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大学数学基礎解説
文献あり

とある無限級数

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はじめに

とある無限級数の公式集を眺めていたとき,次のような等式を目にしました.
n=01(4n+1)(4n+3)=π8
この等式は,有名な交代級数
n=0(1)n2n+1=π4
と部分分数分解から従います.更にその公式集を眺めていると,次のような等式も出現しました.
n=01(6n+1)(6n+3)(6n+5)=116log3
n=01(8n+1)(8n+3)(8n+5)(8n+7)=22192π
n=01(10n+1)(10n+3)(10n+5)(10n+7)(10n+9)=1512(25log1+52log5)
1つ目の公式は部分和を積分で評価してはさみうつと示せます.2つ目の公式はπcot(πx)の部分分数展開
πcot(πx)=1x+n=1(1x+n+1xn)(xZ)
を用いる方法で級数の値を推測することはできますが,途中で和の順序交換を行うため,厳密性に欠けます.3つ目の公式はそのどちらの方法も上手くいかず,大変困りました.

そこで,何か一般的に通用する方法がないかなあと探していると,Stack Exchangeで良い方法を見つけたので,ここに記そうと思います.

級数の値を積分で表す

まず,これから解きたい問題をきれいに述べます.

2以上の整数kに対して
S(k)=n=0l=1k12kn+2l1=n=01(2kn+1)(2kn+3)(2kn+2k1)
とおく.S(k)の具体的な値をできるだけ簡単なkの式で表せ.

ここでk=1を除いているのは,k=1のときS(k)は奇数の逆数和に等しく,それは発散するからです.また,上で述べた公式たちは,上から順にそれぞれk=2,3,4,5の場合に相当しています.

では早速計算を始めます.まず,足す項の分母が2重階乗の一部であることに注目します.n1のとき
1(2kn+1)(2kn+2k1)=(2kn1)!!(2kn+2k1)!!
が成り立つことから,
S(k)=1(2k1)!!+n=1(2kn1)!!(2kn+2k1)!!
と書けます.ここで,オイラーのガンマ関数を用いると,1以上の整数nに対して
(2n1)!!=2nπΓ(12+n)
が成り立つので,
S(k)=1(2k1)!!+n=1(2kn1)!!(2kn+2k1)!!=1(2k1)!!+n=12knπΓ(12+kn)2kn+kπΓ(12+kn+k)=1(2k1)!!+12kΓ(k)n=1Γ(12+kn)Γ(k)Γ(12+kn+k)=1(2k1)!!+12k(k1)!n=1B(12+kn,k)
と計算できます.最後の等式のBはオイラーのベータ関数を表しており,そこではガンマ関数とベータ関数の間に成り立つ等式を用いました.すると,和の部分について
n=1B(12+kn,k)=n=101x12+kn1(1x)k1dx=n=101xkn(1x)k1xdx=01xk1xk(1x)k1xdx(調)=201t2k(1t2)k11t2kdt(t=x)=201(1t2)k11t2kdt201(1t2)k1dt
が成り立ちます.第2項の積分は,t=sinθと置換することで
01(1t2)k1dt=(2k2)!!(2k1)!!=2k1(k1)!(2k1)!!
と計算できるので,S(k)の値が
S(k)=1(2k1)!!+12k(k1)!{201(1t2)k11t2kdt2k(k1)!(2k1)!!}=12k1(k1)!01(1t2)k11t2kdt
と表されます.結構キレイですね.因みにぱっと見この積分は広義積分に見えますが,被積分関数は
(1t2)k11t2k=(1t2)k21+t2++t2(k1)
と書け,任意のt[0,1]に対して右辺の分母は0でないので実際は広義積分ではありません(k2より分子も区間[0,1]に特異点を持たないことに注意).さて,この結果を定理としてまとめておきます.

次の等式が成り立つ.
S(k)=12k1(k1)!01(1t2)k11t2kdt

kが小さいときの値で検算

前節で得られた積分を実行してS(k)の値を求めてみます.積分が結構大変(そう)なので今回はIntegral Calculator先生に頑張ってもらいました.
S(2)=121011t21t4dt=12π4=π8
S(3)=122201(1t2)21t6dt=18log32=116log3
S(4)=1233!01(1t2)31t8dt=148224π=22192π
S(5)=1244!01(1t2)41t10dt=127334(25log1+52log5)=1512(25log1+52log5)

k=5のとき,Calculator先生は不定積分しか教えてくれなかったので,積分の値はその不定積分を用いて手計算しました.全ての場合において上で見た公式の値と同じものが得られています.

kが偶数のときのS(k)

