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【Spin幾何】4次元静的時空のmassless, massive spinorと3次元空間上のDirac作用素, Laplacianの固有spinorとの関係について

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 4次元静的時空のmassive, massless spinorと3次元空間部分のリーマン多様体上のDirac作用素の固有spinorとの関係を説明します。物理的にリーズナブルな設定においては非常に単純な関係になります。Spin幾何は勉強し始めてまだ日が浅く素人ですので間違いがありましたらお知らせください。

 Spin幾何はある程度知ってるとしますが、次の章でSpin幾何についての復習や定義、表記の確認をします。

Spin幾何の復習&準備

 この記事で必要な3次元、4次元のSpin幾何の準備を簡単にします。事実の列挙や公式の確認になります。より詳しくはSpin幾何のテキストを参照してください。

3次元、4次元のSpin幾何

Spin(3)のSpin表現

 パウリ行列を
σ1=(0110), σ2=(0110), σ3=(1001)
とし、si:=1σiとします。C3の既約表現Δ3:C3GL(2,C)
Δ3(1)=I2, Δ3(ei)=si (i=1,2,3)
を代数準同型に拡張して与えられます。Δ3
Spin(3):={v1v2mC3; viR2, ||vi||2=1}
に制限することでスピン表現が得られ、Spin(3)SU(2)となります。

Spin(1,3)のSpin表現

 chiral表現のγ行列を
γ0=(0I2I20), γi=(0σiσi0)
とします。ημν=diag(1,1,1,1)とし、γμ=ημνγνとします。C1,3の既約表現Δ1,3:C3GL(4,C)
Δ1,3(1)=I4, Δ1,3(e0)=γ0, Δ1,3(ei)=γi
を代数準同型に拡張して与えられます。Δ1,3
Spin(1,3):={v1v2mC1,3; viR4, ||vi||2=±1}
に制限することでスピン表現が得られ、Spin(1,3)SL(2,R)となります。

Spin多様体

 向き付けられた擬リーマン多様体(M,g)において、各点の正規直交フレームの全体をファイバーとする主SO(p,q)バンドルとしてSO(M)が定まります。さらに2次のスティーフェルホイットニー類が自明であるとき、SO(M)の各ファイバーであるSO(p,q)の2重被覆であるSpin(p,q)をファイバーとする主Spin(p,q)Spin(M)が定義されます。このSpin(M)Spin(p,q)同変性を持ち、Mのスピン構造と呼ばれます。
 Spin(p,q)のスピン表現に対する同伴ベクトル束をSpinor束といい、その切断をspinorといいます。

3次元リーマン多様体のSpin幾何

 3次元Spin Riemann多様体を(N,h)、そのSpinor束をSNとします。hのリーマン接続をhとすると、正規直交基底{e1,e2,e3}に対して、接続形式ωij=g(ei,ej)so(3)が定まり、Lie環の同型spin(3)so(3)を通じて、Spinor束SNに接続が誘導されます。これをSpin接続といい、次で与えられます。
SN=d+14i,j=13g(ei,ej)sisj

 さらにDirac作用素DNとは
DN:=i=13sieiSN
で与えられるspinorに対する一階の微分作用素のことです。DNの固有spinorとは
DNϕ=αϕ, αR
を満たすϕΓ(SN)のことです。

 SNにはSpin不変Hermite計量が定義されます。ϕ1,ϕ2Γ(SN)に対して、
ϕ1,ϕ2N:=ϕ1ϕ2
で与えられ、またこれを使って(実)内積として、
(ϕ1,ϕ2)N:=Reϕ1,ϕ2N, for ϕ1,ϕ2Γ(SN)
が定義されます。

4次元静的時空のSpin幾何

 4次元Spin Lorentz多様体を(M,g)、そのSpinor束をSMとします。gのリーマン接続をgとすると、正規直交基底{e0,e1,e2,e3}に対して、接続形式ωμν=||eν||2g(eμ,eν)so(1,3)が定まり、Lie環の同型spin(1,3)so(1,3)を通じて、Spinor束SMにSpin接続が誘導され、次で与えられます。
SM=d+14i,j=03g(eμ,eν)γμγν

