2
高校数学解説
文献あり

代数学をやるその19 多項式と平方数

123
0

はじめに

またまた大学入試でも問われそうな大学院入試の問題を解いていきます.

※代数学をやるそのうんたらの他の問題たちが こちらのまとめページ から見れます.良ければリンクをご利用ください.

問題と解答

有理整数a,b,cについて,a>0,b0(moda)ならば,f(n)=a2n2+bn+cが平方数となるような正の整数nは高々有限個であることを証明せよ.(名大)

証明を表示

ある値より大きいnに対してf(n)が平方数とならないことを示すことで,目的を達成する.

ある整数kが存在して2ka<b<2(k+1)aが成り立つ.等号が許されないのはbaで割り切れないからである.すると,n>c(k+1)22(k+1)abのとき
(an+k+1)2f(n)=a2n2+2(k+1)an+(k+1)2(a2n2+bn+c)={2(k+1)ab}n+(k+1)2c>0(2(k+1)ab>0)
が成り立つ.また,n>k2cb2kaのとき
f(n)(an+k)2=a2n2+bn+c(a2n2+2kan+k2)=(b2ka)n+ck2>0(b2ka>0)
が成り立つ.以上より,n>max{c(k+1)22(k+1)ab,k2cb2ka}とすると
(an+k)2<f(n)<(an+k+1)2
が成り立つ.これよりf(n)は平方数でない(平方数であるとすると,an+k,an+k+1という連続した整数の間に別の整数が存在することになって矛盾する).従ってf(n)が平方数であれば,正の整数nは少なくともnmax{c(k+1)22(k+1)ab,k2cb2ka}を満たさなければならない.即ち,f(n)が平方数となる正の整数nは高々有限個しか存在しない.(証明終)

感想

「正の」という枕詞のおかげでnには1という下限が勝手についてくるため,問題はどうやってnを上から抑えるか?にすり替わります.f(n)の最初の項がa2n2とわざわざ平方数になっていることに着目すると,anに近い整数の平方とf(n)を比べてみよう,と思考が進むと思います.

発展

問題ではbaで割り切れないという条件が付いていましたが,上の証明はb2aで割り切れないという条件さえあれば同様に展開できます.つまり条件を弱めることができるということですね.

b2aで割り切れる場合を考えましょう.整数k,lによってb=2ka,c=k2+lと表します.このとき
f(n)=a2n2+2kan+k2+l=(an+k)2+l
となります.
l=0のときはf(n)=(an+k)2ですから,全ての正の整数nに対してf(n)が平方数となります.
l0とします.f(n)が平方数であるとすると,ある整数mによってf(n)=m2と書けます.これより
(m(an+k))(m+an+k)=m2(an+k)2=l
となります.l<0なら両辺に1を掛ければ同様の考察ができるので,ここではl>0とします.lの素因数分解を考えると,m(an+k),m+an+kの組み合わせはlの約数の個数しか存在せず,特にそれは有限です.その各組合せからはm,nに関する2元連立1次方程式を得ることができます.よってそれらの解として得られるm,nは高々有限個しか存在しません.これよりf(n)が平方数となる正の整数nは高々有限個であることが分かります.

以上より,f(n)が平方数となる正の整数nの個数に関して,問題で示したことよりも詳しい次の命題を得ることができました.

a,b,cZ,a>0に対しf(n)=a2n2+bn+cとおくと,次が成り立つ.
f(n)nb2ab=2ka(kZ)ck2

次に,f(n)が平方数となる負の整数の個数はどうなるか考えてみましょう.多項式g(X)g(X)=a2X2bX+cで定めます.負の整数nを正の整数nによってn=nと表すと,
f(n)=a2n2+bn+c=a2n2bn+c=g(n)
が成り立ちます.従って,f(n)が平方数であることとg(n)が平方数であることは同値です.g(X)f(X)と比べてbbに置き換わっただけなので,命題1から
f(n)ng(n)nb2ab=2ka(kZ)ck2b2ab=2ka(kZ)ck2f(n)n
が成り立つことが分かります.以上より,f(n)が平方数となる整数の個数に関する次の定理が導かれました.

a,b,cZ,a>0に対しf(n)=a2n2+bn+cとおくと,次が成り立つ.
f(n)nb2ab=2ka(kZ)ck2

今回の記事は以上です.
最後までお読みいただきありがとうございました.

参考文献

[1]
永田雅宜, 復刻版 大学院への代数学演習, 現代数学社, 2021
投稿日:202284
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

certain
certain
32
18679
素朴な問題が特に好きです.

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. はじめに
  2. 問題と解答
  3. 発展
  4. 参考文献