はじめに
本記事ではSkorohodの表現定理について紹介する.
Skorohodの定理の主張を簡単に言えば, 確率測度の列がある確率測度に収束するならば, 適当な確率空間上にそれぞれに対応する分布を持つ確率変数列と確率変数を同時に定義することができて, さらにその列が概収束するようにすることができる, というものである.
もっと大雑把だがより分かりやすい表現を目指すなら, 次のようにいうことができる. 分布収束は対象の確率変数たちが必ずしも同じ確率空間上にいる必要はないが, それゆえ取り扱いが不便なこともある. しかし, 分布収束するなら共通の確率空間へ引っ越しできる, というものである. このことは応用例の節で具体的にみる.
準備
ここでは, 諸事項をおさらいしておこう.
確率測度の弱収束
を可測空間上の確率測度とする. 列がに弱収束するとは, 上の任意の有界連続関数に対し,
が成り立つことをいう. またこのとき, とかく.
また, -値確率変数とする. の分布の列がの分布に弱収束するとき, とかき, がに分布収束するという.
この先の議論において測度の台が登場するが, 次のものが一般的な定義のようである.
測度の台-1
を位相空間, を上の測度とする. で, その任意の開近傍に対しとなるもの全体をの台と呼び, で表す.
定義より直ちにの台がの閉集合であることが分かる. また, 次が知られている.
を位相空間とし, を上の測度とする. また, 次をおく:
- は可算開基を持つ.
- は局所コンパクトハウスドルフ空間で, かつはラドン測度である.
このとき, (i)または(ii)が成り立つならば,
である.
参考文献において測度の台が現れるが, どのような定義を採用しているか見つからなかった. しかし, 議論の中で(1)の性質が用いられている. 自体に(i),(ii)を仮定してもよいが, 広く普及していると思われる参考文献中の定理のステートメントに合わせるため, 本記事では台の定義は次のものを採用することにする.
測度の台-2
を位相空間, を上の測度とする. 補題1の(1)をの台と呼ぶ.
例えば, が可分距離空間の場合は, (i)が満たされ, 定義2,3は一致する.
確率測度の弱収束に関するよく知られた事実を参照しておく.
を距離空間上の確率測度とする. このとき次の(1),(2)は同値である.
- .
- のボレル集合がを満たすならば, である.
Skorohodの表現定理
を距離空間とし, を中心とする-開球をで表す. また, のボレル集合族をで表す.
Skorohodの表現定理
を上の確率測度とし, の台は可分とする. このとき, ならば, ある確率空間上に-値確率変数を定義でき, さらに各との分布がそれぞれ, でかつとなるようにできる.
主張にある収束はの位相における収束であることに注意する.
この定理の証明に用いる次の補題を先に示す.
を台が可分な上の確率測度とする. このとき, 任意のに対し, のある有限個の非交差かつを満たすで, 次を満たすものが存在する.
- ,
- ,
- .
とし, とおく. を任意に取る. このとき, 各に対してを満たすは高々個なので, を満たすは高々可算個である. よってを満たすは無数に存在する.
ここで, が可分であることと上に示した事実により, はを満たす高々可算個ので被覆される. その被覆をとする. と測度の連続性より, 十分大きなに対して
とできる.
とし,
とおく. と(2)より(i)が分かり, また各に対しより(iii)を得る. そして各に対してとより, (ii)が得られる.
定理3の証明
に対しとおく. 補題4より, 各に対し, 非交差な, で,
(R1) ,
(R2) ,
(R3)
とする. ここで, もしであるようながあれば, それらすべてととの合併を新たにをみなすことで(i)-(iii)が満たされ, また合併されたもの以外のについてはである. したがって, 最初からすべてのがを満たすと仮定してよい.
なので, 各に対し(ii)と命題2より, 適当なが存在して, ならば
である. ここで適当に番号を取り換えて, としておく.
, とおく. また, , とに対し,
で定め, , とおく. また, とおく. ただし, は上のルベーグ測度である.
さて, をこれらすべての直積確率空間, すなわち
とおく. そしてとに対し,
と定める. このときの分布はである. またとに対し,
であり, のときは定め方から明らかにである. したがって, すべてのについての分布はである.
に対し, とする. , とすると, あるに対しであり, このとき定め方からである. ならば, (iii)よりである. すなわち
である. また, である. したがって,
を得る. ただし, は(3)から得られる-零集合である.
なので, ボレル-カンテリの補題よりである. (4)より, を得る.
応用例
を上で定義された実数値連続関数全体とし, 広義一様収束位相を入れた空間とする.
を期待値, 分散の独立同分布確率変数列とし, とおく.
このとき,
とおくと, である. ただし, はを超えない最大の整数を表す. したがっては上に確率測度を誘導し, その像測度をとする.
次の定理が知られている.
Donskerの不変原理
の位相のもと, である. ただし, は1次元標準ブラウン運動である. すなわち, は1次元標準Wiener測度に弱収束する.
さて, 上の定理と定理3より, 共通の確率空間がとれて, この確率空間上にと1次元標準ブラウン運動が定義されているとみなすことができ, 任意のに対し,
が成り立つ.