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大学数学基礎解説
文献あり

テータ関数と楕円積分

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はじめに

 この記事では後の記事に向けてテータ関数
θ(v,τ)=n=qn2zn(q=eπiτ,z=e2πiv)
と楕円積分
K(k)=01dt(1t2)(1k2t2)
の関係について解説していきます。

楕円テータ関数の性質

テータ関数

 複素数v,τ(Im(τ)>0)に対してテータ関数
θ(v,τ)=n=eπin2τ+2πinv=n=qn2zn(q=eπiτ,z=e2πiv)
で定義する。またこれに対して指標付きテータ関数
θa,b(v,τ)=n=eπi(n+a)2τ+2πi(n+a)(v+b)
と定め、特にa,b=0,12の場合を楕円テータ関数といい
θ1(v,τ)=θ12,12(v,τ)=1in=(1)nq(n+12)2zn+12θ2(v,τ)=θ12,0(v,τ)=n=q(n+12)2zn+12θ3(v,τ)=θ0,0(v,τ)=n=qn2znθ4(v,τ)=θ0,12(v,τ)=n=(1)nqn2zn
と書く。

 都合上v=0(z=1)の楕円テータ関数を単にθj(τ)(j=1,2,3,4)と書くことにします。

ヤコビの恒等式

r2(n)=#{(l,m)Z2l2+m2=n}
とおくと
r2(2n)=r2(n)
および
r2(2n+1)=#{(l,m)Z2l(l+1)+m(m+1)=n}
が成り立つ。

 r2(n),r2(2n)を定める集合に対して
{(l,m)Z2l2+m2=n}{(l,m)Z2l2+m2=2n}(l,m)(l+m,lm)(l+m2,lm2)(l,m)
および
{(l,m)Z2l2+m2=2n+1}{(l,m)Z2l(l+1)+m(m+1)=n}(l,m)(l+m12,lm12)(l+m+1,lm)(l,m)
という全単射があることからわかる。

θ4(2τ)2=θ3(τ)θ4(τ)2θ3(2τ)2=θ3(τ)2+θ4(τ)22θ2(2τ)2=θ3(τ)2θ4(τ)2
が成り立つ。

二つ目の式の証明

θ3(τ)2=l,m=ql2+m2=n=0r2(n)qnθ4(τ)2=l,m=(1)l+mql2+m2=n=0(1)nr2(n)qn
に注意すると
θ3(τ)2+θ4(τ)2=2n=0r(2n)q2n=2n=0r2(n)(q2)n=2θ3(2τ)2
がわかる。

一つ目の式の証明

θ3(τ)+θ4(τ)=2n=q(2n)2=2θ3(4τ)
に注意すると
θ3(τ)θ4(τ)=12((θ3(τ)+θ4(τ))2(θ3(τ)2+θ4(τ)2))=12(4θ3(4τ)22θ3(2τ)2)=(θ3(2τ)2+θ4(2τ)2)θ3(2τ)2=θ4(2τ)2
がわかる。

三つ目の式の証明

θ3(τ)2θ4(τ)2=2n=0r2(2n+1)q2n+1=2l,m=q2(l(l+1)+m(m+1))+1=2l,m=(q2)(l+12)2+(m+12)2=2θ2(2τ)2
とわかる。

ヤコビの恒等式

 θ2(τ)4+θ4(τ)4=θ3(τ)4が成り立つ。

2θ3(2τ)2=θ3(τ)2+θ4(τ)22θ2(2τ)2=θ3(τ)2θ4(τ)2
θ3(τ)2,θ4(τ)2について解くと
θ3(τ)2=θ3(2τ)2+θ2(2τ)2θ4(τ)2=θ3(2τ)2θ2(2τ)2
が成り立つので、これを掛け合わせることで
(θ3(τ)θ4(τ))2=θ4(2τ)4=θ3(2τ)4θ2(2τ)2
つまり
θ2(τ)4+θ4(τ)4=θ3(τ)4
を得る。

ヤコビの変換公式

ポワソン和公式

 関数fとそのフーリエ変換
f^(y)=f(x)e2πixydx
に対して
n=f(n+x)=n=f^(n)e2πinx
が成り立つ。

 周期1の関数
F(x)=n=f(n+x)
のフーリエ級数展開
F(x)=n=cne2πinx
を考えると
cn=01F(x)e2πinxdx=n=01f(n+x)e2πinxdx=n=nn+1f(x)e2πinxdx(e2πin2=1)=f(x)e2πinxdx=f^(n)
が成り立つことからわかる。

 f(x)=eπx2sに対し
f^(y)=1seπy2/s
が成り立つ。

 f^(y)の導関数を考えると
ddyf^(y)=eπx2s(2πixe2πixy)dx=is(eπx2s)e2πixydx=iseπx2s(2πiye2πixy)dx=2πysf^(y)
という微分方程式が成り立ち、その解は
f^(y)=Ceπy2/s(C)
であるので
C=f^(0)=eπx2sdx=1πsex2dx=1πsπ=1s
に注意すると主張を得る。

