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整数係数多項式とmodp

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今回は整数係数多項式を考える際に良い感じな素数を探したいみたいな話をします.

Ibero America 2019, 2020第1回通信添削P4

a1,a2,...,a2020を正の整数とする. P(x)を整数係数多項式であって, 任意の正の整数nについてP(n)i=12020ainの約数となるようなものとする. このときP(n)は定数関数である事を示せ.

純粋な大小比較では上手く行かなさそうなので合同式関係の議論が必要そうである. p|P(n)なる素数pを取ってみよう. するとp|i=12020ainだがこれだけでは情報が少なすぎる. このpについてもう少しいい話が無いかと探るとp|P(n+p)である事に気付くだろう. よってp|i=12020ain+p. フェルマーの小定理を使えばp|i=12020ain+1. これを繰り返せばp|i=12020aik(p1)+1, つまりp|i=12020aiと出来る. (p,aiが互いに素である事を仮定していないのでその関係で式が微妙に汚い)ここでpが無限に大きく取れればこれは矛盾である.

解答
Pは定数でない多項式であると仮定して矛盾を導く. まず, 一般に次の定理が知られている. これは初等的に示せる上, たまに使うため定理の形で記しておく.

Xを整数の部分集合とするとき, P(X)Xのある元を割りきる素数全体の集合とする.

シューアの定理

任意の定数でない整数係数多項式P(x)に対しP(P(N))は無限集合である.

ここでP(N)={P(n)|nN}である.

素数の無限性の証明のアナロジーである

P(P(N))が有限集合であると仮定し, その総積をSとする. Pは非有界よりS>1である.
まずPは定数でないので|P(k)|>0なるkNが存在する. P(k+S|P(k)|n)P(k)(modS|P(k)|). ここでP(k+S|P(k)|n)の素因数pSを割り切り, vp(P(k+S|P(k)|n))=vp(P(k)+mS|P(k)|)=vp(P(k))なので|P(k+S|P(k)|n)||P(k)|(実際には等号)これはnを動かすことを考えるとPの非有界性に矛盾. よって定理は示された.

定理によりp|P(n)かつp>max{2020,a1,...,a2020}を満たす正整数nと素数pが存在する. n以上の最小のp1の倍数をmとする. p|P(n+(mn)p)だから
このとき0i=12020ain+(mn)pi=12020aimi=120201=2020(modp). これはp>2020に矛盾. よって題意は示された.

多項式modpは周期pで, 指数関数modpは周期p1で変化することはしばしば便利なので多項式と指数関数が絡まる問題においては注意しておこう.(不定方程式とかで無駄なmodを取ることを回避するときとかにも有効)
もう1問見てみる.

ELMO2022P2

以下の条件を満たす最高次係数が1の整数係数多項式Pを全て求めよ:

正整数a,mが存在して任意のna(modm)なる正整数nに対して2022(n+1)n+1nnP(n)が整数となる.

大量のnに対して2022(n+1)n+1nnP(n)が整数にならないと行けないのでこれもP(n)の素因数について考えたい.p|P(n)としてみる. pは十分大きいと出来るので2022は無視出来る. まず, (n+1)n+1nn(modp). 前問と同様な事が出来ないかと考え, p|P(n+mkp)を利用すると, (n+mkp+1)n+mkp+1(n+mkp)n+mkp(modp). よってフェルマーの小定理を考えると(modpで)
(n+mkp+1)n+mkp+1(n+1)n+1+mk(n+mkp)n+mkpnn+mk
(n+1)n+1nnだからn,n+1pの倍数にはならず,
(n+1)mknmk. 特に(n+1)mnm0(modp)(別にkを考えなくて良かったですね).
この式を眺めると指数にmという定数しか入ってないことが分かります. つまり(n+1)mnmnの多項式です. pP(n)の素因数としてほぼ任意に取れるから多項式としてP(n)|(n+1)mnmが成立してもおかしくなさそうです. ただ, これはキツそうだとすぐ分かってmodp2系の情報が何もないのでP(n)の整数係数多項式としての素因数の情報を知るのが限界でしょう.

Pの整数係数多項式としての素因数, つまり整数の範囲で既約な整数係数多項式Q(x)Q(x)|P(x)を満たすものはQ(x)|(x+1)mxmを満たす.

Q(x)|(x+1)mxmでないならQ(x),(x+1)mxmは互いに素なので, ある整数係数多項式A,Bと非零整数cがあってA(x)Q(x)B(x)((x+1)mxm)=cとなる. (整数におけるベズーの定理の多項式版である.)
ここでシューアの定理からp|Q(n)なるとても大きい素因数pが取れるので(正確にはn=km+aの形なのでQ(km+a)kの多項式と見なしてシューアの定理を用いている))上の議論からp|(n+1)mnm. よってc|p. p|c|より大きく取れるのでこれは矛盾. よって補題は示された.

