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大学数学基礎解説
文献あり

lim [n→∞] n = ∞は本当に自明?―実数の連続性とアルキメデスの原理

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極限
$$ \lim_{n\to\infty}n=\infty $$
は,一見すると当たり前の事実であるが,これを保証するには実数の連続性が必要である.本稿では,実数の連続公理から始めて,アルキメデスの原理を証明することにより,上記の極限が導かれることを示す.

準備

実数の連続公理やアルキメデスの原理について考えるには,$\mathbb{R}$の部分集合の有界性や,上限・下限の概念が必要である.本節では,それらの定義と簡単な例を取り上げる.

上界・下界

上界・下界

$b,c$を実数,$A$$\mathbb{R}$の部分集合とする.

  1. $b$$A$上界(upper bound)であるとは,任意の$a\in A$に対して$a\leq b$が成り立つことをいう.
  2. $c$$A$下界(lower bound)であるとは,任意の$a\in A$に対して$c\leq a$が成り立つことをいう.
上界・下界の例
  1. $0$以上の任意の実数は,区間$(-\infty,0]$の上界である.
  2. $0$以下の任意の実数は,区間$(0,\infty)$の下界である.

上に有界・下に有界

上に有界・下に有界

$\mathbb{R}$の部分集合$A$に対して,$U(A)$$A$の上界全体の集合,$L(A)$$A$の下界全体の集合とする.すなわち
$$ U(A)=\{b\in\mathbb{R}\mid\text{任意の }a\in A\text{ に対して }a\leq b\},\\ L(A)=\{c\in\mathbb{R}\mid\text{任意の }a\in A\text{ に対して }c\leq a\} $$
と定める.

  1. $U(A)$が空でないとき,$A$上に有界(bounded above)であるという.
  2. $L(A)$が空でないとき,$A$下に有界(bounded below)であるという.
  3. $A$が上に有界かつ下に有界であるとき,$A$有界(bounded)であるという.
有界性の例
  1. $U((-\infty, 0])=[0,\infty)\neq\varnothing$であるから,区間$(-\infty,0]$は上に有界である.
  2. $L((0,\infty))=(-\infty, 0]\neq\varnothing$であるから,区間$(0,\infty)$は下に有界である.
  3. $U((0,1))=[1,\infty)\neq\varnothing$$L((0,1))=(-\infty, 0]\neq\varnothing$であるから,区間$(0,1)$は有界である.

上限・下限

上限・下限

$\mathbb{R}$の部分集合$A$に対して,$U(A)$$A$の上界全体の集合,$L(A)$$A$の下界全体の集合とする.

  1. $U(A)$に最小元$m$が存在するとき,$m$$A$上限(supremum)といい,$\sup A$と書く.
  2. $L(A)$に最大元$M$が存在するとき,$M$$A$下限(infimum)といい,$\inf A$と書く.
上限・下限の例
  1. $U((-\infty, 0])=[0,\infty)$の最小元は$0$であるから,$\sup((-\infty,0])=0$である.
  2. $L((0,\infty))=(-\infty, 0]$の最大元は$0$であるから,$\inf((0,\infty))=0$である.
上限・下限の直感的な意味

大雑把な言い方をすれば,上限,下限はそれぞれ最大値,最小値を一般化した概念である.すなわち,$\mathbb{R}$の部分集合$A$に最大値,最小値が存在すれば,それぞれ$\sup A, \inf A$に一致する.例3の場合であれば,

  1. $\sup((-\infty,0])=\max((-\infty,0])=0$
  2. $\inf((0,\infty))=0$,最小値なし

となる.2では,$(0,\infty)$に最小値が存在しないが,$\inf((0,\infty))=0$が最小値と同じような意味合いを有することになる.

連続公理

ここでは,アルキメデスの原理が成立する根拠となる連続公理を述べる.連続公理,すなわち実数の連続性を証明するには,デデキント切断(Dedekind cut)などによる実数の構成に立ち返る必要がある.しかし,その内容は本稿の主旨から外れるため,詳細は割愛し,連続公理の主張を述べるのみに留める.

連続公理

$\mathbb{R}$の空でない部分集合$A$が上に有界ならば,$A$の上限$\sup A$$\mathbb{R}$の中に存在する.

以下,連続公理を認めて議論を進める.

有界単調数列の収束定理

連続公理から導かれる重要な結論の一つが,「有界な単調数列は収束する」という事実である.本節ではこれを証明する.この事実は,アルキメデスの原理の証明において用いられる.

実数列の有界性

実数列の有界性

$\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}}$を実数列とする.

  1. $\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}}$上に有界であるとは,集合$\{a_n\mid n\in\mathbb{N}\}$が上に有界であることをいう.
  2. $\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}}$下に有界であるとは,集合$\{a_n\mid n\in\mathbb{N}\}$が下に有界であることをいう.
  3. $\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}}$有界であるとは,$\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}}$が上に有界かつ下に有界であることをいう.
有界な実数列の例
  1. 数列$\{-n\}_{n\in\mathbb{N}}$は上に有界である.
  2. 数列$\{n\}_{n\in\mathbb{N}}$は下に有界である.
  3. 数列$\{(-1)^n\}_{n\in\mathbb{N}}$は有界である.

