今回は大学入試でも出そうな大学院入試の問題を持ってきました.実際,大学数学の知識を全く使うことなく議論ができます.
※代数学をやるそのうんたらの他の問題たちが こちらのまとめページ から見れます.良ければリンクをご利用ください.
(2022/8/2):軽微な文章変更と追記追加
実数係数の多項式$f(X)=a_0+a_1X+\cdots+a_nX^n\,(n \geq 1)$が次の性質を持てば,$(n!)a_i \, (i=0,1,\cdots, n)$は全て有理整数であることを証明せよ.(東北大)
(性質):適当な正の整数$N$を取れば,$N$以上の正の整数$m$全てについて$f(m)$は有理整数である.
以下多項式とは実数係数1変数多項式のことを指すこととする.問題に記された性質を$(*)$で表すことにする.主張を$n$に関する帰納法で示す.
$n=1$とする.性質$(*)$によって存在が保証された正の整数$N$を取る.すると$f(N),f(N+1)$は共に整数であるから,
$$f(N+1)-f(N)=a_0+a_1(N+1)-(a_0+a_1N)=a_1$$
も整数である.すると$a_0=f(N)-a_1N$であるから$a_0$も整数である.よって$n=1$のとき主張が成り立つ.
$n>1$とし$n-1$までの全ての整数に対して主張が成り立つと仮定する.多項式$f(X)$が性質$(*)$を満たすとし,$(*)$によって存在が保証された正の整数を$N$とする.多項式$g(X)=f(X+1)-f(X)$について考える.$f(X)$が性質$(*)$を満たすことから,$N$以上の任意の整数$m$に対して
$$g(m)=f(m+1)-f(m) \in \mathbb{Z}$$
が成り立つ.即ち$g(X)$も性質$(*)$を満たす.
$$g(X)=f(X+1)-f(X)=na_nX^{n-1} +\cdots$$
が成り立つから,$g(X)$は$n-1$次多項式である.よって帰納法の仮定より
$$(n!)a_n=(n-1)! \cdot na_n \in \mathbb{Z}$$
が従う.ここで,多項式$C_n(X) \in \mathbb{R}[X]$を
$$C_n(X):=\frac{X(X-1)\cdots(X-n+1)}{n!}$$
とおく.補題1より全ての整数$m$に対して$C_n(m)$は整数である.よって$N$以上の任意の整数$m$に対して$f(m)-(n!)a_nC_n(m)$は整数である.即ち多項式$f(X)-(n!)a_nC_n(X)$は性質$(*)$を満たす.整数$b_0,b_1,\cdots,b_{n-1}$によって
$$(n!)a_nC_n(X)=a_nX(X-1)\cdots(X-n+1)=a_nX^n+a_nb_{n-1}X^{n-1}+\cdots+a_nb_1X+a_nb_0$$
と書けるから,
$$f(X)-(n!)a_nC_n(X)=\sum_{i=0}^{n-1}(a_i-a_nb_i)X^i$$
となる.これより$f(X)-(n!)a_nC_n(X)$は高々$n-1$次の多項式である.よって帰納法の仮定から,任意の$0 \leq i \leq n-1$に対し$c_i:=(n-1)! \cdot (a_i-a_nb_i) \in \mathbb{Z}$が成り立つ.すると
$$(n!)a_i=nc_i+(n!)a_nb_i \in \mathbb{Z} \hspace{0.2in} (0 \leq {}^{\forall}i \leq n-1) \hspace{0.2in} (\because (n!)a_n \in \mathbb{Z})$$
が成り立つ.よって題意は示された.(証明終)
帰納法を使うことは何となく分かるので,後はどうやって次数を落とすかですが,そこで$C_n(X)$を引っ張ってくるのは一度こういった問題に触れておかないと難しいような気がします.
以下,$n \geq 1$に対して多項式$C_n(X) \in \mathbb{R}[X]$を
$$C_n(X):=\frac{X(X-1)\cdots(X-n+1)}{n!}$$
とおきます.$C_n(X)$は次のような良い性質を持ちます.
