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大学数学基礎解説
文献あり

極限と余積の交換

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$$\newcommand{defarrow}[0]{\overset{def}{\Leftrightarrow}} \newcommand{mc}[1]{\mathscr{#1}} $$

これは圏論アドベントカレンダーの2日目の記事です。

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まえがき

集合の圏$\text{Set}$において、積と余積は交換しない。実際、
$(X+Y)\times (Z+W) \\ \cong (X\times Z)+(X\times W)+(Y\times Z)+(Y\times W)\\ \ncong (X\times Z)+(Y\times W)$

ところが、$\text{Set}$において, イコライザやpullbackは余積と交換する。
これを(少し一般化した形で)示すのが、この記事の目標。

連結極限

連結圏
  1. $\mc{C}$連結
    $\defarrow$ $\mc{C}\neq\varnothing$かつ, 任意の$X,Y\in\mc{C}$に対し
    ジグザグ$X\rightarrow\cdot\leftarrow\cdot\rightarrow\dots\leftarrow\cdot\rightarrow\cdot\leftarrow Y$ in$\mc{C}$ が存在.
  2. 連結(余)極限とは, 図式圏が連結な(余)極限のこと.
連結極限
  1. イコライザの図式圏
    \begin{xy} \xymatrix{ \cdot\ar@/^5pt/[r]\ar@/_5pt/[r] & \cdot \\ } \end{xy}
    は連結. したがってイコライザは連結極限.

  2. pullbackの図式圏
    \begin{xy} \xymatrix{ & \cdot\ar[d] \\ \cdot\ar[r] & \cdot \\ } \end{xy}
    は連結. したがってpullbackは連結極限.

定数図式の連結極限

$\mathbb{I}$:連結圏, $C\in\mc{C}$ に対し,
$$ \underset{I\in\mathbb{I}}{\text{Lim}}C \cong C $$
が成り立つ. 余極限についても同様のことが成り立つ.

省略.

$T$:圏$\mc{C}$上のモナド, $\mathbb{I}$:小圏 とし, $\mc{C}\overset{T}{\rightarrow}\mc{C}$$\mathbb{I}$型余極限を保つとする.
このとき, Eilenberg-Moore圏$\mc{C}^T$$\mathbb{I}$型余極限を持ち, 忘却$\mc{C}^T\rightarrow\mc{C}$$\mathbb{I}$型余極限を保つ.

HoCA2 のProp4.3.2, もしくは Context のThm5.6.5(ii) を参照.

$\mc{C}$:完備かつ余完備な圏, $C\in\mc{C}$に対し, 次が成り立つ.
(1) 余スライス圏からの忘却$C/\mc{C}\rightarrow\mc{C}$は, 連結余極限を保つ.

  1. スライス圏からの忘却$\mc{C}/C\rightarrow\mc{C}$は, 連結極限を保つ.

(2)は(1)の双対命題なので, (1)のみ示す.
$\mc{C}$上のモナド$T(X):=C+X~(X\in\mc{C})$を考えると, $\mc{C}^T\cong C/\mc{C}$となっている.

$\mc{C}$における任意の連結余極限$\underset{I\in\mathbb{I}}{\text{Colim}}X_I$に対し, 補題1を使うことで
\begin{align*} T(\underset{I\in\mathbb{I}}{\text{Colim}}X_I) &= C+\underset{I\in\mathbb{I}}{\text{Colim}}X_I \\ &\cong \underset{I\in\mathbb{I}}{\text{Colim}}C+\underset{I\in\mathbb{I}}{\text{Colim}}X_I \\ &\cong \underset{I\in\mathbb{I}}{\text{Colim}}(C+X_I) \\ &= \underset{I\in\mathbb{I}}{\text{Colim}}~T(X_I) \\ \end{align*}
が成り立つので, $T$は連結余極限を保つ. したがって定理2より$C/\mc{C}\cong \mc{C}^T\rightarrow\mc{C}$は連結余極限を保つ.

