こんにちは ごててんです 最近炭酸水ばかり飲んでいます
Atiyah‐MacDonald 可換代数入門の演習問題を適当に見ていたら, 面白いなーと思った問題があったのでその問題の紹介と証明(ネタバレ注意?)と, その問題にまつわる具体例を考えたのでそれを載せます(具体例がメイン?)
以下, 環といえば$1$を持つ可換環とします.
$A$を環とする. 任意の$x \in A$に対して$n>1$があり$x^n=x$を満たしているなら, $A$のすべての素イデアルは極大イデアルとなる.($n$は$x$に依存していてよい.)
自分で解きたい方はここで一旦スクロールを止めてください......
拙作ですが解答を......
$I$を$A$の素イデアルとすれば, $A/I$は整域. $x\in A \setminus I$とするとき, $x^n=x$ となる整数$n>1$をとると$(x^n - x) + I = x(x^{n-1}-1)+I =I$ となることから $x^{n-1}-1 \in I$がわかる. このとき$(x+I)(x^{n-2}+I)=x^{n-1}+I=1+I$がわかり, $A/I$は体であるから$I$は極大イデアル.
証明を終えてみて思ったのが, 「フェルマーの小定理から$\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$が体であることを示す流れと同じだなー」というものでした. そして, 確かに有限体はこの問題の例になっていますね.
まずは整域であることを仮定して条件を絞っていきます.
$K$を環とするとき, 零イデアル$0$が$K$の極大イデアルとなることと$K$が体であることは同値.
$0$が極大イデアルとなることと, 自明でないイデアルをもたないことは同値. さらにそれは体であることと同値.
$K$を整域とする. $K$のすべての素イデアルが極大イデアルとなるなら, $K$は体となる.
$K$は整域であることから, 零イデアル$0$は素イデアルで, 極大イデアル. よって命題1よりしたがう.
$K$を整域とする. 任意の$x \in K$に対し $n>1$があり$x^n=x$を満たしているなら, $K$は正標数の体となる.
標数が$0$なら$\mathbb{Q} \subset K$であるが, $2^n$$(n>1)$が$2$となることはない.
正標数の有理関数体を考えると, 逆が成り立たないこともわかります.
整域なら正標数の体となるしかないというところまで絞りました. それでは具体例を考えていきます.
$K$を位数が$n$の有限体であるとする. このとき, $K$の任意の元$x$について$x^{n}=x$が成立する.
$K^{\times}=K \setminus \{0\}$は積に関する可換群で, $x \ne 0$が生成する部分群の位数を$d$とするとラグランジュの定理より$d$は$|K^{\times}|=n-1$の約数となる. さて, 元$x$が生成する部分群の位数$d$と元$x$の位数は一致するから$x^{n-1}=(x^d)^{\frac{n-1}{d}}=1^{\frac{n-1}{d}}=1$.
この命題より有限体が例になるとわかります. しかし, この例だと$x$に依存しない$n$を取れてしまっているので少しつまらないですね. 依存しない$n$を取れない例を考えます.
$K$を$\mathbb{F}_p$($p$は素数)の代数閉包であるとする. このとき, $K$の任意の元$x$について$d>1$が取れ$x^{p^d}=x$を満たす.
$x \in K \setminus \mathbb{F}_p$の$\mathbb{F}_p$上の最小多項式$f(X)$を取り, その$\mathbb{F}_p$上の最小分解体を考えるとこれは有限体で位数は$q=p^{\deg f(X)}$. 命題3を使うと$x^q=x$.
今度は体でない例を考えます. 必然的に整域ではありません.
$A$を環とする. 任意の$x \in A$に対して$n>1$があり$x^n=x$を満たしているなら, $A$は被約環.($0$でないベキ零元をもたない.)
$x \in A$を$0$でないベキ零元とする. $x^m = 0$となる最小の$m$を取る. $x^n=x$となる$n>1$を取るとこれは$n< m$のはずである. ($n \geq m $であれば$x=x^n=x^{n-m} x^m = 0$.)しかし, $x^n=x$の両辺に$x^{m-n}$をかけると$x^m = x^{m-n+1} = 0$であるが, $m-n+1< m$より$m$の最小性に矛盾.
さて, 被約環であることを示しましたがこれは特に使うわけではありません(え)
最後に恣意的(?)な例を考えます.
任意の整数$m>1$に対して位数が$m$の環$A$があり, 任意の$x \in A$に対して$n>1$があり$x^n=x$を満たしている.
$m=p_1^{i_1} \dots p_t^{i_t}$を素因数分解とする($p_j$はそれぞれ異なる素数で$i_j>0$). このとき$ \displaystyle \prod_{j=1}^{t} \mathbb{F}_{p_j^{i_j}} $は位数が$m$の環で, 任意の元$(x_1, \dots , x_t)$に対して$\ell=(p_1^{i_1}-1) \dots (p_t^{i_t}-1)$とすると$(x_1, \dots , x_t)^{\ell} = (x_1^{\ell}, \dots , x_t^{\ell})$ さて, 各成分について考えると$j$番目の成分は$\mathbb{F}_{p_j^{i_j}}$であるので$x_j^{\ell}=(x_j^{p_j^{i_j}-1})^{\frac{\ell}{p_j^{i_j}-1}}=1^{\frac{\ell}{p_j^{i_j}-1}}=1$. よって$(x_1, \dots , x_t)^{\ell} = (1, \dots , 1)$であるから, $(x_1, \dots , x_t)^{\ell+1}=(x_1, \dots , x_t)$.
さきほどの例をグレードアップ(?)させます. 以下$q$が素数ベキ(prime power)であるとは, 素数$p$があり$q=p^d$($d>0$)と書けるということにします.
$\mathbb{Z}$加群$ \displaystyle A= \bigoplus_{q} \mathbb{F}_{q}$ ($q$は素数ベキ全体を渡るとする.)は任意の$x \in A$に対して$n>1$があり$x^n=x$を満たしている. ただし, 積は要素ごとの積として定義する.
$\displaystyle (x_q)_{q} $ を$A$の元とするとき, $\ell= \prod_{x_q \ne 0}(q-1) $とすれば, $x_q^{\ell}=(x_q^{q-1})^{\frac{\ell}{q-1}}=1^{\frac{\ell}{q-1}}=1$であり, つまり$(x_q)_{q}^{\ell+1}=(x_q)_{q}$.
積の単位元を持たないので(この記事においては)環にならず, もはやこの記事のタイトルと関係ないですが書きました.
さてこの$\mathbb{Z}$加群ですが, 次の命題の逆を考えたときの反例になっています.
$G$が有限群ならば, $G$の元$x$は位数が有限となる.
結局有限体に終始しました. もっと面白い具体例があるかもしれませんが, ここで考えるのをやめてしまおうと思います. ここまで読んでいただきありがとうございました~~~