1
大学数学基礎解説
文献あり

Skorohodの表現定理 (Skorohod representation theorem)

616
0

はじめに

本記事ではSkorohodの表現定理について紹介する.
Skorohodの定理の主張を簡単に言えば, 確率測度の列がある確率測度に収束するならば, 適当な確率空間上にそれぞれに対応する分布を持つ確率変数列と確率変数を同時に定義することができて, さらにその列が概収束するようにすることができる, というものである.

もっと大雑把だがより分かりやすい表現を目指すなら, 次のようにいうことができる. 分布収束は対象の確率変数たちが必ずしも同じ確率空間上にいる必要はないが, それゆえ取り扱いが不便なこともある. しかし, 分布収束するなら共通の確率空間へ引っ越しできる, というものである. このことは応用例の節で具体的にみる.

準備

ここでは, 諸事項をおさらいしておこう.

確率測度の弱収束

μ,μ1,μ2,を可測空間S上の確率測度とする. 列(μn)nμに弱収束するとは, S上の任意の有界連続関数fに対し,
limnfdμn=fdμ
が成り立つことをいう. またこのとき, μnμ (n)とかく.

また, S-値確率変数X,X1,X2,とする. (Xn)nの分布の列がXの分布に弱収束するとき, XnX (n)とかき, XnXに分布収束するという.

この先の議論において測度の台が登場するが, 次のものが一般的な定義のようである.

測度の台-1

Sを位相空間, μS上の測度とする. xSで, その任意の開近傍USに対しμ(U)>0となるもの全体をμの台と呼び, supp(μ)で表す.

定義より直ちにμの台がSの閉集合であることが分かる. また, 次が知られている.

Sを位相空間とし, μS上の測度とする. また, 次をおく:

  1. Sは可算開基を持つ.
  2. Sは局所コンパクトハウスドルフ空間で, かつμはラドン測度である.

このとき, (i)または(ii)が成り立つならば,
(1)supp(μ)=C: closedμ(SC)=0C
である.

参考文献において測度の台が現れるが, どのような定義を採用しているか見つからなかった. しかし, 議論の中で(1)の性質が用いられている. S自体に(i),(ii)を仮定してもよいが, 広く普及していると思われる参考文献中の定理のステートメントに合わせるため, 本記事では台の定義は次のものを採用することにする.

測度の台-2

Sを位相空間, μS上の測度とする. 補題1の(1)をμの台と呼ぶ.

例えば, Sが可分距離空間の場合は, (i)が満たされ, 定義2,3は一致する.

確率測度の弱収束に関するよく知られた事実を参照しておく.

μ,μ1,μ2,を距離空間S上の確率測度とする. このとき次の(1),(2)は同値である.

  1. μnμ (n).
  2. Sのボレル集合Aμ(A)=0を満たすならば, limnμn(A)=μ(A)である.

Skorohodの表現定理

(S,d)を距離空間とし, xSを中心とするε-開球をB(x,ε)で表す. また, Sのボレル集合族をB(S)で表す.

Skorohodの表現定理

μ,μ1,μ2,S上の確率測度とし, μの台は可分とする. このとき, μnμ (n)ならば, ある確率空間(Ω,F,P)上にS-値確率変数X,X1,X2,を定義でき, さらに各XnXの分布がそれぞれμn, μでかつXnX (n),P-a.s.となるようにできる.

主張にある収束はSの位相における収束であることに注意する.

この定理の証明に用いる次の補題を先に示す.

μを台が可分なS上の確率測度とする. このとき, 任意のε>0に対し, Sのある有限個の非交差かつS=i=0kBiを満たすB0,B1,,BkB(S)で, 次を満たすものが存在する.

  1. μ(B0)<ε,
  2. μ(Bi)=0,i=0,1,,k,
  3. diamBi:=supx,yBid(x,y)<ε,i=1,2,,k.

ε>0とし, M=supp(μ)とおく. xMを任意に取る. このとき, 各j=1,2,に対してμ(B(x,r))1/jを満たす0<r<ε/2は高々j個なので, μ(B(x,r))>0を満たす0<r<ε/2は高々可算個である. よってμ(B(x,r))=0を満たす0<r<ε/2は無数に存在する.
ここで, Mが可分であることと上に示した事実により, Mμ(B(x,r))=0を満たす高々可算個の(B(x,r))xM,0<r<ε/2で被覆される. その被覆をA1,A2,とする. μ(i1Ai)μ(M)=1と測度の連続性より, 十分大きなkに対して
(2)μ(i=1kAi)>1ε
とできる.
B0=Si=1kAiとし,
{B1=A1,Bi=Aij=1i1Aj,i=2,3,,k
とおく. μ(B0)=1μ(i=1kAi)と(2)より(i)が分かり, また各iに対しBiAiより(iii)を得る. そして各iに対してBii=1kAiμ(Ai)=0より, (ii)が得られる.

