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大学数学基礎解説
文献あり

アティマク1章の演習問題7が少しおもしろかったので具体例を考えた

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どうも

こんにちは ごててんです 最近炭酸水ばかり飲んでいます

Atiyah‐MacDonald 可換代数入門の演習問題を適当に見ていたら, 面白いなーと思った問題があったのでその問題の紹介と証明(ネタバレ注意?)と, その問題にまつわる具体例を考えたのでそれを載せます(具体例がメイン?)

一応

以下, 環といえば1を持つ可換環とします.

問題

演習問題1-7

Aを環とする. 任意のxAに対してn>1がありxn=xを満たしているなら, Aのすべての素イデアルは極大イデアルとなる.(nxに依存していてよい.)

自分で解きたい方はここで一旦スクロールを止めてください......

 

   

 

 

 

 

   

 

 

 

 

問題の証明 (ネタバレ注意)

拙作ですが解答を......

 IAの素イデアルとすれば, A/Iは整域. xAIとするとき, xn=x となる整数n>1をとると(xnx)+I=x(xn11)+I=I となることから xn11Iがわかる. このとき(x+I)(xn2+I)=xn1+I=1+Iがわかり, A/Iは体であるからIは極大イデアル.

証明を終えてみて思ったのが, 「フェルマーの小定理からZ/pZが体であることを示す流れと同じだなー」というものでした. そして, 確かに有限体はこの問題の例になっていますね.

この問題に当てはまる例の必要条件を考える その1

 まずは整域であることを仮定して条件を絞っていきます.

Kを環とするとき, 零イデアル0Kの極大イデアルとなることとKが体であることは同値.

証明手法(任意)

 0が極大イデアルとなることと, 自明でないイデアルをもたないことは同値. さらにそれは体であることと同値.

Kを整域とする. Kのすべての素イデアルが極大イデアルとなるなら, Kは体となる.

 Kは整域であることから, 零イデアル0は素イデアルで, 極大イデアル. よって命題1よりしたがう.

Kを整域とする. 任意のxKに対し n>1がありxn=xを満たしているなら, Kは正標数の体となる.

証明手法(任意)

 標数が0ならQKであるが, 2n(n>1)2となることはない.

同値ではない

正標数の有理関数体を考えると, 逆が成り立たないこともわかります.

少し絞ったところで具体例

整域なら正標数の体となるしかないというところまで絞りました. それでは具体例を考えていきます.

Kを位数がnの有限体であるとする. このとき, Kの任意の元xについてxn=xが成立する.

 K×=K{0}は積に関する可換群で, x0が生成する部分群の位数をdとするとラグランジュの定理よりd|K×|=n1の約数となる. さて, 元xが生成する部分群の位数dと元xの位数は一致するからxn1=(xd)n1d=1n1d=1.

 この命題より有限体が例になるとわかります. しかし, この例だとxに依存しないnを取れてしまっているので少しつまらないですね. 依存しないnを取れない例を考えます.

KFppは素数)の代数閉包であるとする. このとき, Kの任意の元xについてd>1が取れxpd=xを満たす.

 xKFpFp上の最小多項式f(X)を取り, そのFp上の最小分解体を考えるとこれは有限体で位数はq=pdegf(X). 命題3を使うとxq=x.

この問題に当てはまる例の必要条件を考える その2

 今度は体でない例を考えます. 必然的に整域ではありません.

Aを環とする. 任意のxAに対してn>1がありxn=xを満たしているなら, Aは被約環.(0でないベキ零元をもたない.)

 xA0でないベキ零元とする. xm=0となる最小のmを取る. xn=xとなるn>1を取るとこれはn<mのはずである. (nmであればx=xn=xnmxm=0.)しかし, xn=xの両辺にxmnをかけるとxm=xmn+1=0であるが, mn+1<mよりmの最小性に矛盾.

具体例 その2

 さて, 被約環であることを示しましたがこれは特に使うわけではありません(え)
最後に恣意的(?)な例を考えます.

任意の整数m>1に対して位数がmの環Aがあり, 任意のxAに対してn>1がありxn=xを満たしている.

無理やり

m=p1i1ptitを素因数分解とする(pjはそれぞれ異なる素数でij>0). このときj=1tFpjijは位数がmの環で, 任意の元(x1,,xt)に対して=(p1i11)(ptit1)とすると(x1,,xt)=(x1,,xt) さて, 各成分について考えるとj番目の成分はFpjijであるのでxj=(xjpjij1)pjij1=1pjij1=1. よって(x1,,xt)=(1,,1)であるから, (x1,,xt)+1=(x1,,xt).

余談?

さきほどの例をグレードアップ(?)させます. 以下qが素数ベキ(prime power)であるとは, 素数pがありq=pdd>0)と書けるということにします.

Z加群A=qFqqは素数ベキ全体を渡るとする.)は任意のxAに対してn>1がありxn=xを満たしている. ただし, 積は要素ごとの積として定義する.

(xq)qAの元とするとき, =xq0(q1)とすれば, xq=(xqq1)q1=1q1=1であり, つまり(xq)q+1=(xq)q.

積の単位元を持たないので(この記事においては)環にならず, もはやこの記事のタイトルと関係ないですが書きました.

さてこのZ加群ですが, 次の命題の逆を考えたときの反例になっています.

Gが有限群ならば, Gの元xは位数が有限となる.

終わり

 結局有限体に終始しました. もっと面白い具体例があるかもしれませんが, ここで考えるのをやめてしまおうと思います. ここまで読んでいただきありがとうございました~~~

参考文献

[1]
雪江 明彦, 代数学2 環と体とガロア理論
[2]
諏訪紀幸, 現代基礎数学 6 有限体と代数曲線, p.86
[3]
M.F.Atiyah, I.G.MacDonald 著, 新妻 弘 訳, Atiyah-MacDonald可換代数入門, 共立出版, 2006, p.16
投稿日:2022514
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ごててん
ごててん
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位相空間と環が好きです

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  1. どうも
  2. 問題
  3. 問題の証明 (ネタバレ注意)
  4. この問題に当てはまる例の必要条件を考える その1
  5. 少し絞ったところで具体例
  6. この問題に当てはまる例の必要条件を考える その2
  7. 具体例 その2
  8. 余談?
  9. 終わり
  10. 参考文献