高校の教科書などで紹介されている「$\sqrt{2}$は無理数」の証明について、「そもそも$2$乗して$2$になる正の実数の存在が証明されていない」といった指摘を見かけます。
今回は「区間縮小法の原理」を使いながら、$2$乗して$2$になる正の実数の存在を確認していきます。
※中間値の定理ですぐ確認できる事実ではありますが、実数についての勉強もかねて、「区間縮小法の原理」を使ってみようと思います。
※実数について、よくわかっていないので「これを仮定したらマズいよ」という性質を使っているようであれば、ぜひコメントなどください。
※最初に本記事を公開したときには「$\sqrt{2}$は実数であることを確認する」といった表現をしていましたが、それでは「(実数なのかどうかわからないものではあるが)$\sqrt{2}$が定義されていて、それが実数であることを示す」という意味合いになってしまうため、記事内の表現を一部変更しました(2022/6/20更新)
※一意性についても追記しました(2022/6/20更新)
(実数の)閉区間の入れ子の列
$$
[a_1,b_1]\supseteq[a_2,b_2]\supseteq\cdots\supseteq[a_n,b_n]\supseteq\cdots
$$
において
$$
\lim_{n \to \infty} (b_n-a_n)=0
$$
が成立するならば、この区間列は(実数内に)ただ1つの共通要素をもつ。
(参考:藤田博司「『集合と位相』をなぜ学ぶのか」p.67)
「区間縮小法の原理」は、実数の連続性を表現する命題の1つとして知られていて、その他にも代表的な例として、以下のようなものがあります。
・<ワイエルシュトラス連続の原理>:上に有界な点集合には上限が存在する
・<デデキントの切断の原理>:実数の全体を左組と右組に切断するとき、その境界となる数が必ず存在する
(参考:藤田博司「『集合と位相』をなぜ学ぶのか」p.62)
上記について、お気持ち部分を解説しておきます。
高校の教科書などで「実数は数直線で表現できる」と学び、「途切れなくつながっている」などのイメージを持っている人が多いと思います。そのあたりについて、何となくのイメージでごまかすことなく、きちんと数学の言葉にしているのが、上記の命題たちである、と私は理解しています。
また、有理数では成り立たない命題なので、実数を特徴づけている性質である、とも認識しています。
ただ、私自身、実数について完璧に理解している自信はないので、この説明は「へー」程度に受け流しておいてください。
ねこによるイメージ図
ざっくりした方針は以下です。
集合$A,B$を以下とし、実数を2つに分けます。
$$
A=\{x \in \mathbb{R}| x \leqq 0 \ \mbox{または}\ x^2 \leqq 2\}
$$
$$
B=\{x \in \mathbb{R}| x > 0 \ \mbox{かつ}\ x^2 > 2\}
$$
$A \ni 1,\ B \ni 2$をとり、$a_1=1,\ b_1=2$とします。これらの中点を$c_1$とすると
$$
c_1=\frac{a_1+b_1}{2}=1.5
$$
となり、${c_1}^2=2.25>2$なので、$c_1 \in B$です。
次に、$a_1=a_2 \in A,\ b_2=c_1 \in B$とします。これらの中点を$c_2$とすると
$$
c_2=\frac{a_2+b_2}{2}=1.25
$$
となり、${c_2}^2=1.5625\leqq 2$なので、$c_2 \in A$です。
さらに次は、$a_3=c_2 \in A,\ b_3=b_2 \in B$とします。これらの中点をとり、$A$か$B$どちらに属するか判定します。
これをくりかえします。つまり、$a_n \in A,\ b_n \in B$が与えられたとき、これらの中点$c_n$をとります。$c_n \in A$であるときは、$a_{n+1}=c_n,\ b_{n+1}=b_n$とし、$c_n \in B$であるときは、$a_{n+1}=a_n,\ b_{n+1}=c_n$とします。
このようにして、閉区間の入れ子
$$
[a_1,b_1]\supseteq[a_2,b_2]\supseteq\cdots\supseteq[a_n,b_n]\supseteq\cdots
$$
をつくり、その共通要素を調べます。
$[a_n,b_n]$を$n=1$から$n=30$まで計算すると、以下のようになります。
[1.0,2.0]
[1.0,1.5]
[1.25,1.5]
[1.375,1.5]
[1.375,1.4375]
[1.40625,1.4375]
[1.40625,1.421875]
[1.4140625,1.421875]
[1.4140625,1.41796875]
[1.4140625,1.416015625]
[1.4140625,1.4150390625]
[1.4140625,1.41455078125]
