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高校数学解説
文献あり

代数学をやるその19 多項式と平方数

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はじめに

またまた大学入試でも問われそうな大学院入試の問題を解いていきます.

※代数学をやるそのうんたらの他の問題たちが こちらのまとめページ から見れます.良ければリンクをご利用ください.

問題と解答

有理整数$a,b,c$について,$a>0,\, b \not\equiv 0 \, ({\rm mod}\, a)$ならば,$f(n)=a^2n^2+bn+c$が平方数となるような正の整数$n$は高々有限個であることを証明せよ.(名大)

証明を表示

ある値より大きい$n$に対して$f(n)$が平方数とならないことを示すことで,目的を達成する.

ある整数$k$が存在して$2ka< b<2(k+1)a$が成り立つ.等号が許されないのは$b$$a$で割り切れないからである.すると,$n>\frac{c-(k+1)^2}{2(k+1)a-b}$のとき
$$\begin{split} (an+k+1)^2-f(n) &= a^2n^2+2(k+1)an+(k+1)^2-(a^2n^2+bn+c) \\ &= \{2(k+1)a-b\}n+(k+1)^2-c >0 \hspace{0.2in} (\because 2(k+1)a-b>0) \end{split}$$
が成り立つ.また,$n>\frac{k^2-c}{b-2ka}$のとき
$$\begin{split} f(n)-(an+k)^2 &= a^2n^2+bn+c-(a^2n^2+2kan+k^2) \\ &= (b-2ka)n+c-k^2 >0 \hspace{0.2in} (\because b-2ka>0) \end{split}$$
が成り立つ.以上より,$n>\max \left\{\frac{c-(k+1)^2}{2(k+1)a-b}, \,\frac{k^2-c}{b-2ka} \right\}$とすると
$$(an+k)^2< f(n)<(an+k+1)^2$$
が成り立つ.これより$f(n)$は平方数でない(平方数であるとすると,$an+k,an+k+1$という連続した整数の間に別の整数が存在することになって矛盾する).従って$f(n)$が平方数であれば,正の整数$n$は少なくとも$n \leq \max \left\{\frac{c-(k+1)^2}{2(k+1)a-b}, \,\frac{k^2-c}{b-2ka} \right\}$を満たさなければならない.即ち,$f(n)$が平方数となる正の整数$n$は高々有限個しか存在しない.(証明終)

感想

「正の」という枕詞のおかげで$n$には$1$という下限が勝手についてくるため,問題はどうやって$n$を上から抑えるか?にすり替わります.$f(n)$の最初の項が$a^2n^2$とわざわざ平方数になっていることに着目すると,$an$に近い整数の平方と$f(n)$を比べてみよう,と思考が進むと思います.

発展

問題では$b$$a$で割り切れないという条件が付いていましたが,上の証明は$b$$2a$で割り切れないという条件さえあれば同様に展開できます.つまり条件を弱めることができるということですね.

$b$$2a$で割り切れる場合を考えましょう.整数$k,l$によって$b=2ka,c=k^2+l$と表します.このとき
$$f(n)=a^2n^2+2kan+k^2+l=(an+k)^2+l$$
となります.
$l=0$のときは$f(n)=(an+k)^2$ですから,全ての正の整数$n$に対して$f(n)$が平方数となります.
$l \neq 0$とします.$f(n)$が平方数であるとすると,ある整数$m$によって$f(n)=m^2$と書けます.これより
$$(m-(an+k))(m+an+k)=m^2-(an+k)^2=l$$
となります.$l<0$なら両辺に$-1$を掛ければ同様の考察ができるので,ここでは$l>0$とします.$l$の素因数分解を考えると,$m-(an+k),\,m+an+k$の組み合わせは$l$の約数の個数しか存在せず,特にそれは有限です.その各組合せからは$m,n$に関する2元連立1次方程式を得ることができます.よってそれらの解として得られる$m,n$は高々有限個しか存在しません.これより$f(n)$が平方数となる正の整数$n$は高々有限個であることが分かります.

以上より,$f(n)$が平方数となる正の整数$n$の個数に関して,問題で示したことよりも詳しい次の命題を得ることができました.

$a,b,c \in \mathbb{Z}, \, a>0$に対し$f(n)=a^2n^2+bn+c$とおくと,次が成り立つ.
$$\begin{split} &f(n) \, が平方数となる正の整数 \, n \, が高々有限個 \\ &\hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in} b \, が \, 2a \, で割り切れない,もしくは,b=2ka \, (k \in \mathbb{Z}) \, と書けるとき \, c \neq k^2 \end{split}$$

次に,$f(n)$が平方数となる負の整数の個数はどうなるか考えてみましょう.多項式$g(X)$$g(X)=a^2X^2-bX+c$で定めます.負の整数$n$を正の整数$n'$によって$n=-n'$と表すと,
$$f(n)=a^2n^2+bn+c=a^2n'^2-bn'+c=g(n')$$
が成り立ちます.従って,$f(n)$が平方数であることと$g(n')$が平方数であることは同値です.$g(X)$$f(X)$と比べて$b$$-b$に置き換わっただけなので,命題1から
$$\begin{split} & f(n) \, が平方数となる負の整数 \, n \, が高々有限個 \\ &\hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in} g(n') \, が平方数となる正の整数 \, n' \, が高々有限個 \\ &\hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in} -b \, が \, 2a \, で割り切れない,もしくは,-b=2ka \, (k \in \mathbb{Z}) \, と書けるとき \, c \neq k^2 \\ &\hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in} b \, が \, 2a \, で割り切れない,もしくは,b=2ka \, (k \in \mathbb{Z}) \, と書けるとき \, c \neq k^2 \\ &\hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in} f(n) \, が平方数となる正の整数 \, n \, が高々有限個 \end{split}$$
が成り立つことが分かります.以上より,$f(n)$が平方数となる整数の個数に関する次の定理が導かれました.

$a,b,c \in \mathbb{Z}, \, a>0$に対し$f(n)=a^2n^2+bn+c$とおくと,次が成り立つ.
$$\begin{split} &f(n) \, が平方数となる整数 \, n \, が高々有限個 \\ &\hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in} b \, が \, 2a \, で割り切れない,もしくは,b=2ka \, (k \in \mathbb{Z}) \, と書けるとき \, c \neq k^2 \end{split}$$

今回の記事は以上です.
最後までお読みいただきありがとうございました.

参考文献

[1]
永田雅宜, 復刻版 大学院への代数学演習, 現代数学社, 2021
投稿日:202284

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certain
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素朴な問題が特に好きです.

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