この記事の目標
単項イデアル整域(PID)だがユークリッド整域(ED)でない例を見ていきそれに証明を与えます。なお,本記事では次のpdf(のもとになったTeX)に対してTeXインポートを使ってみました。そのpdfでは常体で記述していましたので,ですます調にはなっていません。ご容赦ください。
pided.pdf(GoogleDriveViewerが開きます。)
一応EDやPIDについて思い出しておく。
ユークリッド整域:ED
可換環がユークリッド整域であるとは,次が成り立つこと。
- は整域である。
- つぎの条件を満たす写像が存在する。
① について,である。
② とするとき,を満たすが存在する。
単項イデアル整域:PID
可換環が単項イデアル整域であるとは,次の2つが成り立つこと。
- は整域である。
- のイデアルはすべて単項イデアルである。
証明は2段階に分かれる。
どんな写像をとってきても,それはEDであることを保証しない。
はPIDである。
なお証明のために,ノルム写像を定義しておく。
ノルム写像
を平方数でない整数とする。このときノルム写像を次のように定義する。()この時次の性質があることが分かっている。
EDでないこと
まずはEDとはならないことを背理法で示す。即ち,ある写像が存在して,それがEDであることを保証すると仮定して矛盾を導く。
そのための準備として,次の補題を示す。
単元や既約元
において単元はに限る。
において とは既約元である。
補題の証明
まずはにおいて単元がしかないことを確認しよう。において,が単元であるならばでなければならない。今,とすると,を満たすようなは,しか存在しない。これらが単元であることは容易に分かるから,の単元はのみである。
次に,とが上で既約であることを示す。
について,と表せたとする。このときとのいずれかが単元(即ち)であることを示せばよい。ノルムを考えることで,を得るが,もしくはならば右辺は4より大きい値となるから,となり,となるから,かのいずれかが単数である。
についてもほとんど同様に既約であることが確かめられる。と表せたとする。この両辺のノルムを考えることで,を得るが,かつならば右辺は9より大きくなるから,またはである。ならばよりかのいずれかは単数となる。ならば,であり,より,の可能性としてはしかありえない。これはであり,単数である。としても同様である。
以上より,とが既約元であることが確認できた。
EDでないことの証明に戻る。任意のに対してが成り立つようなをとる。とに対して,の性質よりあるが存在してとなるが存在する。の定め方より,の可能性としてはの3通りに限られる。
と仮定すると,となり,は補題から既約元であり,は単数ではないのでに限る。
と仮定すると,となり,も既約元だったのでに限る。
と仮定すると,となりを単数としていないことに矛盾する。
よっての可能性はの4通りである。
また,とについても同様のことをしよう。すなわち,となるようなが存在するが,先と同様にのいずれかに限る。このとき,のいずれかはで割り切れることになるが,のいずれを代入してものどれかを割り切ることはない。これは,をEDであることを保証する写像としたことに矛盾する。
PIDであること
次に,がPIDであることを示そう。でない任意のイデアルをとり,それが単項イデアルであることを示せばよい。
の元でではなく,複素数の絶対値が最小であるものをとする。このを用いてと表されることを示すのが目標である。
そう表せないと仮定して矛盾を導く。すなわち,と仮定する。このとき,ある元がとれる。このについて,としたときにが成り立つと仮定してよい。実際,としたときにを考えると,なので,を適切に選ぶことでの範囲をとできるからである。
の虚部の値によって,3つの場合に分ける。
のとき,ある整数が存在して,が成り立つことから,このを用いてとなる。従ってであり,これよりかつだから,の定め方からが従う。このときとなり,としていることに矛盾する。
のとき,の虚部は以上以下となる。特に,が成り立つことから,1.と同様にあるが存在してとなる。また,ならば,だから,となり,の定め方よりが成り立つことが必要である。このとき,という複素数の元の絶対値を計算するととなる。これは,の取り方に矛盾する。
のとき,2と同様にの虚部が0以上になることで矛盾が生じる。
1,2,3より,としたことに矛盾する。よって,であり,はPIDである。
まとめ
PIDだがEDでない例について見ていきました。個人的には,というのはどことなくと雰囲気が似ている()のに,EDかどうか変わってしまうのが面白いなあと思っています。ここまで見ていただきありがとうございました。
おまけ:TeXインポートを使ってみた感想
(執筆現在はβ版です。)粗方元のPDFと同様の出力を得ました。凄い技術だと思いました。大変ありがたいのですが,すこーし気になったこと,修正したことをまとめておきます。
自分はTeXで不等式を入力するときに,空白を全く空けずに$2<3$
などと書いていたため,今回はそれら不等号の間に空白を入れる虚無時間を過ごしました。自動でと変換してくれると嬉しいなあなんて。。(数式モードの半角スペースは基本的に無視されるので,変換のときに,不等号の左右に半角を1文字ずつ添えてあげることは出来るかも?)
後は,定理や補題の枠に関してですが,これは999%僕が悪い(tcolorboxで定理環境をつくっていたので,theorem環境を認識できていなかった)ので,まあしゃーないなーといった感じです。