レトラクト
の部分集合がのレトラクトであるとは, 連続写像でへの制限写像が恒等写像となる, すなわち任意のでなるものが存在することである。このときをレトラクションという。
レトラクトはをの-次元ホモロジー群として準同型を誘導する。自然な全射もを誘導しは上の恒等写像なのでは上の恒等写像となる。ここでよりである。すなわちであるが, 一方でホモロジー群を観察すると
なので矛盾する。
下記の補題はBrouwerによって発見された。
もし不動点をもたないなら, (ただし
で定まるはレトラクションであるがこれは前補題に矛盾する。
ブラウワーの不動点定理
をのコンパクト凸部分集合とする。このとき任意の連続写像は固定点をもつ。
としても一般性を失わない。任意のに対してをを満たすで定めると, 任意のに対しである。さらには上連続となる。なぜなら, とそれに収束するについて
が成り立つので, はに収束する。次にをで定めると連続な全射である。よってであってを満たすものがあることが前定理より推察される。
次は線形代数学におけるペロン・フロべニウスの定理と呼ばれるものの一部を主張するものである。
を正数を成分にもつ行列とすると, は正の固有値をもつか。
は線形変換と思い,コンパクト凸集合を定義する。
を定める。もしならの各成分は非負で少なくとも一つは正であるので, の各成分は線形性より正である。よってはからへの連続写像であるであってを満たすものが存在する。
代数学の基本定理
を次数の複素係数多項式とするとき, でを満たすものが存在する事を示そう。
と思い, としてをモニック多項式としても良い。とおきをに対して
で定めるとこれは連続関数である。コンパクト凸集合を定義し, ブラウワーの不動点定理を用いるためを示す。もしなら
であり, もしなら
よりは固定点をもちとなる。
1の分割
を局所コンパクトハウスドルフ空間Xの開集合とし, をコンパクトでを満たすとする。すると, 任意のに対しあるであって, 上でかつ
を満たすものが存在する。
開被覆の下での上の1の分割と呼ぶことにする。
の存在性はウリゾーンの補題から導出される(Mathpedia参照)。
以後, 局所凸位相線形空間のことを局所凸であると略記する。
シャウダーの不動点定理
を局所凸空間, を非空の凸集合としをコンパクトとする。が連続写像ならば, でなるものが存在する。
を, 上のセミノルムの分離族により生成されるの位相の基本近傍系として記述する。与えられたに対して, のコンパクト性からある自然数があって
を開被覆の下での上の1の分割として
を定めると, での凸結合で表示されるベクトル全体を表すとし
であり, ブラウワーの不動点定理からを満たすが存在するので
(ただしならば)が成り立つ。のコンパクト性から
である。これにはコンパクトな空間において「有限交叉性をもつ閉部分集合族の共通部分は空でない」という命題を用いてある。次に, 任意のに対して
とおけばは上連続なためなるが存在する。
さらに, (ii)からこのWに対し
を満たす。(i)と(iii)から
であるため, が成り立つ。このこと及び(iii)から
である。よって任意のに対しからである。
をバナッハ空間, とする。とかいて連続写像をが相対コンパクトとなるものとする。
各に対してとする。このときでを満たすものが存在する。
もしそうでないと仮定すればをで定めたものは連続写像では相対コンパクトである。シャウダーの不動点定理よりはあるを不動点にもつ。
これは仮定に反する。
任意のに対してあるが存在する。よってでを満たすものが存在する。
を定める。もしが非零なら上と同様には不動点をもち, なるに対しが成り立つ。を満たすをとれば
であるが背理法のもとで矛盾する。後半の主張は前系との線形性から前系の仮定をは満たすため成り立つ。
を連続関数であって
を満たすものとするとき, となることも導かれる。
を固定し, をで定める。すると十分大きなに対して
である。を
で定義するとこれは前系の条件を満足するので, あるでを満たすものが存在しは全射となる為である。
コンパクト作用素
をバナッハ空間とする。線形作用素がコンパクトであるとはの任意の有界集合のによる像が相対コンパクトであることであり, これは閉単位球のによる像が相対コンパクトであること, 任意の有界列に対してが収束部分列を含むことと同値である。
シェファーの不動点定理
をバナッハ空間とし, を連続なコンパクト作用素とする。さらに