 さらにDirac作用素DM
DM:=1i=03γμeμSM
で与えられます。質量を持つspinor ψはDirac方程式
DMψ=mψ, m>0
を満たします。これをmassive spinorと呼びます。m=0のときはmassless spinorと呼びます。

 SMにはSpin不変双線形形式が定義されます。ψ1,ψ2Γ(SM)に対して、
ψ1,ψ2M:=ψ1γ0ψ2
で与えられます。またこれを使って(実)内積として、
(ψ1,ψ2)M:=Reψ1,ψ2M, for ψ1,ψ2Γ(SM)
が定義されます。

Lichnerowiczの公式

 Dirac作用素の2乗はLaplacianであるという話がありますが、それを表しているのが次の公式です。

Lichnerowiczの公式

スピン多様体(M,g)において、Dirac作用素をD、スカラー曲率をRとするとき、
D2=Δ+14R
が成り立つ。ここでΔはLaplacianで
Δ=i(eieieiei)
で与えられる。

Spinorのエネルギー

 時空M上のSpinorのもつエネルギーとしてEinstein-Dirac理論が与えるものがよく使われます。Einstein-Dirac理論の作用は
S=M(R+(ψ,DMψ)Mm||ψ||M2)dv
で与えられます。これを計量で変分することで、spinor ψのエネルギー運動量テンソルTS
TS(X,Y)=14(ψ,1XYSMψ+1YXSMψ)M
で与えられます。ただし、X,YΓ(TM)はベクトルのspinor表現によるクリフォード積です。ちなみにこの計算は結構大変ですが、ある程度賢く計算することができますのでまた別のノートに書きます。

 以上で復習と準備は終わりです。

4次元静的時空上と3次元空間上のDirac作用素の固有spinorの関係

 3次元Spin Riemann多様体(N,h)に対して、4次元静的時空をM=R×N,g=dt2+hで定義します。M上のmassless, massive spinorはDMの固有spinorですが、N上のDNの固有spinorとはどういう関係になっているのか、ということを考えてみたいと思います。

 ψ(t,x)Γ(SM)でchiral表現に関して
ψ(t,x)=e1Et(ϕR(x)ϕL(x))
となっているものを考えます。ϕR,ϕLはそれぞれ右巻き、左巻きの2成分spinorです。この表示はt方向の対称性とDirac方程式の変数分離性、および物理的にリーズナブルな仮定などからたぶん正当化することができると思います。ここで注意すべきことはϕP, (P=R,L)Γ(SN)の元と見なすことができるということです。具体的には次の命題が成り立ちます。

埋め込み写像
ιP:Γ(SN)Γ(SM),  (P=R,L)ιR:ϕ(ϕ0)ιL:ϕ(0ϕ)
が存在する。

Nの正規直交フレームを{e1,e2,e3}とするとき、Mの正規直交フレームは{e0=t,e1,e2,e3}とすることができる。特にe0=tは大域的なベクトル場であるから、SO(M)の構造群はSO(3)に簡約する。従ってSMの構造群はSU(2)に簡約する。よって、π:MNとし、chiral分解をSM=SRMSLMとするとき、SPMπSNとなるから、ιP:SNπSNSPMSM, (P=R,L)が定義される。

 この命題によりΓ(SN)の元からΓ(SM)の元を作ることができ、さらにそれは妥当なansatzであることが分かります。ψ=e1Et(ιR(ϕR)+ιL(ϕL))とするとき、Eψのエネルギー密度であると解釈されます。このことは以下のようにψのエネルギー運動量テンソルTSの時間成分TS(e0,e0)を計算することで分かります。

TS(e0,e0)=12(ψ,1γ0e0SMψ)M=E2Reψ,γ0ψM=E2||ψ||M2
よってψを通常の物質とするならばE>0と仮定することになります。次にDirac作用素DM,DNの関係を調べます。