ヤコビの変換公式

θ3(τ)=θ3(1/τ)/iτ
θ4(τ)=θ2(1/τ)/iτ
が成り立つ。

 ポワソン和公式をf(x)=eπx2sについて適用することで
n=eπ(n+x)2s=1sn=e2πinxeπn2/s
が成り立つので、このs=iτ,x=0,12の場合を考えることで
θ3(τ)=θ3(1/τ)/iτ
θ2(τ)=θ4(1/τ)/iτ
がわかり、二つ目の式をτ1/τとすることで
θ2(1/τ)=iτθ4(τ)
を得る。

 s=iτ,x=v/τの場合を考えることで一般には以下のような等式が成り立ちます(θ1,θ2,θ4の場合は Wikipedia でも見てください)。

θ3(vτ,1τ)=iτeπiv2/τθ3(v,τ)

算術幾何平均と楕円積分

 正の実数a,bに対して
a+b2a,bの算術平均(AM:Arithmetic Mean)と言い、
aba,bの幾何平均(GM:Geometric Mean)と言います。
 また算術平均と幾何平均を繰り返し取ることで得られる数列、
a0=a,b0=b,an+1=a+b2,bn+1=anbn
は不等式
b1=aba+b2=a1b1a1b1=b2a2=a1+b12a1b1b2bnana2a1
を満たすので単調収束定理からan,bnは収束します。その値をα,βとおくと
α=α+β2またはβ=αβ
からα=βとなることが成り立ちます。

算術幾何平均

 正の実数a,bに対して数列
a0=a,b0=b,an+1=a+b2,bn+1=anbn
の極限として定まる数
M(a,b)=limnan=limnbn
a,b算術幾何平均(AGM:Arithmetic-Geometric Mean)と言う。

 算術幾何平均は次のような積分表示を持ちます。

0π2dθa2cos2θ+b2sin2θ=π21M(a,b)
が成り立つ。

I(a,b)=0π2dθa2cos2θ+b2sin2θ
とおいたとき、
sinθ=2asinφ(a+b)+(ab)sin2φ
と変数変換すると
a2cos2θ+b2sin2θ=a(a+b)(ab)sin2φ(a+b)+(ab)sin2φcosθ=(a+b)2cos2φ+4absin2φ(a+b)+(ab)sin2φcosφcosθdθ=2a(a+b)(ab)sin2φ((a+b)+(ab)sin2φ)2cosφdφ
となるので
I(a,b)=0π22(a+b)2cos2φ+4absin2φdφ=I(a+b2,ab)
がわかる。
 よって
I(a,b)=I(a1,b1)=I(an,bn)=limnI(an,bn)=I(M(a,b),M(a,b))=I(1,1)M(a,b)=π21M(a,b)
を得る。

 そしてa=1,b=k=1k2とおくことで以下の式を得ます。

 第一種完全楕円積分
K(k)=01dt(1t2)(1k2t2)
に対して
K(k)=π21M(1,k)
が成り立つ。

 この式からテータ関数と楕円積分との美しい関係が得られます。

k=k(τ)=θ2(τ)2θ3(τ)2
とおいたとき
K(k)=π2θ3(τ)2
が成り立つ。

 ヤコビの恒等式(定理3)から
k=1k2=θ4(τ)2θ3(τ)2
がわかるので
K(k)=π21M(1,k)=π2θ3(τ)2M(θ3(τ)2,θ4(τ)2)
が成り立つ。

 いま定理2の式を整理すると
θ3(τ)2+θ4(τ)22=θ3(2τ)2,θ3(τ)2θ4(τ)2=θ4(2τ)2
となるので
an=θ3(2nτ)2,bn=θ4(2nτ)2
θ3(τ)2,θ4(τ)2の算術幾何平均を定める数列となり、
M(θ3(τ)2,θ4(τ)2)=limnθ3(2nτ)=lim|q|0m=qm2=1
がわかる。よって結論を得る。

 τによってk20,1以外の任意の複素数を値に取る(らしい)のでKは完全にテータ関数によって記述することができます。また逆に以下の関係からKによってテータ関数を記述することもできます。

 k=k(τ)において
τ=iKK(K=K(k))
が成り立つ。

 ヤコビの変換公式(定理6)から
k=θ4(τ)2θ3(τ)2=θ2(1/τ)2θ3(1/τ)2=k(1/τ)
が成り立つ。よって再びヤコビの変換公式から
K=K(k(1/τ))=π2θ3(1/τ)2=iτπ2θ3(τ)2
がわかり、これと
K=π2θ3(τ)2
を合わせることで主張を得る。