上で得られた被積分関数を見ていると,留数定理の使用がぼんやりと見えてきたので,この節では,k偶数のときに留数定理を使って積分
01(1t2)k11t2k
の値を求めようと思います.まず,等式
0(1t2)k11t2kdt=01(1t2)k11t2kdt+1(1t2)k11t2kdt
に注目します.第2項においてt=1τと置換すると,
1(1t2)k11t2kdt=10(11τ2)k111τ2k(dττ2)=01τ2k(11τ2)k1τ2k1dττ2=01τ2(τ21)k1τ2k1dττ2=(1)k01(1τ2)k11τ2kdτ=01(1τ2)k11τ2kdτ(k)
が成り立つので,
01(1t2)k11t2kdt=120(1t2)k11t2kdt
となります.更に,(1t2)k11t2ktの関数として偶関数であるので,
01(1t2)k11t2kdt=120(1t2)k11t2kdt=14(1t2)k11t2kdt
が成り立ちます.最後の積分は留数定理を用いる典型例ですね.被積分関数を
fk(z)=(1z2)k11z2k=(1z2)k21+z2++z2(k1)
とおきます.ζ=exp(π1k)とおくと,fk(z)の極はζl(1l2k1,lk)であり,全て1位であることが分かります.z=ζlにおける留数は
(1ζ2l)k12kζ(2k1)l
と計算できます.従って,上半平面内の半径Rの半円を積分路にとってRとすることで,
(1t2)k11t2kdt=π1kl=1k1(1ζ2l)k1ζ(2k1)l=π1kl=1k1(1ζ2l)k1ζl(ζ2k=1)=π1kl=1k1(1)k1ζ(k1)l(ζlζl)k1ζl=π1kl=1k1(1)l{21sin(lπk)}k1=2k1π(1)k2kl=1k1(1)lsink1(lπk)
と求まります.これより次の定理を得ます.これまたなかなかキレイだと思います.

kが偶数のとき次が成り立つ.
S(k)=π(1)k24k!l=1k1(1)lsink1(lπk)

検算再訪

今得られた式でk=2としてみると,
S(2)=π(1)42!(1)=π8
となって,上で示した値と等しくなります.またk=4とすると,
S(4)=π144!{sin3(π4)+sin3(2π4)sin3(3π4)}=π44!(24+124)=22192π
となって,ちゃんと上で示した値と等しくなっています.

展望

上記の計算から,kが奇数の場合は0fk(t)dt=0となってしまうので,01fk(t)dtの値を求めるために0fk(t)dtの値を使うことはできません.何か別の方法をご存じの方がいらっしゃったら,お教え頂けると嬉しいです.
また,kが偶数のときの値も,積分を使わない形に書けはしましたが,まだシグマ記号が残っているので,シグマ記号を使わない形がないか探していきたいです.

今回の記事は以上です.
最後までお読み頂きありがとうございました.

2022/5/15追記

子葉さんのコメントによってkが奇数の場合も積分が計算出来たため,S(k)の値をここにまとめておきます.

次が成り立つ.
S(k)={π4(1)k2k!l=1k1(1)lsink1(lπk)(k)(1)k+12k!l=1k1(1)lsink1(lπk)log(2sinlπ2k)(k)
また,次のようにも書ける.
S(k)={π8(k=2)π4(1)k2k!{1+2l=1k21(1)lsink1(lπk)}(k4)(1)k+12k!l=1k12(1)lsink1(lπk)log(tanlπ2k)(k)

kが4以上の偶数のときのS(k)の式は,一番上の式でsinの値が等しいところをまとめただけです.

また,kが奇数のときのように,部分分数分解を用いてkが偶数のときのS(k)を計算すると次のようになります.
まず,部分分数分解
(1t2)k11t2k=12kl=1k1(1ζ2l)k1ζl(1tζl+(1)k1tζl)=2k1(1)k1(1)k12kl=1k1(1)lsink1(lπk)(1tζl+(1)k1tζl)
においてkを偶数とすると,
(1t2)k11t2k=2k1(1)k2(1)2kl=1k1(1)lsink1(lπk)(1tζl1tζl)
となるので,これを積分して
S(k)=(1)k2(1)2k!l=1k1(1)lsink1(lπk)01(1tζl1tζl)dt=(1)k2(1)2k!l=1k1(1)lsink1(lπk)[log(tζltζl)]01=(1)k2(1)2k!l=1k1(1)lsink1(lπk){log(1ζl1ζl)logζ2l}=(1)k2(1)2k!l=1k1(1)lsink1(lπk)log(ζl)=(1)k2(1)2k!l=1k1(1)lsink1(lπk)1(πlπk)=(1)k2π2k!l=1k1(1)lsink1(lπk)klk
となります.最後の等式において和を取る変数をlからklに取り換えると,lが1からk1を動くときklk1から1まで動くので,
S(k)=(1)k2π2k!l=1k1(1)lsink1((kl)πk)lk=(1)k2π2k!l=1k1(1)lsink1(lπk)lk
を得ます.従って,S(k)に対する2つの表式を足すことで
2S(k)=S(k)+S(k)=(1)k2π2k!l=1k1(1)lsink1(lπk)klk+(1)k2π2k!l=1k1(1)lsink1(lπk)lk=(1)k2π2k!l=1k1(1)lsink1(lπk)
となります.これより上で得た値と同じ値を得ることができました.

参考文献

投稿日:2022512
OptHub AI Competition

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  2. 級数の値を積分で表す
  3. $k$が小さいときの値で検算
  4. $k$が偶数のときの$S(k)$
  5. 検算再訪
  6. 展望
  7. 2022/5/15追記
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