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本質部分加群の圏論的特徴づけ Part1

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今シリーズについて

どうも、あおです。
Mathlogとか、PDFとかを人生で一度も書いたことなかったので、何かしら書いてみたいなと思っていたところに、いい感じのお話があり、先輩にかいてみたら?と言われたので書いてみます。
Texそのものに不慣れなので、とても拙い書き方になってしまってると思うのですが、温かい目で見ていただけると嬉しいです。

さて、このシリーズでお話していく内容なんですが、おおざっぱに言うと本質部分加群についてです。本質部分加群には圏論的な特徴づけを与えることができるのですが、基本的にどの本も元を取ることでその諸性質を示しています。元を取る議論は少し苦手なので、圏論的証明を与えようじゃないか、というごく自然な発想で、いろいろ考えていたら意外と簡潔に証明できたので、それを書いていきます。

今回のPart1では、とりあえず圏論的特徴づけを与えるところまでやります、実際にそれで証明を与えていくのはPart2以降となるので、ご注意を!

今回の目標と約束

加群論において重大な役割がある本質部分加群と余剰部分加群ですが、実はよく知られた圏論的な良い特徴づけがあるのでそれを実際に与えて示そうというのが今回の目標です。

この記事を通して次の約束をしておきます。

R:可換とは限らない単位的環
ModR:右R加群全体がなす圏
NMと書いたときはNMの部分加群
・射は全部ModRでの射(つまり加群準同型)
は単射を表す
は全射を表す

以下を仮定しているかもしれません

・加群論における極初歩的な主張
・(アーベル)圏におけるpullbackやpushoutに関する基本的な主張

定義

まずは本質部分加群と余剰部分加群について定義をしておきます。

本質部分加群と剰余部分加群

MModR,NMに対して

  1. NM本質部分加群
    :⇔任意のLMに対しLN=0ならばL=0
  2. NM余剰部分加群
    :⇔任意のLMに対しL+N=MならばL=M

これらの概念を用いて定義される本質単射と余剰全射についても定義します

本質単射と剰余全射

f:MNに対して

  1. f本質単射
    :⇔fが単射でImfNの本質部分加群
  2. f余剰全射
    :⇔fが全射でKerfMの余剰部分加群

上から、簡単な命題が成り立ちます。

MModR,NMに対して以下は同値
(1)NMの本質部分加群
(2)NMは本質単射

MModR,NMに対して以下は同値
(1)NMの余剰部分加群
(2)NM/Nは余剰全射

したがって本質部分加群を知るには本質単射、余剰部分加群を知るには余剰全射を調べればいいことになります。
部分加群のお話から射のお話にできたので少しハッピーですね!
しかしながら、この本質単射や余剰全射自体が部分加群の言葉で書かれているのでこいつを少し書き換えてやりたい、そんな気がしてきます。

圏論的特徴づけ

f:MNに対し、以下は同値

  1. fは本質単射
  2. 任意のLModRと任意のh:LNに対し、
    000PBLgMfN
    となっているとき、L=0

この命題の(2)は、部分加群二つが引き起こす二つの包含射の引き戻しが共通部分を与えることを思い出せば、定義そのままとなるので、これが成り立ちます。双対的に、次もわかります。(まだ双対的であることを示していないので少し強引ですが、実際示せます)

f:MNに対し、以下は同値

  1. fは余剰全射
  2. 任意のLModRと任意のh:NLに対し、
    MfhPON0L00
    となっているとき、L=0

こうなるとだいぶうれしくなってきます、なぜなら本質単射などを述べるのには加群の言葉を使わなくてよいことがわかるからです!!
命題3,4の(2)は一般の加法圏の言葉しか使っていないので、一般の(pushout,pullbackを常に持つような)加法圏に対しても本質単射のような概念が定義できることになります。(それが何なのかは全く知りません)なのでこれらはちゃんと本質単射などの圏論的な特徴づけをしているといってもよいでしょう!

そしてもう一つうれしいのは本質単射と剰余全射が圏論的な意味でちゃんと双対であることが上の命題から従うことです(元の定義からも普通に従いますが、これが見やすいという意味で言っています)。なので、以降は本質単射についてのみ議論をしていくことにします。

ところで、上の本質単射の特徴づけではhに単射性を課ていましたが、実はこれが外せることがわかります。これが今回一番うれしくて、なおかつほんの少しだけ非自明な主張となります。(どこがうれしいかはPart.2以降で書くと思います)

f:MNに対し、以下は同値

  1. fは本質単射
  2. 任意のLModRと任意のh:LNに対し、
    Pf0PBLhMfN
    となっているとき、h=00がpullbackで反射する)

(2)(1):hとして単射なものを取ってくれば命題4より従う。
(1)(2):
準備として、LN=LImhNと分解しておきます。
PPBImhMfN
を取ると、下のように図式を分解できます。
Pf0LPPBImhMfN
ここでpullback lemとアーベル圏においてpullbackはepiを保つことから、上の四角は
P00PBLPImh
となっている。0:PPとなっていることから、P=0となるので、下の四角形を見てあげると
000PBImhMfN
fは本質的なので命題3からImh=0となり、h=0が従う。

命題3により、まず良い加法圏に対して本質単射という概念が定義できるようになりました、アーベル圏ではさらに扱いやすい同値条件として命題5が成り立つことになります。(アーベル圏での議論しかしていないので)

一旦終わり

人生初のMathlogだし、軽いものを書こう、という気持ちで書き始めたら想像以上に長くなってしまったのでなんとなく分けたんですが、実際これだけ見ると何したいのかよくわからないですね笑
Part2では本質単射についての良く知られた命題にこの特徴づけを使った証明を与える(つもり)なのでもしよかったら見ていってください。それをメインにこの記事を書き始めたので!

投稿日:2022923
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あお
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数学をやっています。圏、代数が好きです

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