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パップス・ギュルダンの定理の拡張について

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$\newcommand{diff}[2]{\frac{d #1}{d #2}} \newcommand{pdiff}[2]{\frac{\partial #1}{\partial #2}}$
パッブス・ギュルダンの定理をご存知でしょうか?

パップス・ギュルダンの定理

平面図形$A$と直線$l$があり,$A$$l$の周りに回転させてできる図形を$K$とする.
$K$の体積を$V$$A$の面積を$S$$A$の重心の移動距離を$L$とすると,

$V=SL$

が成立する.ただし$A$を回転させる過程で$A$のそれまでの軌跡と重ならないようにする.

これについて私が疑問に思ったのは,$V(体積)=S(面積)\times L(重心の移動距離)$という等式は,回転体でなくても,図形$A$がどんな軌跡を描いたとしても成立するのではないか?ということです.
もちろん$A$の動き方がある程度滑らかで,常に$A$$A$の進行方向と垂直であり,動く過程で同じ部分を通らないという制約はあります.

まず,具体的な曲線に対して成立しているか軽く検討してみます.$A$の重心が描いた曲線を仮に$C$とします.
柱体に対して$(体積)=(高さ)\times (底面積)$が成り立つので,$C$が線分であれば$V=SL$は成立します.(実際は図形の回転を気にする必要がありますが).さらにパップス・ギュルダンの定理から,$C$が円弧と線分を連結した曲線であっても成立しそうです.サイクロイドなどの曲線に対しても頑張って計算してみると成り立っていることが確認できます.

では常に$V=SL$は成立するのでしょうか?これは私が小学生の頃から持っていた疑問だったのですが,最近学校の先生やその同期の方などにご協力いただき,遂に証明が完成したのでここに記そうと思います.

パップス・ギュルダンの定理の拡張

$I=[a,b]$を有界閉区間とし,曲線$C:I\rightarrow \mathbb{R}^3$$C^1$級であるとする.また,任意の$t\in I$に対し,$\diff{C}{t}(t)\neq (0,0,0)$であるとする.
2つの$C^1$級写像$e_1:I\rightarrow \mathbb{R}^3,e_2:I\rightarrow \mathbb{R}^3$が,任意の$t\in I$に対し,次を満たすとする.

  • $|e_1(t)|=|e_2(t)|=1$
  • $e_1(t),e_2(t),\diff{C}{t}(t)$はどの2つも直交する.

この$e_1,e_2$は,$\mathbb{R}^2$上のベクトル$(1,0),(0,1)$が時刻$t$においてどこに移るかを意味する.

$A$$\mathbb{R}^2$の空でなく連結な閉部分集合であり,その重心は$(0,0)$であるとする.また,$F=F(x,y,t)=C(t)+xe_1(t)+ye_2(t)$で定まる写像$F:\mathbb{R}^2\times I\rightarrow \mathbb{R}^3$に対し,定義域を$A^o\times I^o$に絞って得られる写像$F_A:A^o\times I^o\rightarrow \mathbb{R}^3$が単射であるとする.ただし$A^o$$A$の内部を,$I^o$は開区間$(a,b)$を指す.

この写像$F$は平面上の点が時刻$t$においてどこに移るかを意味する.

このとき$F(A\times I)$の体積を$V$$A$の面積を$S$$C$の長さを$L$とすれば,

$V=SL$

が成立する.

証明

重積分の置換積分を使って証明する.計算上の仮定としてヤコビアン$det\left(\pdiff{F}{x} \pdiff{F}{y} \pdiff{F}{t}\right)$の符号が変化しないことを示す必要があるが,とりあえずこれを認めれば$V=SL$が成立することを示す.

