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大学数学基礎解説
文献あり

ガウス日記を追ってみた

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近世数学史談という本ご存じでしょうか.かの高木貞治先生が書かれ,幾人もの人を数学の道へと呼び込んだと言われる数学史に関する本ですが,今回はこの本の 6 つめの話『レム二スケート関数の発見』にある,ガウスの行った計算を追ってみようと思います.まずは本文中からその部分を書き抜いてみましょう($u^{21}$とある部分は,原文では$x^{21}$ですが,$u$で良いと思うので書き換えています).

$\displaystyle u=\int_0^x\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}dx$ から

           $\displaystyle u=x+\frac12\cdot\frac15x^5+\frac{1\cdot3}{2\cdot4}\cdot\frac19x^9+\frac{1\cdot3\cdot5}{2\cdot4\cdot6}\cdot\frac1{13}x^{13}+\frac{1\cdot3\cdot5\cdot7}{2\cdot4\cdot6\cdot8}\cdot\frac{1}{17}x^{17}+\cdots$

それから

           $\displaystyle x=u-\frac{1}{10}u^5+\frac{1}{120}u^9-\frac{11}{15600}u^{13}+\frac{211}{3536000}u^{17}-\frac{1607}{318240000}u^{21}+\cdots$

級数の逆函数を求めることはラグランジュから学んで,計算は達者である.

まあ,「計算が達者」という次元の話なのかはさておき,ここでは「級数の逆函数を求めることはラグランジュから学んで」の部分から確認していきましょう.これは杉浦光夫『解析入門 Ⅱ』に載っています(Ⅸ 章定理 8.10)(わかりやすさのため多少書き換えています).

ラグランジュの公式

$f$が領域$D$で正則で,一点$a$において$f'(a)\neq0$をみたすとき,適当な$\rho>0$が存在して,円板$D(a,\rho)$の正の向きの周を$C$とすれば,任意の$w\in f(D(a,\rho))$に対し

                     $\displaystyle f^{-1}(w)=\frac{1}{2\pi i}\int_{C}\frac{\zeta f'(\zeta)}{f(\zeta)-w}d\zeta$

と表される.また$f(a)=b$を中心とする$f^{-1}(w)$のテーラー展開は,

          $\displaystyle f^{-1}(w)=\sum_{n=0}^{\infty}b_n(w-b)^n,\qquad b_n=\frac{1}{n}\underset{z=a}{\rm Res}\frac{1}{(f(z)-b)^n}=\frac{1}{n!}\left[\frac{d^{n-1}}{dz^{n-1}}\left(\frac{z-a}{f(z)-b}\right)^n\right]_{z=0}$

で表される.

これを用いて計算していきます.$u=f(z)$とおくと$f'(0)=1\neq0$なので定理の仮定をみたすので,とりあえずは安心です.$f(0)=0$周りで,$f^{-1}$の展開を考えます.

$b_0$ の計算

$b_0=0$ は明らかにそうです. 

$b_1$ の計算

$\displaystyle b_1=\left[\frac{z}{f(z)}\right]_{z=0}=1$です.まだ微分しなくていいので楽ですね.

$b_2$から$b_4$の計算

サボります.サボる理由は$b_5$の計算を見ればわかります$\cdots$ ちなみに2のときだけ計算して0になりました.

$b_5$ の 計 算

まずいのは $(d^4/dz^4)(z^5/f(z)^5)$の計算です.簡単のために,$D=d/dz$とおきます.ライプニッツ則を使おうと思うので,$D^k(f(z)^{-5})$を計算します.

  $D(f(z)^{-5})=-5f(z)^{-6}f'(z)$
  $D^2(f(z)^{-5})=30f(z)^{-7}f'(z)^2-5f(z)^{-6}f''(z)$
  $D^3(f(z)^{-5})=-210f(z)^{-8}f'(z)^3+90f(z)^{-7}f'(z)f''(z)-5f(z)^{-6}f'''(z)$
  $D^4(f(z)^{-5})=1680f(z)^{-9}f'(z)^4-1260f(z)^{-8}f'(z)^2f''(z)+90f(z)^{-7}f''(z)^2+120f(z)^{-7}f'(z)f'''(z)-5f(z)^{-6}f^{(4)}(z)$

多分あってるはずです.
ということで,

  $\displaystyle D^4(z^5f(z)^{-5})=\sum_{k=0}^4\binom4kD^k(f(z)^{-5})D^{4-k}(z^5)$

となります.このとき,分母にくる$f(z)$のうち次数最大は9ですので,全て$f(z)^{-9}$で括ることを考えます.

        $=f(z)^{-9}\biggl\{z^5\bigl(\underline{1680f'(z)^4}-1260f(z)f'(z)^2f''(z)+90f(z)^2f''(z)^2+120f(z)^2f'(z)f'''(z)-5f(z)^3f^{(4)}(z)\bigr)$
         $+20z^4\bigl(\underline{-210f(z)f'(z)^3}+90f(z)^2f'(z)f''(z)-5f(z)^3f'''(z)\bigr)+120z^3\bigl(30f(z)^2f'(z)^2-5f(z)^3f''(z)\bigr)$
         $\underline{+240z^2f(z)^3f'(z)+120zf(z)^4}\biggr\}$

うむ.
ここで,カッコ内を展開したときに $\bigcirc z^9+\cdots$といった形になると嬉しいわけですが,どうやら$z^5$の項があるようなので,まずはその係数を見ます.$z^5$の係数がでてくるのは下線部を引いた項のみで,その和は

        $1680-4200+3600-1200+120=0\ (!)$

となります.余談:この計算は一発で合いました.
さていよいよ本番です.$90f(z)^2f''(z)^2$の項以外からはすべて$z^9$の項がでてきます.ヒエエ.これを実際に計算すると,

        $1680\times2-1260\times2+120\times6-12\times5+20\times(-210)\times\dfrac{8}{5}+20\times90\times2-20\times5\times6$
         $+120\times30\times\dfrac65-1200-1200\times\dfrac45+48$
       $=-12$

となります!やった!あとはこれを $5!=120$ で割ることで,$u^5$の係数が$-\dfrac1{10}$になることが実際に確認できました.もっと簡単なやり方があるかもですが,とりあえず数値が合ったので大満足です.

最後に問題を出しておきます.ここまで読んだ方への演習問題です.

$u^9$の係数が$\dfrac1{120}$になることを確かめよ.

参考文献

[1]
高木貞治, 近世数学史談, 岩波文庫, p,37
[2]
杉浦光夫, 解析入門Ⅱ, 東京大学出版会, p.312
投稿日:2022625
更新日:2023114

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とと
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Mathlogを始めてみました。ところでMathlogってどんな対数なんですか?

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