本書は現在(2022/7/7開始)執筆中の「関数解析のお勉強」の切り抜きです。
頻出する距離空間の三角不等式の証明によく登場する不等式の本質を紹介します。
$(a_n),(b_n)\in l^p$ : 実数$p\ (\geq1)に対し、$条件$\sum_{i=1}^{\infty}|x_i|^p<\infty$を満たす数列$f,g \in C[a,b]$ :区間$[a,b]$上連続な関数
この時、以下の不等式が成り立つ。
(1) (級数型)
$$
\left( \sum_{i=1}^{\infty}|a_i+b_i|^p \right)^{\frac{1}{p}}
\leq\left( \sum_{i=1}^{\infty}|a_i|^p \right)^{\frac{1}{p}}+
\left( \sum_{i=1}^{\infty}|b_i|^p \right)^{\frac{1}{p}}
$$
(2) (積分型)
$$
\left( \int_{a}^{b}|f(x)+g(x)|^pdx \right)^{\frac{1}{p}}
\leq\left( \int_{a}^{b}|f(x)|^pdx \right)^{\frac{1}{p}}+
\left( \int_{a}^{b}|g(x)|^p \right)^{\frac{1}{p}}
$$
符号を除くと、左辺は関数空間の要素間の距離、右辺が各要素の大きさになっているため、関数空間上での三角不等式に相当することが確かめられます。
ミンコフスキーの不等式の補題として、以下のヘルダーの不等式を使います。
正の実数$p, q$が条件$\frac{1}{p}+\frac{1}{q}=1$を満たすとき、以下の不等式が成り立つ。
(1) (級数型)
$$
\sum_{i=1}^{\infty}|a_ib_i|
\leq\left( \sum_{i=1}^{\infty}|a_i|^p \right)^{\frac{1}{p}}
\left( \sum_{i=1}^{\infty}|b_i|^q \right)^{\frac{1}{q}}
$$
(2) (積分型)
$$
\int_{a}^{b}|f(x)+g(x)|^pdx
\leq\left( \int_{a}^{b}|f(x)|^pdx \right)^{\frac{1}{p}}
\left( \int_{a}^{b}|g(x)|^qdx \right)^{\frac{1}{q}}
$$
条件$\frac{1}{p}+\frac{1}{q}=1$を見て「重さ付きの和かな?」と考えた人は鋭いです。証明の本質は凸不等式です。
距離空間やヒルベルト空間で最頻出なのは、数列の空間である$l^p$空間や、関数の空間である$L^p$空間です。要素$f,g$同士の自然な距離として$|f-g|$の$p$乗和(積分)の$p$乗根を採用すると、距離空間の公理を満たします。特に三角不等式に相当するものをミンコフスキーの不等式と言います。この不等式を事実として認めて理論を構築するのも良いですが、関数解析の計算練習として頭と手を動かす価値がある問題だと考えてます。
ミンコフスキーの不等式の補題として(狭義の)ヘルダーの不等式が使われます。一見複雑に見えて、実は証明の本質はめっちゃシンプルです。根幹は凸不等式(正確には重さ付き相加相乗不等式)であることを見抜くのが重要です。本書を読み、「何だこりゃ、見掛け倒しじゃん!」って思ってもらえれば嬉しい限りです。
本書の最も根幹になる部分です。
非負実数$a_1,\cdots a_n$、重さ$w_1,\cdots w_n$に対して、以下の不等式が成立する。
$$
\prod_{i=1}^{n}a_i^{w_i} \leq \sum_{i=1}^{n}w_ia_i
$$
(頻出型)非負実数$a,b$、$0 \leq t \leq 1$なる実数に対して、以下が成立する。
$$
a^tb^{(1-t)} \leq ta+(1-t)b
$$
総和が1になる非負実数$w_1,\cdots w_n$のことを重さと呼びます。
不等式は多岐に渡りますが、一般の数でも直接使える不等式評価はせいぜい凸性ぐらいだと思います。有名不等式の証明の最初の一手は、数や関数を組み合わせて、与えられた状況を再現する凸式を組み立てることが多いです。証明は両辺対数をとって凸不等式を使えば良いです。対数関数が上に凸なので、線分よりも関数が上側に来ます。詳細な証明は参考文献[2]に譲ります。
級数型も同様に証明できるので、積分型の紹介のみに留めます。
$a^tb^{(1-t)} \leq ta+(1-t)b$で$t=\frac{1}{p}, 1-t=\frac{1}{q}$を代入すると、
