言葉遊びで逆関数定理の逆というものを唐突に思いつき,気になってネットで調べてみたら何もヒットしなかったので自分で考えてみた.
逆関数定理には様々な形態があるが,今回は杉浦解析$\rm{I}$にある$\varepsilon$-$\delta$チックにごりごり考えるやり方でやった.
不備などがあれば是非教えて頂きたい.
「函数」を「関数」などと自分の気分で表現を変えている部分がある(定理の内容などはいじっていない).
$U,\;V$を$\mathbb{R}^n$の開集合とし,関数$f:U\to V$が次の$\rm(\hspace{.18em}i\hspace{.18em})\sim\rm(i\hspace{-.08em}i\hspace{-.08em}i)$を満たすものと仮定する:
$\rm(\hspace{.18em}i\hspace{.18em})$$f$は$U$上$C^1$級
$\rm(\hspace{.08em}ii\hspace{.08em})$$\forall x\in U,\det f'(x)\neq0$
$\rm(i\hspace{-.08em}i\hspace{-.08em}i)$$f$は$U$から$V$の上への全単射で,逆関数$f^{-1}:V\to U$が存在する.
$\Longrightarrow$次の$(1),(2)$が成立:
$(1)$逆関数$f^{-1}$は$V$上で微分可能で,
$y=f(x)\;(x\in U)$に対し$(f^{-1})'(y)=\{f'(x)\}^{-1}$.
$(2)$$f^{-1}$は$V$上$C^1$級.
関数$f:U(\subset\mathbb{R}^n:\text{開集合})\to\mathbb{R}^n\;(n\in\mathbb{N})$が$C^1$級
$\overset{def}{\Longleftrightarrow}$$I$で$1$階までの全ての導関数が存在して$U$上連続である時.
この定義に従うと,$f$が$C^1$級であることを考えるときに$n$個の偏導関数を考えなきゃいけなくて面倒なので,下の命題も用いる.
関数$f:U(\subset\mathbb{R}^n:\text{開集合})\to\mathbb{R}^n\;(n\in\mathbb{N})$に対し以下は同値:
$(a)f$は$U$上$C^1$級
$(b)f$は$U$上微分可能で,$f'$は$U$上連続.
$x_0\in U$に対し,$f'(x_0)$は行列であることに注意.
関数$f:U\to\mathbb{R}^n$を,$x=(x_1,x_2,\cdots,x_n)\in U$に対し
$f(x)=(f_1(x),f_2(x),\cdots,f_n(x))\;(x\in U,1\leq\forall k\leq n\text{に対し}f_k:U\to\mathbb{R}^n)$
と書いたとき,$f'(x_0)$の$(i,j)$成分$(1\leq i,j\leq n)$は$\frac{\partial f_i}{x_j}(x_0)$で,この行列は$f$の$x_0$におけるヤコービ行列と言われる.
関数$f:U(\subset\mathbb{R}^n:\text{開集合})\to\mathbb{R}^n\;(n\in\mathbb{N})$が$x\in U$で微分可能であるとき,$n$次正方行列$f'(x)$の行列式$\det f'(x)$を,$f$の$x$におけるヤコービアンという.
平たく書くと,ヤコービ行列の行列式がヤコービアン.
定理$1$の$\Longrightarrow$を$\Longleftarrow$に変える際に,$\rm(\hspace{.18em}i\hspace{.18em})$での$f$の微分可能性と$\rm(\hspace{.08em}ii\hspace{.08em})$と$\rm(i\hspace{-.08em}i\hspace{-.08em}i)$の条件は認めざるを得ない.
なぜなら,
$(1)$逆関数$f^{-1}$は$V$上で微分可能で,
$y=f(x)\;(x\in U)$に対し$(f^{-1})'(y)=\{f'(x)\}^{-1}$.
この条件を扱う際に$f^{-1}$に対して$f$が当然のごとく定まっていて,各点で微分可能でなくてはいけないし,また$(1)$は,$x=f^{-1}(y)\;(y\in V)$に対して,$f'(x)$が正則であることも保障するので,$\det f'(x)\neq0$も成り立つ必要があるから.
