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有界自己共役作用素のスペクトル分解について

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スペクトル分解に関する諸定理で最も易しいものを本記事では勉強する。非有界作用素の場合のスペクトル分解定理も多くの文献で理路整然と述べられることなので, それについては書かない。無限次元での話なので関数解析的であるが, 根本は線形代数学における対角化可能行列のスペクトル分解の一般化である。

共役作用素

(H1,,1)(H2,,2)をヒルベルト空間とする。T:H1H2を定義域D(T)H1で稠密な線形作用素とする。
D(T)={yH2 | uH1 s.t. xD(T) <Tx,y>2=<x,u>1}という集合を定める。議論は省略するが, H1がヒルベルト空間なことより, リースの表現定理によってyD(T)H1x↦<Tx,y>2C(D(T),1)上で連続線形作用素となる事とは同値となる。また, Tが稠密に定義された作用素なので, yに対してuH1 s.t. <Tx,y>2=<x,u>1 (xD(T))は一意であるゆえに, T:H2yuH1が定まりこの線形作用素をTの共役作用素という。

H1上で稠密に定義された作用素Tが対称作用素:TTTが自己共役作用素:T=TTが本質的自己共役作用素とはTが自己共役作用素.

Aをヒルベルト空間H上の有界自己共役作用素とする。J=[a,b]σ(A)Jなる有界閉区間とする。このとき, ボレル完全加法族B(J)上の射影値測度Eであって
A=JλdE(λ)を満たすものが一意に存在する。もしB(R)上のA=RλdF(λ)を満たす射影値測度Fが存在したなら, 任意のMB(R)に対しE(MJ)=F(M)となる。

また, 有界作用素TAと可換になることはTが任意のMB(J)に対する射影E(M)と可換なことと同値である。

pC[t]に対し, σ(p(A))p(σ(A))

γσ(p(A))を勝手にとり, n:=degp>0とおく。代数学の基本定理より, あるα1,...,αnCp(t)γ=an(tα1)(tαn)となるものがあるので, 
p(A)γI=an(Aα1I)(AαnI)であり, もし任意のjに対しαjρ(A)なら, 上式右辺は可逆作用素よりp(A)γIも可逆なので, γρ(p(A))を満たす。矛盾したのであるjが存在しαjσ(A)p(αj)γ=0からγp(σ(A))である。

次の補題の証明における2番目の等号は, C[t]*環とみてC[t]pp(A)B(H)という全射な*環準同型があることを暗に用いていることに注意する。(p(t)=k=0naktkの対合はp(t):=k=0naktk.) また, fC(J)に対してfJ:=sup{|f(t)| : tJ}である。

pC[t]に対し, p(A)pJ

上補題とσ(A)Jより
p(A)2=p(A)p(A)=(pp)(A)=sup{|γ| : γσ((pp)(A))}sup{pp(λ) | λσ(A)}ppJ=pJ2

ノルム線形空間X=(C[t],J)上の各有界線形作用素Fに対し, 一意にJ上の複素正則ボレル測度μ
F(p)=Jp(λ)dμ(λ), pC[t]なるものが定まり, また任意のMB(J)|μ(M)|Fである。

ワイエルシュトラスの近似定理より多項式全体は(C(J),J)で稠密よりX上の有界線形作用素はC(J)上への一意拡張をもつ。μの一意存在と最後は, 局所コンパクトハウスドルフ空間上の連続関数環でのRiesz-Markov-角谷の表現定理を用いて成り立つ。

Eσ加法族Aからヒルベルト空間H上の直交射影全体への有限加法的な写像とする。このとき, M,NAに対して
E(M)E(N)=E(MN)が成り立つ。特にE(M)E(N)は可換となる。

M0:=MN,M1:=MM0,M2:=NM0とおくとM1M2=M0M2=M1M0=より
E(M1)E(M2)=E(M0)E(M2)=E(M1)E(M0)=0. M=M1M0EE(M)E(N)=(E(M1)+E(M0))(E(M2)+E(M0))=E(M0)2=E(MN)

集合Ω上のσ加法族AからH上の直交射影全体への写像Eが射影値測度E(Ω)=Iかつ任意のxHに対しA上の関数Ex():=<E()x,x>は測度。

明らかでないを示す。(Mn)nNAの互いに素な集合列でM:=n=1MnAなるものとする。Exは有限加法的すなわちEも有限加法的なので前補題より(E(Mn))nは直交射影の族で, n=1E(Mn)は強収束する。(確かめよ, あるいは別証明であるmathpedia様の「射影作用素からなる単調増加ネットのSOT極限として存在するものとせよ)Exは可算加法的なので
<E(M)x,x>=Ex(M)=n=1Ex(Mn)=n=1<E(Mn)x,x>=<n=1E(Mn)x,x>,  xHよって極化等式からE(M)=n=1E(Mn)よりEは射影値測度。

