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大学数学基礎解説
文献あり

Whitney numberの定義

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$$\newcommand{c}[2]{\begin {pmatrix} #1 \\ #2 \\\end{pmatrix}} \newcommand{e}[2]{\displaystyle\bigg\langle{#1 \atop #2}\bigg\rangle} $$

はじめに

この記事ではWhitney numberという数について定義したいと思っています. 性質等については今後の記事(書けたら)にまわしたいと思います.

準備

いくつか言葉の定義をします. なお, この記事内で定義した言葉すべてがどこでも通用するとは限りません.

半順序集合まわりの言葉の定義

$P$を集合とし, $\leq $$P$上で定義された二項関係とする.

$\textbf{反射律}$$:$$P$の任意の元$a$に対して$a\leq a$が成り立つ
$\textbf{推移律}$$:$$P$の任意の元$a,b,c$に対して$a\leq b$かつ$b\leq c$ならば$a\leq c$が成り立つ
$\textbf{反対称律}$$:$$P$の任意の元$a,b$に対して$a\leq b$かつ$b\leq a$ならば$a=b$が成り立つ

$3$つの性質を$\leq$が満たすとき, $(P,\leq)$半順序集合とよぶ.
半順序集合$(P, \leq)$の部分集合$C$について, $C$の任意の$2$元が比較可能であるとき, $C$$P$チェイン, 鎖などとよぶ. チェイン$C$が有限集合であるとき, $C$$\textbf{長さ}$$C$の元の個数から$1$を減じて得られるものとする.
以下では$(P, \leq)$を半順序集合とする.
$x\leq y$をみたす$x, y\in P$に対し, 区間$[x, y]$を以下で定める$:$
$[x, y]:=\{z\in P|x\leq z\leq y\}$
ここで$x< y$($x\leq y$かつ$x\neq y$であること)をみたす$x, y\in P$について$[x, y]=\{x, y\}$が成り立つとき, $y$$x$$\textbf{被覆する}$という.
以下では$P$の任意の区間内での任意のチェインの長さは有限であるものとして話を進める.
チェイン$C\subseteq P$$C=\{x_0, x_1, x_2, … ,x_n\}$としたときに, 区間$[x, y]\subseteq P$においてチェイン$C$$\textbf{極大チェイン}$であるとは, $C$が次の条件を全て満たすことである$:$

  • $x_0=x$
  • $x_n=y$
  • $i=1, 2, …, n$について$x_i$$x_{i-1}$を被覆する

$P$$\textbf{JD条件}$をみたすとは, $P$の任意の区間における任意の極大チェインの長さが等しいことをいう.
$P$が最小元($0$と表す)を持ち, JD条件をみたすとき, $\rho(x)$で区間$[0,x]$における極大チェインの長さを表し, これを($P$における$x$の)ランクとよぶ. またこのとき$P$のランクとは, $\rho(x)$の最大値を指す.

束まわりの言葉の定義

$A$$P$の部分集合とする. $x\in P$$A$上界であるとは, すべての$y\in A$に対して$y\leq x$が成り立つことをいう. 
$A$の上界全体の集合の最小元は存在すれば一意に決まり, それを$A$上限という. 下界・下限も同様に定義する.
$P$であるとは, 任意の$a, b\in P$に対して$2$元集合$\{a, b\}$における上限$a\lor b$, 下限$a\land b$の両方が存在することをいう.
以下$L$を有限束(有限個の元を持つ束)とする.
$L$$\textbf{半モジュラー}$であるとは, $x, y\in L$について
$x$$x\land y$を被覆する$ \Longrightarrow $$x\lor y$$y$を被覆する
が成り立つことをいう.
$0$を被覆する$L$の要素を$\textbf{原子元}$とよぶ. 任意の$x\in L$に対して$x$がいくつかの原子元からなる集合の上限として得られるとき, $L$$\textbf{原子論的}$であるという.
$L$が半モジュラーでかつ原子論的であるとき, $L$$\textbf{幾何束}$であるという.

これで用語の準備は終わりです.それではいよいよ本題に入っていきましょう.

定義

メビウス関数

メビウス関数$\mu :L\times L\rightarrow \mathbb{Z}$を以下で定める$:$
$\mu(x,y):= \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} 0 \quad (x\nleq y)\\ 1 \quad (x=y)\\ -\displaystyle\sum_{z:x\leq z< y}\mu(x,z) \quad (x< y)\\ \end{array} \right. \end{eqnarray} $
ただし$x, y\in L$とする.

Whitney number

ランクが$n$であり, 有限束かつ幾何束であるような$L$に対して, 第一種Whitney number$:w_L(n,k)$および第二種Whitney number$:W_L(n, k)$を以下で定める$:$
\begin{align} &w_L(n, k):=\sum_{x:\rho(x)=n-k}\mu(0,x) \\ &W_L(n, k):=\sum_{x:\rho(x)=n-k}1\\ \end{align}

ようやく定義にたどりつくことができました. これだけだとはっきりしないので具体例を見てみましょう.

$n$を正の整数とし, $X_n$を, 集合$\{1,2,…,n\}$の部分集合全体の集合(冪集合)に包含関係で順序を入れた半順序集合とすると,
$w_{X_n}(n,k)=(-1)^{n-k}\c{n}{k}, W_{X_n}(n,k)=\c{n}{k}$

$X_n$は条件をみたす束か?