を有界集合とする。このときは不動点をもつ。
をおき写像を
で定めると, これは連続なコンパクト作用素である。するとシャウダーの不動点定理からあるでなるものが存在する。ならばで題意は示される。また
よりが成立し, これはがに属することから最初の仮定に反する。よってとなる場合は有り得ることはない。
ここで, 教養年次で必ず習うことになる次の定理を述べその応用事例を紹介する。
Banachの不動点定理
を完備距離空間上の縮小写像としたとき, は一意な不動点をもつ。
を完備距離空間とし, を位相空間とする。を連続写像とし, を次の意味で一様な縮小写像とする。
このとき, 任意のに対して写像は一意な不動点をもつ。また, は連続写像である。
なおが第二引数を固定したとき連続であってが一様な縮小写像とすると, 上連続である。
バナッハの不動点定理よりの連続性を示すだけで事足りる。任意のに対して
より
である。とすることでの連続性が従う。
Krasnoselskii
をバナッハ空間とし, を非空の閉凸集合とする。が
(a)
(b) は連続なコンパクト作用素である
(c) はからへの縮小写像である
とする。このときは不動点を持つ。
は連続写像で三角不等式から縮小写像のリプシッツ定数に対して
が成り立つ。これはは連続写像であることを意味する。任意のに対して
は上の縮小写像である。バナッハの不動点定理よりであってとなるものが存在してである。連続写像およびコンパクト作用素の合成はまたそうであるからは連続なコンパクト作用素である(コンパクト作用素全体がの作用素イデアルをなすことも認めた)。は閉集合という仮定とコンパクト作用素の定義からブラウワーの不動点定理で
すなわちである。
定理5におけるのコンパクト性は崩すことはできない事を可分ヒルベルト空間における例で述べる。
を固定し, を
で定めるとこれは定義域内に不動点をもたないが,
を満たし, リプシッツ連続である。リプシッツ連続なら明らかに連続である。
不動点定理が成り立たない例について述べていく。つまり, をバナッハ空間において有界閉かつ凸部分集合としたとき, いつ連続写像は不動点を持ち, またいつ持たないのか。このことに焦点を当てたような以下の定理はKleeにより発見された。まずは手短に非コンパクトな有界閉集合に対しどのような性質を見出すことが出来るのかについて聡明な視点で解析した次の補題を述べる。
をバナッハ空間, を有界閉で非コンパクト集合とする。このとき,が成り立つ。
まず, はの条件から無限次元バナッハ空間であることは必須である。まずであって任意の有界集合に対し
を満たすものが存在する事を背理法で示す。任意のに対しある有界集合でを満たすとする。は有界なのであるに対してを満たすため,が成り立つ。ここでは全有界なので, 有限個の半径の開球による被覆が存在し, は半径の開球による有限被覆を持つ。すなわちは全有界ゆえコンパクト (というのもMathpedia様の「全有界性と完備化がコンパクトなことは同値」と「完備距離空間の閉部分集合は完備」)となるが, これは仮定に反する。
次に, 求める点列を帰納的に構成する。まず任意にを選び, もし(1)を満たすが与えられたなら
を非空なので選択すれば良い。
Klee
を無限次元バナッハ空間とし, を有界閉で凸集合かつ非コンパクトとする。このとき連続写像であって不動点を持たないものが存在する。
を(1)を満たす点列とし, かつとしても一般性を失わない。区分線形曲線を
で定める。ただし, (はガウス記号)である。(1)によりは全単射である。よって開写像原理の応用である有界逆写像定理からは連続となり, ティーチェの拡張補題をやや修正したものを用いては連続関数へと拡張される。従ってを
で定めるとは不動点を持たない。実際もしあるでなるものが存在したなら, ゆえであるがの単射性より矛盾する。
上定理は次の無限次元バナッハ空間論における興味深い現象を帰結させてくれることを述べる。
を無限次元バナッハ空間とするとき, は閉単位球のレトラクトである。
を連続写像とする。は不動点を持たないことがKleeの定理とノルム位相に関してノルム空間の閉単位球のコンパクト性の特徴付けより分かる(弱*位相ではコンパクトであることを主張したのがBanach-Alaoglu)。このを拡張したを
を定める。次にを
で定めると, は不動点を持たない。任意のに対しが成り立つ。よって連続写像を
で定めるとこれはレトラクションである。