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高校数学解説
文献あり

代数学をやるその18 整数値多項式

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はじめに

今回は大学入試でも出そうな大学院入試の問題を持ってきました.実際,大学数学の知識を全く使うことなく議論ができます.

※代数学をやるそのうんたらの他の問題たちが こちらのまとめページ から見れます.良ければリンクをご利用ください.

更新履歴

(2022/8/2):軽微な文章変更と追記追加

問題と解答

実数係数の多項式f(X)=a0+a1X++anXn(n1)が次の性質を持てば,(n!)ai(i=0,1,,n)は全て有理整数であることを証明せよ.(東北大)

(性質):適当な正の整数Nを取れば,N以上の正の整数m全てについてf(m)は有理整数である.

証明を表示

以下多項式とは実数係数1変数多項式のことを指すこととする.問題に記された性質を()で表すことにする.主張をnに関する帰納法で示す.

n=1とする.性質()によって存在が保証された正の整数Nを取る.するとf(N),f(N+1)は共に整数であるから,
f(N+1)f(N)=a0+a1(N+1)(a0+a1N)=a1
も整数である.するとa0=f(N)a1Nであるからa0も整数である.よってn=1のとき主張が成り立つ.

n>1としn1までの全ての整数に対して主張が成り立つと仮定する.多項式f(X)が性質()を満たすとし,()によって存在が保証された正の整数をNとする.多項式g(X)=f(X+1)f(X)について考える.f(X)が性質()を満たすことから,N以上の任意の整数mに対して
g(m)=f(m+1)f(m)Z
が成り立つ.即ちg(X)も性質()を満たす.
g(X)=f(X+1)f(X)=nanXn1+
が成り立つから,g(X)n1次多項式である.よって帰納法の仮定より
(n!)an=(n1)!nanZ
が従う
.ここで,多項式Cn(X)R[X]
Cn(X):=X(X1)(Xn+1)n!
とおく.補題1より全ての整数mに対してCn(m)は整数である.よってN以上の任意の整数mに対してf(m)(n!)anCn(m)は整数である.即ち多項式f(X)(n!)anCn(X)は性質()を満たす.整数b0,b1,,bn1によって
(n!)anCn(X)=anX(X1)(Xn+1)=anXn+anbn1Xn1++anb1X+anb0
と書けるから,
f(X)(n!)anCn(X)=i=0n1(aianbi)Xi
となる.これよりf(X)(n!)anCn(X)は高々n1次の多項式である.よって帰納法の仮定から,任意の0in1に対しci:=(n1)!(aianbi)Zが成り立つ.すると
(n!)ai=nci+(n!)anbiZ(0in1)((n!)anZ)
が成り立つ.よって題意は示された.(証明終)

感想

帰納法を使うことは何となく分かるので,後はどうやって次数を落とすかですが,そこでCn(X)を引っ張ってくるのは一度こういった問題に触れておかないと難しいような気がします.

今回用いた事実

以下,n1に対して多項式Cn(X)R[X]
Cn(X):=X(X1)(Xn+1)n!
とおきます.Cn(X)は次のような良い性質を持ちます.

n1は任意とするとき,全てのmZに対してCn(m)Zである.

証明を表示

mZ0mn1を満たすなら,式の形からCn(m)=0Zである.m<0またはm>n1を満たすなら,Cn(m)の分子は連続するn個の整数の積となるので,それはn!で割り切れる.従ってCn(m)Zである.(証明終)

発展

以下,有理整数のことを単に整数といいます.
実は上で示したことよりももっと深い次の事実を示すことができます.証明は上で行ったものと全く同様に展開できます.

実数係数の多項式f(X)=a0+a1X++anXn(n1)が性質

(性質):適当な正の整数Nを取れば,N以上の正の整数m全てについてf(m)は整数である.

を満たせば,適当な整数c0,,cnが存在して
f(X)=c0+c1C1(X)++cnCn(X)
と書ける
.また,f(X)のこの表示は一意的である.

