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大学数学基礎解説
文献あり

Analysis Nowの1.1 Ordered Setsの行間埋め1

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はじめに

あまり集合と位相の基本事項を知らないまま関数解析に興味をもってAnalysis Nowの1.1 Ordered Setsで躓くことってよくありますよね?個人的には,一番最初に選択公理とZornの補題と整列可能定理が同値であることの証明を載せているのに出落ち感があるなあと思うのですが・・・

ここの証明がよくわからなくて,誰か有識者に質問をしてみても,大体(対応して頂けるだけでもありがたいですが)別の本による証明で納得させられたり,「ステートメントが使えればよいのでその証明はやらなくてよい」と言われたりしてもやもやします.

この記事では,Analysis Nowのやり方から逃げないで証明してみようと思います.

目標:
Analysis Nowの「選択公理とZornの補題と整列可能定理が同値であることの証明」を初学者向けに翻訳する

定義,記号の整理,定理,証明のオンパレードです.この記事を2つのタブで開き適時スクロールしながら読むのをお勧めします.
気合十分!ですが,間違い等があればやさしく教えて下さい.

お膳立て1・定義たち

まず1.1.1を見ます.二項関係・順序集合(ordered set)・全順序集合(totally ordered set),ついでに直積も既知とします(常識でしょ?).

上界・下界・極大元・filtering upward・filtering downward

$(X,\leq\;)$順序集合(ordered set)とする.$Y\subset X\;$部分集合
$x\in X$$Y$上界 (majorant)$\overset{\text{def}}{\Longleftrightarrow}\forall y\in Y,\;y\leq x$
$x\in X$$Y$下界 (minorant)$\overset{\text{def}}{\Longleftrightarrow}\forall y\in Y,\;x\leq y$
$x\in X$$Y$極大元 (maximal element)$\overset{\text{def}}{\Longleftrightarrow}x$よりも真に大きい元が$Y$にない時
$\Longleftrightarrow\forall y\in Y,\;\neg[x< y]$ (但し$x< y$$x\leq y$かつ$x\neq y$の意)
・順序がfiltering upward
$\overset{\text{def}}{\Longleftrightarrow}\forall x,y\in X,\;$集合$\{x,y\}$が上界を持つ$\overset{\text{有限部分集合は2元からなる集合の和集合}}{\Longleftrightarrow}X$の任意の有限部分集合は上界を持つ.
・順序がfiltering downward
$\overset{\text{def}}{\Longleftrightarrow}\forall x,y\in X,\;$集合$\{x,y\}$が下界を持つ$\overset{\text{有限部分集合は2元からなる集合の和集合}}{\Longleftrightarrow}X$の任意の有限部分集合は下界を持つ.

filtering downwardな順序の例は,$X=\mathbb{N}$で大小関係を考えた時です.
ここで1.1.4を見越して記号をこしらえます.

$(X,\leq):\;$順序集合,$Y\subset X:\;$部分集合
$\text{maj}(Y):=\{x\in X:\forall y\in Y,\;y< x\}$
$\text{min}(Y):=\{x\in X:\forall y\in Y,\;x< y\}$
(但し$y< x$$y\leq x$かつ$y\neq x$の意)

$\text{maj}(Y)$$Y$の上界全体の集合,$\text{min}(Y)$$Y$の下界全体の集合です.
こいつらでいろいろ遊んでみましょう.

$\text{maj}(\emptyset)=X$

$\text{maj}(\emptyset)\overset{\text{定義通り書く}}{=}\{x\in X:\forall y\in\emptyset,\;y< x\text{・・・}(\#)\}\overset{\text{すべての}X\text{の元は}(\#)\text{を満たす}}{=}X$

命題$1$に絡めた話をすると,$C\cap\text{min}\{x\}=\emptyset$のとき$\text{maj}(C\cap\text{min}\{x\})=X$になります.なんだか$\text{maj}$$\text{min}$は集合の順序を逆にする装置みたいに思えてきますね. 

次に以下の2つの集合を考えてみることにします.