というわけでPの多項式としての素因数の情報が分かった. このままQについて考える. ガウスの補題を考えれば今やQ(n)|(n+1)mnmなのだから最初の式に代入してしまって(n=km+aとしよう)
2022((km+a+1)km+a+1(km+a)km+a)2022(km+a)km((km+a+1)a+1(km+a)a)0(modQ(n)).
(km+a)kmQ(km+a)と互いに素なので, Q(n)|2022((n+1)a+1na).
さっき(補題2)と同様にすれば多項式としてQ(n)|(n+1)a+1na(最後に補足します).
これとQ(n)|(n+1)mnmがあれば互除法みたいにして(x+1)ma+mxma(x+1)axmamodQ(x). よってQ(x)|(x+1)m1, Q(x)|xm1. ここから互除法をしても良いのだが多項式はその零点を考えれば良いのでQ(α)=0なる複素数αを考えると|α|=|α+1|=1がわかる. これはα=1±3i2となって, 結局Q(x)=x2+x+1が分かりました.
つまりP(x)=(x2+x+1)tだというわけですね. 流石に十分大きいtではキツそう. つまりmaxtが大事そう. まずはt=1を考えてみる, これが上手く行かないと始まらないので. x2+x+1|(x+1)m1,xm1だから6|mが必要. また, x2+x+1|(x+1)a+1xaだからこちらはa1(mod6)が必要. これからn1mod6が常に成立してる, 従って3t|P(n)が分かる.
一方オイラーの定理より(6s+2)6s+2(6s+1)6s+1(6s+2)26s13(mod9)より与式の分子はv3(2022)=1だから32回しか割り切れない. よってt2.
あとはひたすら面倒な計算(二項定理とかでゴリ押す)をすればt=0,1,2は行けている事が分って答えはP(x)=1,x2+x+1,(x2+x+1)2.

最後v3を考えたのはこれで上手く行ってくれないと計算が地獄になるからこれが回るはずという勘です. あとは3が小さくて楽というのもある.
中盤の多項式と整数の合わせ技(考察の順序を変えたらもう少し簡潔になるかとは思うがあえて自分が思いついた順にしておく)は次の問題でも見られる.

ISL2011N6

P,Qを整数係数多項式とし, 任意の定数でない整数係数多項式はP,Qの両方を割ることはないとする. 任意の正整数nについてP(n),Q(n)は正で, 2Q(n)1|3P(n)1が成立するならPは定数である事を示せ.

以下は前半の手法の類題である.

APMO2021P2

多項式Pと正整数nに対しPn0<a<bnかつn||P(a)||P(b)|を満たす整数の組(a,b)の個数とする. 任意の正整数nに対してPn2021が成り立つような整数係数多項式Pを全て求めよ.

Iran 3rd 2012

整数係数多項式 P は恒等的には 0 でないとする. このとき, 以下をみたす素数 qが無限個あることを示せ:
ある正の整数 n が存在して, 2n+P(n)q の倍数となる.

一般に次の定理が知られているらしい. 面白いので載せておく. (P(n)とか2n+P(n)は定理の条件を満たす) (prime divisor linear recurrence sequenceとか調べるといっぱい出てくる)

kを正整数, u0,...,uk1,r1,...rkを整数としun=r1un1++rkunk (nk)としてunを定める. もしunの特性方程式の根α,β (αβ)であってαβ1の冪乗根であるようなものが存在しないのならばP(uN)=P({un|nN})は無限集合である.

また, unの一般項をun=i=1tfi(n)αinと表示したときt2となるのならばlimnmaxP({un})=.

また素因数の大きさについて, 次のような定理が知られているらしい. (証明はベイカーの対数一形式の理論を用いるらしい)

P(x)0でない2つ以上の根を持つ整数係数多項式とする. このときPに依存するある正定数c,Nが存在してN以上の任意の正整数nについてP(n)cloglogn以上の素因数を持つ.

補足
整数における整除関係と多項式における整除関係がある程度は対応しているという定理が存在するのでそれを使えば明らかですね.

P(x),Q(x)を多項式としP(x)は既約で原始的(係数の最大公約数が1)であるとする. このとき以下は同値:

  • P(x)|Q(x)
  • 十分大きい任意の正整数nについてrad(P(n))|Q(n)

を示す.
仮定よりP(x)R(x)=Q(x)なる有理数係数多項式R(x)があるがP(x)は原始的なのでガウスの補題よりR(x)は整数係数多項式である. よってnNP(n)0となるように任意にとると(別にP(n)=0でも悪いことは無いがなんか嫌なので)R(n)Zだからrad(P(n))|P(n)|Q(n)である.

を示す(補題2とほぼ同様)
P(x)Q(x)とするとP(x),Q(x)は互いに素なのである整数係数多項式A,B0でない整数cAP+BQ=cを満たすものがある. シューアの定理からp|P(n)かつp>|c|なるn,pが無限に存在する(nが無限に大きく取れる). nを十分大きく取れば仮定よりp|Q(n)なのでAP+BQ=cからp|cが従い, これは|c|<p,c0に矛盾する. よって定理は示された.

投稿日:2022724
更新日:211
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