はじめに
この記事ではWhitney numberという数について定義したいと思っています. 性質等については今後の記事(書けたら)にまわしたいと思います.
準備
いくつか言葉の定義をします. なお, この記事内で定義した言葉すべてがどこでも通用するとは限りません.
半順序集合まわりの言葉の定義
を集合とし, を上で定義された二項関係とする.
の任意の元に対してが成り立つ
の任意の元に対してかつならばが成り立つ
の任意の元に対してかつならばが成り立つ
のつの性質をが満たすとき, を半順序集合とよぶ.
半順序集合の部分集合について, の任意の元が比較可能であるとき, をのチェイン, 鎖などとよぶ. チェインが有限集合であるとき, のはの元の個数からを減じて得られるものとする.
以下ではを半順序集合とする.
をみたすに対し, 区間を以下で定める
ここで(かつであること)をみたすについてが成り立つとき, はをという.
以下ではの任意の区間内での任意のチェインの長さは有限であるものとして話を進める.
チェインをとしたときに, 区間においてチェインがであるとは, が次の条件を全て満たすことである
がをみたすとは, の任意の区間における任意の極大チェインの長さが等しいことをいう.
が最小元(と表す)を持ち, JD条件をみたすとき, で区間における極大チェインの長さを表し, これを(におけるの)ランクとよぶ. またこのときのランクとは, の最大値を指す.
束まわりの言葉の定義
はの部分集合とする. がの上界であるとは, すべてのに対してが成り立つことをいう.
の上界全体の集合の最小元は存在すれば一意に決まり, それをの上限という. 下界・下限も同様に定義する.
が束であるとは, 任意のに対して元集合における上限, 下限の両方が存在することをいう.
以下を有限束(有限個の元を持つ束)とする.
がであるとは, について
がを被覆するがを被覆する
が成り立つことをいう.
を被覆するの要素をとよぶ. 任意のに対してがいくつかの原子元からなる集合の上限として得られるとき, がであるという.
が半モジュラーでかつ原子論的であるとき, はであるという.
これで用語の準備は終わりです.それではいよいよ本題に入っていきましょう.
定義
Whitney number
ランクがであり, 有限束かつ幾何束であるようなに対して, 第一種Whitney numberおよび第二種Whitney numberを以下で定める
ようやく定義にたどりつくことができました. これだけだとはっきりしないので具体例を見てみましょう.
例
を正の整数とし, を, 集合の部分集合全体の集合(冪集合)に包含関係で順序を入れた半順序集合とすると,
は条件をみたす束か?
そもそもが必要な条件をみたす束でなかったらに対してWhitney numberを定義できないので, 条件をちゃんとみたすことを確かめていきましょう.
まず「を冪集合に包含関係で順序を入れた半順序集合とする」というのはが半順序集合であるということを意味しています. 実際これが反射律・推移律・反対称律をみたすことはすぐに確認できます.
次はがJD条件を満たすかを調べてみましょう(JD条件が満たされなければ各元のランクが定義できません). は有限集合なので当然の任意の区間内での任意のチェインの長さは有限であることに注意します. いま, について, がを被覆する である(説明は略します)ので, 任意の区間について, 極大チェインの長さはそのとり方によらずに常に一定である(集合の元の個数が常にずつ増えていくイメージ)ことがわかります. よってはJD条件を満たします.(が高さ有限の半モジュラー束であるならばはJD条件をみたすという事実を使う手もありましたが, ここでは省略しました)
さらにが束であることをみてみましょう. とすると, はの上界であり, かつ任意のの上界は必ずを含むので, これがの上限となることがわかりました. 同様にして下限の存在も確認できるので, は束であるといえます.
最後にが幾何束であることを確認します.
まずが半モジュラーであることを示します.がを被覆するであるので, として, がを被覆するとき, よりかつがを含むことよりはを被覆します. よって示されました.
次にが原子論的であることを示します. はすべて(ここではのこと)を被覆し, また任意のの元はこれらいくつかの上限(ここでは和集合)として得られるので示されました.
これらよりは幾何束で, また以上よりが満たすべき条件を満たすことが確認できました.
例の主張を確かめる
のランクはであり, とするとのランクはであることに注意します. をと表すことにすると, ランクがと固定されたの元について,
が成り立ちます. ただし, 各束の最小元, 最大元をそれぞれで表しました. これより, 各の最大元のみに注目すればメビウス関数の値を得られることがわかります. 実際の展開を用いて数学的帰納法からがわかり, またランクがであるようなの個数はであることもわかるので, これらより例の主張は示されました.
を正の整数とし, を, 集合の分割全体の集合に細分の関係で半順序を入れた半順序集合とすると,
ただし, 式の右辺の記号はそれぞれ上から第一種, 第二種スターリング数を表している.
細かな説明は省きますが, 第二種Whitney numberについての式はランクを固定した時のの元の個数なので, 第二種スターリング数の組み合わせ的な意味を考えれば比較的理解できるかと思います. 対して上の式は, この場合のメビウス関数が, 集合の分割を巡回列として区別するための"重み"になっていると知らないと分かりづらいと思います(Wikipediaの隣接代数の記事の例を参照)(なぜかうまくリンクが貼れませんでした). 実を言うと私もまだこの証明を追えていないのでなんとも言えないのですが, それでも個人的にはメビウス関数がこの"重み"になっていることは驚くべきことだと思います.
おわりに
Whitney numberは, Dowling latticeと呼ばれるある幾何束に対して考えたときが面白いようなのですが, そこまではたどりつけませんでした. 続きは書くかもしれないし書かないかもしれません. 間違っている箇所があったら教えてくださると助かります. ここまで読んでくださりありがとうございます.