こんにちは,龍孫江です.「はじめての可換環」第2回の問題はこちらです.
余りを覚えたての小学生に出すような問題で恐縮ですが,もちろん真面目な問題です.今回のテーマは "余り" とは何か? です.
この問題の半分では迷うことは少ないでしょう.半分というのは非負整数,すなわち以上以下の部分です.この部分をまず解いておくと,次のように つに分類されます.
- 余り , , ,
- 余り , , ,
- 余り , , ,
- 余り , , ,
- 余り , , ,
- 余り , ,
- 余り , ,
さて,残った部分の解答をと考えるとき,はたと思うのです.負の整数を割ったときの "余り" とは何なのでしょう?これが今回の課題です.負の数を割ったときの "余り" が(非負整数の場合と整合するように)定義できれば,整数を整数で割った余りの定義が見えてくるはずです.
一部に対して定義されている概念を拡張したいとき,まずするべきは既にある定義を精査することです.からまでの整数は,それ自身をで割った余りだと考えます.しばしば割り算の例えとして引かれる「何個かのものを何人かの人に(均等に)配る」という状況を考えると,個以下しかないものは人に個ずつすら均等には配れず,配る人の手元にまるまる余りとして残ります.個以上になると個ずつ配れて,配りきれなかったものが残ります.もとの数が大きくなればなるほど配る回数も増え,配りきれなかった個未満のものが余りとして残ります.つまり,非負整数 を で割った余りを求める手続きを整理すると
- とおく;
- ならば とおく;
- となったとき, が を で割った余りである.
となります.平たく言えば,を引けるだけ引いて残ったものを余りとするわけですね.
この手続きを踏まえて,負の数に対しても余りを定めましょう.今回の範囲でもっとも小さな数を考えると,これ自身はで割った余りと認めにくいですね.おそらく絶対値がより大きいからでしょう.負の数であっても均等に配れる分は配ってしまいましょう.つまり,負の数の場合には「を引く」という手続きを「を足す」に変えれば良さそうです.を何度か足して
となりました.他のどの数から始めても,いずれからのどれかにたどり着きます.
絶対値がより小さくなったところで「終わった終わった」と放り投げてしまいたいのはやまやまなのですが(ぼくはとりわけ飽き性でいい加減なのです),そうも行かないのは正整数の場合との整合性をとるという課題が残っているからです.何しろ上の系列を
ともう一歩すすめるとが出てきて,再び絶対値がより小さい整数が出てきました.このどちらを余りとしましょうか.
ここまで煽っておいて何なのですが,ひとつの解決策は「決めなくても良いと開き直る」です.「をで割った余りはでありでもある」と約束してしまえば,それはそれで話はできます.ただしその場合,たとえばをで割った余りとして,自身の他にを認めなければならないでしょう.これはこれで,いささか嫌な感じです.
さて,どうしましょうか.個人的には,整数の話のうちは凛とした態度で臨みたいと思います.既に少し感じていますが「どっちでもよい」としてしまうと(きちんと話せば困らないとはいえ)ややこしいのです.例えば「 を で割った余りは であり, を で割った余りは であり,きちんと考えれば両者は(ズレを無視すれば)等しい」などという主張は成立しますが,あまり気は乗りません.できれば余りは紛れなくバチッと決まってほしいものです.
とはいえ,話をより複雑な場合に展開するうち,ここで拘っている「余りの一意性」は諦めざるを得ない状況に追い込まれるわけですが,可能性を追求する姿勢は大事です.
そこで,"余り" の条件をもう少し強めてみましょう.つまり,ここまでの基準としていた「絶対値が未満である」を「以上未満である」と置き換えてみます.つまり,をで割った余りを求めたいときには
と,正の数になるまでを足し続けると決めてしまうわけです.
今回の紆余曲折をまとめると,次の定理が得られます.これは整数の話をする上での基本原理ともいうべき定理なので,これからもまた折に触れて思い出すことになるでしょう.
除法の原理
正整数を固定する.任意の整数に対し
かつ
を充たす整数 , が一意的に存在する.この を, を で割った余り(剰余)という.
では,問題を解決しましょう.余りの意味が決まれば,あとは手続きに従うだけです.
- 余り , , , , , ,
- 余り , , , , , ,
- 余り , , , , , ,
- 余り ,, , , , , ,
- 余り , , , , , , ,
- 余り , , , , , ,
- 余り , , , , , ,