[1.4140625,1.414306640625]
[1.4141845703125,1.414306640625]
[1.4141845703125,1.41424560546875]
[1.4141845703125,1.414215087890625]
[1.4141998291015625,1.414215087890625]
[1.41420745849609375,1.414215087890625]
[1.414211273193359375,1.414215087890625]
[1.4142131805419921875,1.414215087890625]
[1.4142131805419921875,1.41421413421630859375]
[1.4142131805419921875,1.414213657379150390625]
[1.4142134189605712890625,1.414213657379150390625]
[1.41421353816986083984375,1.414213657379150390625]
[1.41421353816986083984375,1.414213597774505615234375]
[1.41421353816986083984375,1.4142135679721832275390625]
[1.41421355307102203369140625,1.4142135679721832275390625]
[1.414213560521602630615234375,1.4142135679721832275390625]
[1.414213560521602630615234375,1.4142135642468929290771484375]
[1.414213560521602630615234375,1.41421356238424777984619140625]
$[{a_n}^2,{b_n}^2]$を$n=1$から$n=30$まで計算すると、以下のようになります。
[1.0,4.0]
[1.0,2.25]
[1.5625,2.25]
[1.890625,2.25]
[1.890625,2.06640625]
[1.9775390625,2.06640625]
[1.9775390625,2.021728515625]
[1.99957275390625,2.021728515625]
[1.99957275390625,2.0106353759765625]
[1.99957275390625,2.005100250244140625]
[1.99957275390625,2.00233554840087890625]
[1.99957275390625,2.0009539127349853515625]
[1.99957275390625,2.000263273715972900390625]
[1.99991799890995025634765625,2.000263273715972900390625]
[1.99991799890995025634765625,2.0000906325876712799072265625]
[1.99991799890995025634765625,2.000004314817488193511962890625]
[1.99996115663088858127593994140625,2.000004314817488193511962890625]
[1.9999827356659807264804840087890625,2.000004314817488193511962890625]
[1.999993525227182544767856597900390625,2.000004314817488193511962890625]
[1.99999892001869739033281803131103515625,2.000004314817488193511962890625]
[1.99999892001869739033281803131103515625,2.0000016174171832972206175327301025390625]
[1.99999892001869739033281803131103515625,2.000000268717712970101274549961090087890625]
[1.99999959436814833679818548262119293212890625,2.000000268717712970101274549961090087890625]
[1.9999999315429164425950148142874240875244140625,2.000000268717712970101274549961090087890625]
