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大学数学基礎解説
文献あり

因数分解型のHenselの補題

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はじめに

 この記事ではHenselの補題のある種の一般化について解説していきます。
 ここで可換環Rの元a,bが互いに素であるとは、あるx,yRが存在してax+by=1が成り立つことを言うものとします(aR+bR=Rとも言い換えられる)。

Henselの補題

 可換環R上の多項式fR[x]が、RのイデアルIにおいて
fgh(modI)(g,h(R/I)[x] は互いに素)
と因数分解され、gの最高次の係数が可逆であるとき
g0g(modI),gngn1(modIn)h0h(modI),hnhn1(modIn)
およびdeggn=deggを満たすような多項式の列gn,hnR[x]が存在して
fgnhn(modIn+1)
が成り立つ。

 このgn,hnの極限、つまり逆極限limn(R/In)[x]の世界を考えることで次の様な主張が成り立ちます。

完備離散付値環上のHenselの補題

 完備離散付値環A上の多項式fA[x]が剰余体A/pにおいて
fgh(modp)(g,h(A/p)[x] は互いに素)
と因数分解されるとき
gg(modp),hh(modp)
およびdegg=deggを満たすような多項式g,hA[x]が存在して
f=gh
が成り立つ。

補題

 Rを可換環、Iをそのイデアルとする。このときaRR/Iにおいて可逆であればR/Inにおいても可逆である。

 仮定よりあるbR,γIがあってab=1γが成り立つ。このとき
c=b(1+γ+γ2++γn1)
とおくと
ac=(1γ)(1+γ+γ2++γn1)=1γn
となるのでγnInより
ac1(modIn)
を得る。

除法の原理

 Rを可換環、gR[x]をその最高次数の係が可逆な多項式とする。
 このとき任意のfR[x]に対し
f=qg+r(degr<degg)
を満たすような多項式q,rR[x]が一意に存在する。
 またIRのイデアルとすると、fI[x]ならばq,rI[x]が成り立つ。

存在性

 degf<deggのときは明らか。いまdegfdeggにおいて
f=axn+axn1+g=bxm+bxm1+
と展開すると
f=fab1xnmg
degf<degfを満たすので、fに対し同様の操作を繰り返しfの次数を下げていくことで
r=fqg
degr<deggを満たすような多項式qが取れる。
 またこの構成法からfI[x]ならq,rI[x]とできることに注意する。

一意性

f=qg+r=qg+r
と表せるとき
rr=(qq)g
およびdeg(rr)<deggよりq=qでなければならず、したがってr=rとなることもわかる。

本題

 いま多項式a,b,g0,h0R[x]
g0g,h0h,ag0+bh01(modI)
およびdegg0=deggを満たすように任意に取る。
 このときHenselの補題の主張のようなgn,hnが構成できたとして、gn+1,hn+1の構成法について考える。

 fn=fgnhnおよび
gn+1=gn+bfn,hn+1=hn+afn
とおくと
fgn+1hn+1(modIn+2)
が成り立つ。

fn0(modIn+1),agn+bhn1(modI)
に注意すると
fgn+1hn+1=(fn+gnhn)(gn+bfn)(hn+afn)=fn(1agnbhn)+abfn20(modIn+2)
を得る。

 いま補題3よりg0の最高次の係数はR/In+2において可逆なので、除法の原理より
bfnqng0+rn(modIn+2)
およびdegrn<deggn=deggなるqn,rnR[x]が存在することに注意する。

 上のようなqn,rnに対し
snafn+qnh0(modIn+2)
なる多項式snR[x]を任意に取り
gn+1=gn+rn,hn+1=hn+sn
とおくとこれはHenselの補題の主張を満たす。

 degrn<deggnより
deggn+1=deggn=degg
が成り立ち、また
gn+1gn+1qng0,hn+1hn+1+qnh0(modIn+2)
およびqnIn+1[x]に注意すると
fgn+1hn+1fgn+1hn+10(modIn+2)
を得る。

命題6

 deg(fg0h0)<degfであればdeghn=degh0とできる。

 degsn<degh0とできることを示せばよい。いまdegsn1<degh0とできたとする。このとき
degfn=deg(fgnhn)<degf
が成り立つことに注意する。
 ここで
fn(ag0+bh0)fnsng0+rnh0(modIn+2)
よりsn
degsn=deg(fnrnh0)degg0
を満たすように取れ、このとき
degfn<degfdeg(rnh0)<deg(g0h0)=degf
に注意すると
degsn<degfdegg0=degh0
を得る。

一意性について

 実はこの多項式gn,hnIn+1を法として一意に定まっている(ただし{gn}の最高次の係数は常に変わらないものとする)。

 多項式g,g,h,hR[x]
fghgh(modIn)ggg(modI)hhh(modI)
および
deg(gg0),deg(gg0)<degg
を満たすならば
gg,hh(modIn)
が成り立つ。

 n1のときに主張が成り立つと仮定し、nの場合を示す(n=1の時は明らか)。
δg=gg,δh=hh
とおくと帰納法の仮定より
δgδh0(modIn1)
が成り立つことに注意すると
0ghgh=gδh+δghgδh+δgh(modIn)
となるので、ag+bh1(modI)と合わせて
δgδg(ag+bh)(aδgbδh)g(modIn)δhδh(ag+bh)(aδgbδh)h(modIn)
と変形できる。
 またdegδgdeggより除法の原理の一意性から
(aδgbδh)0(modIn)
でなければならず、したがって
δgδh0(modIn)
を得る。

参考文献

投稿日:2022628
更新日:2024629
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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  3. 本題
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