f$は一意な不動点$\overline{x}\in X$をもつ。
$X$を完備距離空間とし, $Y$を位相空間とする。$f:X\times Y\to X$を連続写像とし, $f$を次の意味で一様な縮小写像とする。
$$\exists \lambda<1\ s.t.\ \forall x_1,x_2\in X\ \forall y\in Y\ d(f(x_1,y),f(x_2,y))\le\lambda d(x_1,x_2)$$このとき, 任意の$y\in Y$に対して写像$X\ni x\mapsto f(x,y)\in Y$は一意な不動点$\varphi(y)$をもつ。また, $Y\ni y\mapsto\varphi(y)\in X$は連続写像である。
なお$f:X\times Y\to X$が第二引数$y\in Y$を固定したとき連続であって$f:X\times\{y\}\to X$が一様な縮小写像とすると, $fはX\times Y$上連続である。
バナッハの不動点定理より$Y\ni y\mapsto \varphi(y)\in X$の連続性を示すだけで事足りる。任意の$y,y_0\in Y$に対して
$$\begin{eqnarray}
d(\varphi(y),\varphi(y_0))&=&d(f(\varphi(y),y),f(\varphi(y_0),y_0))\\
&\le&d(f(\varphi(y),y),f(\varphi(y_0),y))+d(f(\varphi(y_0),y),f(\varphi(y_0),y_0))\\
&\le&\lambda d(\varphi(y),\varphi(y_0))+d(f(\varphi(y_0),y),f(\varphi(y_0),y_0))\end{eqnarray}$$より
$$d(\varphi(y),\varphi(y_0))\le\frac{1}{1-\lambda}d(f(\varphi(y_0),y),f(\varphi(y_0),y_0))$$である。$y\to y_0$とすることで$\varphi $の連続性が従う。
$X$をバナッハ空間とし, $C\subset X$を非空の閉凸集合とする。$f,g:C\to X$が
(a) $\forall x_1,x_2\in C\ f(x_1)+g(x_2)\in C$
(b) $f$は連続なコンパクト作用素である
(c) $g$は$C$から$X$への縮小写像である
とする。このとき$f+g$は不動点を持つ。
$\mathbb{I}-g$は連続写像で三角不等式から縮小写像$g$のリプシッツ定数$\lambda<1$に対して
$$\|(\mathbb{I}-g)(x_1)-(\mathbb{I}-g)(x_2)\|\ge\|x_1-x_2\|-\|g(x_1)-g(x_2)\|\ge (1-\lambda)\|x_1-x_2\|$$が成り立つ。これは$(\mathbb{I}-g)^{-1}$は連続写像であることを意味する。任意の$y\in C$に対して
$$C\ni x\mapsto f(y)+g(x)$$は$C$上の縮小写像である。バナッハの不動点定理より$z\in C$であって$z=f(y)+g(z)$となるものが存在して$z=(\mathbb{I}-g)^{-1}(f(y))\in C$である。連続写像およびコンパクト作用素の合成はまたそうであるから$(\mathbb{I}-g)^{-1}\circ f:C\to C$は連続なコンパクト作用素である(コンパクト作用素全体$K(X)$が$B(X)$の作用素イデアルをなすことも認めた)。$C$は閉集合という仮定とコンパクト作用素の定義からブラウワーの不動点定理で
$$\exists\overline{x}\in C\ s.t.\ (\mathbb{I}-g)^{-1}(f(\overline{x}))=\overline{x}$$すなわち$f(\overline{x})+g(\overline{x})=\overline{x}$である。
定理5における$K_0$のコンパクト性は崩すことはできない事を可分ヒルベルト空間$\ell^2$における例で述べる。
$\epsilon\in (0,1]$を固定し, $f_\epsilon:\overline{B}_{\ell^2}(0,1)\to\overline{B}_{\ell^2}(0,1)$を
$$\forall x=(x_0,x_1,\dots)\in\ell^2\ f_\epsilon(x):=(\epsilon(1-\|x\|),x_0,x_1,...)$$で定めるとこれは定義域内に不動点をもたないが,
$$\forall x,y\in\overline{B}_{\ell^2}(0,1)\ \|f_\epsilon(x)-f_\epsilon(y)\|\le\sqrt{1+\epsilon^2}\|x-y\|$$を満たし, リプシッツ連続である。リプシッツ連続なら明らかに連続である。
不動点定理が成り立たない例について述べていく。つまり, $C$をバナッハ空間$X$において有界閉かつ凸部分集合としたとき, いつ連続写像$f:C\to C$は不動点を持ち, またいつ持たないのか。このことに焦点を当てたような以下の定理はKleeにより発見された。まずは手短に非コンパクトな有界閉集合に対しどのような性質を見出すことが出来るのかについて聡明な視点で解析した次の補題を述べる。
