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PIDだがEDでない例

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この記事の目標

単項イデアル整域(PID)だがユークリッド整域(ED)でない例を見ていきそれに証明を与えます。なお,本記事では次のpdf(のもとになったTeX)に対してTeXインポートを使ってみました。そのpdfでは常体で記述していましたので,ですます調にはなっていません。ご容赦ください。

pided.pdf(GoogleDriveViewerが開きます。)

EDではないがPIDである例

α=1+192とすると,Z[α]はEDではないがPIDである。

一応EDやPIDについて思い出しておく。

ユークリッド整域:ED

可換環Rユークリッド整域であるとは,次が成り立つこと。

  1. Rは整域である。
  2. つぎの条件を満たす写像d:RZ0が存在する。
    ① aRについて,d(a)=0a=0である。
    ② a,bR, a0とするとき,b=aq+r, d(r)<d(a)を満たすq,rRが存在する。
単項イデアル整域:PID

可換環R単項イデアル整域であるとは,次の2つが成り立つこと。

  1. Rは整域である。
  2. Rのイデアルはすべて単項イデアルである。

証明は2段階に分かれる。

  1. どんな写像d:Z[α]Z0をとってきても,それはEDであることを保証しない。

  2. Z[α]はPIDである。

なお証明のために,ノルム写像を定義しておく。

ノルム写像

kを平方数でない整数とする。このときノルム写像N:Z[k]Zを次のように定義する。(a,bZN(a+bk)=a2kb2この時次の性質があることが分かっている。

  • N(x)N(y)=N(xy)である。
  • a+bαZ[α]に対して,N(a+bα)=(a+b2)2+194b2

EDでないこと

まずはEDとはならないことを背理法で示す。即ち,ある写像d:Z[α]Z0が存在して,それがEDであることを保証すると仮定して矛盾を導く。

そのための準備として,次の補題を示す。

単元や既約元
  • Z[α]において単元は±1に限る。

  • Z[α]において 23は既約元である。

補題の証明

まずはZ[α]において単元が±1しかないことを確認しよう。aZ[α]において,aが単元であるならばN(a)=1でなければならない。今,a=x+yαとすると,N(a)=(x+y2)2+194y2=1を満たすようなx,yは,(x,y)=±(1,0)しか存在しない。これらが単元であることは容易に分かるから,Z[α]の単元は±1のみである。

次に,23Z[α]上で既約であることを示す。

2について,2=(s+tα)(u+vα)(s,t,u,vZ, (s,t)(0,0), (u,v)(0,0))と表せたとする。このときs+tαu+vαのいずれかが単元(即ち±1)であることを示せばよい。ノルムを考えることで,4=((s+t2)2+194t2)((u+v2)2+194v2)を得るが,|t|1もしくは|v|1ならば右辺は4より大きい値となるから,t=v=0となり,2=suとなるから,suのいずれかが単数である。

3についてもほとんど同様に既約であることが確かめられる。3=(s+tα)(u+vα)(s,t,u,vZ, (s,t)(0,0), (u,v)(0,0))と表せたとする。この両辺のノルムを考えることで,9=((s+t)2+194t2)((u+v)2+194v2)を得るが,|t|1かつ|v|1ならば右辺は9より大きくなるから,t=0またはv=0である。t=v=0ならば3=suよりsuのいずれかは単数となる。t0ならば,v=0であり,9=((s+t2)2+194t2)((u+v2)2+194v2)より,uの可能性としては|u|=1しかありえない。これはu+vα=±1であり,単数である。|v|0としても同様である。

以上より,23が既約元であることが確認できた。

EDでないことの証明に戻る。任意のaZ[α]{0,±1}に対してd(m)d(a)が成り立つようなmZ[α]{0,±1}をとる。2mに対して,dの性質よりあるq,rZ[α]が存在して2=qm+rかつ,d(r)<d(m)となるq,rが存在する。mの定め方より,rの可能性としては0,1,1の3通りに限られる。

