これは線型写像などを一通り学んだ人向けの復習用の記事です.平気で嘘をついているかもしれないのでそのときはコメントをお願いします.
平面,あるいは空間内の任意のベクトル$\mathbf{a},\ \mathbf{b},\ \mathbf{c}$が与えられたとし,基準となる原点$\mathrm{O}$を固定し$\mathbf{a}=\overrightarrow{\mathrm{OA}},\ \mathbf{b}=\overrightarrow{\mathrm{OB}},\ \mathbf{c}=\overrightarrow{\mathrm{OC}}$と定めておく.
一次独立は以下のような同値関係のことをいうのであった:
$\begin{align*} \mathbf{a},\ \mathbf{b}が一次独立である\iff \begin {matrix}3点\mathrm{O},\ \mathrm{A},\ \mathrm{B}が同一直線上にない\\あるいは\\3点\mathrm{O},\ \mathrm{A},\ \mathrm{B}で三角形を形成する(共線でない).\end{matrix} \end{align*}$
$\begin{align*} \mathbf{a},\ \mathbf{b},\ \mathbf{c}が一次独立である\iff \begin{matrix}3点\mathrm{O},\ \mathrm{A},\ \mathrm{B},\ \mathrm{C}が同一平面上にない\\あるいは\\4点\mathrm{O},\ \mathrm{A},\ \mathrm{B},\ \mathrm{C}で四面体を形成する(共面でない).\end{matrix} \end{align*}$
以降,次の定義を採用する(平面,あるいは$n$次元空間の場合も同様).
$\mathbf{a},\ \mathbf{b},\ \mathbf{c}が線型独立\underset{\text{def}}{\iff}\alpha \mathbf{a}+\beta \mathbf{b}+\gamma \mathbf{c}=\mathbf{0}となるのは\alpha=0,\ \beta=0,\ \gamma=0のときに限る.$
この定義から,「一次独立でない三つのベクトル$\mathbf{a},\ \mathbf{b},\ \mathbf{c}$に対し,両方同時に$0$とはならないある実数$\alpha,\ \beta,\ \gamma$が存在して$\alpha\mathbf{a}+\beta\mathbf{b}+\gamma\mathbf{c}=\mathbf{0}$が成り立つ」ことが従う.
$T:\mathbb{R}^3 \to \mathbb{R}^2$を線型写像とすると,$\forall \mathbf{u} \in \mathbb{R}^3$に対し
$$
T(\mathbf{u})=xT(\mathbf{e}_1)+yT(\mathbf{e}_2)+zT(\mathbf{e}_3)
$$
と表せた.これを
$$
T(\mathbf{u})=\begin{bmatrix} T(\mathbf{e}_1)&T(\mathbf{e}_2)&T(\mathbf{e}_3) \end{bmatrix}\begin{bmatrix} x\\y\\z \end{bmatrix}
$$
と形式的に表記すると約束していた.さらにこの表記を用いて
$$
T(\mathbf{e}_1)=\begin{bmatrix} \mathbf{e}_1&\mathbf{e}_2 \end{bmatrix}\begin{bmatrix} a\\b \end{bmatrix},
\quad T(\mathbf{e}_2)=\begin{bmatrix} \mathbf{e}_1&\mathbf{e}_2 \end{bmatrix}\begin{bmatrix} c\\d \end{bmatrix}, \quad T(\mathbf{e}_3)=\begin{bmatrix} \mathbf{e}_1&\mathbf{e}_2 \end{bmatrix}\begin{bmatrix} e\\f \end{bmatrix}
$$
と表せたので,これらをまとめて,かつ標準基底を省略することにより
$$
\begin{align*}
T(\mathbf{u})=\begin{bmatrix} a&c&e \\ b&d&f \end{bmatrix}\begin{bmatrix} x\\y\\z \end{bmatrix}
\end{align*}
$$
と表すことにしていた.以上のように表記すると,線型写像$T$は,具体的には$u$に左から$A:=\begin{bmatrix} a&c&e \\ b&d&f \end{bmatrix}$を掛けるはたらきをもつとわかる.$A$を$\left\{ \mathbf{e}_1,\ \mathbf{e}_2,\ \mathbf{e}_3 \right\}$を基底にもつ$T$の表現行列という.ここでは触れないが,基底を変換するとそれに伴い表現行列も変わる.
