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大学数学基礎解説
文献あり

行列式の特徴づけと応用

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今回は、齋藤線型代数入門にある行列式の特徴づけを用いた「積の行列式」と「行列式の積」が等しいことの証明が面白かったので紹介ついでに記事にしてみました。

この記事では齋藤線型代数に倣って、行列やベクトルの成分は複素数Cとします。が、今回の内容ではあまり関係がないので気にしなくてもかまいません。

行列式の定義と性質

行列式の定義

行列式

n次正方行列A={aij}1i,jn=(a11a12a1na21a22a2nan1an2ann)の行列式detA(|A|などともかく)は
detA=σSnsgnσ a1σ(1)a2σ(2)anσ(n)
で定義される。

ここで出てくるσSnn次対称群Snの元全てについて足し合わせるという意味です。一般的な形を見てもよくわからないと思うので、nに具体的な値を入れてどうなるか見てみます。

n=2,3のとき
  • n=2のとき
    S2={(1),(2 1)}なので行列式detA
    detA=sgn(1)a11a22+sgn(2 1)a12a21=a11a22a12a21
    となります。
  • n=3のとき
    S3={(1),(1 3 2),(2 1 3),(2 3 1),(3 1 2),(3 2 1)}なので行列式detA
    detA=sgn(1)a11a22a33+sgn(1 3 2)a11a23a32+sgn(2 1 3)a12a21a33+sgn(2 3 1)a12a23a31+sgn(3 1 2)a13a21a32+sgn(3 2 1)a13a22a31=a11a22a33+a12a23a31+a13a21a32a11a23a32a12a21a33a13a22a31
    となります。

例で見たように、行列式の定義式はnが増えるたびに項の数がとても大きくなり(具体的には|Sn|=n!個)、計算が困難です。これを解消するために、行列式の性質を考えてみましょう。

行列式の性質

まず、行列を列ベクトルを横に並べたものとして考えます。つまりn次列ベクトルa1,,anを用いて
a1=(a11a21an1),a2=(a12a22an2),,an=(a1na2nann)
とおくことで行列A
A=(a1a2an)
と表すと、次の性質が成り立ちます。

行列式の性質
  1. 交代性
    任意のi,j(1i<jn)に対し
    det(a1ajaian)=det(a1aiajan)
    ただし、左辺のaji列目、aij列目にある。

  2. n重線型性
    任意のi(1in)と任意のs,tCに対し
    det(a1sai+taian)=sdet(a1aian)+tdet(a1aian)

  3. 単位行列の行列式
    単位行列Enの行列式detEn1である。

  1. 交代性について
    まず、行列Ai列目とj列目を入れ替えた行列をB={bkl}1k,lnとする。この行列式detB
    detB=τSnsgnτ b1τ(1)biτ(i)bjτ(j)bnτ(n)
    となるが、Bの定義よりa1τ(1)=b1τ(1),,ajτ(i)=biτ(i),,aiτ(j)=bjτ(j),,anτ(n)=bnτ(n)が成り立つので
    detB=τSnsgnτ a1τ(1)ajτ(i)aiτ(j)anτ(n)
    となる。ここで、σSnσ(1)=τ(1),,σ(i)=τ(j),σ(j)=τ(i),σ(n)=τ(n)と定めると、σ=τ(i j)が成り立ち、τSnの元全てを動くときσSnの元全てを動くことが分かる。よって
    detB=σSnsgnτ a1σ(1)aiσ(i)ajσ(j)anσ(n)
    またsgnσ=sgnτ(i j)=sgnτなので
    detB=σSnsgnσ a1σ(1)aiσ(i)ajσ(j)anσ(n)=detA
    となって証明が完了する。

  2. n重線型性について
    σSnの線型性に注意すると
    det(a1sai+taian)=σSnsgnσ a1σ(1)(saiσ(i)+taiσ(i))anσ(n)=σSnsgnσ a1σ(1)saiσ(i)anσ(n)+σSnsgnσ a1σ(1)taiσ(i)anσ(n)=sσSnsgnσ a1σ(1)aiσ(i)anσ(n)+tσSnsgnσ a1σ(1)aiσ(i)anσ(n)=sdet(a1aian)+tdet(a1aian)
    となって証明が完了する。