前半

$$V= \int_{F(A\times I)}dxdydz=\int_{A\times I}\left|det\left(\pdiff{F}{x}(x,y,t)\ \pdiff{F}{y}(x,y,t)\ \pdiff{F}{t}(x,y,t)\right)\right|dxdydt$$
となる.ここで,常に$det\left(\pdiff{F}{x} \pdiff{F}{y} \pdiff{F}{t}\right)\ge 0$または$det\left(\pdiff{F}{x} \pdiff{F}{y} \pdiff{F}{t}\right)\le 0$が成り立つならば,
$$V=\int_{A\times I}\left|det\left(\pdiff{F}{x}\ \pdiff{F}{y}\ \pdiff{F}{t}\right)\right|dxdydt=\left|\int_{A\times I}det\left(\pdiff{F}{x}\ \pdiff{F}{y}\ \pdiff{F}{t}\right)dxdydt\right|$$
と変形することができる.ひとまずこれを認めて計算を進めるとする.
簡単のため,$e_3(t):=e_1(t)\times e_2(t)$とする.
$$det\left(\pdiff{F}{x}\ \pdiff{F}{y}\ \pdiff{F}{t}\right)=det\left(e_1(t)\ e_2(t)\ \pdiff{F}{t}\right)=(e_1(t)\times e_2(t))\cdot\left\{\diff{C}{t}(t)+x\diff{e_1}{t}(t)+y\diff{e_2}{t}(t)\right\}=e_3(t)\cdot\diff{C}{t}(t)+xe_3(t)\cdot\diff{e_1}{t}(t)+ye_3(t)\cdot\diff{e_2}{t}(t)$$
よって,
$$\int_{A\times I}det\left(\pdiff{F}{x}\ \pdiff{F}{y}\ \pdiff{F}{t}\right)dxdydt=\int_{A\times I}e_3(t)\cdot\diff{C}{t}(t)dxdydt+\int_{A\times I}xe_3(t)\cdot\diff{e_1}{t}(t)dxdydt+\int_{A\times I}ye_3(t)\cdot\diff{e_2}{t}(t)dxdydt$$
となる.
第2項については,
$$ \int_{A\times I}xe_3(t)\cdot\diff{e_1}{t}(t)dxdydt=\left(\int_{A}xdxdy\right) \cdot \left(\int_{I}e_3(t)\cdot\diff{e_1}{t}(t)dt\right) $$
であり,
$$ \int_{A}xdxdy=S\times (Aの重心のx座標)=S\times 0=0 $$
であるから0となる.第3項についても同様.よって,
$$ \int_{A\times I}det\left(\pdiff{F}{x}\ \pdiff{F}{y}\ \pdiff{F}{t}\right)dxdydt=\int_{A\times I}e_3(t)\cdot\diff{C}{t}(t)dxdydt=\left(\int_{A}dxdy\right) \cdot \left(\int_{I}e_3(t)\cdot\diff{C}{t}(t)dt\right)=S\int_{I}e_3(t)\cdot\diff{C}{t}(t)dt $$
となる.ここで$e_1(t),e_2(t)$は互いに垂直な長さ1のベクトルで,$\diff{C}{t}(t)$と垂直なので,
$e_3(t)=e_1(t)\times e_2(t)$$\diff{C}{t}(t)$に平行な長さ1のベクトルである.よって,$e_3(t)\cdot\diff{C}{t}(t)$$|\diff{C}{t}(t)|$$-|\diff{C}{t}(t)|$のいずれかである.

ここで,常に$det\left(\pdiff{F}{x} \pdiff{F}{y} \pdiff{F}{t}\right)\ge 0$または$det\left(\pdiff{F}{x} \pdiff{F}{y} \pdiff{F}{t}\right)\le 0$であったことから,$t$を固定すると,$$\int_{A}det\left(\pdiff{F}{x} \pdiff{F}{y} \pdiff{F}{t}\right)dxdy=\int_{A}e_3(t)\cdot\diff{C}{t}(t)dxdy=S\cdot \left(e_3(t)\cdot\diff{C}{t}(t)\right)$$は常に0以上または0以下である.よって,$e_3(t)\cdot\diff{C}{t}(t)$の値もつねに0以上または0以下となるので,
$$V=\left|S\int_{I}e_3(t)\cdot\diff{C}{t}(t)dt\right|=S\int_{I}\left|e_3(t)\cdot\diff{C}{t}(t)\right|dt=S\int_{I}\left|\diff{C}{t}(t)\right|dt=SL$$
が成立する.

次に,最初に保留した,ヤコビアンが符号変化しないことを証明する.方針としては,$A^o$上のある点が時刻$t_0$でヤコビアンが$0$になると仮定し,重心とその点を結ぶ直線の像は$t_0$から少しずれた時刻でも時刻$t_0$での$A^o$の像と共有点をもつことを示す.

後半

ある$p_0=(x_0,y_0)\in A^o$および$t_0\in I^o$に対して,$det\left(\pdiff{F}{x}(x_0,y_0,t_0)\ \pdiff{F}{y}(x_0,y_0,t_0)\ \pdiff{F}{t}(x_0,y_0,t_0)\right)=0$と仮定し,$F_A$の単射性から矛盾を導く.

