これは圏論アドベントカレンダーの2日目の記事です。
集合の圏$\text{Set}$において、積と余積は交換しない。実際、
$(X+Y)\times (Z+W) \\
\cong (X\times Z)+(X\times W)+(Y\times Z)+(Y\times W)\\
\ncong (X\times Z)+(Y\times W)$
ところが、$\text{Set}$において, イコライザやpullbackは余積と交換する。
これを(少し一般化した形で)示すのが、この記事の目標。
イコライザの図式圏
\begin{xy}
\xymatrix{
\cdot\ar@/^5pt/[r]\ar@/_5pt/[r] & \cdot \\
}
\end{xy}
は連結. したがってイコライザは連結極限.
pullbackの図式圏
\begin{xy}
\xymatrix{
& \cdot\ar[d] \\
\cdot\ar[r] & \cdot \\
}
\end{xy}
は連結. したがってpullbackは連結極限.
$\mathbb{I}$:連結圏, $C\in\mc{C}$ に対し,
$$
\underset{I\in\mathbb{I}}{\text{Lim}}C \cong C
$$
が成り立つ. 余極限についても同様のことが成り立つ.
省略.
$T$:圏$\mc{C}$上のモナド, $\mathbb{I}$:小圏 とし, $\mc{C}\overset{T}{\rightarrow}\mc{C}$が$\mathbb{I}$型余極限を保つとする.
このとき, Eilenberg-Moore圏$\mc{C}^T$は$\mathbb{I}$型余極限を持ち, 忘却$\mc{C}^T\rightarrow\mc{C}$は$\mathbb{I}$型余極限を保つ.
$\mc{C}$:完備かつ余完備な圏, $C\in\mc{C}$に対し, 次が成り立つ.
(1) 余スライス圏からの忘却$C/\mc{C}\rightarrow\mc{C}$は, 連結余極限を保つ.
(2)は(1)の双対命題なので, (1)のみ示す.
$\mc{C}$上のモナド$T(X):=C+X~(X\in\mc{C})$を考えると, $\mc{C}^T\cong C/\mc{C}$となっている.
$\mc{C}$における任意の連結余極限$\underset{I\in\mathbb{I}}{\text{Colim}}X_I$に対し, 補題1を使うことで
\begin{align*}
T(\underset{I\in\mathbb{I}}{\text{Colim}}X_I)
&= C+\underset{I\in\mathbb{I}}{\text{Colim}}X_I \\
&\cong \underset{I\in\mathbb{I}}{\text{Colim}}C+\underset{I\in\mathbb{I}}{\text{Colim}}X_I \\
&\cong \underset{I\in\mathbb{I}}{\text{Colim}}(C+X_I) \\
&= \underset{I\in\mathbb{I}}{\text{Colim}}~T(X_I) \\
\end{align*}
が成り立つので, $T$は連結余極限を保つ. したがって定理2より$C/\mc{C}\cong \mc{C}^T\rightarrow\mc{C}$は連結余極限を保つ.
$I\in\text{Set}$に対し, 圏同値$K:\text{Set}/I\simeq [I,\text{Set}]$であって次を(up to isoで)可換にするものが存在する.
\begin{xy}
\xymatrix{
\text{Set}/I \ar[rr]^{K}_{\simeq}\ar[rd]_{U} &&
[I,\text{Set}] \ar[ld]^{\coprod_{i\in I}} \\
& \text{Set} &\\
}
\end{xy}
ここで, $[I,\text{Set}]$は$I$を離散圏とみなしたときの関手圏. $U$はスライス圏からの忘却関手. $\coprod_{i\in I}$は余積をとる関手.
$(X\overset{f}{\rightarrow}I)\overset{K}{\mapsto} \{ f^{-1}(i) \}_{i\in I}$により$K$を定めれば良い.
任意の$I\in\text{Set}$に対し, 余積をとる関手$[I,\text{Set}]\overset{\coprod_{i\in I}}{\longrightarrow}\text{Set}$は連結極限を保つ.
補題3と定理2系(2)から従う.
$\text{Set}$以外の圏においては, 連結極限と余積が交換するとは限らない.
以下で, 可換環の圏$\text{CRing}$においてイコライザと余積が交換しない例を構成する.
$\text{CRing}$におけるイコライザ
\begin{xy}
\xymatrix{
\mathbb{Z}~\ar@{^{(}->}[r]^-{\Delta} &
\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}\ar@<0.5ex>[r]^-{\pi}\ar@<-0.5ex>[r]_-{\pi'} &
\mathbb{Z} &\cdots(*) \\
}
\end{xy}
を考える. ここで$\Delta$は対角射, $\pi,\pi'$は射影.
$\text{CRing}$において$(*)$と$(*)$の余積をとることで, 次の図式を得る. (可換環の余積がAbel群のテンソル積で与えられることに注意)
\begin{xy}
\xymatrix{
\mathbb{Z}~\ar[r]^-{i} &
(\mathbb{Z}\times\mathbb{Z})\otimes_\mathbb{Z}(\mathbb{Z}\times\mathbb{Z})\ar@<0.5ex>[r]^-{p}\ar@<-0.5ex>[r]_-{q} &
\mathbb{Z} &\cdots(**) \\
}
\end{xy}
$i$は$i(n)=(n,n)\otimes(1,1)$なる環準同型, $p$は$p((a,b)\otimes(c,d))=ac$をみたす一意的な環準同型, $q$は$q((a,b)\otimes(c,d))=bd$をみたす一意的な環準同型である.
ここで, $x:=(2,1)\otimes(1,2)\in\mathbb{Z}^2\otimes\mathbb{Z}^2$は$p(x)=2=q(x)$をみたすので, $x$は$p,q$のイコライザに属す. ところが, 次の補題により$x$は$i$の像に含まれない.
したがって, $(**)$はイコライザになっていない.
任意の$n\in\mathbb{Z}$に対し, $(n,n)\otimes(1,1)\neq(2,1)\otimes(1,2)$ in $\mathbb{Z}^2\otimes\mathbb{Z}^2$
写像$h:\mathbb{Z}^2\times\mathbb{Z}^2\rightarrow\mathbb{Z}$を$h((a,b),(c,d)):=ad+bc$と定義する.
$h$は$\mathbb{Z}$-双線型になっているので, $f((a,b)\otimes(c,d))=ad+bc$となるようなAbel群の射$f:\mathbb{Z}^2\otimes\mathbb{Z}^2\rightarrow\mathbb{Z}$が一意に存在する.
すると$f((n,n)\otimes(1,1))=2n\neq 5=f((2,1)\otimes(1,2))$なので, 特に$(n,n)\otimes(1,1)\neq(2,1)\otimes(1,2)$が従う.