線型独立(一次独立)と線型写像について
これは線型写像などを一通り学んだ人向けの復習用の記事です.平気で嘘をついているかもしれないのでそのときはコメントをお願いします.
一次独立
平面,あるいは空間内の任意のベクトルが与えられたとし,基準となる原点を固定しと定めておく.
一次独立は以下のような同値関係のことをいうのであった:
以降,次の定義を採用する(平面,あるいは次元空間の場合も同様).
この定義から,「一次独立でない三つのベクトルに対し,両方同時にとはならないある実数が存在してが成り立つ」ことが従う.
表現行列
を線型写像とすると,に対し
と表せた.これを
と形式的に表記すると約束していた.さらにこの表記を用いて
と表せたので,これらをまとめて,かつ標準基底を省略することにより
と表すことにしていた.以上のように表記すると,線型写像は,具体的にはに左からを掛けるはたらきをもつとわかる.をを基底にもつの表現行列という.ここでは触れないが,基底を変換するとそれに伴い表現行列も変わる.
線形写像によるベクトルの移り先
たとえば,を線型写像とすると以下が成り立つ.
[補足] (1)のは,書き換えると
というふうになる.
(2)について,
を線型写像による像(Image)という.をとも書く.この表記を用いれば
となる.
(1),(2),(3)はとなったときも同様に成り立つ.
例題
次の(2,3)-行列:
で与えられる線型写像について
を計算せよ.をみたすを求めよ.
<解答>
[補説] (2)では3つの元に対し方程式が2つしか出てこないのでがuniqueに定まらないことは計算する前から予想できる.ここで(2)の意味を考えてみる.問題は「によって移すと平面内のに移される("つぶされる")ような空間内のベクトルを求めろ」という意味であった.いま,と求まったので,結局(2)において「」とは,原点と点を通る直線上に終点を持つベクトルはすべてによって平面内の,すなわち原点につぶされる(式で書けば)ということを意味する.
例題
次の(2,3)-行列:
で与えられる線型写像について
を計算せよ.をみたすを求めよ.
<解答>
ただし
[補説] の各列を
とおくと,これらのうち線型独立なものは一組もない.言い換えればどのベクトルも線型従属である.この場合,
というようにまとめられるので,空間内の任意のベクトルはによって原点と点を通る内の直線につぶされる(空間が直線につぶされる)ということである.(2)では特に「すなわち平面内の原点につぶされるような場合を考えろ」と問われているので,それはの係数がになるときであるという旨を書けばよい.更に考えるとにおいては平面の方程式を表す.その平面上に終点を持つベクトルはすべてに移されるというわけだ.
全射,単射,全単射
例題を解く中で,表現行列の各列ベクトルが線型独立であったか否かでベクトルの移り先が決まることが見て取れただろう.このことを以下にまとめておく:
要するに,空間から平面への線型写像では,表現行列の各列ベクトルにおいて線型独立な組が一組でもあれば()のように一つのベクトルにまとまらず平面内を自由に動けるというわけである.
ところで,いま考えている線型写像がとなった場合,以上のような事情は変わってくるのだろうか.
線型写像のうち,集合から自分自身への写像,すなわちを一次変換(線型変換)という.一次変換の場合,命題2は以下のようになる:
命題3のそれぞれに着目すると,(1)においてのみベクトルが自身(空間内の任意の元)から自身へと移れている.もう少し詳しく言うと,線型写像について,に対してとなるが常に存在する.このときは全射であるという.
すなわち線型写像(線型変換)がもつ表現行列の列ベクトルが線型独立であればは全射である.
また,が線型独立であれば,に対して
すなわちその対偶
が成り立つことが容易に確かめられる.このときは単射であるという.
全射かつ単射である写像を全単射という.
以上をまとめると,
このように,線型独立とは線型写像の性質に直接かかわる重要な性質であるということがわかる.
なお,(2,2)-行列を考えると,行列が正則である,すなわちであることとベクトルが線型独立であることは同値であることが容易にわかる.さらにによって表される一次変換に対して,は正則行列である,は単射である,は全射であることは同値であることも確かめられる.この同値性は一般にとしても成り立つ.