リーマン多様体において調和座標というものがしばしば使われます。調和座標の基本事項、特に正則性についてまとめました。証明の最も重要な部分は偏微分方程式論の結果を使っています。
調和座標の定義、存在、正則性
調和座標
リーマン多様体において、局所座標が調和座標であるとは、が成り立つときを言う。
基本公式の復習です。
Laplacian
をリーマン多様体とし、を局所座標とする。に対して、
となる。
をリーマン多様体とし、を局所座標とする。
が調和座標となる必要十分条件はとなることである。
次が調和座標の存在と正則性に関する命題です。
を次元リーマン多様体とし、を局所座標とする。が上でに関して、級であるとする。このとき任意のに対して、の近傍があり、調和座標が存在する。さらに座標関数はに関して級である。
上の微分演算子
の係数は級である。従って楕円型偏微分方程式の結果([1],p228)より、方程式の解が点の近傍において、与えられた初期条件に対して存在し、級である。
特に個の初期条件に対して、解が存在する。これらが望みの調和座標である。
命題1の
命題1の状況において、テンソル場が上でに関して級とする。このときはに関して少なくとも級である。
テンソルの成分の変換性、例えば、
などから明らかである。
このことから座標を調和座標に変更してもテンソル場の正則性は計量の正則性と同程度に保たれることが分かります。
調和座標の応用
最期に調和座標の典型的な応用を示しておきます。それは2次元のリーマン多様体において直交座標系の存在が保証されることです。
を2次元リーマン多様体とし、を局所座標とする。このとき上で調和座標が存在し、
となる。
調和関数が存在するからである。は可縮であるからPoincareの補題よりとなる関数が存在する。であるからは望みの性質を持つ座標系である。ここでは双対空間に誘導される計量である。