$a^{\frac{1}{p}}b^{\frac{1}{q}} \leq \frac{1}{p}a+\frac{1}{q}b$
ヘルダーの不等式を再現するため、やや技巧的だが、
$$
a = \frac{|f(x)|^p}{\left( \int_{a}^{b}|f(x)|^pdx \right)} , \
b = \frac{|g(x)|^q}{\left( \int_{a}^{b}|g(x)|^qdx \right)}
$$
を代入すると、
$$
a^{\frac{1}{p}}b^{\frac{1}{q}}= \frac{|f(x)|}{\left( \int_{a}^{b}|f(x)|^pdx \right)^{\frac{1}{p}}} \times \frac{|g(x)|}{\left( \int_{a}^{b}|g(x)|^qdx \right)^{\frac{1}{q}}}
\leq \frac{1}{p}\frac{|f(x)|^p}{\left( \int_{a}^{b}|f(x)|^pdx \right)} + \frac{1}{q} \frac{|g(x)|^q}{\left( \int_{a}^{b}|g(x)|^qdx \right)}
$$
両辺を$[a,b]$で積分して、
$$
\frac{\int_{a}^{b}|f(x)g(x)|dx}{\left( \int_{a}^{b}|f(x)|^pdx \right)^{\frac{1}{p}}\left( \int_{a}^{b}|g(x)|^qdx \right)^{\frac{1}{q}}}
\leq \frac{1}{p}\frac{\int_{a}^{b}|f(x)|^p}{\left( \int_{a}^{b}|f(x)|^pdx \right)}
+ \frac{1}{q} \frac{\int_{a}^{b}|g(x)|^qdx}{\left( \int_{a}^{b}|g(x)|^qdx \right)} \\ =\frac{1}{p}+\frac{1}{q}=1 \\
\therefore \int_{a}^{b}|f(x)g(x)|dx \leq \left( \int_{a}^{b}|f(x)|^pdx \right)^{\frac{1}{p}}\left( \int_{a}^{b}|g(x)|^qdx \right)^{\frac{1}{q}}
$$
級数型も同様に証明できるので(以下略))。
$h(x)=f(x)+g(x)$とすると、$h(x)^p = h(x)^{p-1}f(x)+h(x)^{p-1}g(x)$
ヘルダーの不等式を二つ目の不等式に使用する。
$$
\int_{a}^{b}|h(x)|^pdx \leq \int_{a}^{b}|h(x)|^{p-1}|f(x)|dx + \int_{a}^{b}|h(x)|^{p-1}|g(x)|dx \\
\leq \left( \int_{a}^{b}|h(x)^{p-1}|^qdx \right)^{\frac{1}{q}} \left[\left( \int_{a}^{b}|f(x)|^pdx \right)^{\frac{1}{p}}+
\left( \int_{a}^{b}|g(x)|^pdx \right)^{\frac{1}{p}} \right]
$$
$(p-1)\ q=p$より、
$$
\left( \int_{a}^{b}|h(x)^{p-1}|^qdx \right)^{\frac{1}{q}}
= \left( \int_{a}^{b}|h(x)|^pdx \right)^{\frac{1}{q}}
= \left[ \left( \int_{a}^{b}|h(x)|^pdx \right)^{\frac{1}{p}} \right]^{\ p-1}
$$
先ほどの不等式に代入し、
$$
\int_{a}^{b}|h(x)|^pdx \leq \left[ \left( \int_{a}^{b}|h(x)|^pdx \right)^{\frac{1}{p}} \right]^{\ p-1} \times \left[\left( \int_{a}^{b}|f(x)|^pdx \right)^{\frac{1}{p}}+
\left( \int_{a}^{b}|g(x)|^pdx \right)^{\frac{1}{p}} \right]
\\
\therefore \left( \int_{a}^{b}|f(x)+g(x)|^pdx \right)^{\frac{1}{p}}
\leq\left( \int_{a}^{b}|f(x)|^pdx \right)^{\frac{1}{p}}+
\left( \int_{a}^{b}|g(x)|^p \right)^{\frac{1}{p}}
$$