  3. detEn=1について
    行列式の定義より、a1σ(1),,anσ(n)のいずれか1つでも0であればそのσについての項は0になる。ここで、単位行列Enについてa1σ(1)anσ(n)0とならないのはσ=(1)のときのみであるから
    detEn=sgn(1) 11=1
    となって証明が完了する。

このうち、交代性から次のことが直ちにわかります。

n次正方行列An次列ベクトルに分解したとき、その中で一致するものがあればdetA=0

細かい説明は略

交代性の等式においてai=ajとすればdetA=detAとなってdetA=0が分かる。

さらに交代性から次のことが分かります(齋藤線型代数ではこちらを交代性としています)。

任意のσSnに対し
det(aσ(1)aσ(n))=sgnσdet(a1an)

これまた細かい説明は省略

σ(i)=1となるiをとってi列目を1列ずつ左にずらしていく。この作業をn(実際にはn1で終わる)まで繰り返すことで、交代性の等式から結論を得る(置換の符号は一意的であることに注意)。

この性質を使う前に一つ基本ベクトルというものを定義しましょう。

n次基本ベクトル

n次基本ベクトルei(1in)i行目が1の列ベクトル、つまり
e1=(100),e2=(010),,en=(001)
として定義する。

基本ベクトルを用いると、単位行列En
En=(e1en)
と表すことができます。
これらの性質を使って、例1で得た結果を定義を使わずに求めてみましょう。(n=2のときのみ)

行列式の性質の利用
  • n=2のとき

a1=(a11a21)=a11e1+a21e2,a2=(a12a22)=a12e1+a22e2なので
detA=det(a11e1+a21e2a12e1+a22e2)=a11det(e1a12e1+a22e2)+a21det(e2a12e1+a22e2)=a11a12det(e1e1)+a11a22det(e1e2)+a21a12det(e2e1)+a21a22det(e2e2)=(a11a22a21a12)det(e1e2)=a11a22a21a12
となります。ただし1行目から2行目の等号は第1列に関する線型性、2行目から3行目の等号は第2列に関する線型性、3行目から4行目の等号は交代性(とその系)、4行目から5行目の等号は単位行列の行列式が1であることを用いました。

行列式の特徴づけ

ここから、ようやく本題である行列式の特徴づけに入ります。実は今挙げた3つの性質は、行列式を特徴づけている性質と言うことができます。つまり以下の主張が成り立ちます。

行列式の特徴づけ(齋藤線型代数入門p81定理[2.6] 改)

n本のn次列ベクトルの組(a1,,an)に対してF(a1,,an)Cを対応させる写像Fが以下の3条件を満たすときF=detである。
(R1) 交代性

  1. n重線型性

  2. F(e1,,en)=1

この証明は例2でやったようにa1からanを基本ベクトルで表した後に、3つの性質を駆使して行います。ここで、定理1の系の内容は行列式特有の性質ではなく交代性を満たすもの全てに適用できることに注意しましょう。

j(1jn)に対してajは基本ベクトルe1,,enを用いて
aj=i=1naijei
と表せる。これとn重線型性を用いてF(a1,,an)を展開すると
F(a1,,an)=F(i=1nai1ei,,i=1nainei)=i1=1nai11F(ei1,,i=1nainei)=i1=1nin=1nai11ainnF(ei1,,ein)
となる(例2の等式の3行目を参照)。ここで、i1からinのうち少なくとも1つは同じものを選んだ時は、交代性の系からF(ei1,,ein)0になり、i1からinがすべて異なるときはあるσSnが存在して、σ=(1ni1in)となる。よって、再び交代性とF(e1,,en)=1から
F(a1,,an)=σSnaσ(1)1aσ(n)nF(eσ(1),,eσ(n))=σSnsgnσ aσ(1)1aσ(n)nF(e1,,en)=σSnsgnσ aσ(1)1aσ(n)n