周期性について

 ττ+2においてq=eπiτは不変なのでk(τ+2)2=k(τ)2が成り立ちます。しかし上の等式は
τ+2=iK(k(τ+2))K(k(τ+2))=iK(k(τ))K(k(τ))=τ
と変化してしまうため、一見矛盾に見えます。このことについては次のように説明できます。
 例えば次のような等式を考えてみましょう。
logeix=x
この等式においてxx+2πとすると
x+2π=logei(x+2π)=logeix=x
となってしまいます。
 この矛盾が生じるのはz=eixを合成することでlogzの"意味"が変化していることにあります。
logz=log|z|+iargz
とは通常π<argzπとなるように定められる関数なのでlogeix=xは成り立ちません。しかしlogeixxについての連続関数となるように考えるとlogeix=xと定まることになります。この時点でlogzの値によって決まる関数ではなく、xによってのみ決まる関数に置き換わっています。つまりz=wならばlogz=logwという議論はできなくなります。
 これと同様にk=θ2(τ)2/θ3(τ)2を合成した等式
K(k)=01dt(1t2)(1k2t2)=π2θ3(τ)2
におけるKk2の関数としての"意味"を失い、τについての関数に置き換わっていると考えられます。実際
k(τ2τ+1)2=k(τ)2,θ3(τ2τ+1)2=(2τ+1)θ3(τ)2
のような等式が成り立つ(別の記事で解説します)ことからもKはもはやk2の関数ではいられないことがわかります。K(k)の定義式の被積分関数が分岐点を持つ関数であることからもこのような議論は正当であることが窺えます。
 ここら辺の議論は分岐点とリーマン面の理論でどーにかこーにかできるらしいですが詳しくはよく知りません。

 ちなみにテータ関数とヤコビの楕円関数の間には次のような関係があることが知られています。

 k=θ2(τ)2/θ3(τ)2,u=2Kz=πθ3(τ)2vにおいて
sn(u,k)=θ3(τ)θ2(τ)θ1(v,τ)θ4(v,τ)cn(u,k)=θ4(τ)θ2(τ)θ2(v,τ)θ4(v,τ)dn(u,k)=θ4(τ)θ3(τ)θ3(v,τ)θ4(v,τ)
が成り立つ。

 簡単にその証明を書いておきます。

 テータ関数の擬二重周期
θj(v+m+nτ,τ)=(±1)jm(±1)jnqn2znθj(v,τ)
ただし
(±1)j={1(j=1,2)1(j=3,4),(±1)j={1(j=1,4)1(j=2,3)
から
Θ(u)=θ1(u/πθ3(τ)2,τ)θ4(u/πθ3(τ)2,τ)

(2πθ3(τ)2,τπθ3(τ)2)=(4K,2iK)
を周期に持つ二重周期関数となり、またその零点と極の位置はsnuと一致していることがわかるので
sn(u,k)Θ(u)
は極を持たない楕円関数、つまり定数関数となり、u=Kのときを考えると
sn(K,k)θ4(12,τ)θ1(12,τ)=1θ3(τ)θ2(τ)
が成り立つことからわかる。cn,dnについても同様に周期性と零点・極の位置、u=0の場合を考えることでわかる。

おまけ:算術幾何平均の積分表示の発見的な説明

 定理7を発見的に考える。|x|<1において
1M(1,1x2)=n=0cnx2n
と展開できたとすると
M(1,14x(1+x)2)=M(1,1x1+x)=M(1+x,1x)1+x=M(1,1x2)1+x
となる(最後の等号はM(a,b)=M((a+b)/2,ab)から)ので
n=0cnx2n=11+xn=0cn(4x(1+x)2)n=n=0cn(4x)n(1+x)2n+1=n=0cn(4x)nm=2n(m2n)(x)m2n=m=0(1)m(n=0m(1)n(m+n2n)4ncn)xm
が成り立たなければならない。この関係式とc0=1からcnの値を逐次決定していくと
cn=((2n1)!!(2n)!!)2
となることがわかる(らしい)。よって
1M(1,1x2)=n=0((2n1)!!(2n)!!)2x2n=2πK(x)
を得る。

参考文献

投稿日:2022116
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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  3. ヤコビの恒等式
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  5. 算術幾何平均と楕円積分
  6. おまけ:算術幾何平均の積分表示の発見的な説明
  7. 参考文献