領域とは「連結な開集合」という意味の用語であり複素解析の本の序盤に大体説明されている(日常用語と被るので用語感が薄く,個人的にはあまり好かないのだが).
複素微分の定義で「
それ以外にも複素解析では何故だかとにかく「領域」という言葉が連呼される.しかし証明を読んでも連結性が効いている様に見えない定理がたくさんあった.では本当に連結性が必要なのは一体どこなのだろう?そこを明確にするのが本稿の目的である.
どんな複素解析の教科書にも載っているような標準的な定理たちに対して連結性が要るかどうか検証していく.
(1)「導関数が0ならば定数」
これは連結性は確かに本質的なのだが実は連結性を外した以下のような一般化がある:
結論:前半の定理で考えれば要るが後半の定理で考えれば要らない。ここでは後者を採用することにする。
(2)一致の定理
これは証明を読めばわかるのだが連結性が本質的に効いている!
&&&thm 一致の定理
特に次が成り立つ:
これは次の系にも影響を及ぼす:
&&&cor
(
結論:要る
(3)パス
まず
ここで次の便利な事実を確認しよう.
以上のことからそのような定理たちはステートメントに連結性の仮定を置く必要は一応ないものの,実際に議論する際には自動的にある連結成分の中で議論することになる.しかしあくまでそれらは結果的なものなので,連結という仮定をおいたところでそれが本質的に効くわけではない.
結論:要らない
(4)最大値の原理
この定理は証明に一致の定理(あるいは領域保存則)が本質的に使われるので要る:
領域
結論:要る
(5)領域保存則(開写像定理)
領域
これはコメント欄での指摘で気が付いた。どこに効くのかなど後日検証する。
結論:要る
本質的に要るのは実質一致の定理(とそれを使って示す事実)だけ.多くの複素解析の本で領域領域連呼するのは注意で書いたような理由とわざわざ毎回連結性について考えるのが面倒くさいからであろう.
(マイナーな定理まで考えるならばもしかしたらシュワルツの鏡像の原理も要るかもしれない(未検討).またリーマンの写像定理ももちろん(単)連結性は要るのだがこれは定理の中心的な仮定であることは誰の目にも明らかであるのでむしろ見落とすほうが難しいだろう.あとはΓ関数の特徴付け定理、log(非零正則関数)の存在定理の単連結性も未検討)
参考:以上のような連結性についての取り扱いはJohn Conway[^2] “Functions of One Complex Variable I,II”が他に類を見ないほど注意を払って書かれているので触れておく.
[^2]: 群論などで有名なJohn Conwayと同姓同名だが別人.