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大学数学基礎解説
文献あり

lim [n→∞] n = ∞は本当に自明?―実数の連続性とアルキメデスの原理

1983
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極限
limnn=
は,一見すると当たり前の事実であるが,これを保証するには実数の連続性が必要である.本稿では,実数の連続公理から始めて,アルキメデスの原理を証明することにより,上記の極限が導かれることを示す.

準備

実数の連続公理やアルキメデスの原理について考えるには,Rの部分集合の有界性や,上限・下限の概念が必要である.本節では,それらの定義と簡単な例を取り上げる.

上界・下界

上界・下界

b,cを実数,ARの部分集合とする.

  1. bA上界(upper bound)であるとは,任意のaAに対してabが成り立つことをいう.
  2. cA下界(lower bound)であるとは,任意のaAに対してcaが成り立つことをいう.
上界・下界の例
  1. 0以上の任意の実数は,区間(,0]の上界である.
  2. 0以下の任意の実数は,区間(0,)の下界である.

上に有界・下に有界

上に有界・下に有界

Rの部分集合Aに対して,U(A)Aの上界全体の集合,L(A)Aの下界全体の集合とする.すなわち
U(A)={bR任意の aA に対して ab}L(A)={cR任意の aA に対して ca}
と定める.

  1. U(A)が空でないとき,A上に有界(bounded above)であるという.
  2. L(A)が空でないとき,A下に有界(bounded below)であるという.
  3. Aが上に有界かつ下に有界であるとき,A有界(bounded)であるという.
有界性の例
  1. U((,0])=[0,)であるから,区間(,0]は上に有界である.
  2. L((0,))=(,0]であるから,区間(0,)は下に有界である.
  3. U((0,1))=[1,)L((0,1))=(,0]であるから,区間(0,1)は有界である.

上限・下限

上限・下限

Rの部分集合Aに対して,U(A)Aの上界全体の集合,L(A)Aの下界全体の集合とする.

  1. U(A)に最小元mが存在するとき,mA上限(supremum)といい,supAと書く.
  2. L(A)に最大元Mが存在するとき,MA下限(infimum)といい,infAと書く.
上限・下限の例
  1. U((,0])=[0,)の最小元は0であるから,sup((,0])=0である.
  2. L((0,))=(,0]の最大元は0であるから,inf((0,))=0である.
上限・下限の直感的な意味

大雑把な言い方をすれば,上限,下限はそれぞれ最大値,最小値を一般化した概念である.すなわち,Rの部分集合Aに最大値,最小値が存在すれば,それぞれsupA,infAに一致する.例3の場合であれば,

  1. sup((,0])=max((,0])=0
  2. inf((0,))=0,最小値なし

となる.2では,(0,)に最小値が存在しないが,inf((0,))=0が最小値と同じような意味合いを有することになる.

連続公理

ここでは,アルキメデスの原理が成立する根拠となる連続公理を述べる.連続公理,すなわち実数の連続性を証明するには,デデキント切断(Dedekind cut)などによる実数の構成に立ち返る必要がある.しかし,その内容は本稿の主旨から外れるため,詳細は割愛し,連続公理の主張を述べるのみに留める.

連続公理

Rの空でない部分集合Aが上に有界ならば,Aの上限supARの中に存在する.

以下,連続公理を認めて議論を進める.

有界単調数列の収束定理

連続公理から導かれる重要な結論の一つが,「有界な単調数列は収束する」という事実である.本節ではこれを証明する.この事実は,アルキメデスの原理の証明において用いられる.

実数列の有界性

実数列の有界性

{an}nNを実数列とする.

  1. {an}nN上に有界であるとは,集合{annN}が上に有界であることをいう.
  2. {an}nN下に有界であるとは,集合{annN}が下に有界であることをいう.
  3. {an}nN有界であるとは,{an}nNが上に有界かつ下に有界であることをいう.
有界な実数列の例
  1. 数列{n}nNは上に有界である.
  2. 数列{n}nNは下に有界である.
  3. 数列{(1)n}nNは有界である.

上にも下にも有界ではない実数列の例を挙げよ.

単調増加・単調減少

単調増加・単調減少

{an}nNを実数列とする.

  1. すべてのnNに対してanan+1が成り立つとき,{an}nN単調増加(monotonically increasing)であるという.特に,すべてのnNに対してan<an+1が成り立つとき,{an}nN狭義単調増加(strictly monotonically increasing)であるという.
  2. すべてのnNに対してanan+1が成り立つとき,{an}nN単調減少(monotonically decreasing)であるという.特に,すべてのnNに対してan>an+1が成り立つとき,{an}nN狭義単調減少(strictly monotonically decreasing)であるという.
単調増加・単調減少の例
  1. 数列{n}nNは狭義単調増加である.
  2. 数列{n}nNは狭義単調減少である.

有界単調数列の収束定理

「有界な単調数列は収束する」という事実は,正確には次のような主張である.

有界単調数列の収束定理

{an}nNを実数列とする.

  1. {an}nNが上に有界かつ単調増加ならば,{an}nNsup{annN}に収束する.
  2. {an}nNが下に有界かつ単調減少ならば,{an}nNinf{annN}に収束する.
    1. 仮定よりA={annN}は上に有界であるから,連続公理よりs=supARが存在する.上限は上界のひとつであるから,すべてのnNに対してansが成り立つ.
    2. 上限は上界全体の最小元であるから,任意のε>0に対してsεAの上界ではない.ゆえに,あるNNが存在してsε<aNが成り立つ.
    3. [1], [2]および{an}nNが単調増加であることから,任意のnNに対して
      sε<aNans
      が成り立つ.以上より,任意のε>0に対し,あるNNが存在して
      nN|ans|=san<ε
      となるから,{an}nNsup{annN}に収束する.

