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1次元形式群の紹介

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この記事の目標

この記事では,可換環R上の“1次元形式群”を定義し,そのモチベーションやいくつかの例を見ていきます。以下の用語を使います。

  • R1を持つ可換環である。
  • R[T]R係数の多項式環である。
  • R[[T]]R係数の形式冪級数環である。例えばeTQ[[T]]である。
  • 多項式環や形式冪級数環は,多変数でも同様の記号を用いる。

1次元形式群とは

早速ですが定義します。

1次元形式群

R上の 1次元形式群(one-parameter formal group) Fとは,次の4つを満たす形式冪級数F(X,Y)R[[X,Y]]のことである。

  1. F(X,Y)=X+Y+2次以上の項)と書ける。
  2. F(X,F(Y,Z))=F(F(X,Y),Z)が成り立つ。(結合律)
  3. ある級数i(T)R[[T]]が一意に存在して,i(0)=0かつF(T,i(T))=0を満たす。(“逆”関数)
  4. F(X,0)=XF(0,Y)=Yである。

さらにF(X,Y)=F(Y,X)が成り立つとき,その形式群は可換であると言う。

ちなみにi(T)iは,inverseから来ています。

“形式群”と言う名前について

形式群とはあくまでも冪級数のことを指しており,群ではないことに気を付けたいです。とはいえ,“結合律”や“逆元”が存在することについては,なにか群のようなお気持ちを感じます。

形式群に付随する群というものを考えることができます。Rが局所環でその唯一の極大イデアルをMとしたときに,M上の演算として(X,Y)F(X,Y)を考える群です。well-defined性が非自明ですね。

形式群の公理は半分で良い

形式群Fの公理について,実は1.と2.を認めれば自動的に3.と4.が従います。そのため上2つだけを公理としても良かったのですが,結構特異な性質なので定義の中に入れてしまいました。

ちなみに1.と2.を認めれば自動的に3.と4.が成り立つことを示すには,2変数の形式冪級数に対して,形式的陰関数定理が成り立つことを用います。

形式群の例

可換なもの

最も簡単な形式群です。

加法群

加法群G^aとは,F(X,Y)=X+Yのこと。i(T)=Tである。

次に簡単な形式群です。

乗法群

乗法群G^mとは,F(X,Y)=X+Y+XYのこと。i(T)=T1+T=T(1T+T2T3+)である。

次の例はちょっと非自明ですので,計算して確かめましょう。

tan関数に付随する形式群

tan関数に付随する形式群Ftanとは,F(X,Y)=X+Y1XY=(X+Y)(1+XY+X2Y2+)であり,これは実際に形式群の公理を満たす。

雰囲気tan関数の加法定理に似ていますね。同様にsin関数に付随する形式群を考えることも可能です。

形式群の公理のうち,1.,3.を満たすことは明らか。結合律については,
F(X,F(Y,Z))=F(X,Y+Z1YZ)=X+Y+Z1YZ1XY+Z1YZ=X+Y+ZXYZ1XYYZXZ,F(F(X,Y),Z)=F(X+Y1XY,Z)=X+Y1XY+Z1X+Y1XYZ=X+Y+ZXYZ1XYYZXZ.F(X,F(Y,Z))=F(F(X,Y),Z)より結合律も成り立つ。i(T)については,i(T)=Tとすれば,F(T,i(T))=TT1+T2=0である。よって形式群の公理を満たす。

非可換なもの

ここまで3つの例を挙げてきましたが,いずれも可換な形式群です。例えばRが整域ならば,R上で定義されるすべての形式群は可換です。特に次が成り立ちます。

整域上の形式群

Rを整域とする。R上で定義される形式群Fについて,ある定数cRが存在して,F(X,Y)=X+Y+cXYと書ける。

次数の比較

Fの,Xの次数をdとする。等式F(X,F(Y,Z))=F(F(X,Y),Z)Xの次数を比較することで,d2=dを得る。したがってd=1である。Yについても同様なので,FXに関してもYに関しても1次式である。

では,非可換な形式群は存在するのでしょうか?という疑問が自然に出てきます。この疑問の答えはYes!です。

次の定理が成り立ちます。

Serre,1967

Rを可換環とする。R上の1次元形式群Fで非可換なものが存在するための必要十分条件は,あるεR/{0}が存在して,ある正の整数m,nが存在してmε=εn=0を満たすことである。

この定理におけるεのことは,torsion nilpotent elementと呼ぶみたいです。邦訳は知りません。

というわけで,非可換な形式群の例を1つ紹介します。

1次元非可換形式群

pNを素数として,R=Fp[ε]/(ε2)とおく。R上の形式群FF(X,Y)=X+Y+εXYpによって定めれば,Fは非可換形式群である。

形式群の公理を確かめる

非可換であること,公理の1番目を満たすことは明らかである。あとは結合律だけ示せばよい。p2より,ε2=εp=0に注意して,
F(X,F(Y,Z))=X+F(Y,Z)+εX(F(Y,Z))p=X+(Y+Z+εYZp)+εX(Yp+Zp)=X+Y+Z+ε(XYp+XZp+YZp),F(F(X,Y),Z)=F(X,Y)+Z+εF(X,Y)Zp=(X+Y+εXYp)+Z+ε(X+Y+εXYp)Zp=X+Y+Z+ε(XYp+XZp+YZp).よってF(X,F(Y,Z))=F(F(X,Y),Z)が成り立つ。

形式群を考えるモチベーション

歴史的には形式群は,リー代数の考察の中で導入されたものです。
形式群は,大雑把に言うとリー群の積の演算のようにふるまっている冪級数です。リー群から形式群を定義し,その形式群からリー代数を定義することが出来ます。

また,楕円曲線の研究にも使われてきました。“楕円曲線に付随する形式群”を考えることができ,その性質(特に“m倍写像”のふるまい)を見ていくことで,Mordell-Weilの定理という,楕円曲線論にとってはかなり強力な定理を示すことが出来ます。

また,形式群自体の研究もそれなりに盛んです。例えば形式群の理論の中に本田理論があります。そこでは,代数体の整数環上で定義された形式群が,ほとんど分類できてしまうという結果を得ることが出来ます。数論との結びつきも深いですね。

まとめ

今回は,形式群の定義とその例について見ていきました。Rを整域とか,完備とか,離散付置環とか,さまざまな制約を付けていくと,さらにいろいろなことが分かってきます。いつか読者の皆様と共有できたらいいですね。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

参考文献

  • M. Hazewinkel. Formal groups and applications, volume 78 of Pure and Applied Mathematics. Academic Press Inc. [Harcourt Brace Jovanovich Publishers], New York, 1978.

  • Joseph H. Silverman. The Arithmetic of Elliptic Curves 2nd Edition (Graduate Texts in Mathematics (106)), 2009.

投稿日:2020119
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ぱるち
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数学屋さんをしています。代数,数論系に興味があり,今は楕円曲線と戯れています。Mathlogは現実逃避用という噂もあります。@f_d00123

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  1. この記事の目標
  2. 1次元形式群とは
  3. 形式群の例
  4. 可換なもの
  5. 非可換なもの
  6. 形式群を考えるモチベーション
  7. まとめ
  8. 参考文献