$C\subset X,\;x\in C$を固定.
$(1)\;C\cap\text{min}\{x\}$
$(2)\;\text{maj}(C\cap\text{min}\{x\})$

$(1)$の集合は書き下すと
$C\cap\text{min}\{x\}=C\cap\{y\in X:\forall c\in \{x\},\;y< c\}=\{y\in C:y< x\}$
これは$C$にある$x$より小さい元全体のことです.正体わかりましたね.
今後道端とかで,例えば$X=\mathbb{R},\;C=\mathbb{N},\;73\in\mathbb{N}$をとって普通の大小関係を入れた時,$\mathbb{N}\cap\text{min}\{73\}$はなあに?と言われても「$73$より小さい自然数全体の集合」つまり$\{1,2,\cdots,72\}$ですと即答できるわけです.完全に理解しましたね.
次に$(2)$です.まず定義通り書き下します.
$\text{maj}(C\cap\text{min}\{x\})=\{y\in X:\forall z\in C\cap\text{min}\{x\},z< y\}\overset{\text{ちょい言葉で言うと}}{=}\{y\in X:\forall z\in \{C\text{にある}x\text{より小さい元全体}\},z< y\}$

「『$C$にある$x$より小さい元全体』より大きい$X$の元全体」です.
これはなんというか誤解を招きますね.丁度これを書いているときABEMAでめぞん一刻の第4話を見ていたのですが,管理人さんが五代に恋心を寄せていると誤解?されて困っているシーンがありました.誤解は嫌ですよね.
すぐ思いつく誤解例をいくつか書いておきました.参考になれば.

$(1)$$\text{maj}(\{x\})\subsetneqq\text{maj}(C\cap\text{min}\{x\})$

$\because\subset:\;$明白.
$\not\supset:\;x\in\text{maj}(C\cap\text{min}\{x\})$だが$x\notin\text{maj}(\{x\})$だから.

(2)$\{y\in X:x\leqq y\}\subsetneqq\text{maj}(C\cap\text{min}\{x\})$

$\because\subset:w\in\{y\in X:x\leqq y\}$をとると$\forall z\in C\cap\text{min}\{x\},z< x\leqq w$より$w\in\text{maj}(C\cap\text{min}\{x\})$
$\not\supset:\;X=\{1,1.5,2\},\;C=\{1,2\}$に普通の大小関係を入れた時,$\text{maj}(C\cap\text{min}\{2\})=\{1.5,2\}$だが$\{y\in X:2\leqq y\}=\{2\}$となり$\text{maj}(C\cap\text{min}\{2\})\neq\{y\in X:2\leqq y\}$

定義語句(任意)

$(X,\leq)$束 (lattice)
$\overset{\text{def}}{\Longleftrightarrow}$いかなる$X$の対$\{x,y\}$でも順序$\leq$で最小上界(=上限)$x\land y $と最大下界(=下限)$x\lor y$を持つとき.
$(X,\leq)$整列集合 (well-ordered set)
$\overset{\text{def}}{\Longleftrightarrow}X$の任意の空でない部分集合$Y$が最小元(the first element in $Y$)を持つとき.

☆整列集合$\Longrightarrow$全順序集合

$(X,\leq):\;$整列集合
$x,y\in X$をとると仮定より$X$の部分集合$\{x,y\}$は最小元を持つので$x\leq y$又は$y\leq x$が成立.
$\therefore (X,\leq)$は全順序集合.

因みに,この逆は成り立つとは限りません.
例えば$(0,1)$は全順序集合ですが,整列集合ではありません.

1.1.2に多種多様な順序集合の例があります.ここへの言及は不要と思い割愛.一つ一つ確かめたり自分でオリジナルの例を作ったりすると理解が深まると思います.
というかその前に,色んな順序が英語で出てきてよくわからない,という人もいるかもしれませんので,ここまでで出てきた順序をまとめてみます.

順序の用語と関係まとめ[包含で書いてみた]

前順序集合 (preordered set)$\subset$順序集合 (ordered set)

順序集合の中で2種類登場.

整列集合 (well-ordered set)$\subsetneqq$全順序集合 (totally ordered set)

定理の紹介

1.1.3では選択公理・整列可能定理・Zornの補題のステートメントが紹介されています.