上にも下にも有界ではない実数列の例を挙げよ.

単調増加・単調減少

単調増加・単調減少

$\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}}$を実数列とする.

  1. すべての$n\in\mathbb{N}$に対して$a_n\leq a_{n+1}$が成り立つとき,$\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}}$単調増加(monotonically increasing)であるという.特に,すべての$n\in\mathbb{N}$に対して$a_n< a_{n+1}$が成り立つとき,$\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}}$狭義単調増加(strictly monotonically increasing)であるという.
  2. すべての$n\in\mathbb{N}$に対して$a_n\geq a_{n+1}$が成り立つとき,$\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}}$単調減少(monotonically decreasing)であるという.特に,すべての$n\in\mathbb{N}$に対して$a_n>a_{n+1}$が成り立つとき,$\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}}$狭義単調減少(strictly monotonically decreasing)であるという.
単調増加・単調減少の例
  1. 数列$\{n\}_{n\in\mathbb{N}}$は狭義単調増加である.
  2. 数列$\{-n\}_{n\in\mathbb{N}}$は狭義単調減少である.

有界単調数列の収束定理

「有界な単調数列は収束する」という事実は,正確には次のような主張である.

有界単調数列の収束定理

$\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}}$を実数列とする.

  1. $\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}}$が上に有界かつ単調増加ならば,$\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}}$$\sup\{a_n\mid n\in\mathbb{N}\}$に収束する.
  2. $\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}}$が下に有界かつ単調減少ならば,$\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}}$$\inf\{a_n\mid n\in\mathbb{N}\}$に収束する.
    1. 仮定より$A=\{a_n\mid n\in\mathbb{N}\}\neq\varnothing$は上に有界であるから,連続公理より$s=\sup A\in\mathbb{R}$が存在する.上限は上界のひとつであるから,すべての$n\in\mathbb{N}$に対して$a_n\leq s$が成り立つ.
    2. 上限は上界全体の最小元であるから,任意の$\varepsilon>0$に対して$s-\varepsilon$$A$の上界ではない.ゆえに,ある$N\in\mathbb{N}$が存在して$s-\varepsilon< a_N$が成り立つ.
    3. [1], [2]および$\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}}$が単調増加であることから,任意の$n\geq N$に対して
      $$ s-\varepsilon< a_N\leq a_n\leq s $$
      が成り立つ.以上より,任意の$\varepsilon>0$に対し,ある$N\in\mathbb{N}$が存在して
      $$ n\geq N\Rightarrow|a_n-s|=s-a_n<\varepsilon $$
      となるから,$\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}}$$\sup\{a_n\mid n\in\mathbb{N}\}$に収束する.

定理1(有界単調数列の収束定理)の2を証明せよ.ただし,次の事実を用いてもよい.

 $\mathbb{R}$の空でない部分集合$A$が下に有界ならば,$A$の下限$\inf A$$\mathbb{R}$の中に存在する.

アルキメデスの原理

アルキメデスの原理

アルキメデスの原理は「大小2つの正の数があるとき,小さい方を何倍かすれば,必ず大きい方を超える」という,直感的には自明な主張である.ここでは,前節で述べた有界単調数列の収束定理を用いて,アルキメデスの原理を証明する.

アルキメデスの原理

任意の2つの正の実数$a,b$に対して,$na>b$を満たす$n\in\mathbb{N}$が存在する.

背理法

任意の$n\in\mathbb{N}$に対して$na\leq b$が成り立つと仮定する.
[1] $b$は実数列$\{na\}_{n\in\mathbb{N}}$の上界である.
[2] $\{na\}_{n\in\mathbb{N}}$は狭義単調増加である.
[3] [1], [2]および定理1の1より,$\{na\}_{n\in\mathbb{N}}$$s=\sup\{na\mid n\in\mathbb{N}\}$に収束する.
[4] $s$は上限であるから,すべての$n\in\mathbb{N}$に対して$na\leq s$が成り立つ.
[5] 上限は上界全体の最小元であるから,$a>0$より$s-a$$\{na\mid n\in\mathbb{N}\}$の上界ではない.ゆえに,ある$N\in\mathbb{N}$が存在して$s-a< Na$が成り立つ.
[6] [5]より$s<(N+1)a$かつ$N+1\in\mathbb{N}$であるが,これは[4]に矛盾する.

以上より,$na>b$を満たす$n\in\mathbb{N}$が存在する.

$\displaystyle\lim_{n→\infty}n=\infty$の証明

最後に,アルキメデスの原理を用いて,冒頭に述べた極限についての証明を与えよう.

$$ \lim_{n\to\infty}n=\infty $$

次の[1]を示せばよい.
[1] 任意の$b>0$に対し,ある$N\in\mathbb{N}$が存在して,$n\geq N$ならば$n>b$を満たす.

定理2において$a=1$とすると,任意の$b>0$に対して$N>b$を満たす$N\in\mathbb{N}$が存在することがわかる.この$N$に対して,$n\geq N$ならば$n>b$となるから,[1]は成り立つ.

