Ahlfors[1]の演習問題(p.246)の改題です。証明はAhlfors[1]の略解と参考文献[3]の議論をベースにしています。なお問題の主張の逆も成り立ちますが、ここでは省略します。
領域$D \subset \mathbb{C}$上の関数族$\mathscr{F}$が古典的な正規族であるとは、$\mathscr{F}$の任意の列が$D$上広義一様に収束する部分列を持つか、または$D$上広義一様に$\infty$に発散する部分列を持つときをいう。
$f$を整関数とし、$D := \{z : r < |z| < R\}\, (0 \le r < R < \infty)$とおく。$f_k(z) := f(kz) \, (k \in \mathbb{R},\, z \in D)$と定義する。$D$上の関数の族$\{f_k\}_{k \in \mathbb{R}}$が古典的な正規族ならば、$f$は多項式となることを示せ。
$\{f_k\}_{k \in \mathbb{R}}$は古典的な正規族であるとする。$\rho := (r + R)/2 \, (>0)$とおく。さらに$K := \{ z : |z| = \rho \}$とおく。ここで、
$f$が多項式であることをいうには、$\infty$が$f$の真性特異点でないことをいえばよい。
$f$は整関数だから、$\infty$は$f$の孤立特異点である。よって、$\infty$が真性特異点でないとすれば、$\infty$は極または除去可能特異点であり、いずれの場合も$\infty$における$f$の主要部$P$は多項式となる。$f-P$は$\widehat{\mathbb{C}}$上正則だから、Liouville の定理により$f-P$は定数である。したがって$f$は多項式である。
$f$が定数ならば明らかに$\infty$は真性特異点でないから、$f$が定数でない場合を考えればよい。背理法のために$\infty$が$f$の真性特異点であると仮定する。すると Casorati-Wierstrass の定理より
\begin{alignat}{1}
\exists \{z_n\}_n : \text{a sequence in $\mathbb{C}$} \left[ f(z_n) \to 0,\, z_n \to \infty \right]
\end{alignat}
が成り立つ。ここで実数列$\{a_n\}_n$を$a_n := \frac{|z_n|}{\rho}$で定める。すると点列$y_n := \frac{z_n}{a_n}$は$K$の点列となる。また、$\{f_{a_n}\}_n$は古典的な正規族$\{f_k\}_{k \in \mathbb{R}}$の列であって、かつ$D$上の解析関数の列であるから、或る部分列$\{f_{a_{n_l}}\}_l$がとれて、この部分列は或る解析関数$g : D \to \mathbb{C}$に$D$上広義一様収束するか、または$D$上広義一様に$\infty$に発散する。後者が成り立つことを示すために、前者、すなわち部分列$\{f_{a_{n_l}}\}_l$が$g$に$D$上広義一様に収束すると仮定して矛盾をいう。仮定より、
$\{f_{a_{n_l}}\}_l$は$K$上一様有界、すなわち
\begin{equation}
\exists M > 0\, \forall l \in \mathbb{N}\, \forall z \in K
\left[ |f_{a_{n_l}}(z)| < M \right]
\end{equation}
である。
関数列$\{f_{a_{n_l}}\}_l$は$g$に$K$上一様収束するから、
\begin{equation}
\exists l_0 \in \mathbb{N}\, \forall l \ge l_0
\left[ \sup_{z\in K} |f_{a_{n_l}}(z) - g(z)| < 1 \right]
\end{equation}
である。そこで
\begin{equation}
\mu := \max_{l \le l_0} \max_{z \in K} |f_{a_{n_l}}(z)| \in \mathbb{R}
\end{equation}
とおく。また、$g: D \to \mathbb{C}$はコンパクト集合$K$上連続だから
\begin{equation}
M' := \max_{z \in K} |g(z)| \in \mathbb{R}
\end{equation}
が存在する。すると、各$l > l_0$に対しては
\begin{alignat}{1}
|f_{a_{n_l}}(z)| \le |f_{a_{n_l}}(z) - g(z)| + |g(z)| < 1 + M' \quad (\forall z \in K)
\end{alignat}
であり、各$l \le l_0$に対しては
\begin{alignat}{1}
|f_{a_{n_l}}(z)| < \mu \quad (\forall z \in K)
\end{alignat}
である。したがって$M := \max\{1+M', \mu\}$が求める$M$の条件をみたす。
さらに、
各$z \in \mathbb{C}$に対し$|f(z)| \le M$である。
$z_{n_l} \to \infty$より
\begin{equation}
\exists l_0 \in \mathbb{N}\, \forall l \ge l_0 \left[ |z_{n_l}| > |z| \right]
\end{equation}
である。各$l \ge l_0$に対し、
\begin{alignat}{1}
f(z) &= \frac{1}{2\pi i} \int_{C(0; |z_{n_l}|)} \frac{f(\zeta)}{\zeta - z} d\zeta \quad \text{$\because$ Cauchy の積分公式} \\
&= \frac{1}{2\pi} \int_0^{2\pi} \frac{f(|z_{n_l}| e^{i\theta})}{|z_{n_l}|e^{i\theta} - z} |z_{n_l}| e^{i\theta} d\theta \quad \text{$\because$ 変数変換} \\
&= \frac{1}{2\pi} \int_0^{2\pi} \frac{f(|z_{n_l}| e^{i\theta})}{1 - z/|z_{n_l}| e^{i\theta}} d\theta
\end{alignat}
である。したがって
\begin{alignat}{1}
|f(z)| &\le \frac{1}{2\pi} \int_0^{2\pi} \frac{\left|f(|z_{n_l}| e^{i\theta})\right|}{\left| 1 - z/|z_{n_l}| e^{i\theta} \right|} d\theta \quad \text{$\because$ 定積分の三角不等式} \\
&\le \frac{1}{2\pi} \frac{1}{1 - z/|z_{n_l}|} \int_0^{2\pi} \left|f(|z_{n_l}| e^{i\theta})\right| d\theta \quad \text{$\because$ 三角不等式} \\
&\le \frac{1}{2\pi} \frac{M}{1 - z/|z_{n_l}|} \int_0^{2\pi} d\theta \quad \text{$\because$ 前の命題} \\
&= \frac{M}{1 - z/|z_{n_l}|} \\
&\to M \quad \text{as } l \to \infty
\end{alignat}
より命題の主張が従う。
したがって、Liouville の定理より$f$は$\mathbb{C}$上定数であるが、いま$f$は定数でないとしていたからこれは矛盾。よって列$\{f_{a_{n_l}}\}_l$は$D$上広義一様に$\infty$に発散する。したがってとくに$l \to \infty$で$f_{a_{n_l}}(y_{n_l}) = f(a_{n_l} y_{n_l}) = f(z_{n_l}) \to \infty$であるが、これは$f(z_n) \to 0$に矛盾。背理法により、$\infty$が$f$の真性特異点であるとした仮定は偽である。よって$f$は多項式であることがいえた。