たとえば,$T:\mathbb{R}^3 \to \mathbb{R}^2$を線型写像とすると以下が成り立つ.
$$ \begin{align*} &(1)\ (2,3)行列:A=\begin{bmatrix} a&c&e \\ b&d&f \end{bmatrix}があって,Tはこれを用いてT(\mathbf{u})=A\mathbf{u}で与えられる.\\ &(2)\ \mathbf{a}_1=\begin{bmatrix} a \\ b \end{bmatrix},\ \mathbf{a}_2=\begin{bmatrix} c \\ d \end{bmatrix},\ \mathbf{a}_3=\begin{bmatrix} e \\ f \end{bmatrix}とおくと,\mathbf{a}_1=A\mathbf{e}_1,\ \mathbf{a}_2=A\mathbf{e}_2,\ \mathbf{a}_3=A\mathbf{e}_3.\\ &(3)\ Tによる像:T(\mathbf{u})は列ベクトル:\mathbf{a}_1,\ \mathbf{a}_2,\ \mathbf{a}_3の一次結合で表される. \end{align*} $$
[補足] (1)の$T(\mathbf{u})=A\mathbf{u}$は,書き換えると
$$
T:\mathbf{u}=\begin{bmatrix} x \\ y \\ z \end{bmatrix} \mapsto A\mathbf{u}=\begin{bmatrix} a&c&e \\ b&d&f \end{bmatrix}\begin{bmatrix} x \\ y \\ z \end{bmatrix}=\begin{bmatrix} ax+cy+ez \\ bx+dy+fz \end{bmatrix}
$$
というふうになる.
(2)について,
$$
\mathrm{Im} (T)=\left\{ T(\mathbf{u})|\mathbf{u} \in \mathbb{R}^3 \right\}
$$
を線型写像$T$による像(Image)という.$\mathrm{Im} (T)$を$T(\mathbb{R}^3)$とも書く.この表記を用いれば
$$
\mathrm{Im} (T)=\left\{ \mathbf{a}_i|\mathbf{e}_i \in \mathbb{R}^3 \right\} \quad (i=1,2,3)
$$
となる.
(1),(2),(3)は$T:\mathbb{R}^m \to \mathbb{R}^n$となったときも同様に成り立つ.
$$ \\ $$
次の(2,3)-行列:
$$
A=\begin{bmatrix} 1&-2&0 \\ -1&-3&1 \end{bmatrix}
$$
で与えられる線型写像$T:\mathbb{R}^3 \to \mathbb{R}^2$について
$(1)\ A\begin{bmatrix} x\\y\\z \end{bmatrix}$を計算せよ.$\qquad (2)\ A\mathbf{u}=\mathbf{0}$をみたす$\mathbf{u}$を求めよ.
<解答>
$(1)\ \begin{bmatrix} x-2y\\-x-3y+z \end{bmatrix}.\qquad (2)\ y\begin{bmatrix} 2\\1\\5 \end{bmatrix} \quad (\forall y \in \mathbb{R}).$
[補説] (2)では3つの元に対し方程式が2つしか出てこないので$\mathbf{u}$がuniqueに定まらないことは計算する前から予想できる.ここで(2)の意味を考えてみる.問題は「$T$によって移すと平面内の$\mathbf{0}$に移される("つぶされる")ような空間内のベクトル$\mathbf{u}$を求めろ」という意味であった.いま,$\mathbf{u}=y\begin{bmatrix} 2\\1\\5 \end{bmatrix}$と求まったので,結局(2)において「$A(\mathbf{u})=\mathbf{0}$」とは,原点と点$(2,1,5)$を通る直線上に終点を持つベクトルはすべて$A$によって平面内の$\mathbf{0}$,すなわち原点につぶされる(式で書けば$T(\mathbb{R}^3)=\left\{ \mathbf{0} \right\}$)ということを意味する.
$$ \\ $$
次の(2,3)-行列:
$$
A=\begin{bmatrix} -1&1&-2 \\ 2&-2&4 \end{bmatrix}
$$
で与えられる線型写像$T:\mathbb{R}^3 \to \mathbb{R}^2$について
$(1)\ A\begin{bmatrix} x\\y\\z \end{bmatrix}$を計算せよ.$\qquad (2)\ A\mathbf{u}=\mathbf{0}$をみたす$\mathbf{u}$を求めよ.
<解答>
$(1)\ (x-y+2z)\begin{bmatrix} -1\\2 \end{bmatrix}. \qquad (2)\ y\begin{bmatrix} x\\y\\z \end{bmatrix}$ただし$x-y+2z=0.$
[補説] $A$の各列を
$$
\mathbf{a}_1=\begin{bmatrix} -1\\2 \end{bmatrix},\ \mathbf{a}_2=\begin{bmatrix} 1\\-2 \end{bmatrix},\ \mathbf{a}_3=\begin{bmatrix} -2\\4 \end{bmatrix}
$$
とおくと,これらのうち線型独立なものは一組もない.言い換えればどのベクトルも線型従属である.この場合,
$$
\begin{align}
A\mathbf{u}&=x\mathbf{a}_1+y\mathbf{a}_2+z\mathbf{a}_3\\
&=(x-y+2z)\mathbf{a}_1 \quad \cdots\cdots (*)
\end{align}
$$
というようにまとめられるので,空間内の任意のベクトル$\mathbf{u}$は$T$によって原点と点$(-1,2)$を通る$\mathbb{R}^2$内の直線につぶされる(空間が直線につぶされる)ということである.(2)では特に「$\mathbf{0}$すなわち平面内の原点につぶされるような場合を考えろ」と問われているので,それは$\mathbf{a}_1$の係数$:x-y+2z$が$0$になるときであるという旨を書けばよい.更に考えると$\mathbb{R}^3$において$x-y+2z=0$は平面の方程式を表す.その平面上に終点を持つベクトルはすべて$\mathbf{0}$に移されるというわけだ.