定理2(アルキメデスの原理)を用いて
$$ \lim_{n\to\infty}\frac{1}{n}=0 $$
を示せ.

演習問題

次の問いに答えよ.
(1) すべての$n\in\mathbb{N}$に対して$n\leq 10^n$が成り立つことを示せ.
(2) 実数列$\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}}, \{b_n\}_{n\in\mathbb{N}}$が次の[1], [2]を満たすならば,$\displaystyle\lim_{n\to\infty}a_n=0$であることを示せ.
[1] すべての$n\in\mathbb{N}$に対して$0\leq a_n\leq b_n$
[2] $\displaystyle\lim_{n\to\infty}b_n=0$
(3) $\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac{1}{10^n}=0$を示せ.
(4) 数列$\{c_n\}_{n\in\mathbb{N}}$
$$ c_n=9\sum_{k=1}^n0.1^k=0.\overbrace{99\cdots9}^n $$
と定めるとき,$\displaystyle\lim_{n\to\infty}c_n=1$であることを示せ.

問題の解答例

問題1

例えば,数列$\{n(-1)^n\}_{n\in\mathbb{N}}$は,上にも下にも有界ではない.

問題2

  1. 仮定より$A=\{a_n\mid n\in\mathbb{N}\}\neq\varnothing$は下に有界であるから,$t=\inf A\in\mathbb{R}$が存在する.下限は下界のひとつであるから,すべての$n\in\mathbb{N}$に対して$t\leq a_n$が成り立つ.
  2. 下限は下界全体の最大元であるから,任意の$\varepsilon>0$に対して$t+\varepsilon$$A$の下界ではない.ゆえに,ある$N\in\mathbb{N}$が存在して$a_N< t+\varepsilon$が成り立つ.
  3. [1], [2]および$\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}}$が単調減少であることから,任意の$n\geq N$に対して
    $$ t\leq a_n\leq a_N< t+\varepsilon $$
    が成り立つ.以上より,任意の$\varepsilon>0$に対し,ある$N\in\mathbb{N}$が存在して
    $$ n\geq N\Rightarrow|a_n-t|=a_n-t<\varepsilon $$
    となるから,$\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}}$$\inf\{a_n\mid n\in\mathbb{N}\}$に収束する.

問題3

次の[1]を示せばよい.
[1] 任意の$a>0$に対し,ある$N\in\mathbb{N}$が存在して,$n\geq N$ならば$\frac{1}{n}< a$を満たす.

定理2において$b=1$とすると,任意の$a>0$に対して$Na>1$を満たす$N\in\mathbb{N}$が存在することがわかる.この$N$に対して,
$$ n\geq N\Rightarrow\frac{1}{n}\leq\frac{1}{N}< a $$
となるから,[1]は成り立つ.

問題4

  1. 数学的帰納法を用いる.
    1. $0\leq 1=10^0, 1\leq 10=10^1$であるから,$n=0,1$のとき$n\leq10^n$は成り立つ.
    2. $n=k\geq 1$のとき$n\leq10^n$が成り立つと仮定する.このとき,
      $$ k+1\leq 2k\leq 10k\leq10\cdot10^k=10^{k+1} $$
      となるから,$n=k+1$のときにも$n\leq10^n$が成り立つ.

[1], [2]より,すべての$n\in\mathbb{N}$に対して$n\leq 10^n$が成り立つ,
(2) 任意の$\varepsilon>0$に対して,[2]より$n\geq N$ならば$|b_n|<\varepsilon$を満たす$N\in\mathbb{N}$が存在する.この$N$に対して,[1]より
$$ n\geq N\Rightarrow 0\leq a_n\leq b_n=|b_n|<\varepsilon $$
が成り立つ.従って$\displaystyle\lim_{n\to\infty}a_n=0$である.
(3) (1)より,すべての$n\in\mathbb{N}$に対して$\displaystyle\frac{1}{10^n}\leq\frac{1}{n}$である.また,問題2より$\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac{1}{n}=0$である.よって,(2)より$\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac{1}{10^n}=0$である.
(4) [1] すべての$n\in\mathbb{N}$に対して
$$ 1-c_n=1-0.\overbrace{99\cdots9}^n=\frac{1}{10^n} $$
である.
[2] (3)より,任意の$\varepsilon>0$に対し,ある$N\in\mathbb{N}$が存在して,$n\geq N\Rightarrow\frac{1}{10^n}<\varepsilon$が成り立つ.
[3] [1], [2]より,任意の$\varepsilon>0$に対し,ある$N\in\mathbb{N}$が存在して
$$ n\geq N\Rightarrow 1-c_n=\frac{1}{10^n}<\varepsilon $$
が成り立つ.

以上より,$\displaystyle\lim_{n\to\infty}c_n=1$である.

問題3の(4)は$1=0.\dot{9}$の証明のひとつである.

参考文献

[1]
杉浦 光夫, 解析入門I, 東京大学出版会, 1980
投稿日:202255
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