$n \geq 1$は任意とするとき,全ての$m \in \mathbb{Z}$に対して$C_n(m) \in \mathbb{Z}$である.
$m \in \mathbb{Z}$が$0 \leq m \leq n-1$を満たすなら,式の形から$C_n(m)=0 \in \mathbb{Z}$である.$m<0$または$m>n-1$を満たすなら,$C_n(m)$の分子は連続する$n$個の整数の積となるので,それは$n!$で割り切れる.従って$C_n(m) \in \mathbb{Z}$である.(証明終)
以下,有理整数のことを単に整数といいます.
実は上で示したことよりももっと深い次の事実を示すことができます.証明は上で行ったものと全く同様に展開できます.
実数係数の多項式$f(X)=a_0+a_1X+\cdots+a_nX^n\,(n \geq 1)$が性質
(性質):適当な正の整数$N$を取れば,$N$以上の正の整数$m$全てについて$f(m)$は整数である.
を満たせば,適当な整数$c_0,\cdots,c_n$が存在して
$$f(X)=c_0+c_1C_1(X)+\cdots+c_nC_n(X)$$
と書ける.また,$f(X)$のこの表示は一意的である.
以下多項式とは実数係数1変数多項式のことを指すこととする.命題の中で記された性質を$(*)$で表すことにする.$f(X)$が$C_i(X)\,(1 \leq i \leq n)$たちの整数倍の和で書けることを$n$に関する帰納法で示す.
$n=1$とする.性質$(*)$によって存在が保証された正の整数$N$を取る.すると$f(N),f(N+1)$は共に整数であるから,
$$f(N+1)-f(N)=a_0+a_1(N+1)-(a_0+a_1N)=a_1$$
も整数である.すると$a_0=f(N)-a_1N$であるから$a_0$も整数である.$C_1(X)=X$であることに注意すると,$c_0=a_0, \, c_1=a_1$とすることで$f(X)=c_0+c_1C_1(X)$と書ける.つまり$n=1$のとき主張が成り立つ.
$n>1$とし$n-1$までの全ての整数に対して主張が成り立つと仮定する.多項式$f(X)$が性質$(*)$を満たすとし,$(*)$によって存在が保証された正の整数を$N$とする.上の問題で示したことから$(n!)a_n \in \mathbb{Z}$が成り立つので,$N$以上の任意の整数$m$に対して$f(m)-(n!)a_nC_n(m)$は整数である.即ち多項式$f(X)-(n!)a_nC_n(X)$は性質$(*)$を満たす.$f(X)$と$(n!)a_nC_n(X)$は共に$n$次多項式で,その最高次係数は共に$a_n$であるから,$f(X)-(n!)a_nC_n(X)$は高々$n-1$次の多項式である.$f(X)-(n!)a_nC_n(X)$の次数を$k$とすると,帰納法の仮定から整数$c_0,c_1,\cdots,c_{k}$が存在して
$$f(X)-(n!)a_nC_n(X)=c_0+c_1C_1(X)+\cdots+c_{k}C_{k}(X)$$
が成り立つ.$k< n-1$である場合は$c_{k+1}=\cdots=c_{n-1}=0$とすることで
$$f(X)-(n!)a_nC_n(X)=c_0+c_1C_1(X)+\cdots+c_{n-1}C_{n-1}(X)$$
が成り立つ.よって$c_n=(n!)a_n$とすれば,それは整数で
$$f(X)=c_0+c_1C_1(X)+\cdots+c_{n-1}C_{n-1}(X)+c_nC_n(X)$$
が成り立つ.以上より$f(X)$が$C_i(X)\,(1 \leq i \leq n)$たちの整数倍の和で書けることが示された.