証明を表示

以下多項式とは実数係数1変数多項式のことを指すこととする.命題の中で記された性質を()で表すことにする.f(X)Ci(X)(1in)たちの整数倍の和で書けることをnに関する帰納法で示す.

n=1とする.性質()によって存在が保証された正の整数Nを取る.するとf(N),f(N+1)は共に整数であるから,
f(N+1)f(N)=a0+a1(N+1)(a0+a1N)=a1
も整数である.するとa0=f(N)a1Nであるからa0も整数である.C1(X)=Xであることに注意すると,c0=a0,c1=a1とすることでf(X)=c0+c1C1(X)と書ける.つまりn=1のとき主張が成り立つ.

n>1としn1までの全ての整数に対して主張が成り立つと仮定する.多項式f(X)が性質()を満たすとし,()によって存在が保証された正の整数をNとする.上の問題で示したことから(n!)anZが成り立つので,N以上の任意の整数mに対してf(m)(n!)anCn(m)は整数である.即ち多項式f(X)(n!)anCn(X)は性質()を満たすf(X)(n!)anCn(X)は共にn次多項式で,その最高次係数は共にanであるから,f(X)(n!)anCn(X)は高々n1次の多項式である.f(X)(n!)anCn(X)の次数をkとすると,帰納法の仮定から整数c0,c1,,ckが存在して
f(X)(n!)anCn(X)=c0+c1C1(X)++ckCk(X)
が成り立つ.k<n1である場合はck+1==cn1=0とすることで
f(X)(n!)anCn(X)=c0+c1C1(X)++cn1Cn1(X)
が成り立つ.よってcn=(n!)anとすれば,それは整数で
f(X)=c0+c1C1(X)++cn1Cn1(X)+cnCn(X)
が成り立つ.以上よりf(X)Ci(X)(1in)たちの整数倍の和で書けることが示された.

整数c0,,cn,d0,,dnによって
f(X)=c0+c1C1(X)++cnCn(X)=d0+d1C1(X)++dnCn(X)
と書けたとする.Ci(0)=0(1in)であることと,k1に対してCk(k)=1かつCi(k)=0(i>k)であることから,帰納的にck=dk(0kn)が成り立つ.よってf(X)のこの表示が一意的であることも示された.(証明終)

この命題の結果から,次のような面白い事実が従います.

実数係数の多項式f(X)=a0+a1X++anXn(n1)が次の性質

(性質):適当な正の整数Nを取れば,N以上の正の整数m全てについてf(m)は整数である.

を満たすならば,任意の整数mに対してf(m)は整数となる

証明を表示

命題2の結果から,f(X)R[X]が定理の中にある性質を満たすとき,整数c0,c1,,cnが存在して
f(X)=c0+c1C1(X)++cnCn(X)
が成り立つ.ここでCn(X)=X(X1)(Xn+1)n!である.補題1より,全てのCn(X)は,任意の整数mに対してCn(m)Zを満たす.よってそれらの整数倍の和として書けるf(X)も,全ての整数mに対してf(m)Zを満たす.(証明終)

つまり,ある整数以上の整数全てについて整数値を取る実数係数多項式は,全ての整数について整数値を取る,ということですね.部分的な性質が全体に波及していてとても面白いです.

また,逆に任意の整数mに対して整数値をとるような多項式は,定理3の中で述べられている(性質)を明らかに満たすので,今までの話をまとめると,次の定理を得ることができます.

f(X)R[X]について,次の3つの条件は同値である.

  1. 任意の整数mに対してf(m)は整数である.
  2. 適当な正の整数Nを取れば,N以上の正の整数m全てについてf(m)は整数である.
  3. ある整数c0,c1,,cnによってf(X)=c0+c1C1(X)++cnCn(X)と一意的に書ける.

更に,ここまでの議論の中で用いられた係数体Rの性質は,Cn(X)の定義のときに用いたn!の逆元が取れるという点のみなので,Zを含む体に対しては全く同様に展開できることになります.

2022/8/2 追記

今までの話との一貫性を保つためにR上で考えます.R上でなくとも同様の議論ができることは同様です.

上で何度も引用した性質
適当な正の整数Nを取れば,N以上の正の整数m全てについてf(m)は整数である
は,更に次のように弱めることができます.証明も上で用いた議論と全く同様です.

実数係数の多項式f(X)=a0+a1X++anXn(n1)が次の性質を持てば,(n!)anは整数であり,加えてある整数c0,c1,,cnによってf(X)=c0+c1C1(X)++cnCn(X)と一意的に書ける.

(性質):NmN+nを満たす任意の整数mについてf(m)は整数であるような整数Nが存在する.