$X$をバナッハ空間, $C\subset X$を有界閉で非コンパクト集合とする。このとき,$$\exists\epsilon>0\ \exists\ (x_n)\subset C\ s.t.\ \mathrm{dist}(x_{n+1},\mathrm{span}\{x_0,...,x_n\})\ge\epsilon\ :\ (1)$$が成り立つ。
まず, $X$は$C$の条件から無限次元バナッハ空間であることは必須である。まず$\epsilon>0$であって任意の有界集合$F\subset X$に対し
$$C\backslash [\mathrm{span}(F)+B_X(0,\epsilon)]\neq\varnothing$$を満たすものが存在する事を背理法で示す。任意の$\epsilon>0$に対しある有界集合$F\subset X$で$C\subset\mathrm{span}(F)+B_X(0,\epsilon)$を満たすとする。$C$は有界なのである$r>0$に対して$C\subset B_X(0,r)$を満たすため,$$C\subset [\mathrm{span}(F)+B_X(0,\epsilon)]\cap B_X(0,r)\subset [\mathrm{span}(F)\cap B_X(0,r+\epsilon)]+B_X(0,\epsilon)$$が成り立つ。ここで$\mathrm{span}(F)\cap B_X(0,r+\epsilon)$は全有界なので, 有限個の半径$\epsilon $の開球による被覆が存在し, $C$は半径$2\epsilon$の開球による有限被覆を持つ。すなわち$C$は全有界ゆえコンパクト (というのもMathpedia様の「全有界性と完備化がコンパクトなことは同値」と「完備距離空間の閉部分集合は完備」)となるが, これは仮定に反する。
次に, 求める点列$(x_n)$を帰納的に構成する。まず任意に$x_0\in C$を選び, もし(1)を満たす$x_0,...,x_{n+1}\in C$が与えられたなら
$$x_{n+2}\in C\backslash[\mathrm{span}\{x_0,...,x_{n+1}\}+B_X(0,\epsilon)]$$を非空なので選択すれば良い。
$X$を無限次元バナッハ空間とし, $C\subset X$を有界閉で凸集合かつ非コンパクトとする。このとき連続写像$f:C\to C$であって不動点を持たないものが存在する。
$(x_n)\subset C$を(1)を満たす点列とし, $0\in C$かつ$\|x\|\ge\epsilon $としても一般性を失わない。区分線形曲線$\gamma:[0,\infty)\to\Gamma(\subset C)$を
$$\Gamma=\cup^\infty_{n=0}[x_n,x_{n+1}]\ :\mathrm{closed},\ [x_n,x_{n+1}]:=\mathrm{co}\{x_n,x_{n+1}\},\ \gamma(t):=(1-s)x_n+sx_{n+1}$$で定める。ただし, $n=[t],\ s:=t-n$ ($[]$はガウス記号)である。(1)により$\gamma$は全単射である。よって開写像原理の応用である有界逆写像定理から$\gamma^{-1}:\Gamma\to[0,\infty)$は連続となり, ティーチェの拡張補題をやや修正したものを用いて$\gamma^{-1}$は連続関数$g:C\to [0,,\infty)\ s.t.\ g|_\Gamma=\gamma^{-1}$へと拡張される。従って$f:C\to C$を
$$f(x):=\gamma(g(x)+1)$$で定めると$f$は不動点を持たない。実際もしある$\overline{x}\in C$で$f(\overline{x})=\overline{x}$なるものが存在したなら, $\overline{x}\in\Gamma $ゆえ$\gamma(\gamma^{-1}(\overline{x}+1)=\gamma(\gamma^{-1}(\overline{x}))$であるが$\gamma $の単射性より矛盾する。
上定理は次の無限次元バナッハ空間論における興味深い現象を帰結させてくれることを述べる。
$X$を無限次元バナッハ空間とするとき, $\partial \overline{B}_X(0,1)$は閉単位球のレトラクトである。
$f:\overline{B}_X(0,1)\to\overline{B}_X(0,1)$を連続写像とする。$f$は不動点を持たないことがKleeの定理とノルム位相に関してノルム空間の閉単位球のコンパクト性の特徴付けより分かる(弱*位相ではコンパクトであることを主張したのがBanach-Alaoglu)。この$f$を拡張した$f_1:\overline{B}_X(0,2)\to\overline{B}_X(0,1)$を
$$f_1(x):=\begin{cases}
f(x)&\|x\|\le 1\\
(2-\|x\|)f(\frac{x}{\|x\|})&1<\|x\|\le 2\end{cases}$$を定める。次に$f_2:\overline{B}_X(0,1)\to\overline{B}_X(0,1)$を
$$f_2(x):=\frac{1}{2}f_1(2x)$$で定めると, $f_2$は不動点を持たない。任意の$x\in\partial\overline{B}_X(0,1)$に対し$f_2(x)=0$が成り立つ。よって連続写像$r:\overline{B}_X(0,1)\to\partial\overline{B}_X(0,1)$を
$$r(x):=\frac{x-f_2(x)}{\|x-f_2(x)\|}$$で定めるとこれはレトラクションである。