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大学数学基礎解説
文献あり

上極限・下極限の性質

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はじめに

どうも,本日,助教の先輩の勧めからオンラインの学会発表の場に参加した,かそうです.テンソル積の復習をしなければと思わされました.近々テンソル積についての記事を投稿するかもしれません.お楽しみに.

今日は,自主ゼミにて話題になった上極限・下極限の性質を紹介します.この記事を読み終わったら,今までよりも上極限・下極限の「気持ち」がわかるようになるかもしれません.

上極限・下極限の定義など

数列$\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}}$に対し上極限・下極限は以下で定義される:

上極限

$\varlimsup_{n\to\infty} \{a_n\}\overset{\text{def}}{=}\inf_{m\geq 1}\sup_{n\geq m}a_n$

下極限

$\varliminf_{n\to\infty} \{a_n\}\overset{\text{def}}{=}\sup_{m\geq 1}\inf_{n\geq m}a_n$

上極限・下極限を扱う上で最も恥ずかしいのは定義を無意識の内にすりかえて理解してしまうことである.高木貞治「解析概論」による,実数の性質(有界単調数列の収束定理)と関連付けた理解が飲み込めれば,そんなことはなくなるはず.

一般の数列$a(n)\;(n\in\mathbb{N})$に対し,
$l_n\overset{\text{def}}{=}\sup\{a(n),\;a(n+1),\cdots\}$
$m_n\overset{\text{def}}{=}\inf\{a(n),\;a(n+1),\cdots\}$
とすると
$m_1\leq m_2\leq\cdots\leq m_n\leq\cdots\leq l_n\leq\cdots\leq l_2\leq l_1$
が成り立つ.数列$\{m_n\}_{n\in\mathbb{N}}$が(上に)有界であるとき,有界単調数列の収束定理により,$\{m_n\}_{n\in\mathbb{N}}$は極限値$\alpha$を持つ.特に$\alpha=\sup\{m_n\}_{n\in\mathbb{N}}=\sup_{m\geq 1}\inf_{n\geq m}a_n$となり,これを下極限と呼ぼうということである.

数列$\{m_n\}_{n\in\mathbb{N}}$が(上に)有界でない時,$\lim_{n\to\infty} {m_n}=+\infty$であり,これを下極限と呼ぶ:$\varliminf_{n\to\infty} \{a_n\}=+\infty$

上極限も同様に定義できる.

また,上極限・下極限について,以下の関係の成立が知られている:

上極限と下極限の交換

$\varliminf_{n\to\infty} \{-a_n\}=-\varlimsup_{n\to\infty} \{a_n\}$

上記の記法に従うと,
$\underline{-a(n)}=\inf\{-a(n),\;-a(n+1),\cdots\}=-\sup\{a(n),\;a(n+1),\cdots\}=-\overline{a(n)}$
これより$\varliminf_{n\to\infty} \{-a_n\}=-\varlimsup_{n\to\infty} \{a_n\}$が成り立つ.(証明終了)

上極限・下極限の性質

数列$\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}}$に対し,以下が成立:
$(a)\varliminf_{n\to\infty} \{a_n\}:=\alpha$とする.$\eta>0$を任意に取ったとき,$a_n<\alpha+\eta$であるような番号$n$は無限に存在する.
$(b)\varlimsup_{n\to\infty} \{a_n\}:=\beta$とする.$\eta>0$を任意に取ったとき,$\beta< a_n+\eta$であるような番号$n$は無限に存在する.

この証明のポイントは,「無限に存在する」をどう読むか,である.ある自然数をとり,それに対してとある自然数で条件の成立をいうという流れで示す.

$(a)\eta>0$をとる.$N\in\mathbb{N}$に対しある$n'\in\mathbb{N}$が存在して$\inf_{n\geq N}a_n+\frac{\eta}{2}>a_{n'}$成立より,
$\alpha+\frac{\eta}{2}>\alpha\geq\inf_{n\geq N}a_n>a_{n'}-\frac{\eta}{2}$
$\therefore\alpha+\eta>a_{n'}$
$N$を任意に取ることで,$\eta>0$を任意に取ったとき,$a_n<\alpha+\eta$であるような番号$n$は無限に存在することが示せた.
$(b)\eta>0$をとる.$N\in\mathbb{N}$に対しある$n'\in\mathbb{N}$が存在して$\sup_{n\geq N}a_n-\frac{\eta}{2}< a_{n'}$成立より
$\beta-\frac{\eta}{2}<\beta\leq\sup_{n\geq N}a_n< a_{n'}+\frac{\eta}{2}$
$\therefore\beta< a_{n'}+\eta$
$N$を任意に取ることで,$\eta>0$を任意に取ったとき,$\beta< a_n+\eta$であるような番号$n$は無限に存在することが示せた.

裏話

実はこの命題の証明は友人から教えてもらったものです.
ここで自戒の念を込めて教訓めいたことを一つ.上の命題を複数人で話し合いながら考えていたのですが,そういう時に気の利いたことが言えない!なんてこと,よくあると思います.そういう時は集合と位相でしっかりと足腰を鍛えているかが物を言うことがあるかもしれません.
事項の定義を正しく理解しているか(条件など含む),ある程度問題を解いているか,何か気になった点があったとき「またいつかやればいいや」と読み飛ばしすぎるのではなく,ある程度は「前に習った内容ではあるし,たぶんできるはず」と自分を信じて本の行間を自分の力で埋めているか,そうした積み重ねが大事だと思います.
よく数学者などで状況を上手に図示してお気持ちの理解を容易に行う人がいます(いますよね・・・?).確かにそのような考え方も有効ではあると思いますが,それは地道な鍛錬の先にあるべきであって,授業で習った時のやり方・考え方を忘れない謙虚さを持った方が良いと思うのです.上手に言語化している気がしないので読者の皆様に僕の考えが伝わっているか不安ですが,ともかく,集合と位相で足腰を鍛えた方が良いということです.
その場で正答を導き出した友人から,解法はもちろん数学に対する姿勢を学んだ気がしました.

参考文献

[1]
吉田洋一, ルベグ積分入門, ちくま学芸文庫, 2020, p77-83
[2]
高木貞治, 解析概論, 岩波書店, 2012, p13-14
投稿日:202295

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かそう
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