そもそも$X_n$が必要な条件をみたす束でなかったら$X_n$に対してWhitney numberを定義できないので, 条件をちゃんとみたすことを確かめていきましょう.
まず「$X_n$を冪集合に包含関係で順序を入れた半順序集合とする」というのは$(X_n, \subseteq)$が半順序集合であるということを意味しています. 実際これが反射律・推移律・反対称律をみたすことはすぐに確認できます.
次は$X_n$がJD条件を満たすかを調べてみましょう(JD条件が満たされなければ各元のランクが定義できません). $X_n$は有限集合なので当然$X_n$の任意の区間内での任意のチェインの長さは有限であることに注意します. いま, $A, B\in X_n$について, $A$$B$を被覆する $\Longrightarrow|A|=|B|+1$ である(説明は略します)ので, 任意の区間について, 極大チェインの長さはそのとり方によらずに常に一定である(集合の元の個数が常に$1$ずつ増えていくイメージ)ことがわかります. よって$X_n$はJD条件を満たします.($X_n$が高さ有限の半モジュラー束であるならば$X_n$はJD条件をみたすという事実を使う手もありましたが, ここでは省略しました)
さらに$X_n$が束であることをみてみましょう. $A, B\in X_n$とすると, $A \cup B$$\{A, B\}$の上界であり, かつ任意の$\{A, B\}$の上界は必ず$\{A, B\}$を含むので, これが$\{A, B\}$の上限となることがわかりました. 同様にして下限の存在も確認できるので, $X_n$は束であるといえます.
最後に$X_n$が幾何束であることを確認します.
まず$X_n$が半モジュラーであることを示します.$A$$B$を被覆する$\Longrightarrow|A|=|B|+1$であるので, $A, B\in X_n$として, $B$$A\land B=A\cap B$を被覆するとき, $|B|=|A\cap B|+1$より$|A\cup B|=|A|+|B|-|A\cap B|=|A|+1$かつ$A\cup B$$A$を含むことより$A\cup B$$A$を被覆します. よって示されました.
次に$X_n$が原子論的であることを示します. $\{1\},\{2\},…,\{n\}$はすべて$0$(ここでは$\varnothing$のこと)を被覆し, また任意の$X_n$の元はこれらいくつかの上限(ここでは和集合)として得られるので示されました.
これらより$X_n$は幾何束で, また以上より$X_n$が満たすべき条件を満たすことが確認できました.

$1$の主張を確かめる

$X_n$のランクは$n$であり, $A\in X_n$とすると$A$のランクは$|A|$であることに注意します. $\mu:L\times L\rightarrow\mathbb{Z}$$\mu_L$と表すことにすると, ランクが$n-k$と固定された$X_n$の元$x$について,
\begin{align} \displaystyle\mu_{X_n}(0, x) &=-\sum_{z:0\leq z< x}\mu_{X_n}(0, z) \\ &=-\sum_{z:0\leq z<1}\mu_{X_{n-k}}(0, z) \\ &=\mu_{X_{n-k}}(0,1)\\ \end{align}
が成り立ちます. ただし, 各束の最小元, 最大元をそれぞれ$0, 1$で表しました. これより, 各$X_n$の最大元のみに注目すればメビウス関数の値を得られることがわかります. 実際$(1-1)^m$の展開を用いて数学的帰納法から$\mu_{X{n-k}}(0, 1)=(-1)^{n-k}$がわかり, またランクが$n-k$であるような$x\in X_n$の個数は$\c{n}{k}$であることもわかるので, これらより例$1$の主張は示されました.

$n$を正の整数とし, $P_{n+1}$を, 集合$\{1, 2, …, n+1\}$の分割全体の集合に細分の関係で半順序を入れた半順序集合とすると,
$$\displaystyle w_{P_{n+1}}(n,k)=(-1)^{n-k} \bigg\lbrack {{n+1}\atop{k+1}} \bigg\rbrack$$
$$W_{P_{n+1}}(n,k)= \bigg\{ {{n+1}\atop{k+1}} \bigg\}$$
ただし, 式の右辺の記号はそれぞれ上から第一種, 第二種スターリング数を表している.

細かな説明は省きますが, 第二種Whitney numberについての式はランクを固定した時の$P_{n+1}$の元の個数なので, 第二種スターリング数の組み合わせ的な意味を考えれば比較的理解できるかと思います. 対して上の式は, この場合のメビウス関数が, 集合の分割を巡回列として区別するための"重み"になっていると知らないと分かりづらいと思います(Wikipediaの隣接代数の記事の例を参照)(なぜかうまくリンクが貼れませんでした). 実を言うと私もまだこの証明を追えていないのでなんとも言えないのですが, それでも個人的にはメビウス関数がこの"重み"になっていることは驚くべきことだと思います.

おわりに

Whitney numberは, Dowling latticeと呼ばれるある幾何束に対して考えたときが面白いようなのですが, そこまではたどりつけませんでした. 続きは書くかもしれないし書かないかもしれません. 間違っている箇所があったら教えてくださると助かります. ここまで読んでくださりありがとうございます.

参考文献

投稿日:202251

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翁
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