DM=(01t+DN1tDN0)

SM=d+14μ,ν=03g(Meμ,eν)γμγν=d+14i,j=13g(Nei,ei)(σiσj00σiσj)=d+14i,j=13g(Nei,ei)(sisj00sisj)
であるから、
e0SM=teiSM=(eiSN00eiSN)
となる。よって
DM=μ=031γμeμSM=1γ0t+i=13(0sisi0)(eiSN00eiSN)=(01t+DN1tDN0)
となる。

 これよりM上のDirac方程式は次のようになります。

ϕR,ϕLΓ(SN)
ψ(t,x)=e1Et(ϕR(x)ϕL(x))Γ(SM)
に対して、Dirac方程式は
(E+DN)ϕL=mϕR(E+DN)ϕR=mϕL
で与えられる。

DMψ=((E+DN)ϕL(EDN)ϕR)=m(ϕR(x)ϕL(x))
より
(E+DN)ϕL=mϕR(E+DN)ϕR=mϕL

これから直ちにmassless spinorに対する次の命題を得ます。

(N,h)を3次元Spin Riemann多様体、(M=R×N,g=dt2+h)を4次元静的時空とする。
(i) ϕRΓ(SN)DNϕR=ERϕRとなるとき、ψ=e1ERtιR(ϕR)Γ(SM)はmassless spinorとなる。
また同様に
(ii) ϕLΓ(SN)DNϕL=ELϕLとなるとき、ψ=e1ELtιL(ϕL)Γ(SM)はmassless spinorとなる。
さらに、
(iii) ER=EL(=:E)のとき、ψ=e1Et(ιR(ϕR)+ιL(ϕL))はmassless spinorとなる。

 このことからN上のDNの固有spinorはM上のmassless spinorに対応することが分かりました。次にmassive spinorについて考えます。

(N,h)を3次元Spin Riemann多様体、(M=R×N,g=dt2+h)を4次元静的時空とする。(N,h)のスカラー曲率Rが定数であるとき、ϕR,ϕLΓ(SN)に対して、
ψ(t,x)=e1Et(ϕR(x)ϕL(x))Γ(SM)
が質量mのmassive spinorであるならば、
ΔNϕP=(m2+R4E2)ϕP, (P=R,L)
である。

質量mのmassive spinorなので
(E+DN)ϕL=mϕR(E+DN)ϕR=mϕL
が成り立つ。よって
(E+DN)(E+DN)ϕL=m(E+DN)ϕR=m2ϕL
となる。一方
(E+DN)(E+DN)=E2(DN)2=E2ΔNR4
なので
ΔNϕL=(m2+R4E2)ϕL
となる。ϕRに対しても同様である。

 この命題の逆は次のようになります。

(N,h)を3次元Spin Riemann多様体、(M=R×N,g=dt2+h)を4次元静的時空とする。(N,h)のスカラー曲率Rが定数であるとする。m,Eを正の定数とするとき、
ΔNϕ=(m2+R4E2)ϕ
を満たすϕΓ(SN)に対して、
ϕL=ϕϕR=1m(E+DN)ϕ
と置くと、ψ=e1Et(ιR(ϕR)+ιL(ϕL))Γ(SM)は質量mのmassive spinorとなる。

まとめ

 3次元リーマン空間Nと4次元静的時空M=R×Nのspinorの対応を調べました。物理的にリーズナブルな設定の下では

  • N上のDirac作用素の固有spinorはM上のmassless spinorと対応する
  • N上のLaplacianの固有spinorはM上のmassive spinorと対応する

ことが分かりました。

投稿日:20221112
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投稿者

Submersion
Submersion
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専門は相対論やLorentz幾何です。Einstein系の厳密解の構成や接触幾何の応用などの研究をしています。Ph.D保有者の中ではクソ雑魚の部類です。

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  6. まとめ