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大学数学基礎解説
文献あり

Fokker-Planck方程式の性質

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Langevin方程式とFokker-Planck方程式

 Brown運動をする粒子の運動方程式のような、確率変数が運動方程式に確率的変動をもたらす系は確率微分方程式(Stochastic Differential Equation:SDE)で記述することができる。SDEを解いて得られる微分方程式の解x(t)は確率変数なので、時刻tでの確率分布関数P(X,t)の時間発展方程式と結びつけることができる。P(X,t)の発展方程式をFokker-Planck方程式という。
 本文では粘性が強い溶媒下でBrown運動をする粒子などの記述に使われるOverdamped-Langevin方程式のFokker-Planck方程式を導出し、Fokker-Planck方程式がどのような性質を満たすのかについて考察する。

 粘性が強い条件下では、粒子の分布関数はカノニカル分布
Peq(X,a:T)=1ZeU(X,a)kBT,  Z(aT)=eU(X,a)kBTdX
に至ることが予想される(aは操作パラメータ)。この性質がFokker-Planck方程式と整合していることを本文で紹介する。

Langevin方程式の伊藤形式→Fokker-Planck方程式

Overdamped-Langevin方程式は以下のとおりである。系の自由度をXとする。
dxt=a(xt,t)dt+b(xt,t)dBta(x,t)=a(x)=1γUX+kBTX(1γ), b(x,t)=b(x)=2kBTγ
 ブラウン運動dBtが駆動する微分方程式を解く際には、上記のような伊藤形式で記述した方が計算しやすい。伊藤の公式を導出すると、f(x)を任意の関数として、
(dxt)2=(a(xt,t)dt+b(xt,t)dBt)2=b(xt,t)2dtdf(xt)=fxdxt+122fx2(dxt)2=fx(a(xt,t)dt+b(xt,t)dBt)+122fx2b(xt,t)2dtdf(xt)=[a(xt,t)fx+12b(xt,t)22fx2]dt+fxb(xt,t)dBt
伊藤の公式をδ(Xxt)に適用すると、
dδ(Xxt)=[a(xt)δ(Xxt)+b(xt)22δ(Xxt)]dtb(xt)δ(Xxt)dBt={[a(X)δ(Xxt)]+12[b(X)2δ(Xxt)]}dtb(xt)δ(Xxt)dBt
ここで、δ関数に関する以下の公式を使用した。
ϕ(x)δ(n)(yx)=[ϕ(x)δ(yx)](n)
各項に対してアンサンブル平均をとる。ブラウン運動dBtの平均は0なので、確率分布P(xt,t)は以下の発展方程式を満たす。
dP(X,t)={[a(X)P(X,t)]+12[b(X)2P(X,t)]}dt
a(x,t)b(x,t)の表式を代入すると、
Pt=X1γ[UX+XkBT]P(X,t)
この確率分布が満たす線形偏微分方程式をFokker-Planck方程式と呼ぶ。

Fokker-Planck方程式の一般的性質

 方程式を具体的に解かなくとも、解の挙動に関して幾つかの情報は得られる。

重ね合わせの原理

 線形偏微分方程式なので、解の重ね合わせができる。初期条件がδ(XX0)の場合の解をx|G(tt0)|x0と書くことにすると、任意の初期条件P(X,t0)から出発した解は
P(X,t)=x|G(tt0)|x0P(x0,t0)dx0
と書くことができる。

確率に関しての連続の式

 確率の時間変化があれば、確率がどのように流失するか知りたいものである。確率流を以下のように定義する。
JX1γ[UX+XkBT]P(X,t)
と定義すると、Fokker-Planck方程式はシンプルにかける。
Pt=X1γ[UX+XkBT]P(X,t)Pt=JXX
確率分布が時間依存しない定常状態に至れば、確率流JXも空間上平坦になるだろう。

一様温度での定常状態

 温度の空間勾配がない時は、Fokker-Planck方程式の定常解として
Peq(X,a:T)=1ZeU(X,a)kBT,  Z(a:T)=eU(X,a)kBTdX
が得られる。これはまさにカノニカル分布である。
 では、任意の初期条件から出発した分布関数
P(X,t)=x|G(tt0)|x0P(x0,t0)dx0
はカノニカル分布に至るだろうか。これに肯定的に答えてくれるのがKullback-LeiblerエントロピーD(P(t)||Peq)である。
D(P(t)||Peq)dXP(X,t) ln(P(X,t)Peq(X,a:T))
である。一般にD(P||Q)=0P=Qを満たす。D(P(t)||Peq)の時間微分を計算し、Fokker-Planck方程式を使って変形すれば良いが、計算は煩雑なので、参考文献[2]のp.249に譲る。
P(t)PeqdD(P(t)||Peq)dt<0
故にD(P||Peq)は時間発展で減衰して0に至り、分布関数がカノニカル分布に至る。

参考文献

[1]
関本 兼, ゆらぎのエネルギー論
[2]
戸田盛和, 斎藤 信彦, 久保 亮五, 橋爪 夏樹, 現代物理学の基礎 5 統計物理学
[3]
沙川 貴大, 須藤 彰三, 岡 真 , 非平衡統計力学: ゆらぎの熱力学から情報熱力学まで (基本法則から読み解く物理学最前線 28)
投稿日:202279
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noho1024
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専攻は物理学です。 有機化学、物性理論、確率数理、場の量子論の勉強を経て、科学の面白さを世に広める活動をしていきたいと思っています。

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  1. Langevin方程式とFokker-Planck方程式
  2. Langevin方程式の伊藤形式→Fokker-Planck方程式
  3. Fokker-Planck方程式の一般的性質
  4. 参考文献