整数$c_0,\cdots,c_n,d_0,\cdots,d_n$によって
$$f(X)=c_0+c_1C_1(X)+\cdots+c_nC_n(X)=d_0+d_1C_1(X)+\cdots+d_nC_n(X)$$
と書けたとする.$C_i(0)=0 \, (1 \leq i \leq n)$であることと,$k \geq 1$に対して$C_k(k)=1$かつ$C_i(k)=0 \, (i>k)$であることから,帰納的に$c_k=d_k \, (0 \leq k \leq n)$が成り立つ.よって$f(X)$のこの表示が一意的であることも示された.(証明終)
この命題の結果から,次のような面白い事実が従います.
実数係数の多項式$f(X)=a_0+a_1X+\cdots+a_nX^n\,(n \geq 1)$が次の性質
(性質):適当な正の整数$N$を取れば,$N$以上の正の整数$m$全てについて$f(m)$は整数である.
を満たすならば,任意の整数$m$に対して$f(m)$は整数となる.
命題2の結果から,$f(X) \in \mathbb{R}[X]$が定理の中にある性質を満たすとき,整数$c_0,c_1,\cdots,c_n$が存在して
$$f(X)=c_0+c_1C_1(X)+\cdots+c_nC_n(X)$$
が成り立つ.ここで$C_n(X)=\frac{X(X-1)\cdots(X-n+1)}{n!}$である.補題1より,全ての$C_n(X)$は,任意の整数$m$に対して$C_n(m) \in \mathbb{Z}$を満たす.よってそれらの整数倍の和として書ける$f(X)$も,全ての整数$m$に対して$f(m) \in \mathbb{Z}$を満たす.(証明終)
つまり,ある整数以上の整数全てについて整数値を取る実数係数多項式は,全ての整数について整数値を取る,ということですね.部分的な性質が全体に波及していてとても面白いです.
また,逆に任意の整数$m$に対して整数値をとるような多項式は,定理3の中で述べられている(性質)を明らかに満たすので,今までの話をまとめると,次の定理を得ることができます.
$f(X) \in \mathbb{R}[X]$について,次の3つの条件は同値である.
更に,ここまでの議論の中で用いられた係数体$\mathbb{R}$の性質は,$C_n(X)$の定義のときに用いた$n!$の逆元が取れるという点のみなので,$\mathbb{Z}$を含む体に対しては全く同様に展開できることになります.
今までの話との一貫性を保つために$\mathbb{R}$上で考えます.$\mathbb{R}$上でなくとも同様の議論ができることは同様です.
上で何度も引用した性質
適当な正の整数$N$を取れば,$N$以上の正の整数$m$全てについて$f(m)$は整数である
は,更に次のように弱めることができます.証明も上で用いた議論と全く同様です.
実数係数の多項式$f(X)=a_0+a_1X+\cdots+a_nX^n\,(n \geq 1)$が次の性質を持てば,$(n!)a_n$は整数であり,加えてある整数$c_0,c_1,\cdots,c_n$によって$f(X)=c_0+c_1C_1(X)+\cdots+c_nC_n(X)$と一意的に書ける.
(性質):$N \leq m\leq N+n$を満たす任意の整数$m$について$f(m)$は整数であるような整数$N$が存在する.
以下多項式とは実数係数1変数多項式のことを指すこととする.命題の中に記された性質を$(*)$で表すことにする.$(n!)a_n$が整数であり,かつ$f(X)$が$C_i(X)$たちの整数倍の和で書けることを,$n$に関する帰納法で示す.
$n=1$とする.性質$(*)$によって存在が保証された整数$N$を取る.すると$f(N),f(N+1)$は共に整数であるから,
$$f(N+1)-f(N)=a_0+a_1(N+1)-(a_0+a_1N)=a_1$$
も整数である.即ち$(1!)a_1=a_1$は整数である.$a_0=f(N)-a_1N$であるから$a_0$も整数である.$C_1(X)=X$であるから,$c_0=a_0, \, c_1=a_1$とすればこれらは整数で$f(X)=c_0+c_1C_1(X)$と書ける.よって$n=1$のとき主張が成り立つ.