読みやすさから定理$1$での$f^{-1}$を$h$に変えて,以上を踏まえると,逆関数定理の逆は以下の命題となる:
$U,\;V$を$\mathbb{R}^n$の開集合とし,全単射かつ,逆関数が各点でヤコービアンが非負・$U$の各点で微分可能な関数$h:V\to U$が次の$(1),\;(2)$を満たすものと仮定する:
$(1)h$は$V$上で微分可能で,
$y=h^{-1}(x)\;(x\in U)$に対し$(h)'(y)=$$\{(h^{-1})'(x)\}^{-1}$.
$(2)$$h$は$V$上$C^1$級.
$\Longrightarrow$逆関数$h^{-1}$は$U$上$C^1$級
命題$2$(命題$6.3$)によると,以下の$2$-stepsを示せば十分:
まず,Step$1$を認めたうえでStep$2$を示そうとする.
$x\in U$に対し,$(h^{-1})'(x)\overset{仮定より}{=}\{h'(y)\}^{-1}\;(y=h^{-1}(x))$の$(i,j)$成分は,行列$h'(y)$の$(j,i)$余因子を$h'(y)$のヤコビアンで割ったものなので,
もし$h^{-1}:x\to y$が連続ならば$(h^{-1})'(x)$は$x$の関数として連続になる.
次に,Step$1$,つまり,
$\forall x_0\in U$に対し$h^{-1}(x_0+\tilde{h})-h^{-1}(x_0)=(h^{-1})'(x_0)\tilde{h}+o(\tilde{h})$・・・☆
と表せることを示そうとする.
仮定より,$\forall y_0\in V$に対し$h(y_0+k)-h(y_0)=h'(y_0)k+o(k)$成立.
ここで$h^{-1}(x_0+\tilde{h})=y_0+k$とおく.
$\overset{h^{-1}は全単射なので両辺にhをかけて}{\Longrightarrow}x_0+\tilde{h}=h(y_0+k)$
このとき$\tilde{h}=h(y_0+k)-h(y_0)$,$k=h^{-1}(x_0+h)-h^{-1}(x_0)$
☆に両辺左から$(h^{-1})'(x_0)$をかけて
$h^{-1}(x_0+\tilde{h})-h^{-1}(x_0)=(h^{-1})'(x_0)\tilde{h}+\delta(\tilde{h})$
を得る.但し$\delta(\tilde{h}):=-(h^{-1})'(x_0)o(k)$
ここで$\lim_{\tilde{h}\neq0,\tilde{h}\to0}\frac{|\delta(\tilde{h})|}{|\tilde{h}|}=0$を示せばよい.
$\frac{|\delta(\tilde{h})|}{|\tilde{h}|}\leq|(h^{-1})'(x_0)|\cdot\frac{|o(k)|}{|\tilde{h}|}\cdot\frac{|\tilde{h}|}{|h(y_0+k)-h(y_0)|}$
もしここで$h^{-1}$が連続なのであれば,$M>0$をとって,$y_0$に十分近い$y_0+k\in V$に対して$M|y_0+k-y_0|=M|k|\leq|h(y_0+k)-h(y_0)|$が成り立ち,$\frac{|\delta(\tilde{h})|}{|\tilde{h}|}\leq\frac{|(h^{-1})'(x_0)|}{M}\cdot\frac{|o(k)|}{|k|}$となり,
さらに,$h^{-1}$が連続なのであれば$k\to0\Longleftrightarrow\tilde{h}\to0$となるので$\lim_{\tilde{h}\neq0,\tilde{h}\to0}\frac{|\delta(\tilde{h})|}{|\tilde{h}|}=0$が言えて,上と合わせて命題$3$が示せたことになる.
以上から,命題$3$の証明には$h^{-1}$が連続であるという仮定が外せないことがわかる.
微分可能な関数は連続
なので,$h^{-1}$は当然連続になり,よって命題$3$の証明が完了した.
逆関数定理の逆は至ってアタリマエのことだった.
今度は陰関数定理の逆を考えてみたい.逆関数定理の逆との関連があったら面白そう.