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線型代数の基礎

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線型独立(一次独立)と線型写像について

これは線型写像などを一通り学んだ人向けの復習用の記事です.平気で嘘をついているかもしれないのでそのときはコメントをお願いします.

一次独立

平面,あるいは空間内の任意のベクトルa, b, cが与えられたとし,基準となる原点Oを固定しa=OA, b=OB, c=OCと定めておく.

一次独立は以下のような同値関係のことをいうのであった:

平面ベクトルの一次独立

a, b3O, A, B3O, A, B

空間ベクトルの一次独立

a, b, c3O, A, B, C4O, A, B, C

以降,次の定義を採用する(平面,あるいはn次元空間の場合も同様).

一次独立

a, b, cdefαa+βb+γc=0α=0, β=0, γ=0

この定義から,「一次独立でない三つのベクトルa, b, cに対し,両方同時に0とはならないある実数α, β, γが存在してαa+βb+γc=0が成り立つ」ことが従う.

表現行列

T:R3R2を線型写像とすると,uR3に対し
T(u)=xT(e1)+yT(e2)+zT(e3)
と表せた.これを
T(u)=[T(e1)T(e2)T(e3)][xyz]
と形式的に表記すると約束していた.さらにこの表記を用いて
T(e1)=[e1e2][ab],T(e2)=[e1e2][cd],T(e3)=[e1e2][ef]
と表せたので,これらをまとめて,かつ標準基底を省略することにより
T(u)=[acebdf][xyz]
と表すことにしていた.以上のように表記すると,線型写像Tは,具体的にはuに左からA:=[acebdf]を掛けるはたらきをもつとわかる.A{e1, e2, e3}を基底にもつTの表現行列という.ここでは触れないが,基底を変換するとそれに伴い表現行列も変わる.

線形写像によるベクトルの移り先

たとえば,T:R3R2を線型写像とすると以下が成り立つ.

(1) (2,3):A=[acebdf]TT(u)=Au(2) a1=[ab], a2=[cd], a3=[ef]a1=Ae1, a2=Ae2, a3=Ae3.(3) T:T(u):a1, a2, a3

[補足] (1)のT(u)=Auは,書き換えると
T:u=[xyz]Au=[acebdf][xyz]=[ax+cy+ezbx+dy+fz]
というふうになる.
 (2)について,
Im(T)={T(u)|uR3}
を線型写像Tによる像(Image)という.Im(T)T(R3)とも書く.この表記を用いれば
Im(T)={ai|eiR3}(i=1,2,3)
となる.

(1),(2),(3)はT:RmRnとなったときも同様に成り立つ.

例題

次の(2,3)-行列:
A=[120131]
で与えられる線型写像T:R3R2について

(1) A[xyz]を計算せよ.(2) Au=0をみたすuを求めよ.

<解答>

(1) [x2yx3y+z].(2) y[215](yR).

[補説] (2)では3つの元に対し方程式が2つしか出てこないのでuがuniqueに定まらないことは計算する前から予想できる.ここで(2)の意味を考えてみる.問題は「Tによって移すと平面内の0に移される("つぶされる")ような空間内のベクトルuを求めろ」という意味であった.いま,u=y[215]と求まったので,結局(2)において「A(u)=0」とは,原点と点(2,1,5)を通る直線上に終点を持つベクトルはすべてAによって平面内の0,すなわち原点につぶされる(式で書けばT(R3)={0})ということを意味する.

例題

次の(2,3)-行列:
A=[112224]
で与えられる線型写像T:R3R2について

(1) A[xyz]を計算せよ.(2) Au=0をみたすuを求めよ.

<解答>

(1) (xy+2z)[12].(2) y[xyz]ただしxy+2z=0.

[補説] Aの各列を
a1=[12], a2=[12], a3=[24]
とおくと,これらのうち線型独立なものは一組もない.言い換えればどのベクトルも線型従属である.この場合,
Au=xa1+ya2+za3=(xy+2z)a1()
というようにまとめられるので,空間内の任意のベクトルuTによって原点と点(1,2)を通るR2内の直線につぶされる(空間が直線につぶされる)ということである.(2)では特に「0すなわち平面内の原点につぶされるような場合を考えろ」と問われているので,それはa1の係数:xy+2z0になるときであるという旨を書けばよい.更に考えるとR3においてxy+2z=0は平面の方程式を表す.その平面上に終点を持つベクトルはすべて0に移されるというわけだ.

全射,単射,全単射

例題を解く中で,表現行列の各列ベクトルが線型独立であったか否かでベクトルの移り先が決まることが見て取れただろう.このことを以下にまとめておく:

 T:R3R2O(1)TR2(2)TR2(3)T

要するに,空間から平面への線型写像では,表現行列の各列ベクトルにおいて線型独立な組が一組でもあれば()のように一つのベクトルにまとまらず平面内を自由に動けるというわけである.

ところで,いま考えている線型写像T:R3R2T:R3R3となった場合,以上のような事情は変わってくるのだろうか.

線型写像のうち,集合Rnから自分自身への写像,すなわちT:RnRnを一次変換(線型変換)という.一次変換の場合,命題2は以下のようになる:

 T:R3R3O(1)TR3(2)TR3(3)T

命題3のそれぞれに着目すると,(1)においてのみベクトルが自身(空間内の任意の元)から自身へと移れている.もう少し詳しく言うと,線型写像T:R3R3について,vR3に対してv=T(u)となるuR3が常に存在する.このときT:R3R3は全射であるという.

すなわち線型写像T:R3R3(線型変換)がもつ表現行列Aの列ベクトル{a1, a2, a3}が線型独立であればTは全射である.

また,{a1, a2, a3}が線型独立であれば,u, vに対して
T(u)=T(v)u=v
すなわちその対偶
uvT(u)T(v)
が成り立つことが容易に確かめられる.このときTは単射であるという.

全射かつ単射である写像を全単射という.

以上をまとめると,

 T:R3R3A=[a1, a2, a3]{a1, a2, a3}T

このように,線型独立とは線型写像の性質に直接かかわる重要な性質であるということがわかる.

なお,(2,2)-行列A=(abcd)を考えると,行列が正則である,すなわちadbc0であることとベクトル(ac), (bd)が線型独立であることは同値であることが容易にわかる.さらにAによって表される一次変換T:R2R2に対して,Aは正則行列である,Tは単射である,Tは全射であることは同値であることも確かめられる.この同値性は一般にT:RnRnとしても成り立つ.

投稿日:2020118
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