例題を解く中で,表現行列の各列ベクトルが線型独立であったか否かでベクトルの移り先が決まることが見て取れただろう.このことを以下にまとめておく:
$$ \begin{align*} & 線型写像T:\mathbb{R}^3 \rightarrow \mathbb{R}^2の表現行列(\neq O)の各列ベクトルについて,\\&(1) 一組以上線型独立であればTの値域は\mathbb{R}^2全体,\\&(2) 線型独立な組がなければTの値域は\mathbb{R}^2内の直線につぶれる,\\&(3) 特に表現行列が零行列であればTの値域は原点につぶれる. \end{align*} $$
要するに,空間から平面への線型写像では,表現行列の各列ベクトルにおいて線型独立な組が一組でもあれば($\ast$)のように一つのベクトルにまとまらず平面内を自由に動けるというわけである.
$$ $$
$$ $$
ところで,いま考えている線型写像$T:\mathbb{R}^3 \rightarrow \mathbb{R}^2$が$T:\mathbb{R}^3 \rightarrow \mathbb{R}^3$となった場合,以上のような事情は変わってくるのだろうか.
線型写像のうち,集合$\mathbb{R}^n$から自分自身への写像,すなわち$T:\mathbb{R}^n \rightarrow \mathbb{R}^n$を一次変換(線型変換)という.一次変換の場合,命題2は以下のようになる:
$$ \begin{align*} & 線型写像T:\mathbb{R}^3 \rightarrow \mathbb{R}^3(一次変換)の表現行列(\neq O)の各列ベクトルについて,\\&(1) 三つのベクトルが線型独立であればTの値域は\mathbb{R}^3全体,\\&(2) 線型独立でない組があればTの値域は\mathbb{R}^3内の直線につぶれる,\\&(3) 特に表現行列が零行列であればTの値域は原点につぶれる. \end{align*} $$
命題3のそれぞれに着目すると,(1)においてのみベクトルが自身(空間内の任意の元)から自身へと移れている.もう少し詳しく言うと,線型写像$T:\mathbb{R}^3 \rightarrow \mathbb{R}^3$について,$\forall\mathbf{v}\in\mathbb{R}^3$に対して$\mathbf{v}=T(\mathbf{u})$となる$\mathbf{u}\in\mathbb{R}^3$が常に存在する.このとき$T:\mathbb{R}^3 \rightarrow \mathbb{R}^3$は全射であるという.
すなわち線型写像$T:\mathbb{R}^3 \rightarrow \mathbb{R}^3$(線型変換)がもつ表現行列$A$の列ベクトル$\left\{ \mathbf{a}_1,\ \mathbf{a}_2,\ \mathbf{a}_3\right\}$が線型独立であれば$T$は全射である.
また,$\left\{ \mathbf{a}_1,\ \mathbf{a}_2,\ \mathbf{a}_3\right\}$が線型独立であれば,$\mathbf{u},\ \mathbf{v}$に対して
$$
T(\mathbf{u})=T(\mathbf{v}) \Rightarrow \mathbf{u}=\mathbf{v}
$$
すなわちその対偶
$$
\mathbf{u}\neq\mathbf{v}\Rightarrow T(\mathbf{u})\neq T(\mathbf{v})
$$
が成り立つことが容易に確かめられる.このとき$T$は単射であるという.
全射かつ単射である写像を全単射という.
以上をまとめると,
$$ \begin{align*} & 線型写像T:\mathbb{R}^3 \rightarrow \mathbb{R}^3(一次変換)の表現行列A=\begin{bmatrix} \mathbf{a}_1,\ \mathbf{a}_2,\ \mathbf{a}_3\end{bmatrix}の列ベクトル\left\{ \mathbf{a}_1,\ \mathbf{a}_2,\ \mathbf{a}_3\right\}が線型独立であればTは全単射である. \end{align*} $$
このように,線型独立とは線型写像の性質に直接かかわる重要な性質であるということがわかる.
なお,(2,2)-行列$A=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$を考えると,行列が正則である,すなわち$ad-bc\neq 0$であることとベクトル$\begin{pmatrix}a\\c\end{pmatrix},\ \begin{pmatrix}b\\d\end{pmatrix}$が線型独立であることは同値であることが容易にわかる.さらに$A$によって表される一次変換$T:\mathbb{R}^2 \to \mathbb{R}^2$に対して,$・A$は正則行列である,$・T$は単射である,$・T$は全射であることは同値であることも確かめられる.この同値性は一般に$T:\mathbb{R}^n \to \mathbb{R}^n$としても成り立つ.