[1.9999999315429164425950148142874240875244140625,2.000000100130311153634465881623327732086181640625]
[1.9999999315429164425950148142874240875244140625,2.00000001583661290993632064783014357089996337890625]
[1.9999999736897644542210628060274757444858551025390625,2.00000001583661290993632064783014357089996337890625]
[1.999999994763188626567540495670982636511325836181640625,2.00000001583661290993632064783014357089996337890625]
[1.999999994763188626567540495670982636511325836181640625,2.00000000529990075437414276393610634841024875640869140625]
[1.999999994763188626567540495670982636511325836181640625,2.0000000000315446870013946778499303036369383335113525390625]
$c^2=2$を満たす正の実数$c$が(一意に)存在する。
集合$A,B$を以下とする。
$$
A=\{x \in \mathbb{R}| x \leqq 0 \ \mbox{または}\ x^2 \leqq 2\}
$$
$$
B=\{x \in \mathbb{R}| x > 0 \ \mbox{かつ}\ x^2 > 2\}
$$
$B=\mathbb{R}\setminus A$なので、どの実数も$A$と$B$のどちらか一方だけに入る。
また、$A$に属する任意の実数$a$は、$B$に属する任意の実数$b$よりも小さい($a< b$)。
$A \ni 1,\ B \ni 2$をとり、$a_1=1,\ b_1=2$とする。
$a_n \in A,\ b_n \in B$が与えられたときに、以下をくりかえす。
$a_n,\ b_n$の中点を
$$
c_n=\frac{a_n+b_n}{2}
$$
とする。
$c_n \in A$ならば、$a_{n+1}=c_n,\ b_{n+1}=b_n$とおく。
$c_n \in B$ならば、$a_{n+1}=a_n,\ b_{n+1}=c_n$とおく。
これをくりかえし、閉区間の入れ子の列
$$
[a_1,b_1]\supseteq[a_2,b_2]\supseteq\cdots\supseteq[a_n,b_n]\supseteq\cdots
$$
をつくる。
$$
b_n-a_n=\frac{b_1-a_1}{2^{n-1}}=\frac{1}{2^{n-1}}
$$
より
$$
\lim_{n \to \infty} (b_n-a_n)=0
$$
が成り立つ(詳しくは、後述の補足参照)。
したがって、この区間列は(実数内に)ただ1つの共通要素をもつことがわかる。
この共通要素を$c$とすると、任意の番号$n$に対し
$$
0< a_n \leqq c \leqq b_n \ \cdots (1)
$$
が成り立つ。
ここで、$d_n={a_n}^2,\ e_n={b_n}^2$とする。
$$
0< a_1 \leqq a_2 \leqq \cdots \leqq a_n \leqq b_n \leqq \cdots \leqq b_2 \leqq b_1
$$
より
$$
0< d_1 \leqq d_2 \leqq \cdots \leqq d_n \leqq e_n \leqq \cdots \leqq e_2 \leqq e_1
$$
である。
よって
$$
[d_1,e_1]\supseteq[d_2,e_2]\supseteq\cdots\supseteq[d_n,e_n]\supseteq\cdots
$$
となることがわかる。
また
$$
0< e_n-d_n={b_n}^2-{a_n}^2=(b_n-a_n)(b_n+a_n)
$$
であることと
$$
(b_n-a_n)(b_n+a_n)\leqq \frac{(b_1-a_1)}{2^{n-1}}(b_1+b_1)=\frac{4}{2^{n-1}}=\frac{1}{2^{n-3}}
$$
であることから
$$
0< e_n-d_n \leqq \frac{1}{2^{n-3}}
$$
が成り立つ。
よって
$$
\lim_{n \to \infty} (e_n-d_n)=0
$$
であることがわかる(詳しくは、後述の補足参照)。
したがって、この区間列はただ1つの共通要素をもつことがわかる。
(1)より、任意の番号$n$に対し
$$
