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調和積・シャッフル積の話

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はじめに

まずこの記事のゴールは、MZV同士の積をMZVの線形結合=和で表すことです。MZVの定義・扱いについては こちら とかをご覧ください。MZVの積を和にする方法として、調和積とシャッフル積という2つの方法があります。それぞれ順番に紹介します。
(この記事では「調和積」「シャッフル積」の言葉を「関係式を得る方法」として使っています。用語の濫用ですが、インデックスとかの説明を一切していないのでご了承下さい。)

調和積

まず1つ目、調和積です。これはざっくり説明すると、積をシグマの変数の大小関係で分割する方法です。とりあえず例を見てください。ζ(2)ζ(3)について考えます。リーマンゼータは1変数の場合のMZVですので、これはMZVの積になっています。計算するとこうなります。
 ζ(2)ζ(3)=0<a11a120<b11b13     =0<a1,b11a12b13     =0<a1<b11a12b13+0<a1=b11a12b13+0<b1<a11a12b13     =ζ(2,3)+ζ(5)+ζ(3,2)
a1,b1の大小関係はa1<b1, a1=b1, b1<a1の3つの場合があり、逆にこれらの場合しかありません。したがって、このように分解することができるわけですね。
もう1つ練習です。今度はζ(2)ζ(1,2)という、1変数と2変数のMZVの積について考えてみましょう。
 ζ(2)ζ(1,2)=0<a11a120<b1<b21b1b22       = 0<a10<b1<b21a12b1b22
a1に注目するなどして大小関係を考えると、あり得る場合は、
0<a1<b1<b20<a1=b1<b20<b1<a1<b20<b1<a1=b20<b1<b2<a1
の5通りであることが分かります。
 ζ(2)ζ(1,2)= 0<a10<b1<b21a12b1b22       =0<a1<b1<b21a12b1b22+0<a1=b1<b21a12b1b22+0<b1<a1<b21a12b1b22+0<b1<a1=b21a12b1b22+0<b1<b2<a11a12b1b22       =ζ(2,1,2)+ζ(3,2)+ζ(1,2,2)+ζ(2,3)+ζ(1,2,2)       =ζ(3,2)+ζ(2,3)+ζ(2,1,2)+2ζ(1,2,2)
と、こうなるわけですね。
(横長になっててすいません)
実際には多変数でわざわざこんな計算はしないので、興味のある方は色々調べてみて下さい。

シャッフル積

2つ目はシャッフル積です。簡単に説明すると、積を部分分数分解で分けるやり方です。今度もζ(2)ζ(3)を考えてみましょう。使う部分分数分解は、前回の記事でもやった、
1ab=1a(a+b)+1b(a+b)
です。とりあえずやってみましょう。手を動かしてみるのは何事でも大切です。
 ζ(2)ζ(3)=0<a11a120<b11b13      =0<a1,b11a12b13      =0<a1,b11a12b12(a1+b1)+0<a1,b11a1b13(a1+b1)      =0<a1,b11a12b1(a1+b1)2+0<a1,b12a1b12(a1+b1)2+0<a1,b11b13(a1+b1)2      =ζ(3,2)+0<a1,b11a12(a1+b1)3+0<a1,b13a1b1(a1+b1)3+0<a1,b12b12(a1+b1)3      =ζ(3,2)+3ζ(2,3)+0<a1,b13a1(a1+b1)4+0<a1,b13b1(a1+b1)4      =ζ(3,2)+3ζ(2,3)+6ζ(1,4)
中々ハードでしたが、計算できました。もう1つだけ、調和積と同じくζ(2)ζ(1,2)で練習しましょう。
ζ(2)ζ(1,2)=0<a11a120<b1<b21b1b22      = 0<a10<b1<b21a12b1b22
シグマの中の変数がa1, b1, b2の3つあります。こういうときにどの2つの変数に注目して部分分数分解すればいいかというと、anbnのそれぞれ一番大きいもの同士に注目すると上手くいきます。分かりやすいように注目する変数に色を付けておきました。
 ζ(2)ζ(1,2)= 0<a10<b1<b21a12b1b22       = 0<a10<b1<b21a12b1b2(a1+b2)+ 0<a10<b1<b21a1b1b22(a1+b2)       = 0<a10<b1<b21a12b1(a1+b2)2+ 0<a10<b1<b22a1b1b2(a1+b2)2+ 0<a10<b1<b21b1b22(a1+b2)2       = 0<a10<b1<b21a12(a1+b1)(a1+b2)2+ 0<a10<b1<b21a1b1(a1+b1)(a1+b2)2+ 0<a10<b1<b22a1b1(a1+b2)3+ 0<a10<b1<b22b1b2(a1+b2)3+ 0<a10<b1<b21b1b22(a1+b2)2       = 0<a10<b1<b21a12(a1+b1)(a1+b2)2+ 0<a10<b1<b21a1(a1+b1)2(a1+b2)2+ 0<a10<b1<b21b1(a1+b1)2(a1+b2)2+ 0<a10<b1<b22a1(a1+b1)(a1+b2)3+ 0<a10<b1<b22b1(a1+b1)(a1+b2)3+ 0<a10<b1<b22b1b2(a1+b2)3+ 0<a10<b1<b21b1b22(a1+b2)2       =ζ(2,1,2)+ζ(1,2,2)+ζ(1,2,2)+2ζ(1,1,3)+2ζ(1,1,3)+2ζ(1,1,3)+ζ(1,2,2)       =ζ(2,1,2)+3ζ(1,2,2)+6ζ(1,1,3)
下から3行目については、大小関係に気を付ければ、全部MZVで書けますね。
とても大変でしたが、なんとか計算することができました。
(横長すぎてすいません)
調和積と同じく、普通はこんな計算しないと思いますが、分かりやすさ重視です。

最後に

本当は2変数同士でも級数で計算したかったんですが、あまりに計算が大変なので諦めました。暇な人はやってみてください。
それと、この内容に関してはmathlog内でも色んな人が解説しているので読んでみて下さい。(解説していない記号が大量に出てきますが)

投稿日:202266
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