連結極限と余積の交換

$I\in\text{Set}$に対し, 圏同値$K:\text{Set}/I\simeq [I,\text{Set}]$であって次を(up to isoで)可換にするものが存在する.
\begin{xy} \xymatrix{ \text{Set}/I \ar[rr]^{K}_{\simeq}\ar[rd]_{U} && [I,\text{Set}] \ar[ld]^{\coprod_{i\in I}} \\ & \text{Set} &\\ } \end{xy}
ここで, $[I,\text{Set}]$$I$を離散圏とみなしたときの関手圏. $U$はスライス圏からの忘却関手. $\coprod_{i\in I}$は余積をとる関手.

$(X\overset{f}{\rightarrow}I)\overset{K}{\mapsto} \{ f^{-1}(i) \}_{i\in I}$により$K$を定めれば良い.

連結極限と余積の交換

任意の$I\in\text{Set}$に対し, 余積をとる関手$[I,\text{Set}]\overset{\coprod_{i\in I}}{\longrightarrow}\text{Set}$は連結極限を保つ.

補題3と定理2系(2)から従う.

反例

$\text{Set}$以外の圏においては, 連結極限と余積が交換するとは限らない.
以下で, 可換環の圏$\text{CRing}$においてイコライザと余積が交換しない例を構成する.

$\text{CRing}$におけるイコライザ
\begin{xy} \xymatrix{ \mathbb{Z}~\ar@{^{(}->}[r]^-{\Delta} & \mathbb{Z}\times\mathbb{Z}\ar@<0.5ex>[r]^-{\pi}\ar@<-0.5ex>[r]_-{\pi'} & \mathbb{Z} &\cdots(*) \\ } \end{xy}
を考える. ここで$\Delta$は対角射, $\pi,\pi'$は射影.
$\text{CRing}$において$(*)$$(*)$の余積をとることで, 次の図式を得る. (可換環の余積がAbel群のテンソル積で与えられることに注意)
\begin{xy} \xymatrix{ \mathbb{Z}~\ar[r]^-{i} & (\mathbb{Z}\times\mathbb{Z})\otimes_\mathbb{Z}(\mathbb{Z}\times\mathbb{Z})\ar@<0.5ex>[r]^-{p}\ar@<-0.5ex>[r]_-{q} & \mathbb{Z} &\cdots(**) \\ } \end{xy}
$i$$i(n)=(n,n)\otimes(1,1)$なる環準同型, $p$$p((a,b)\otimes(c,d))=ac$をみたす一意的な環準同型, $q$$q((a,b)\otimes(c,d))=bd$をみたす一意的な環準同型である.

ここで, $x:=(2,1)\otimes(1,2)\in\mathbb{Z}^2\otimes\mathbb{Z}^2$$p(x)=2=q(x)$をみたすので, $x$$p,q$のイコライザに属す. ところが, 次の補題により$x$$i$の像に含まれない.
したがって, $(**)$はイコライザになっていない.

任意の$n\in\mathbb{Z}$に対し, $(n,n)\otimes(1,1)\neq(2,1)\otimes(1,2)$ in $\mathbb{Z}^2\otimes\mathbb{Z}^2$

写像$h:\mathbb{Z}^2\times\mathbb{Z}^2\rightarrow\mathbb{Z}$$h((a,b),(c,d)):=ad+bc$と定義する.
$h$$\mathbb{Z}$-双線型になっているので, $f((a,b)\otimes(c,d))=ad+bc$となるようなAbel群の射$f:\mathbb{Z}^2\otimes\mathbb{Z}^2\rightarrow\mathbb{Z}$が一意に存在する.
すると$f((n,n)\otimes(1,1))=2n\neq 5=f((2,1)\otimes(1,2))$なので, 特に$(n,n)\otimes(1,1)\neq(2,1)\otimes(1,2)$が従う.

参考文献

[1]
E.Riehl, Category Theory in Context
[2]
F.Borceux, Handbook of Categorical Algebra: Volume 2, Categories and Structures
投稿日:2022121

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くろの
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