まずは選択公理です.

選択公理 (The axiom of choice)

任意の空でない集合$X$に対し,ある関数(=選択関数 (choice function))
$c:\mathscr{P}(X)\setminus\{\emptyset\}\to X$
があって,$\forall Y\in\mathscr{P}(X)\setminus\{\emptyset\},\;c(Y)\in Y$を満たす.

あれ,なんだか「よく見る」選択公理と違うではないかと思うわけですが,同じです.

「よく見る」選択公理:「無限個の空でない集合の直積は空でないとする」という気持ちがわかる.
$\forall\lambda\in\Lambda, A_{\lambda}\neq\phi\Longrightarrow\prod_{\lambda\in\Lambda}^{} A_{\lambda}(=\{f: \Lambda\to \bigcup_{\lambda\in \Lambda} A_{\lambda}; \forall\lambda\in \Lambda,\;f(\lambda)\in A_{\lambda}\})\neq\emptyset$

なぜか?上の$\Lambda$として$\mathscr{P}(X)\setminus\{\emptyset\}$を考え,このとき$A_{\lambda}$$A_{Y}\;(Y\in\mathscr{P}(X)\setminus\{\emptyset\})$の形ですが,$A_{Y}=Y$とすればよいのです.このとき$\bigcup_{\lambda\in \Lambda} A_{\lambda}$$\bigcup_{Y\in \mathscr{P}(X)\setminus\{\emptyset\}} Y\overset{X\in\mathscr{P}(X)\setminus\{\emptyset\}\text{より明白}}{=}\;\;X$になり,Analysis Nowでの選択関数の値域になります.
そして添え字集合として空集合を除いた$X$のべき集合をとった時の,空でない$X$の部分集合たちの直積は空でない.実際,選択関数は$\prod_{\lambda\in I}^{} A_{\lambda}$に入ってこれは空でなくなります.

整列可能定理 (The well-ordering principle)

任意の集合$X$は,$X$の元を整列する順序を持つ.

どんな集合でも,任意の空でない部分集合が最小元(the first element)を持つような順序を取れるということです.同語反復ですが,いちいち定義に戻ることはそれほど悪くないように思います.

最後にZornの補題です.それには「帰納的順序集合」というものが登場するのでまずそいつを定義します.

帰納的順序集合

$(X,\leq)$帰納的順序集合
$\overset{\text{def}}{\Longleftrightarrow}$$X$の任意の全順序部分集合が$X$に上界を持つとき.
(「$X$の順序で全順序になっている」ということに注意)

帰納的順序集合の例は うどんさんの動画 を見てください.因みにうどんさんは 極大元とかの動画 も出されているのですが,こちらもとてもわかりやすくおすすめです.

Zornの補題 (Zorn's lemma)

任意の帰納的順序集合は極大元を持つ.

お膳立て2・補題

1.1.4には後々の証明で使う補題があります.初学者にとってはこいつが厄介!
以下,$(X,\leq):\;$順序集合,$c:\mathscr{P}(X)\setminus\{\emptyset\}\to X\;$($X$の)選択関数とします.

chain

$C\subset X$chain
$\overset{\text{def}}{\Longleftrightarrow}C$の元は整列に並んでいて$\forall x\in C,c(\text{maj}(C\cap\text{min}\{x\}))=x$

はい来ました.これはいったい何なんでしょうかね.いきなりこういうの書くのマジ勘弁ですよね.一応書きますが上にあるminは最小値の意味ではなく真に小さい下界(proper minorant)全体のことです.

$\text{min}(\{x\})=\{y\in X:\forall z\in \{x\},\;y< z\}$
(但し$y< z$$y\leq z$かつ$y\neq z$の意)

その下にこんな注意が書いてあります.