ここで、σSnsgnσ aσ(1)1aσ(n)n=det(a1an)としたいところですがiσ(i)が反対なのですぐに言うことはできません。つまり、σSnsgnσ aσ(1)1aσ(n)n=σSnsgnσ a1σ(1)anσ(n)が成り立っていてほしいのですが、これは実際に成り立ちます。このことは正方行列A={aij}の転置行列tA={aji}を用いて次のように定式化できます。

転置行列の行列式

正方行列Aに対し
detA=dettA

証明の概要としては、σの代わりにσ1(逆置換)を考えてその行き先について注意すればよいです。これを真面目に書くと長くなりすぎるので省略しました
これを使って証明を終わらせます。

定理3の続き

補題4からσSnsgnσ aσ(1)1aσ(n)n=σSnsgnσ a1σ(1)anσ(n)なので
F(a1,,an)=σSnsgnσ a1σ(1)anσ(n)=det(a1an)
となって証明が完了する。

これで行列式が特徴づけられることが分かりましたが、この証明をよく見てみると(iii)はあまり本質的でないことが分かります。なぜかというと、定理3の仮定から(iii)を抜いたとしてもその証明から
F(a1,,an)=F(e1,,en)det(a1an)
が分かり、F(e1,,en)a1,,anによらない定数なので高々定数倍の差しか生まれないからです。なのでこれも定理としておきましょう。(実際、齋藤線型代数ではこちらが定理として紹介されています)

行列式の特徴づけ(齋藤線型代数入門p81定理[2.6])

n本のn次列ベクトルの組(a1,,an)に対してF(a1,,an)Cを対応させる写像Fが以下の2条件を満たすときF(a1,,an)=F(e1,,en)det(a1an)である。
(R1) 交代性

  1. n重線型性

特徴づけの応用

これを用いることで「積の行列式」=「行列式の積」を示すことができます。

「積の行列式」=「行列式の積」

n次正方行列A,Bに対して
detAB=detAdetB
が成り立つ。

B=(b1bn)と分解し、写像F
F(b1,,bn):=det(Ab1Abn)
で定めると、このFは定理4の条件(i),(ii)を満たす。

証明

(i) 交代性について
行列式の交代性より、任意のi,j(1i<jn)について
F(b1,,bj,,bi,,bn)=det(Ab1AbjAbiAbn)=det(Ab1AbiAbjAbn)=F(b1,,bi,,bj,,bn)
となるからよい。
(ii) n重線型性について
行列の分配律と行列式のn重線型性より、任意のi(1in)と任意のs,tCについて
F(b1,,sbi+tbi,,bn)=det(Ab1A(sbi+tbi)Abn)=det(Ab1(sAbi+tAbi)Abn)=sdet(Ab1AbiAbn)+tdet(Ab1AbiAbn)=sF(b1,,bi,,bn)+tF(b1,,bi,,bn)
となるからよい。


よって、定理4より
F(b1,,bn)=F(e1,,en)det(b1bn )
とかける。ここで
det(Ab1Abn)=detABF(e1,,en)=det(Ae1Aen)=detAdet(b1bn )=detB
が成り立つので(行列のブロック分割と積の性質)
detAB=detAdetB
となって証明が完了する。

行列式の特徴づけを上手く使うことで、簡単に証明することができました。

おわりに

今回は「積の行列式」=「行列式の積」を行列式の特徴づけを用いて示しました。これは直接計算するとかなり大変です。自分はこのような直接やると大変なものを工夫して簡単に示す話が好きなので、また見つけたら記事にするかもしれません。

参考文献

[1]
齋藤正彦, 線型代数入門
投稿日:20221127
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  1. 行列式の定義と性質
  2. 行列式の定義
  3. 行列式の性質
  4. 行列式の特徴づけ
  5. 特徴づけの応用
  6. おわりに
  7. 参考文献