1

【Spin幾何】4次元静的時空のmassless, massive spinorと3次元空間上のDirac作用素, Laplacianの固有spinorとの関係について

85
0
$$$$

 4次元静的時空のmassive, massless spinorと3次元空間部分のリーマン多様体上のDirac作用素の固有spinorとの関係を説明します。物理的にリーズナブルな設定においては非常に単純な関係になります。Spin幾何は勉強し始めてまだ日が浅く素人ですので間違いがありましたらお知らせください。

 Spin幾何はある程度知ってるとしますが、次の章でSpin幾何についての復習や定義、表記の確認をします。

Spin幾何の復習&準備

 この記事で必要な3次元、4次元のSpin幾何の準備を簡単にします。事実の列挙や公式の確認になります。より詳しくはSpin幾何のテキストを参照してください。

3次元、4次元のSpin幾何

Spin(3)のSpin表現

 パウリ行列を
$$ \sigma_1=\begin{pmatrix}0 & 1 \\ 1 & 0\end{pmatrix},\ \sigma_2=\begin{pmatrix}0 & -\sqrt{-1} \\ \sqrt{-1} & 0\end{pmatrix},\ \sigma_3=\begin{pmatrix}1 & 0 \\ 0 & -1\end{pmatrix} $$
とし、$s_i:=\sqrt{-1}\sigma_i$とします。$C\ell_3$の既約表現$\Delta_3:C\ell_3\to {\rm GL}(2,\mathbb{C})$
$$ \Delta_3(1)= I_2,\ \Delta_3(e_i)=s_i\ (i=1,2,3) $$
を代数準同型に拡張して与えられます。$\Delta_3$
$$ {\rm Spin}(3):=\{v_1\cdots v_{2m}\in C\ell_3;\ v_i\in\mathbb{R}^2,\ ||v_i||^2=1\} $$
に制限することでスピン表現が得られ、${\rm Spin}(3)\cong {\rm SU}(2)$となります。

Spin(1,3)のSpin表現

 chiral表現の$\gamma$行列を
$$ \gamma^0=\begin{pmatrix}0 & I_2 \\ I_2 & 0\end{pmatrix},\ \gamma^i=\begin{pmatrix}0 & \sigma_i \\ -\sigma_i & 0\end{pmatrix} $$
とします。$\eta_{\mu\nu}={\rm diag}(-1,1,1,1)$とし、$\gamma_\mu=\eta_{\mu\nu}\gamma^\nu$とします。$C\ell_{1,3}$の既約表現$\Delta_{1,3}:C\ell_3\to {\rm GL}(4,\mathbb{C})$
$$ \Delta_{1,3}(1)=I_4,\ \Delta_{1,3}(e_0)=\gamma_0,\ \Delta_{1,3}(e_i)=\gamma_i $$
を代数準同型に拡張して与えられます。$\Delta_{1,3}$
$$ {\rm Spin}(1,3):=\{v_1\cdots v_{2m}\in C\ell_{1,3};\ v_i\in\mathbb{R}^4,\ ||v_i||^2=\pm1\} $$
に制限することでスピン表現が得られ、${\rm Spin}(1,3)\cong {\rm SL}(2,\mathbb{R})$となります。

Spin多様体

 向き付けられた擬リーマン多様体$(M,g)$において、各点の正規直交フレームの全体をファイバーとする主${\rm SO}(p,q)$バンドルとして${\rm SO}(M)$が定まります。さらに2次のスティーフェルホイットニー類が自明であるとき、${\rm SO}(M)$の各ファイバーである${\rm SO}(p,q)$の2重被覆である${\rm Spin}(p,q)$をファイバーとする主${\rm Spin}(p,q)$${\rm Spin}(M)$が定義されます。この${\rm Spin}(M)$${\rm Spin}(p,q)$同変性を持ち、$M$のスピン構造と呼ばれます。
 ${\rm Spin}(p,q)$のスピン表現に対する同伴ベクトル束をSpinor束といい、その切断をspinorといいます。

3次元リーマン多様体のSpin幾何

 3次元Spin Riemann多様体を$(N,h)$、そのSpinor束を$S^N$とします。$h$のリーマン接続を$\nabla^h$とすると、正規直交基底$\{e_1,e_2,e_3\}$に対して、接続形式$\omega_{ij}=g(\nabla e_i,e_j)\in\mathfrak{so}(3)$が定まり、Lie環の同型$\mathfrak{spin}(3)\cong\mathfrak{so}(3)$を通じて、Spinor束$S^N$に接続が誘導されます。これをSpin接続といい、次で与えられます。
$$ \nabla^{S^N}=d+\frac{1}{4}\sum_{i,j=1}^3 g(\nabla e_i,e_j)s_is_j $$