$c(X)$はすべてのchainのfirst elementで$\{c(X)\}$はchain

何言っているかわかりましたか?わからないですよね.一つ一つ追っていきましょう.
因みに,ネットで検索してよく出てくるchainの定義は「全順序部分集合」.こっちならすぐ理解できるのに・・・.今回のchainも実はただの全順序部分集合になるのか,と考えると沼にはまります.なぜなら,上に枠付きで定めたchainは**Analysis Now特有の"Strong chain"**だからです.でもこれは冷静に考えると明らかです(整列集合という時点で全順序集合より強い条件を仮定しているから).

まずはchainの理解からやってみる.

つまり,$C\subset X$がchainであるとは

$x\in C$に対し,「『$C$にある$x$より小さい元全体』より大きい$X$の元全体」を選択関数で飛ばしたら$x$自身に来る

という整列集合のことなのです.
ここで先ほどの注意を考えてみます.実はこれは命題1「$\text{maj}(\emptyset)=X$」から直ちに従います.

chainのすぐわかること1

$c(X)$はすべてのchainのfirst element

$X$の任意のchain $D$をとる.このとき$D$のfirst elementを$x_0$とすると
$c(X)=c(\text{maj}(\underline{D\cap\text{min}\{x_0\}}))$
だが,$\underline{D\cap\text{min}\{x_0\}}=\emptyset$より$c(\text{maj}(D\cap\text{min}\{x_0\}))=x_0$

chainのすぐわかること2

$\{c(X)\}$はchain

$\{c(X)\}$が整列集合?):一点集合は整列集合より明白.
$\forall x\in C,c(\text{maj}(C\cap\text{min}\{x\}))=x$?)
$\{c(X)\}$の元は$c(X)$だけ(アタリマエ)なので
$c(\text{maj}(\underline{\{c(X)\}\cap\text{min}\{c(X)\})})=c(X)・・・$
を確かめたい.
$\underline{\{c(X)\}\cap\text{min}\{c(X)\})}=\emptyset$より☆成立.

なんだか正しく追えているみたいですね.この調子で$1.1.5$ Lemmaに行ってみましょう.

1.1.5 Lemma

$C_1,\;C_2:\;X$のchainで$C_1\not\subset C_2$なるものとする
$\Longrightarrow\exists$$x_1\in C_1\;$ s.t. $C_2=C_1\cap\text{min}\{x_1\}$

$C_1\cap\text{min}\{x_1\}\subseteqq C_2$

$C_1\setminus C_2\neq\emptyset$$C_1$は整列集合より$C_1\setminus C_2$にfirst elementがある(これを$x_1$とする).このとき
$C_1\cap\text{min}\{x_1\}\subseteqq C_2$・・・①
成立.

これは大丈夫ですね.どういう状況なのか絵でも描いて理解してみるとベターだと思います.

$C_1\cap\text{min}\{x_1\}\supseteqq C_2$

背理法で示す.①の包含がproper(つまり$C_1\cap\text{min}\{x_1\}\subsetneqq C_2$)と仮定する.
このとき$C_2\setminus(C_1\cap\text{min}\{x_1\})\neq\emptyset$$C_2$は整列集合より$C_2\setminus(C_1\cap\text{min}\{x_1\})$にfirst elementがある(これを$x_2$とする).このとき
$C_2\cap\text{min}\{x_2\}\subseteqq C_1\cap\text{min}\{x_1\}$・・・②
成立.

ここでの一番の目的は$C_1\cap\text{min}\{x_1\}\supseteqq C_2$を示すことですが,そのための飛び石が複数あってそれらの証明もしているなど複雑です.僕の好みでStepと名付けてみました.がしかしあくまで一番の目的は$C_1\cap\text{min}\{x_1\}\supseteqq C_2$の証明であることを忘れないように

Step0 $C_2\cap\text{min}\{x_2\}=C_1\cap\text{min}\{x_1\}$を背理法で示すお膳立て.

もし②の包含がproperなら,$(C_1\cap\text{min}\{x_1\})\setminus(C_2\cap\text{min}\{x_2\})\neq\emptyset$$C_1\cap\text{min}\{x_1\}$は整列集合より
$(C_1\cap\text{min}\{x_1\})\setminus(C_2\cap\text{min}\{x_2\})$にfirst elementがある(これを$y$とする).このとき
$\left\{((C_1\cap\text{min}\{x_1\}))\cap\text{min}\{y\}=\right\}C_1\cap\text{min}\{y\}\subseteqq C_2\cap\text{min}\{x_2\}$・・・③

ここで止めてみましょう.なんか示すもの増えましたね.これからもっと増えます.

