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大学数学基礎解説
文献あり

ネットからはじめる位相空間論 第0回・モチベーション

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「ネットからはじめる位相空間論」とは!?

これから「ネットからはじめる位相空間論」というシリーズをやります.
関数解析を学ぶ上で必要なネット(有向点族)の事項についてまとめる自分用の記事です.位相空間を学んだことのある方なら問題なく読み進められるように作っていきます.12月までに一通り完成させることを目指していて,よくまとまり次第本にしたいと思っています.ヤバそうな点とかあったらコメントで教えて下さい.
では,第$0$回スタートです!

訂正

12/19に訂正しました.有向集合をネットと書いていました(なんてこと・・・!ネットについてよくわかっていなかった証拠ですね).
他にも誤植・不備等あるかもしれません.何かありましたらコメントしてください.

はじめに

皆さんは添え字を気にしたことがありますか?
添え字というのは$\sum_{n=1}^{\infty}a_n$の「$n$」とかのことです.添え字はいろいろな書き方があって,$\sum_{n}a_n$と書かれる場合もありますが,実はこれは$\sum_{n=1}^{\infty}a_n$より「広い」意味合いになってしまいます.「第0回・モチベーション」では,この2つの違いを紹介します.

目標 $\sum_{n=1}^{\infty}a_n$$\sum_{n}a_n$との違いがわかるようになる

「0の非可算和は0か?」

今年の春,私はとあるオンラインセミナーにてルベーグ積分を紹介していました.
発表の詳細は 数学$\rm{I\hspace{-.15em}I\hspace{-.15em}I}$からはじめる実解析入門(リンクの動画は練習用のものでかなり誤植があるので,概要欄にある補足資料だけを見て下さい) を見て頂きたいのですが,
そこでリーマン積分できないがルベーグ積分できる関数の例としてディリクレ関数を扱いました.

ディリクレ関数

関数$\mathbb{R}\longrightarrow\{0,1\}$で,有理数上で$1$,無理数上で$0$を返すと定められたものをディリクレ関数という.

ざっくり言うと,

  1. ディリクレ関数のルベーグ積分は「面積」$0$の線分を「有理数の『個数』=濃度」個足し合わせたものになる
  2. 実は「有理数の濃度」=「自然数の濃度」が成り立つ.
  3. (上と関連して)因みに,「自然数の濃度」を可算濃度と言い,$\aleph_0$と書かれる.可算濃度でない無限集合を非可算集合と言う.

つまり
ディリクレ関数のルベーグ積分$\overset{1}{=}\sum_{\text{「有理数の濃度」個}}0\overset{2}{=}\sum_{n=1}^{\infty}0=0$

となることを話しました.上式の右から$1,2$番目の式,言葉にすると『$0$を自然数の濃度だけ足したものは$0$』=「$0$の可算和は$0$」であることが,ディリクレ関数の積分計算の肝になっています.

そこで聴講者の方からこんな質問を頂きました.
$0$の非可算和は$0$か?」
これを言われて当時の僕は戸惑いました.これを読んでいる皆さんの多くも戸惑うと思います.なぜなら,ここに$\sum_{n=1}^{\infty}a_n$$\sum_{n}a_n$との違いが潜んでいるからです.
果たして$0$の非可算和は$0$なのでしょうか?

  • $0$を何回足しても$0$ではないか?
  • いや,無限個足すと直観を超えた恐ろしいことが起こるのではなかろうか??

そんなもやもやした気持ちを抱えたまま,答えを考えてみましょう.

発表が終わってからの話に戻ります.
僕はまず教授たちにこの話を相談してみました.どなたも明確な答えは言ってくれませんでしたが(実は$0$の非可算和を考えたことがなかった?),

  • 級数の一般化で考える
  • 測度論に関係がある
  • 「フィルター」というものを使うと答えがわかる

というヒントを頂きました.

仕方がないのでネット上のフォーラムにて質問してみました.すると流石ネットですね,答えがわかりました.$0$の非可算和は$0$」でした.

解説

まず,集合(非可算濃度含む)$X$に対し関数$f:X\rightarrow[0,\;\infty]$を定めた時$\sum_{x\in X}^{} f(x)$を以下のように定義します:

関数の和の定義

$\sum_{x\in X}^{} f(x)\overset{\text{def}}{=}\sup\left\{ \sum_{x\in F} f(x);\;F\subset X, \#(F)<\infty \right\}\text{・・・☆}$

これは,$\#(X)=\aleph_0$の時に級数の定義そのものになるので,教授のアドバイス通り定義2は級数の一般化であることがわかります.

次に,$X$が非可算濃度で$f(x)=0\;(\forall x\in X)$の場合について考えます.このとき

$\sum_{x\in X}^{} f(x)=\sup\left\{ \sum_{x\in F} f(x);\;F\subset X, \#(F)<\infty \right\} =\sup\left\{ \sum_{x\in F} 0;\;F\subset X, \#(F)<\infty \right\}=\sup\{0\}=0$
となり,結局$0$の非可算和の値も$0$であることがわかりました.

注意

吉田「ルベーグ積分入門」では,可算・非可算問わず,無限集合の個数測度での値は$\infty$とされているが,Folland「Real Analysis Modern Techniques and Their Applications」にある命題$1$では非可算濃度の集合での関数のシグマの値が$\infty$としており,可算濃度の時も$\infty$になるとは主張していない.本当であれば議論すべきであるが,今回は,可算濃度であっても無限集合を個数測度で測ると$\infty$であることを認めた.