 さらにDirac作用素$D^N$とは
$$ D^N:=\sum_{i=1}^3s_i\nabla^{S^N}_{e_i} $$
で与えられるspinorに対する一階の微分作用素のことです。$D^N$の固有spinorとは
$$ D^N\phi=\alpha\phi,\ \alpha\in\mathbb{R} $$
を満たす$\phi\in\Gamma(S^N)$のことです。

 $S^N$にはSpin不変Hermite計量が定義されます。$\phi_1,\phi_2\in\Gamma(S^{N})$に対して、
$$ \langle\phi_1,\phi_2\rangle_N:=\phi_1^\dagger\phi_2 $$
で与えられ、またこれを使って(実)内積として、
$$ \begin{align} (\phi_1,\phi_2)_N:&=\Re\langle\phi_1,\phi_2\rangle_N,\ {\rm for\ }\phi_1,\phi_2\in\Gamma(S^{N}) \end{align} $$
が定義されます。

4次元静的時空のSpin幾何

 4次元Spin Lorentz多様体を$(M,g)$、そのSpinor束を$S^M$とします。$g$のリーマン接続を$\nabla^g$とすると、正規直交基底$\{e_0,e_1,e_2,e_3\}$に対して、接続形式$\omega_{\mu\nu}=||e_\nu||^2g(\nabla e_\mu,e_\nu)\in\mathfrak{so}(1,3)$が定まり、Lie環の同型$\mathfrak{spin}(1,3)\cong\mathfrak{so}(1,3)$を通じて、Spinor束$S^M$にSpin接続が誘導され、次で与えられます。
$$ \nabla^{S^M}=d+\frac{1}{4}\sum_{i,j=0}^3 g(\nabla e_\mu,e_\nu)\gamma^\mu\gamma^\nu $$

 さらにDirac作用素$D^M$
$$ D^M:=\sqrt{-1}\sum_{i=0}^3\gamma^\mu\nabla^{S^M}_{e_\mu} $$
で与えられます。質量を持つspinor $\psi$はDirac方程式
$$ D^M\psi=m\psi,\ m>0 $$
を満たします。これをmassive spinorと呼びます。$m=0$のときはmassless spinorと呼びます。

 $S^M$にはSpin不変双線形形式が定義されます。$\psi_1,\psi_2\in\Gamma(S^{M})$に対して、
$$ \langle\psi_1,\psi_2\rangle_M:=\psi_1^\dagger\gamma^0\psi_2 $$
で与えられます。またこれを使って(実)内積として、
$$ \begin{align} (\psi_1,\psi_2)_M:&=\Re\langle\psi_1,\psi_2\rangle_M,\ {\rm for\ }\psi_1,\psi_2\in\Gamma(S^{M}) \end{align} $$
が定義されます。

Lichnerowiczの公式

 Dirac作用素の2乗はLaplacianであるという話がありますが、それを表しているのが次の公式です。

Lichnerowiczの公式

スピン多様体$(M,g)$において、Dirac作用素を$D$、スカラー曲率を$R$とするとき、
$$ D^2=\Delta+\frac{1}{4}R $$
が成り立つ。ここで$\Delta$はLaplacianで
$$ \Delta=\sum_i(\nabla_{e_i}\nabla_{e_i}-\nabla_{\nabla_{e_i}e_i}) $$
で与えられる。

Spinorのエネルギー

 時空$M$上のSpinorのもつエネルギーとしてEinstein-Dirac理論が与えるものがよく使われます。Einstein-Dirac理論の作用は
$$ S=\int_M\left(R+(\psi,D^M\psi)_M-m||\psi||_M^2\right)dv $$
で与えられます。これを計量で変分することで、spinor $\psi$のエネルギー運動量テンソル$T^S$
$$ T^S(X,Y)=\frac{1}{4}(\psi,\sqrt{-1}{}^\flat X\cdot\nabla^{S^M}_Y\psi+\sqrt{-1}{}^\flat Y\cdot\nabla^{S^M}_X\psi)_M $$
で与えられます。ただし、$X,Y\in\Gamma(TM)$$\cdot$はベクトルのspinor表現によるクリフォード積です。ちなみにこの計算は結構大変ですが、ある程度賢く計算することができますのでまた別のノートに書きます。

 以上で復習と準備は終わりです。

4次元静的時空上と3次元空間上のDirac作用素の固有spinorの関係

 3次元Spin Riemann多様体$(N,h)$に対して、4次元静的時空を$M=\mathbb{R}\times N, g=-dt^2+h$で定義します。$M$上のmassless, massive spinorは$D^M$の固有spinorですが、$N$上の$D^N$の固有spinorとはどういう関係になっているのか、ということを考えてみたいと思います。