定理1(有界単調数列の収束定理)の2を証明せよ.ただし,次の事実を用いてもよい.

 Rの空でない部分集合Aが下に有界ならば,Aの下限infARの中に存在する.

アルキメデスの原理

アルキメデスの原理

アルキメデスの原理は「大小2つの正の数があるとき,小さい方を何倍かすれば,必ず大きい方を超える」という,直感的には自明な主張である.ここでは,前節で述べた有界単調数列の収束定理を用いて,アルキメデスの原理を証明する.

アルキメデスの原理

任意の2つの正の実数a,bに対して,na>bを満たすnNが存在する.

背理法

任意のnNに対してnabが成り立つと仮定する.
[1] bは実数列{na}nNの上界である.
[2] {na}nNは狭義単調増加である.
[3] [1], [2]および定理1の1より,{na}nNs=sup{nanN}に収束する.
[4] sは上限であるから,すべてのnNに対してnasが成り立つ.
[5] 上限は上界全体の最小元であるから,a>0よりsa{nanN}の上界ではない.ゆえに,あるNNが存在してsa<Naが成り立つ.
[6] [5]よりs<(N+1)aかつN+1Nであるが,これは[4]に矛盾する.

以上より,na>bを満たすnNが存在する.

limnn=の証明

最後に,アルキメデスの原理を用いて,冒頭に述べた極限についての証明を与えよう.

limnn=

次の[1]を示せばよい.
[1] 任意のb>0に対し,あるNNが存在して,nNならばn>bを満たす.

定理2においてa=1とすると,任意のb>0に対してN>bを満たすNNが存在することがわかる.このNに対して,nNならばn>bとなるから,[1]は成り立つ.

定理2(アルキメデスの原理)を用いて
limn1n=0
を示せ.

演習問題

次の問いに答えよ.
(1) すべてのnNに対してn10nが成り立つことを示せ.
(2) 実数列{an}nN,{bn}nNが次の[1], [2]を満たすならば,limnan=0であることを示せ.
[1] すべてのnNに対して0anbn
[2] limnbn=0
(3) limn110n=0を示せ.
(4) 数列{cn}nN
cn=9k=1n0.1k=0.999n
と定めるとき,limncn=1であることを示せ.

問題の解答例

問題1

例えば,数列{n(1)n}nNは,上にも下にも有界ではない.

問題2

  1. 仮定よりA={annN}は下に有界であるから,t=infARが存在する.下限は下界のひとつであるから,すべてのnNに対してtanが成り立つ.
  2. 下限は下界全体の最大元であるから,任意のε>0に対してt+εAの下界ではない.ゆえに,あるNNが存在してaN<t+εが成り立つ.
  3. [1], [2]および{an}nNが単調減少であることから,任意のnNに対して
    tanaN<t+ε
    が成り立つ.以上より,任意のε>0に対し,あるNNが存在して
    nN|ant|=ant<ε
    となるから,{an}nNinf{annN}に収束する.

問題3

次の[1]を示せばよい.
[1] 任意のa>0に対し,あるNNが存在して,nNならば1n<aを満たす.

定理2においてb=1とすると,任意のa>0に対してNa>1を満たすNNが存在することがわかる.このNに対して,
nN1n1N<a
となるから,[1]は成り立つ.

問題4

  1. 数学的帰納法を用いる.
    1. 01=100,110=101であるから,n=0,1のときn10nは成り立つ.
    2. n=k1のときn10nが成り立つと仮定する.このとき,
      k+12k10k1010k=10k+1
      となるから,n=k+1のときにもn10nが成り立つ.

[1], [2]より,すべてのnNに対してn10nが成り立つ,
(2) 任意のε>0に対して,[2]よりnNならば|bn|<εを満たすNNが存在する.このNに対して,[1]より
nN0anbn=|bn|<ε
が成り立つ.従ってlimnan=0である.
(3) (1)より,すべてのnNに対して110n1nである.また,問題2よりlimn1n=0である.よって,(2)よりlimn110n=0である.
(4) [1] すべてのnNに対して
1cn=10.999n=110n
である.
[2] (3)より,任意のε>0に対し,あるNNが存在して,nN110n<εが成り立つ.
[3] [1], [2]より,任意のε>0に対し,あるNNが存在して
nN1cn=110n<ε
が成り立つ.

以上より,limncn=1である.

問題3の(4)は1=0.9˙の証明のひとつである.

参考文献

[1]
杉浦 光夫, 解析入門I, 東京大学出版会, 1980
投稿日:202255
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  1. 準備
  2. 上界・下界
  3. 上に有界・下に有界
  4. 上限・下限
  5. 連続公理
  6. 有界単調数列の収束定理
  7. 実数列の有界性
  8. 単調増加・単調減少
  9. 有界単調数列の収束定理
  10. アルキメデスの原理
  11. アルキメデスの原理
  12. limnn=の証明
  13. 演習問題
  14. 問題の解答例
  15. 問題1
  16. 問題2
  17. 問題3
  18. 問題4
  19. 参考文献