{a_n}^2 \leqq c^2 \leqq {b_n}^2
$$
が成り立つので
$$
[d_n,e_n] \ni c^2
$$
となり、この区間列のただ1つの共通要素は$c^2$である。
また、$A,B$の定義から
$$
{a_n}^2 \leqq 2 < {b_n}^2
$$
が成り立つので
$$
[d_n,e_n] \ni 2
$$
となり、この区間列のただ1つの共通要素は$2$である。
したがって
$$
c^2=2
$$
であることがわかる。
(一意性の証明)
$c$とは異なる正の実数$c'$が${c'}^{2}=2$を満たすと仮定して、背理法で示す。
このとき、任意の番号$n$について
$$
{a_n}^2 \leqq {c'}^2 < {b_n}^2
$$
より
$$
(0<)a_n \leqq c' < b_n
$$
が成り立つ。
したがって$c'$は区間列$[a_n,b_n]$の共通要素であることがわかる。
しかし、この区間列の共通要素は$c$ただ1つであるため、矛盾。
よって、$2$乗して$2$となる正の実数は$c$ただ1つであることが示された。
※以上の証明は、藤田博司「『集合と位相』をなぜ学ぶのか」pp.67-68に書かれている「区間縮小法の原理から切断の原理を導く」を参考にしました。
任意の番号$n$に対し、$a_n \in \mathbb{Q},\ b_n \in \mathbb{Q}$ですが、区間列のただ1つの共通要素である$c$は有理数ではありません。
また、集合$A,B$は
1.どの実数も$A,B$のどちらか一方だけに入る
2.$A$に属するどの数$a$も、$B$に属するどの数$b$よりも小さい$(a< b)$
(参考:藤田博司「『集合と位相』をなぜ学ぶのか」p.63)
を満たすので、$A$と$B$の組は、実数の切断であり、$A$は左組、$B$は右組となっています。
$c$は$A$の最大要素で、左組と右組の境界となっていることがわかります(「デデキントの切断の原理」の確認)。$B$の最小要素は存在しません。
下記の「デデキントキャットされました」イラストで言うところの、上(最大ねこがいる方)に相当しています。
デデキントキャット
デデキントキャットされました
一方、有理数をデデキントキャットすると…?
また、$A$は上に有界であり、$c$が$A$の上限であることもわかります(「ワイエルシュトラス連続の原理」の確認)。
証明の中で
$$\lim_{n \to \infty} \frac{1}{2^n}=0$$
を使っているので、これを示しておきます。
$1$以上の任意の整数$n$に対して
$$
n<2^n
$$
が成り立つ。
数学的帰納法で証明する。
$n=1$のとき
$$
1<2
$$
より、成立する。
$n=k$のとき
$$
k<2^k \ \cdots (1)
$$
が成立すると仮定する。
(1)の両辺に$2$をかけて
$$
2k<2^{k+1} \ \cdots (2)
$$
となる。
また
$$
1 \leqq k
$$
より
$$
1 \leqq 2k-k
$$
なので
$$
k+1 \leqq 2k \ \cdots (3)
$$
である。
(2)(3)より
$$
k+1 \leqq 2k < 2^{k+1}
$$
となるので、$n=k$のときも成り立つことがわかる。
以上より、$1$以上の任意の整数$n$に対して
$$
n<2^n
$$
が成り立つ。
$$\lim_{n \to \infty} \frac{1}{2^n}=0$$
が成り立つ。
$\varepsilon$を任意の正の実数とする。
アルキメデス性より、ある$1$以上の整数$n_\varepsilon$が存在して
$$
(0<)\frac{1}{\varepsilon}< n_\varepsilon
$$
を満たす。
よって、$n>n_\varepsilon$を満たす、$1$以上の整数$n$について
$$
\frac{1}{\varepsilon}< n
$$
が成り立つ。
したがって
$$
\frac{1}{n}<\varepsilon\ \cdots (4)
$$
となる。
補題2より
$$
\frac{1}{2^n}<\frac{1}{n} \cdots (5)
$$
である。
(4)(5)より
$$
\frac{1}{2^n}<\varepsilon
$$
が成り立つ。
以上より、任意の正の実数$\varepsilon$に対し、ある$1$以上の整数$n_\varepsilon$が存在して、$n>n_\varepsilon$ならば
$$
\frac{1}{2^n}<\varepsilon
$$
が成り立つので
$$\lim_{n \to \infty} \frac{1}{2^n}=0$$
であることが示された。
歩き目です性
実数の順序や演算について、きちんと勉強した記憶がなく、今回証明していても「この性質、本当に使って良いのか?」と、1つ1つ疑心暗鬼になっていたので、いつかその辺りも頑張ってみたいです。
実数と仲良くなりたい!