$\sum_{n=1}^{\infty}a_n$$\sum_{n}a_n$の違い

定義2で関数$f(x)$として,$a_n:X\to[0,\infty]$を考えると
$\sum_{n\in X}^{} a_n=\sup\left\{ \sum_{n\in F} a_n;\;F\subset X, \#(F)<\infty \right\}\text{・・・☆☆}$
を得ます.
特に$\#(X)=\aleph_0$の時,$X$$\mathbb{N}$との間に全単射があるので添え字集合として$X$ではなく$\mathbb{N}$を採用して☆の和を考えられますが,このとき$\sum_{n\in\mathbb{N}}a_n=\sum_{n=1}^{\infty}a_n$は級数です.
まとめると,$\sum_{n}a_n$は非可算集合上の関数の和も考えうるという意味で$\sum_{n=1}^{\infty}a_n$より広い意味合いを持っているのです.
この広い意味合いのある$\sum_{n}a_n$は一般に無限集合上での点列の収束を考える時に大活躍します.具体的には,☆☆の式に登場する$F$たち,数式で書くと下記の集合
$\mathscr{F}=\{F\subset X;\#(F)<\infty\}$
有向集合と呼ばれる集合になり,それがネットの意味である関数$g$に「収束」していたら$g=\sum_{n\in X}^{} a_n$と表されます.
これを次回扱います.
また,教授からのコメントにあった「フィルター」なるものはネットの兄弟みたいなものなのですが,ネットを中心に位相空間を扱う予定でもあります.

ついでに 測度論との関連

また,定義2は(教授の助言通り)測度論とも関係あります.恒等的に$0$を返す関数の個数測度での積分と解釈できるのです.

個数測度は,文字通り「個数の測度」です.具体的には次のように定められます:

個数測度

全空間$X$に対し,その部分集合族として$2^X$を取り(実は$\sigma$-加法族になっている),関数$f:X \to [0,\infty]$を用いて,関数$\mu':2^X\to[0,\infty]$
$ \mu'(E)\overset{\text{def}}{=}\sum_{x\in E}f(x) $(但し$\mu'(\emptyset)=0,\mu'(\text{無限集合})=0$
と定めると,組$(2^X,\mu')$は測度になる.
特に$f(x)=1_X(x)\;(\forall x\in X)$の時$\mu'$個数測度と言う

$X$が有限集合のときは日常的な個数の感覚と合うものになります.例えば,$\mu' (\{1, 2, 8, \sqrt{e}, 9, 8, 0\})=\mu' (\{0, 1, 2, 8, 9, \sqrt{e}\})=6$.有限集合での要素の個数の考え方に,空集合では$0$,無限集合の場合は$0$を返すという条件をつけたものが測度になる,それを個数測度と呼ぶということです.

以下,$0$の非可算和が,測度空間$(X,2^X,\mu')$での関数$f:X\to[0,\infty],f(x)=0\;(\forall x\in X)$の個数測度での積分であることを確かめます.当然,$f$は非負可測関数になっているのでルベーグ積分が考えられます.

【一般論】非負可測関数のルベーグ積分

$(X.\mathscr{A},\mu)$:測度空間として関数$f:X\to[0,\infty]$の積分を以下で定める:
$ \int_{x\in X} f(x)d\mu(x)\overset{\text{def}}{=}\sup\left\{ \int_{x\in X} h(x)\;d\mu(x);h\text{は}A\text{を定義域とする非負単関数で,各点で}h\leq f\text{となるもの}\right\} $

ここで上記の非負単関数$h:X\to[0,\infty]$は,全体集合の分割$\{A_j\}_{j=1,2,\cdots ,m}\subset\mathscr{A}$$(\mathscr{A},\mu')$が測度となる,全体集合の部分集合族)と$\{\alpha_j\}_{j=1,2,\cdots ,m}\subset\mathbb{C}$を用いて
$ h=\sum_{j=1}^{m}\alpha_j 1_{A_j} $
と表せるものとする.

$h$$X$での積分はこの時,
$ \int_{X}h\;d\mu'\overset{\text{def}}{=}\sum_{j=1}^{m}\alpha_j\mu'(X\cap A_j)=\sum_{j=1}^{m}\alpha_j\cdot\sum_{x\in X\cap A_j}1_{X}(x)=\sum_{j=1}^{m}\sum_{x\in X\cap A_j}f(x)=\sum_{x\in X\cap (A_1\cup A_2\cup\cdots\cup A_m)} f(x) $
となり,$X\cap (A_1\cup A_2\cup\cdots\cup A_m)$が無限集合の時,上の積分の値は$\infty$で,
$ \int_{x\in X} f(x)d\mu'(x)=\sup\{\infty\}=\infty $
となります.そうでない時,$X\cap (A_1\cup A_2\cup\cdots\cup A_m)$は有限集合で
$ \int_{x\in X} f(x)d\mu'(x)=\sup\left\{ \sum_{x\in X\cap (A_1\cup A_2\cup\cdots\cup A_m)}f(x);X\cap (A_1\cup A_2\cup\cdots\cup A_m)\text{は有限集合}\right\} $
と書くことができます.これは上の☆の式そのものではないでしょうか.

まとめ

$\sum_{n}a_n$は非可算集合上の関数の和も考えうるという意味で$\sum_{n=1}^{\infty}a_n$より広い意味合いを持っています.
ネットは無限集合上で点列を扱う際に有効です.ネット関連の位相空間の話題も扱う予定です.

参考文献

[1]
Gerald B. Folland, Real Analysis Modern Techniques and Their Applications, p.11
[2]
吉田伸生, ルベーグ積分入門, p.28,51
[3]
Ronald G. Douglas, Banach Algebra Techniques in Operator Theory, p.3
投稿日:20221030

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