  1. r=0と仮定すると,2=qmとなり,2は補題から既約元であり,mは単数ではないのでm=±2に限る。

  2. r=1と仮定すると,3=qmとなり,3も既約元だったのでm=±3に限る。

  3. r=1と仮定すると,1=qmとなりmを単数としていないことに矛盾する。

よってmの可能性はm=±2, ±3の4通りである。

また,αmについても同様のことをしよう。すなわち,α=qm+rかつ,d(r)<d(m)となるようなq,rが存在するが,先と同様にr=0,1,1のいずれかに限る。このとき,α,α+1,α1のいずれかはmで割り切れることになるが,m=±2,±3のいずれを代入してもα, α+1, α1のどれかを割り切ることはない。これは,dをEDであることを保証する写像としたことに矛盾する。  

PIDであること

次に,Z[α]がPIDであることを示そう。{0}でない任意のイデアルIをとり,それが単項イデアルであることを示せばよい。

Iの元で0ではなく,複素数の絶対値が最小であるものをbとする。このbを用いてI=(b)と表されることを示すのが目標である。

そう表せないと仮定して矛盾を導く。すなわち,(b)Iと仮定する。このとき,ある元aI(b)がとれる。このaについて,ab=x+iyとしたときに194y194が成り立つと仮定してよい。実際,a=abq (qZ[α])としたときにab=x+iyを考えると,ab=abqなので,qを適切に選ぶことでyの範囲を194y194とできるからである。

abの虚部yの値によって,3つの場合に分ける。

  1. 32<y<32のとき,ある整数kが存在して,|xk|12が成り立つことから,このkを用いて|(xk)+iy|<1となる。従って|abk|<1であり,これより0|abk|<|b|かつabkIだから,bの定め方から|abk|=0が従う。このときa=bk(b)となり,a(b)としていることに矛盾する。

  2. 32y194のとき,2abαの虚部は3192以上0以下となる。特に,|3192|<32が成り立つことから,1.と同様にあるkZが存在して|2abkα|<1i.e.|2abkbα|<|b|となる。また,a(b)ならば,a:=a+bk(b)だから,|2abα|<|b|となり,bの定め方より2abα=0が成り立つことが必要である。このとき,a(1192)2bIという複素数の元の絶対値を計算すると12|b|となる。これは,bの取り方に矛盾する。

  3. 194y32のとき,2と同様に2ab+αの虚部が0以上1923になることで矛盾が生じる。

1,2,3より,I(b)としたことに矛盾する。よって,I=(b)であり,Z[α]はPIDである。

まとめ

PIDだがEDでない例について見ていきました。個人的には,Z[α]というのはどことなくZ[5]と雰囲気が似ている(|α|2=|5|2=5)のに,EDかどうか変わってしまうのが面白いなあと思っています。ここまで見ていただきありがとうございました。

おまけ:TeXインポートを使ってみた感想

(執筆現在はβ版です。)粗方元のPDFと同様の出力を得ました。凄い技術だと思いました。大変ありがたいのですが,すこーし気になったこと,修正したことをまとめておきます。

自分はTeXで不等式を入力するときに,空白を全く空けずに$2<3$などと書いていたため,今回はそれら不等号の間に空白を入れる虚無時間を過ごしました。自動で2<3と変換してくれると嬉しいなあなんて。。(数式モードの半角スペースは基本的に無視されるので,変換のときに,不等号の左右に半角を1文字ずつ添えてあげることは出来るかも?)

後は,定理や補題の枠に関してですが,これは999%僕が悪い(tcolorboxで定理環境をつくっていたので,theorem環境を認識できていなかった)ので,まあしゃーないなーといった感じです。

投稿日:2020118
OptHub AI Competition

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ぱるち
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数学屋さんをしています。代数,数論系に興味があり,今は楕円曲線と戯れています。Mathlogは現実逃避用という噂もあります。@f_d00123

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