以下の内容は坂井秀隆「常微分方程式」にはどこかに載っていると思います.
1時間半くらいで急いで書いているので,間違いがある気がします(間違いがありそうにない時がないが).これを読めば,高校数学に必要なのは,三角函数ではなく,超幾何函数だと思うようになると思います,知らんけど.
まず,確定特異点の定義をしましょう.
$S(\theta_1,\theta_2)=\{x\mid |x|< r,\theta_1<\arg x<\theta_2\}$とおきます.この時,確定特異点を次で定義します.また,特異点が$x=\infty$の時は,$z-\xi$のかわりに$z=1/u$とし$u=0$を考えることにします.
函数$f(z)$の特異点$z=\xi$が確定特異点であるとは,正数$A$が存在して任意の$\theta_1,\theta_2$に対して
\begin{equation}\lim_{z\to\xi,z\in S(\theta_1,\theta_2)}|z-\xi|^A|f(z)|=0\end{equation}
を満たすことである.特異点$z=\xi$が確定特異点でない時,不確定特異点という.
少し解説します.わざわざ$z\in S(\theta_1,\theta_2)$としているのは,$z$が$\xi$に近づくときに,コントロールできるようにするためです.というのは,$f(z)$というのは,一般に多価函数を考えているので,特異点に近づくときにあまりにも変な近づき方をされると留数の分がどんどん拾われていく,といったことが起こりえます.
この時次の定理が知られています(常微分方程式のテキスト参照).
$p(z),q(z)$を有理函数とする.微分方程式
\begin{equation}f''(z)+p(z)f'(z)+q(z)f(z)=0\end{equation}
において$(z-\xi)p(z),(z-\xi)^2q(z)$が正則であることと,この方程式の任意の解が$z=\xi$を(高々)確定特異点に持つことは同値である.
この定理により確定特異点が簡単に判定できます.
確定特異点であると所謂Frobeniusの方法を使って形式解を求めると収束するので冪級数解を求める事ができます(常微分方程式のテキスト参照).
しかし,不確定特異点の場合には形式解は発散し,この方法を使うことができません.
実は$\exp (1/z)$はz=0に不確定特異点を持ちます.この事は定義からも示せますが,上の定理を一階の場合に読み替えて
\begin{equation} f'(z)-f(z)=0 \end{equation}
に適用すると手軽にわかります.
この様な基本的に見える函数であっても不確定特異点を持つことがあります.したがって不確定特異点であるかどうかは,それなりに気にするべき事でしょう.
$\alpha,\beta\in\mathbb{C},\gamma\in\mathbb{C}\setminus\{0,-1,-2,-3,\ldots\}$に対し
\begin{equation}_2F_1(\alpha,\beta,\gamma;z)=\sum_{n=0}^\infty\frac{(\alpha)_n(\beta)_n}{(\gamma)_nn!}z^n\end{equation}
と定め,$_2F_1(\alpha,\beta,\gamma;z)$をGaussの超幾何函数と呼ぶ.ここで,
\begin{equation}(\alpha)_n=(\alpha+n-1)\cdots(\alpha+1)\alpha\end{equation}
である.
上の定義の$\alpha,\beta,\gamma$で
\begin{equation}f''(z)-\frac{\gamma-(\alpha+\beta+1)z}{z(z-1)}f'(z)+\frac{\alpha\beta}{z(z-1)}f(z)=0
\end{equation}
をGaussの超幾何微分方程式という.
$_2F_1(\alpha,\beta,\gamma;z)$はこの方程式を満たします.そのことは代入して計算すればすぐにわかります.
さて,第一節で述べた定理から$_2F_1(\alpha,\beta,\gamma;z)$は$z=0,1,\infty$に確定特異点を持つことがわかります.この点では,指数函数よりも超幾何函数の方が良い函数と言えるでしょう.
Gaussの超幾何微分方程式,超幾何函数を少しいじって極限をとることでいろいろなものが得られます.
先程,意味ありげに$F$の左右に$2,1$と書いてきました.この左の$2$は分子に$2$つのパラメータ$\alpha,\beta$がのっていて,分子には$\gamma$というパラメータが$1$つあるという事を表しています.
そこで次のように定義します.
\begin{align}&_0F_0(z)=\sum_{n=0}^\infty\frac{1}{n!}z^n(=\exp z)\\&_0F_1(\gamma;z)=\sum_{n=0}^\infty\dfrac{1}{(\gamma)_nn!}z^n\\& _1F_1(\alpha,\gamma;z)=\sum_{n=0}^\infty\frac{(\alpha)_n}{(\gamma)_nn!}z^n\end{align}
すぐに見てわかる通り,指数関数はGaussの超幾何函数のパラメータを全部取っちゃったやつになっています.ほかの2つはこの後紹介する$2$つの微分方程式の解になっています.
Gaussの超幾何微分方程式
\begin{equation}f''(z)-\frac{\gamma-(\alpha+\beta+1)z}{z(z-1)}f'(z)+\frac{\alpha\beta}{z(z-1)}f(z)=0\end{equation}
は$z=0,1,\infty$を特異点にもつと述べました.この特異点のうち$z=1$をうごかして$z=\infty$にくっつけてしまいましょう.
それにはまず$z$を$z/\beta$に置き換えます.するとGaussの超幾何微分方程式は
\begin{equation}\beta f''(z)-\beta \frac{\gamma-z-(\alpha+1)z/\beta}{z(z/\beta-1)}f'(z)+\beta\frac{\alpha}{z(z/\beta-1)}f(z)=0\end{equation}
となり$\beta$で割って$\beta\to\infty$とすると,
\begin{equation}f''(z)+\frac{\gamma-z}{z}f'(z)-\frac{1}{z}\alpha f(z)=0\end{equation}
となります.特異点が"合流"していることからこれをKummerの合流型微分方程式と呼びます.
$z=\infty$付近を調べるには$z=1/u$とおいて$u=0$の周りを調べれば良ろしい.今回は$(1/z)z^2=z=1/u$なので,$u=0$すなわち,$z=\infty$で正則ではない事がわかります.したがってKummerの合流型超幾何微分方程式は$z=\infty$を不確定特異点に持ちます.
さらに,
\begin{align}&f''(z)+\gamma f'(z)-f(z)=0
\\&f''(z)-zf '(z)-\alpha f(z)=0
\\&f''(z)-zf(z)=0&\end{align}
をそれぞれ$_0F_1$型の合流型超幾何微分方程式,Hermite-Waber方程式,Airy方程式と呼ぶ.
$_0F_1(\gamma;z)$は$_0F_1$型の合流型超幾何微分方程式を満たします.
これらも,第一節の判定法から,これらは$z=\infty$で不確定特異点を持つ解があることがわかります.不確定特異点では,ストークス現象など特有の面白さがあるのですが,疲れたのでここで終わりにしたいと思います.