証明を表示

以下多項式とは実数係数1変数多項式のことを指すこととする.命題の中に記された性質を()で表すことにする.(n!)anが整数であり,かつf(X)Ci(X)たちの整数倍の和で書けることを,nに関する帰納法で示す.

n=1とする.性質()によって存在が保証された整数Nを取る.するとf(N),f(N+1)は共に整数であるから,
f(N+1)f(N)=a0+a1(N+1)(a0+a1N)=a1
も整数である.即ち(1!)a1=a1は整数である.a0=f(N)a1Nであるからa0も整数である.C1(X)=Xであるから,c0=a0,c1=a1とすればこれらは整数でf(X)=c0+c1C1(X)と書ける.よってn=1のとき主張が成り立つ.

n>1としn1までの全ての整数に対して主張が成り立つと仮定する.多項式f(X)が性質()を満たすとし,()によって存在が保証された整数をNとする.多項式g(X)=f(X+1)f(X)について考える.
g(X)=f(X+1)f(X)=nanXn1+
が成り立つから,g(X)n1次多項式である.f(X)が性質()を満たすことから,NmN+n1を満たす任意の整数mに対して
g(m)=f(m+1)f(m)Z
が成り立つ.即ちg(X)も性質()を満たす.よって帰納法の仮定より
(n!)an=(n1)!nanZ
が従う.
さて,NmN+n1を満たす任意の整数mに対してf(m)(n!)anCn(m)は整数である.即ち多項式f(X)(n!)anCn(X)は性質()を満たす.f(X)(n!)anCn(X)は共にn次多項式で,その最高次係数は共にanであるから,f(X)(n!)anCn(X)は高々n1次の多項式である.f(X)(n!)anCn(X)の次数をkとすると,帰納法の仮定から整数c0,c1,,ckが存在して
f(X)(n!)anCn(X)=c0+c1C1(X)++ckCk(X)
が成り立つ.k<n1である場合はck+1==cn1=0とすることで
f(X)(n!)anCn(X)=c0+c1C1(X)++cn1Cn1(X)
が成り立つ.よってcn=(n!)anとすれば,それは整数で
f(X)=c0+c1C1(X)++cn1Cn1(X)+cnCn(X)
が成り立つ.以上よりf(X)Ci(X)(1in)たちの整数倍の和で書けることが示された.

整数c0,,cn,d0,,dnによって
f(X)=c0+c1C1(X)++cnCn(X)=d0+d1C1(X)++dnCn(X)
と書けたとする.Ci(0)=0(1in)であることと,k1に対してCk(k)=1かつCi(k)=0(i>k)であることから,帰納的にck=dk(0kn)が成り立つ.よってf(X)のこの表示が一意的であることも示された.(証明終)

また,追記より前で展開されている議論ではNが正であることを一切使わなかったので,Nが正であることは条件として外しても良いですね.最も,これは自明な同値性

適当な正の整数Nを取れば,N以上の正の整数全てについてf(m)は整数である
適当な整数Nを取れば,N以上の整数全てについてf(m)は整数である

からも分かります.これらによって上で示した定理4が次のように更新されます.

f(X)R[X]について,次の5つの条件は同値である.f(X)の次数をn1とする.

  1. 任意の整数mに対してf(m)は整数である.
  2. 適当な正の整数Nを取れば,N以上の正の整数m全てについてf(m)は整数である.
  3. 適当な整数Nを取れば,N以上の整数m全てについてf(m)は整数である.
  4. 適当な整数Nを取れば,NmN+nを満たす整数m全てについてf(m)は整数である
  5. ある整数c0,c1,,cnによってf(X)=c0+c1C1(X)++cnCn(X)と一意的に書ける.

つまり,十分連続した整数に対して整数値を取る多項式は,任意の整数に対して整数値を取る,ということですね.有限な部分の結果が全体に波及するなんてなかなか面白いですね~.

また,定理6はf(X)の次数が0の場合でも明らかに成り立ちます.f(X)が零多項式の場合は(4)の条件を除いて成り立ちますね.

今回の記事は以上です.
最後までお読みいただきありがとうございました.

参考文献

[1]
永田雅宜, 復刻版 大学院への代数学演習, 現代数学社, 2021
投稿日:202281
OptHub AI Competition

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