これらの準備を経て, 定理1に戻る。

存在性) 任意のx,yHに対し, C[t]上の線形汎関数Fx,yFx,y(p):=<p(A)x,y>,pC[t]で定める。
|Fx,y(p)|p(A)xypJxyなので, (C[t],J)上でFx,yは連続なので前補題から一意に複素正則ボレル測度μx,yが存在し, Fx,y(p)=Jp(λ)dμx,y(λ) (pC[t])()を満たす。ボレル完全加法族B(J)上のスペクトル測度Eμx,y(M)=<E(M)x,y> (x,yH, MB(J))を満たすものが存在することを示す。α1,α2C,x1,x2Hとする。内積の第一引数が持つ線形性と(*)から
 pdμα1x1+α2x2,y=α1 pdμx1,y+α2 pdμx2,y= pd(α1μx1,y+α2μx2,y)pC[t]に対し成り立つ。よって補題での測度の一意性より, μα1x1+α2x2,y(M)=α1μx1,y(M)+α2μx2,y(M),MB(J)で, 同様にyiHとしてμx,α1y1+α2y2(M)=α1μx,y1(M)+α2μx,y2(M),MB(J)|μx,y(M)|FX,yxyである。よって, 各MB(J)に対し(x,y)μx,y(M)は連続な半双線形形式より,μx,y(M)=<E(M)x,y> (x,yH)()を満たす射影E(M)B(H)が存在する。(ただし, これには一般にヒルベルト空間X,Yの間の有界作用素全体とX×Y上の連続半双線形形式全体との対応がノルム同型を与えることを用いている)()においてp(t)=1と選ぶと<x,y>=μx,y(J)=<E(Jx,y>,x,yHよりE(J)=Iである。

従ってE(M)は射影であることを示されれば, 上補題によりEはスペクトル測度となる。x,yH,pC[t]とする。()より
J pdμx,y=<p(A)x,y>=<p(A)y,x>= pdμy,x= pdμy,xよりμx,y(M)=μy,x(M)であり, これと()での測度の一意性からE(M)=E(M)である。

次にE(M)2=E(M)を示す。Aは自身と可換なので
 pdμq(A)x,y=<p(A)q(A)x,y>=<(pq)(A)x,y>= pqdμx,yである。よってdμq(A)x,y=qdμx,y()より<E(M)q(A)x,y>=Mqdμx,yより
 qdμxE(M)y=<q(A)x,E(M)y>=<E(M)q(A)x,y>= qχMdμx,y, qC[t]なのでdμx,E(M)y=χMdμx,y. 従って
NB(J) μx,E(M)y(N)=NχMdμx,y=μx,y(MN),   ()⇒<E(N)x,E(M)y>=<E(MN)x,y>よって, E(M)=E(M)よりE(M)E(N)=E(MN)で, 特にE(M)2=E(M)ゆえにE(M)は射影作用素となる。x,yHとすれば()より任意のpC[t]に対し, <p(A)x,y>=Jp(λ) d<E(λ)x,y>なので, <Ax,y>=Jλ d<E(λ)x,y>である。射影値測度Eによる有界可測関数の積分(mathpedia様の定義6.5参照. Iは6.5の*環準同型)から, I(f0)=JλdE(λ) (ただしf0(λ)=λ,λJ)に対し, 射影値測度による積分論の基本性質で
<I(f0)x,y>=Jλd<E(λ)x,y>が言えて, A=I(f0)=JλdE(λ)が成り立つ。

一意性) I(f)で異なる射影値測度Fによるスペクトル積分Rf dFを表すとする。Nn:=[b+n1,)とおく。
<AF(Nn)x,F(Nn)x>=<I(f0χNn)x,x>=Nnλd<F(λ)x,x>≥(b+n1)Nnd<F(λ)x,x>=(b+n1F(Nn)x2ここで, σ(A)[a,b]ゆえの<Ay,y>≤by2と上式によってF(Nn)x=0,xHとなる。よって
0=slimnF(Nn)=F((b,))同様に, F((,a))=0なので, B(R)上定義されたFに対して実は<p(A)x,x>=Jp(λ)d<F(λ)x,x>となる。従って
<E(N)x,x>=<F(N)x,x> NB(J),xHRiesz-Markov-角谷の表現定理より言えて, E(N)=F(N), F(RJ)=0よりE(MJ)=F(M)である。最後にTB(H)AT=TAを満たすものをとると今示した
A=JλdE(λ)p(A)=Jp(λ)dE(λ)から,x,yH  Jp(λ)d<E(λ)Tx,y>=<p(A)Tx,y>=<p(A)x,Ty>=Jp(λ)d<E(λ)x,Ty><E(M)Tx,y>=<E(M)x,Ty>=<TE(M)x,y>⇔MB(J) ; E(M)T=TE(M)逆に, TE()=E()Tならば, TA=ATが成り立つことはA=I(f0)と見る。I(χM)=E(M)は明らかなので, 近似すれば良い。

非有界作用素はまた議論が必要となるが、その前に非有界作用素に触れてみたい。

Aを非有界な自己共役作用素とする。このとき, xD(A)かつxD(A2)を満たすxが存在することを示しなさい。命題をより普遍的なものに変更するとどうか。

余力があれば, ヒルベルト空間上の正定値作用素Aに関するMcCarthyの定理について考えたいです。

投稿日:2022916
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societah
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現在は量子誤り訂正、位相線形構造とバナッハ環論に関心を持つ。 趣味 : SPY×FAMILY、ハンガリー史、Official髭男dism

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