 $\psi(t,x)\in\Gamma(S^M)$でchiral表現に関して
$$ \begin{align} \psi(t,x)=e^{\sqrt{-1}Et}\begin{pmatrix}\phi_R(x) \\ \phi_L(x)\end{pmatrix} \end{align} $$
となっているものを考えます。$\phi_R,\phi_L$はそれぞれ右巻き、左巻きの2成分spinorです。この表示は$\partial_t$方向の対称性とDirac方程式の変数分離性、および物理的にリーズナブルな仮定などからたぶん正当化することができると思います。ここで注意すべきことは$\phi_P,\ (P=R,L)$$\Gamma(S^N)$の元と見なすことができるということです。具体的には次の命題が成り立ちます。

埋め込み写像
\begin{align} \iota_P:\Gamma(S^N)&\to\Gamma(S^M),\ \ (P=R,L)\\ \iota_R:\phi&\mapsto\begin{pmatrix}\phi \\ 0\end{pmatrix}\\ \iota_L:\phi&\mapsto\begin{pmatrix}0 \\ \phi\end{pmatrix} \end{align}
が存在する。

$N$の正規直交フレームを$\{e_1,e_2,e_3\}$とするとき、$M$の正規直交フレームは$\{e_0=\partial_t,e_1,e_2,e_3\}$とすることができる。特に$e_0=\partial_t$は大域的なベクトル場であるから、$SO(M)$の構造群は$SO(3)$に簡約する。従って$S^M$の構造群は$SU(2)$に簡約する。よって、$\pi:M\to N$とし、chiral分解を$S^M=S^M_R\oplus S^M_L$とするとき、$S^M_P\cong\pi^\ast S^N$となるから、$\iota_P:S^N\cong\pi^\ast S^N\hookrightarrow S^M_P\subset S^M,\ (P=R,L)$が定義される。

 この命題により$\Gamma(S^N)$の元から$\Gamma(S^M)$の元を作ることができ、さらにそれは妥当なansatzであることが分かります。$\psi=e^{\sqrt{-1}Et}(\iota_R(\phi_R)+\iota_L(\phi_L))$とするとき、$E$$\psi$のエネルギー密度であると解釈されます。このことは以下のように$\psi$のエネルギー運動量テンソル$T^S$の時間成分$T^S(e_0,e_0)$を計算することで分かります。

$$ T^S(e_0,e_0)=\frac{1}{2}(\psi,\sqrt{-1}\gamma_0\nabla^{S^M}_{e_0}\psi)_M=\frac{E}{2}\Re\langle\psi,\gamma^0\psi\rangle_M=\frac{E}{2}||\psi||_M^2 $$
よって$\psi$を通常の物質とするならば$E>0$と仮定することになります。次にDirac作用素$D^M,D^N$の関係を調べます。

$$ \begin{align} D^M=\begin{pmatrix}0 & \sqrt{-1}\partial_t+D^N \\ \sqrt{-1}\partial_t-D^N & 0\end{pmatrix} \end{align} $$

$$ \begin{align} \nabla^{S^M}&=d+\frac{1}{4}\sum_{\mu,\nu=0}^3g(\nabla^Me_{\mu},e_{\nu})\gamma^\mu\gamma^\nu\\ &=d+\frac{1}{4}\sum_{i,j=1}^3g(\nabla^Ne_i,e_i)\begin{pmatrix}-\sigma_i\sigma_j & 0 \\ 0 & -\sigma_i\sigma_j\end{pmatrix}\\ &=d+\frac{1}{4}\sum_{i,j=1}^3g(\nabla^Ne_i,e_i)\begin{pmatrix}s_is_j & 0 \\ 0 & s_is_j\end{pmatrix}\\ \end{align} $$
であるから、
$$ \nabla^{S^M}_{e_0}=\partial_t\\ \nabla^{S^M}_{e_i}=\begin{pmatrix} \nabla^{S^N}_{e_i} & 0 \\ 0 & \nabla^{S^N}_{e_i} \end{pmatrix} $$
となる。よって
$$ \begin{align} D^M&=\sum_{\mu=0}^3\sqrt{-1}\gamma^\mu\nabla^{S^M}_{e_\mu}\\ &=\sqrt{-1}\gamma^0\partial_t+\sum_{i=1}^3\begin{pmatrix}0 & s_i \\ -s_i & 0\end{pmatrix}\begin{pmatrix} \nabla^{S^N}_{e_i} & 0 \\ 0 & \nabla^{S^N}_{e_i} \end{pmatrix}\\ &=\begin{pmatrix}0 & \sqrt{-1}\partial_t+D^N \\ \sqrt{-1}\partial_t-D^N & 0\end{pmatrix} \end{align} $$
となる。