$r$を実数とするとき,$rp_0$$(0,0)$$p_0$を結ぶ直線上の点を与える.これに対し,
$F(rp_0,t)=C(t)+r(x_0e_1(t)+y_0e_2(t))$であり,$g(t)=x_0e_1(t)+y_0e_2(t)$とすれば,$F(rp_0,t)=C(t)+rg(t)$
ここで$t$を固定して,$g(t)\cdot e_3(t_0)\neq 0$のとき,$F(rp_0,t)\in F(\mathbb{R}^2,t_0)$を満たす$r$を考える.
$$F(rp_0,t)\in F(\mathbb{R}^2,t_0 ) \Longleftrightarrow\{F(rp_0,t)-C(t_0)\}\cdot e_3 (t_0 )=0\Longleftrightarrow \{C(t)-C(t_0 )+rg(t)\}\cdot e_3 (t_0 )=0\\ \Longleftrightarrow r=\frac{\{C(t_0)-C(t)\}\cdot e_3 (t_0)}{g(t)\cdot e_3(t_0)}$$
この$r$$r(t)$とする.$C(t),g(t),e_3(t)$は連続なので,$r(t)$も定義域全体で連続である.一方,
$$det\left(\pdiff{F}{x}(x_0,y_0,t_0)\ \pdiff{F}{y}(x_0,y_0,t_0)\ \pdiff{F}{t}(x_0,y_0,t_0)\right)=e_3(t_0)\cdot\left\{\diff{C}{t}(t_0)+\diff{g}{t}(t_0)\right\}=0$$
なので,$-e_3(t_0)\cdot\diff{C}{t}(t_0)=e_3(t_0)\cdot\diff{g}{t}(t_0)$が成立する.また,$\diff{C}{t}(t_0)\neq (0,0,0), e_3(t_0)\parallel\diff{C}{t}(t_0)$より$e_3(t_0)\cdot\diff{g}{t}(t_0)\neq0$である.さらに$e_3(t_0)\cdot g(t_0)=0$であるから,
$t_0$を含む適当な区間$J$をとれば,$J\setminus \{t_0\}$において$e_3(t_0)\cdot g(t)\neq 0$となる.よって$r(t)$$J\setminus \{t_0\}$上で連続に定義でき,
$$ \lim_{t \to t_0}r(t)=\lim_{t \to t_0}\frac{\{C(t_0)-C(t)\}\cdot e_3 (t_0)}{g(t)\cdot e_3(t_0)} =\lim_{t \to t_0}\frac{ \frac{-(C(t)-C(t_0))\cdot e_3(t_0)}{t-t_0} }{ \frac{(g(t)-g(t_0))\cdot e_3(t_0)}{t-t_0} } =\frac{-e_3(t_0)\cdot\diff{C}{t}(t_0)}{e_3(t_0)\cdot\diff{g}{t}(t_0)}=1 $$
となることから,$r(t_0):=1$とすれば,$r$$J$上に連続に定義できる.
したがって,$\phi(t)=F(rp_0,t)$により連続写像$\phi:I\rightarrow F(\mathbb{R}^2,t_0)$を得る.
$A^o,F(A^o,t_0)$は開集合であることと,$r,\phi$が連続であり$r(t_0)p_0=p_0\in A^o, \phi(t_0)=F(p_0,t_0)\in F(A^o,t_0)$であることから,正数$\delta$をうまくとることで,$|t-t_0|<\delta$を満たす任意の$t\in J$に対し$r(t)p_0\in A^o,\phi(t)\in F(A^o,t_0)$とすることができる.特にそのような条件を満たす$t\neq t_0$を取れば,$F_A$の単射性に矛盾する事がわかる.

このことから,$det\left(\pdiff{F}{x}\ \pdiff{F}{y}\ \pdiff{F}{t}\right)$$A^o$上では$0$でない.$A$は連結であり$det\left(\pdiff{F}{x}\ \pdiff{F}{y}\ \pdiff{F}{t}\right)$は連続なので,常に$det\left(\pdiff{F}{x}\ \pdiff{F}{y}\ \pdiff{F}{t}\right)\ge 0$$det\left(\pdiff{F}{x}\ \pdiff{F}{y}\ \pdiff{F}{t}\right)\le 0$のどちらか一方が成り立つ.

もっと条件は緩められる?

定理2では,$C,e_1,e_2$$C^1$級であるという条件を設けていますが,これは重積分の計算を行うために仮定したものであって,実際この条件抜きで成立するのかはよくわかりません.あくまで私の直感ですが

  • $C$$C^1$級であることは,$F_A$の単射性から導けそう
  • $e_1,e_2$$C^1$級でなくても,連続であれば成立しそう

という感じがします.もし証明できそうな方がいたらコメントしていただければ嬉しいです.

投稿日:202249
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dragoemon
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