先に進みましょう.

Step1$\forall x\in C_2\cap\text{min}\{x_2\},\;x< y$を背理法で示す

$y$$C_2\cap\text{min}\{x_2\}$の何かしらの元$x$以下 i.e.$y\leqq x$と仮定.

このとき$y\in C_2\cap\text{min}\{x_2\}$となり$y$の取り方=$(C_1\cap\text{min}\{x_1\})\setminus(C_2\cap\text{min}\{x_2\})$のfirst element に反する.
$\therefore\forall x\in C_2\cap\text{min}\{x_2\},\;x< y$・・・★成立.

気持ちとしては「それはそう」と思えることを背理法で示しています.背理法の中に背理法が入っています.
$y\in C_2\cap\text{min}\{x_2\}$とは$y\in C_2$かつ$y\in \text{min}\{x_2\}$が成り立つという意味ですが,$y\in C_2$は①より明白ですね.
もう片方はどうか?$x\in\text{min}\{x_2\}$から$x< x_2$ですが,$y\leqq x$と合わせて順序の推移律から$y< x_2$を得ます.これは$y\in \text{min}\{x_2\}$を意味します.良さそうですね.

Step1で得た結果を言い換えると「$y\in\text{maj}(C_2\cap\text{min}\{x_2\})$」ということです.これはStep2で使います.

今のところ

【現状】
$C_1\cap\text{min}\{y\}\overset{\text{③}}{\subseteqq} C_2\cap\text{min}\{x_2\}\overset{\text{②とStep0の背理法の仮定}}{\subsetneqq} C_1\cap\text{min}\{x_1\}$

という状況です.

そろそろ$C_2\cap\text{min}\{x_2\}=C_1\cap\text{min}\{x_1\}$にとどめを刺します.今までchainの定義条件として整列集合であることしか使っていないことに気づいた方もいらっしゃるのではと思いますが,以下では(定義からコピー&ペーストしちゃうと)

【今まで使ってこなかったchainの定義条件】
$\forall x\in C,c(\text{maj}(C\cap\text{min}\{x\}))=x$

こっちも使います.

Step2$C_2\cap\text{min}\{x_2\}=C_1\cap\text{min}\{x_1\}$を背理法で示してしまう.

(上枠【現状】と合わせて)★より③の包含が等号になる.
ここで改めて$y\in\text{maj}(C_2\cap\text{min}\{x_2\})$を明記しておくと,$C_1$$C_2$はともに同じ順序と選択関数でchainより,$y\overset{\text{選択関数の定義より}c(Y)\in Y}{\in}c(\text{maj}(C_2\cap\text{min}\{x_2\}))$なので,上枠【今まで使ってこなかったchainの定義条件】から$y=x_2$を得る.
がしかし$y\overset{y\text{の定め方}}{\in}C_1\cap\text{min}\{x_1\},\;x_2\overset{x_2\text{の定め方}}{\neq} C_1\cap\text{min}\{x_1\}$となり矛盾.
この矛盾は②で等号にしなかったことに起因.
$\therefore C_2\cap\text{min}\{x_2\}= C_1\cap\text{min}\{x_1\}$

ついにクライマックスです.

Step3 $C_1\cap\text{min}\{x_1\}\supseteqq C_2$を示してしまう

Step1とまったく同様にして$x_2\in\text{maj}(C_1\cap\text{min}\{x_1\})$がわかる.
よって,Step2とまったく同様にして②に【今まで使ってこなかったchainの定義条件】を適用して$x_1=x_2$を得るが,これは$x_1\overset{\text{①あたりで書いた}x_1\text{の定め方}}{\notin}C_2,\;x_2\in C_2$に矛盾.
この矛盾は①の包含をproperにしたことに起因.
$\therefore$①の等号が成立.