 これより$M$上のDirac方程式は次のようになります。

$\phi_R,\phi_L\in\Gamma(S^N)$
$$ \begin{align} \psi(t,x)=e^{\sqrt{-1}Et}\begin{pmatrix}\phi_R(x) \\ \phi_L(x)\end{pmatrix}\in\Gamma(S^M) \end{align} $$
に対して、Dirac方程式は
$$ \begin{align} (-E+D^N)\phi_L&=m\phi_R\\ -(E+D^N)\phi_R&=m\phi_L \end{align} $$
で与えられる。

$$ \begin{align} D^M\psi=\begin{pmatrix}(-E+D^N)\phi_L \\ (-E-D^N)\phi_R\end{pmatrix}=m\begin{pmatrix}\phi_R(x) \\ \phi_L(x)\end{pmatrix} \end{align} $$
より
$$ (-E+D^N)\phi_L=m\phi_R\\ -(E+D^N)\phi_R=m\phi_L $$

これから直ちにmassless spinorに対する次の命題を得ます。

$(N,h)$を3次元Spin Riemann多様体、$(M=\mathbb{R}\times N,g=-dt^2+h)$を4次元静的時空とする。
(i) $\phi_R\in\Gamma(S^N)$$D^N\phi_R=E_R\phi_R$となるとき、$\psi=e^{-\sqrt{-1}E_Rt}\iota_R(\phi_R)\in\Gamma(S^M)$はmassless spinorとなる。
また同様に
(ii) $\phi_L\in\Gamma(S^N)$$D^N\phi_L=E_L\phi_L$となるとき、$\psi=e^{\sqrt{-1}E_Lt}\iota_L(\phi_L)\in\Gamma(S^M)$はmassless spinorとなる。
さらに、
(iii) $-E_R=E_L(=:E)$のとき、$\psi=e^{\sqrt{-1}Et}(\iota_R(\phi_R)+\iota_L(\phi_L))$はmassless spinorとなる。

 このことから$N$上の$D^N$の固有spinorは$M$上のmassless spinorに対応することが分かりました。次にmassive spinorについて考えます。

$(N,h)$を3次元Spin Riemann多様体、$(M=\mathbb{R}\times N,g=-dt^2+h)$を4次元静的時空とする。$(N,h)$のスカラー曲率$R$が定数であるとき、$\phi_R,\phi_L\in\Gamma(S^N)$に対して、
$$ \begin{align} \psi(t,x)=e^{\sqrt{-1}Et}\begin{pmatrix}\phi_R(x) \\ \phi_L(x)\end{pmatrix}\in\Gamma(S^M) \end{align} $$
が質量$m$のmassive spinorであるならば、
$$ \Delta^N\phi_P=\left(m^2+\frac{R}{4}-E^2\right)\phi_P,\ (P=R,L) $$
である。

質量$m$のmassive spinorなので
$$ (-E+D^N)\phi_L=m\phi_R\\ -(E+D^N)\phi_R=m\phi_L $$
が成り立つ。よって
$$ -(E+D^N)(-E+D^N)\phi_L=-m(E+D^N)\phi_R=m^2\phi_L $$
となる。一方
$$ -(E+D^N)(-E+D^N)=E^2-(D^N)^2=E^2-\Delta^N-\frac{R}{4}\\ $$
なので
$$ \Delta^N\phi_L=\left(m^2+\frac{R}{4}-E^2\right)\phi_L $$
となる。$\phi_R$に対しても同様である。

 この命題の逆は次のようになります。

$(N,h)$を3次元Spin Riemann多様体、$(M=\mathbb{R}\times N,g=-dt^2+h)$を4次元静的時空とする。$(N,h)$のスカラー曲率$R$が定数であるとする。$m,E$を正の定数とするとき、
$$ \Delta^N\phi=\left(m^2+\frac{R}{4}-E^2\right)\phi $$
を満たす$\phi\in\Gamma(S^N)$に対して、
$$ \phi_L=\phi\\ \phi_R=\frac{1}{m}(-E+D^N)\phi $$
と置くと、$\psi=e^{\sqrt{-1}Et}(\iota_R(\phi_R)+\iota_L(\phi_L))\in\Gamma(S^M)$は質量$m$のmassive spinorとなる。

まとめ

 3次元リーマン空間$N$と4次元静的時空$M=\mathbb{R}\times N$のspinorの対応を調べました。物理的にリーズナブルな設定の下では

  • $N$上のDirac作用素の固有spinorは$M$上のmassless spinorと対応する
  • $N$上のLaplacianの固有spinorは$M$上のmassive spinorと対応する

ことが分かりました。

投稿日:20221112
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

Submersion
Submersion
97
26200
専門は相対論やLorentz幾何です。Einstein系の厳密解の構成や接触幾何の応用などの研究をしています。Ph.D保有者の中ではクソ雑魚の部類です。

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中