定理3の証明

m=1,2,に対しεm=1/2mとおく. 補題4より, 各mに対し, 非交差なB0m,,BkmmB(S), S=i=0kmBimで,
(R1) μ(B0m)<εm,
(R2) μ(Bim)=0,i=0,1,,km,
(R3) diamBim<εm,i=1,2,,km

とする. ここで, もしμ(Bim)=0であるようなBim (i1)があれば, それらすべてとB0mとの合併を新たにB0mをみなすことで(i)-(iii)が満たされ, また合併されたもの以外のBimについてはμ(Bim)>0である. したがって, 最初からすべてのBim (i1)μ(Bim)>0を満たすと仮定してよい.

μnμ (n)なので, 各mに対し(ii)と命題2より, 適当なnmが存在して, nnmならば
μn(Bim)(1εm)μ(Bim),i=0,1,,km
である. ここで適当に番号を取り換えて, 1<n1<n2<としておく.

(Ω1,F1,P1)=(S,B(S),μ), (Ωn2,Fn2,Pn2)=(S,B(S),μn) (n1)とおく. また, nn1, i1AB(S)に対し,
{νn,i(A)=μn(ABim)=μn(ABim)μn(Bim),νn(A)=εm1i=0kmμn(ABim){μn(Bim)(1εm)μ(Bim)}, if nmn<nm+1
で定め, (Ωn,i3,Fn,i3,Pn,i3)=(S,B(S),νn,i) (nn1,i1), (Ωn4,Fn4,Pn4)=(S,B(S),νn) (nn1)とおく. また, (Ω5,F5,P5)=([0,1],B([0,1]),λ)とおく. ただし, λR上のルベーグ測度である.

さて, (Ω,F,P)をこれらすべての直積確率空間, すなわち
(Ω,F,P)=(Ω1,F1,P1)×n1(Ωn2,Fn2,Pn2)×nn1i1(Ωn,i3,Fn,i3,Pn,i3)×nn1(Ωn4,Fn4,Pn4)×(Ω5,F5,P5)
とおく. そしてω=(ω1,ω12,,ωn2,,ωn,i3,,ωn4,,ω5)Ωn1に対し,
X(ω)=ω1,Xn(ω)={ωn2,n<n1i=0km1{ω51εm, ω1Bim}ωn,i3+1{ω5>1εm}ωn4,nmn<nm+1
と定める. このときXの分布はμである. またnmn<nm+1AB(S)に対し,
P(XnA)=i=0km(1εm)μ(Bim)νn,i(A)+εmνn(A)=μn(A)
であり, n<n1のときは定め方から明らかにP(XnA)=νn(A)である. したがって, すべてのn1についてXnの分布はμnである.

m1に対しEm={ω1B0m, ω51εm}, E=liminfmEm=j1kjEkとする. ωEm, nmn<nm+1とすると, あるiに対しω1Bimであり, このとき定め方からXn(ω)=ωn,i3である. ωn,i3Bimならば, (iii)よりd(Xn(ω),X(ω))<εmである. すなわち
(3)Emnmn<nm+1i=1km({d(Xn(ω),X(ω))<εm}{ω1Bim, ωn,i3Bim})
である. また, P(ω1Bim, ωn,i3Bim)=μ(Bim)νn,i(SBim)=0である. したがって,
(4)E{limnXn(ω)=X(ω)}N
を得る. ただし, NFは(3)から得られるP-零集合である.

m=1P(SEm)m=1(μ(B0m)+εm)m=112m1<
なので, ボレル-カンテリの補題よりP(E)=1である. (4)より, limnXn=X,P-a.s.を得る.

応用例

C([0,);R)[0,)上で定義された実数値連続関数全体とし, 広義一様収束位相を入れた空間とする.

ξ1,ξ2,を期待値0, 分散1の独立同分布確率変数列とし, Sn=ξ1++ξnとおく.
このとき,
Wtn=S[nt]n+(nt[nt])ξ[nt]+1n,t0
とおくと, Wn=(Wtn)t0C([0,);R)である. ただし, [x]xを超えない最大の整数を表す. したがってWnC([0,);R)上に確率測度を誘導し, その像測度をPWn=P(Wn)1とする.

次の定理が知られている.

Donskerの不変原理

C([0,);R)の位相のもと, WnW (n)である. ただし, W=(Wt)t0は1次元標準ブラウン運動である. すなわち, PWnは1次元標準Wiener測度に弱収束する.

さて, 上の定理と定理3より, 共通の確率空間(Ω,F,P)がとれて, この確率空間上にξ1,ξ2,と1次元標準ブラウン運動Wが定義されているとみなすことができ, 任意のT>0に対し,
sup0tT|WtnWt|0,n,P-a.s.
が成り立つ.

参考文献

[1]
Billingsley,P., Convergence of Probability Measures, Second Edition, Wiley Series in Probability and Statistics, Wiley, 1999
投稿日:202249
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

megumin
megumin
6
4393
Interest: Stochastic differential equations, stochastic calculus of variations, mathematical finance, quantum computing.

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. はじめに
  2. 準備
  3. Skorohodの表現定理
  4. 応用例
  5. 参考文献