やっと証明が終わりました.ふー疲れた!
因みに, 岩村聯先生の「束論」 の第4章19節「lemmaの別証明」にAnalysis Nowに近いchainを用いたZornの補題の証明が書かれています.僕は今年の春,神保町の古本屋で昭和24年に河出書房から出された「束論」を買ったのですが,なんかAnalysis Nowに似たことが書いてあってうれしかったです.

ここからが本題

いやーここまで頑張ってきたわけですが,まだ同値性示せていません.やばいですね.

1.1.6 Thm

以下3つの命題は同値:
(i)選択公理
(ii)Zornの補題
(iii)整列可能定理

方針としては(i)$\Longrightarrow$(ii),(ii)$\Longrightarrow$(iii),(iii)$\Longrightarrow$(i)を示します.簡単な(iii)$\Longrightarrow$(i)から示しましょう.

(iii)$\Longrightarrow$(i)

(iii)を仮定.
与えられた$X\neq\emptyset$上に整列順序(well-order)$\leqq$を選んで$(X,\leqq)$を整列集合にできる.
勝手な$X$の部分集合$Y\neq\emptyset$に対し,そのfist elementを$c(Y)$とする.このとき対応$\mathscr{P}(X)\setminus\{\emptyset\}\to X$を得るが,これは選択関数になる.
よって(i)成立.

楽勝ですね.残りの2つ,やりたくないです(長いから).
ちょっと今日は休みたいのでこの続きは後日にさせてください.

さいごに

諸定義を定め,chainの補題を示しました.「整列可能定理$\Longrightarrow$選択公理」を示しました.
次回は「選択公理$\Longrightarrow$Zornの補題」と「Zornの補題$\Longrightarrow$整列可能定理」を示します.

蛇足

Analysis Nowの行間埋めのモチベーションを書くと,それはゼミ選考が近く後輩から相談されるかもと思っているからです.
昨年,私はバイトの先輩方とAnalysis Nowの自主ゼミをしており,この1.1にひどく苦しめられました.良いことを言おうとすればするほど自分の不勉強さがボロボロ露呈する感じがしたのを今でも覚えています.当時ルベーグ積分に興味を持ち(吉田ルベーグの問題を解いたり数学徒のつどいにて2時間講演をしてしまうくらいはまっていました)解析系のゼミに進もうと思っていた矢先,Analysis Nowに出鼻をくじかれました.関数解析って大変なんだなあと面喰ったのですが・・・
あまりにもわからなすぎるので,大学にいる数学ができる人たちに1.1の内容について質問をしたいなあと思ったのですが,そのときゼミ紹介期間だったことを思い出しました.Analysis Nowに強い人にすぐ会えるかもしれないと思い,解析系のTゼミ案内に参加した後にそこの院生のMさんに「選択公理とZornとwell-ordering principle(当時は整列可能定理の言葉もおぼつかないほどの数学力でした)の同値性を示したいのですが助けてください」と言ってみました.
そしたらMさんは「ちょっと準備させて」と待たされてから同値性を示してくださりました.僕はその無茶ぶりでも受け付けてくださる対応と理解を丁寧に確認してくれた姿を見て,MさんのいるTゼミに入って関数解析頑張ってみようと心に決めました.で,いざ自分がTゼミに入ったらMさんは一般企業に就職されてそこにはいませんでした.
あれから1年.今度は僕たちが後輩にゼミ紹介をする番になりました.中には「選択公理とZornとwell-ordering principleの同値性示してください」と言う者もいるかもしれない,少なくとも去年の自分を超えたいと思って,ずっと手を触れていなかった1.1に戻ってみました.するとこれがめちゃくちゃわかるようになっているんですね.自分で驚くくらいでした.自分がちょっとは後輩の手本になる良い先輩になれそうかなとほっこりしました.

参考文献

[1]
Pedersen, Gert Kjaergard, Analysis Now, Graduate Texts in Mathematics, Springer, 1989, p1-5
[2]
篠田 寿一, 米沢 佳己, 集合・位相演習, 数学演習ライブラリ, サイエンス社, 1995, p59,77
投稿日:20221120
OptHub AI Competition

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