カタラン数とは次の一般項で定義される数列で,組合せ論において様々な意味を持ちます
これから3回にわたって,カタラン数とその一般化を考えていきます.
次のようなテーマで紹介していこうと考えています.
その1. カタラン数の意味と一般項
その2. 最短経路を通したカタラン数の拡張
その3. 標準ヤング盤を通したカタラン数の拡張
組合せ論における意味
まずは,組合せ論においてカタラン数が現れる例を挙げていきます.
一般項の証明は最後に行うので,まずはこれらの命題の同値性を確認していきましょう.
Dyck path
平面上で,とを向かい合う頂点とする正方形状の格子を考える.
この格子上におけるからへの最短経路で,常に領域を通るものの総数は,に等しい
Dyck word
個のと個のを並べてできる順列であって,任意のに対して,
(番目までのの個数)(番目までのの個数)
が成り立つものの総数はに等しい
ちなみに,を"(",を")"に置き換えれば,命題2の条件は組の()が正しく並べられる条件に一致します.すなわち組の括弧を正しく並べる方法の総数はカタラン数ということです.
命題2命題1
この順列において,を軸方向の移動,を軸方向の移動に対応させると,これはからへの最短経路で,常に領域を通るものの総数に等しい.よって,命題2命題1が成立する.
標準ヤング盤
のマス目にからまでの数字を1つずつ書き込むとき,次の条件を満たす方法の総数は,に等しい
- 横に隣り合う任意の2つのマスについて,左に書かれた数字よりも右に書かれた数字の方が大きい.
- 縦に隣り合う任意の2つのマスについて,上に書かれた数字よりも下に書かれた数字の方が大きい.
命題3命題2
を順番に書き込んでいくと考え,下に数字を書き込むことを,上に数字を書き込むことをとして表すことでできる順列を考える.このとき,条件を満たすマスは,個のと個のを並べてできる順列であって,任意のに対して,
(番目までのの個数)(番目までのの個数)
が成り立つものと1対1に対応する.よって,命題3命題2が成立する.
命題1からすぐに同値性が分かるのはここまでです.カタラン数に対して成り立つ漸化式を考えてみると,さらに世界が広がります.
命題4命題1
は明らか.命題1における最短経路で,最初に通った上の点を
とする.を固定して考えた時,命題1を満たす最短経路の総数は,
(からの最短経路で,常に領域を通る方法の総数)
(からの最短経路で,常に領域を通る方法の総数)
であるから,となる.
よって,これをについて足し合わせて
よって
逆に,がこの漸化式を満たす時,命題1は成り立つ.
三角形分割
頂点を区別できる凸角形を,交差しない本の対角線で個の三角形に分割する方法の総数はである.
命題5命題4
のとき1通りであって,であるから成立.
与えられた凸角形の頂点を順にとする.
このとき,が1つの三角形となるがただ1つ存在する.を固定した時,分割の総数は
(角形の分割の総数)(角形の分割の総数)
であるから,となる.これをについて足し合わせて
よって
逆に,がこの漸化式を満たす時,命題5は成り立つ.
一般項の証明
さていよいよ一般項を導いていきます.3通りの証明を紹介します.
一番簡潔で良く知られている証明は次の証明です.
命題1を示す.
からまでのすべての最短経路から,を通る経路の総数を引くと考える.
を通る経路において,最初に通る直線上の点をとする.
におけるからまでの経路と,
におけるからまでの経路をに対して対称移動させてできる経路を
つなげてできる経路を考える.
このとき,にはからまでの最短経路がちょうど1つずつ現れる.よって,を通る経路の総数はに等しい
すべての最短経路は個あるから,条件をみたす最短経路の総数は
2つ目の証明は最初のものに比べると少しだけ高度ではありますが,
ほぼ計算なしでからへのすべての最短経路の
倍となることが分かります.
命題1を示す.
からまでのすべての最短経路のうち,より
上側でy軸方向に進む回数が回であるものの集合をとする.
また,常に領域を通るものの総数をとする.
定義より,
また、
のとき、とが1対1に対応することを示す.
の要素について,最初にを踏むときの座標を
とする.この経路を次の3つの部分に分ける.
: からまでの経路
: からまでの経路
: からまでの経路
ここで、の順番を入れ替えて,とした経路を考える。
の分だけ上にはみ出る部分が増えるので,この経路はの要素になる。
よって、との間で1対1対応が構成できる。
このことから、
ここまでは最短経路の総数からうまく対応を見つけて一般項を導いてきましたが,
漸化式から母関数を求めて,計算によって求める事もできます.
母関数とは数列に対して,次のように定義される関数のことです.
数列の性質を直接調べることが難しい場合,このような関数を考えて
マクローリン展開などの解析的な手法を使うことで間接的に性質を調べられる場合があります.
漸化式
で定義される数列が,カタラン数に等しいことを示す.
の母関数は次のように表される..
のの係数を考えると,漸化式よりこれはとなる.よって,
すなわち,
よって,
より,である必要があるので,
次に,をマクローリン展開したときの,の係数を求める.
よって,のの係数はだから,
のの係数は
よって,が成立
次回からは,タイトル通りカタラン数を様々な形で一般化していこうと思います.
カタラン数とその拡張 その2 〜最短経路を通したカタラン数の拡張〜