$n>1$とし$n-1$までの全ての整数に対して主張が成り立つと仮定する.多項式$f(X)$が性質$(*)$を満たすとし,$(*)$によって存在が保証された整数を$N$とする.多項式$g(X)=f(X+1)-f(X)$について考える.
$$g(X)=f(X+1)-f(X)=na_nX^{n-1} +\cdots$$
が成り立つから,$g(X)$は$n-1$次多項式である.$f(X)$が性質$(*)$を満たすことから,$N \leq m \leq N+n-1$を満たす任意の整数$m$に対して
$$g(m)=f(m+1)-f(m) \in \mathbb{Z}$$
が成り立つ.即ち$g(X)$も性質$(*)$を満たす.よって帰納法の仮定より
$$(n!)a_n=(n-1)! \cdot na_n \in \mathbb{Z}$$
が従う.
さて,$N \leq m \leq N+n-1$を満たす任意の整数$m$に対して$f(m)-(n!)a_nC_n(m)$は整数である.即ち多項式$f(X)-(n!)a_nC_n(X)$は性質$(*)$を満たす.$f(X)$と$(n!)a_nC_n(X)$は共に$n$次多項式で,その最高次係数は共に$a_n$であるから,$f(X)-(n!)a_nC_n(X)$は高々$n-1$次の多項式である.$f(X)-(n!)a_nC_n(X)$の次数を$k$とすると,帰納法の仮定から整数$c_0,c_1,\cdots,c_{k}$が存在して
$$f(X)-(n!)a_nC_n(X)=c_0+c_1C_1(X)+\cdots+c_{k}C_{k}(X)$$
が成り立つ.$k< n-1$である場合は$c_{k+1}=\cdots=c_{n-1}=0$とすることで
$$f(X)-(n!)a_nC_n(X)=c_0+c_1C_1(X)+\cdots+c_{n-1}C_{n-1}(X)$$
が成り立つ.よって$c_n=(n!)a_n$とすれば,それは整数で
$$f(X)=c_0+c_1C_1(X)+\cdots+c_{n-1}C_{n-1}(X)+c_nC_n(X)$$
が成り立つ.以上より$f(X)$が$C_i(X)\,(1 \leq i \leq n)$たちの整数倍の和で書けることが示された.
整数$c_0,\cdots,c_n,d_0,\cdots,d_n$によって
$$f(X)=c_0+c_1C_1(X)+\cdots+c_nC_n(X)=d_0+d_1C_1(X)+\cdots+d_nC_n(X)$$
と書けたとする.$C_i(0)=0 \, (1 \leq i \leq n)$であることと,$k \geq 1$に対して$C_k(k)=1$かつ$C_i(k)=0 \, (i>k)$であることから,帰納的に$c_k=d_k \, (0 \leq k \leq n)$が成り立つ.よって$f(X)$のこの表示が一意的であることも示された.(証明終)
また,追記より前で展開されている議論では$N$が正であることを一切使わなかったので,$N$が正であることは条件として外しても良いですね.最も,これは自明な同値性
適当な正の整数$N$を取れば,$N$以上の正の整数全てについて$f(m)$は整数である
$\Longleftrightarrow$ 適当な整数$N$を取れば,$N$以上の整数全てについて$f(m)$は整数である
からも分かります.これらによって上で示した定理4が次のように更新されます.
$f(X) \in \mathbb{R}[X]$について,次の5つの条件は同値である.$f(X)$の次数を$n \geq 1$とする.
つまり,十分連続した整数に対して整数値を取る多項式は,任意の整数に対して整数値を取る,ということですね.有限な部分の結果が全体に波及するなんてなかなか面白いですね~.
また,定理6は$f(X)$の次数が$0$の場合でも明らかに成り立ちます.$f(X)$が零多項式の場合は(4)の条件を除いて成り立ちますね.
今回の記事は以上です.
最後までお読みいただきありがとうございました.